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95 なんか変

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 言葉の意味がわからずにしばらく固まってしまう。

 眼前で呑気に寝転ぶ黒猫は、セドリックを解任したのはユリスではなくオーガス兄様だという。

 それはつまりだ。

「オーガス兄様がみんなに嘘ついてるってこと?」
『嘘というか。ユリスに責任を転嫁したって話だろ。自分が解任したくせに弟のせいにしたんだ』

 最悪じゃん。そんなのアロンなんて比べ物にならないくらいのクソ野郎じゃん。

 アロンは確かに嘘つきのクソ野郎だけど、基本的にすぐバレるようなくだらない嘘しかつかない。一方のオーガス兄様はみんなを巻き込んで最低な嘘をついている。しかもそのせいでユリスはなんだか騎士たちとギスギスしているのに見て見ぬ振りだ。

 言葉を失っていると黒猫が『あいつはもともとそういう奴だ』とフォローになっていない言葉を吐く。

『とはいえそれを訂正せずに放置しているユリスもある意味同罪かもな。しかしあれは一応長男だ。使い勝手がいい。弱みのひとつくらい握っておいて損はないぞ』

 それってオーガス兄様に恩を売るためにユリスがわざと罪を被ったという話だろうか。一体ユリスがなにを考えてオーガス兄様を庇っているのかわからないが、話を聞く限りユリスも大概クソ野郎っぽいしな。黒猫の言う通りオーガス兄様の弱みを握っていいように使おうと目論んでいたのかもしれない。

『この件を引き合いに出せばオーガスはなんでも言うことを聞く。困ったらこれをネタに脅せばいい』

 わかったな? と偉そうに言い聞かせた猫は今度こそ布団の中に潜ってしまう。

 なんというか話が急展開過ぎてついていけない。俺これからオーガス兄様とどんな顔して会えばいいんだよ。セドリックも可哀想すぎる。周りの騎士たちにも慕われているみたいだし、本当だったら今頃は俺の護衛なんて面倒な仕事なんてやらずにクレイグ団長の横で騎士たちをまとめていたはずなのに。

「俺、これを黙っておける自信がない」

 ブルース兄様あたりに言っちゃいそう。
 だってセドリックもユリスも可哀想だ。ユリスが騎士に嫌われているのはなんとなく知っていた。みんなユリス相手にビクビクしているし、ニックに至ってはあからさまに敵意剥き出しだ。それもこれもユリスがセドリックを解任するなんて馬鹿な真似をしたせいだと一応は納得していたのに、本当はオーガス兄様のせいだと知ったら、なんかもう納得できない。

「なんでオーガス兄様はユリスのせいにしたの」
『多分そのつもりはなかったと思うぞ。あの臆病者がユリスに喧嘩を売るとは思えない。セドリックを解任したところ周囲が勝手にユリスのせいだと思い込んだ。あいつならやりかねないとな。そんでもって側近のニックが予想以上に腹を立てていたから実は自分がクビにしたと言い出せなくなった、といったところか』

 やっぱりクソ野郎じゃん。言い出しっぺじゃないにしても訂正せずに、周りの勘違いに乗っかってユリスのせいにするなんて最低だ。

「俺、オーガス兄様のこと嫌いになりそう」

 なりそうというかもう既に嫌いかもしれない。苦い顔で呟けば、黒猫が楽しそうにくつくつと喉を鳴らす。

『いいんじゃないか? だってオーガスのことは大嫌いだぞ』

 なら別にいっか。
 むしろ俺は本物ユリスになりきる必要があるわけで。それなら黒猫の言う通りオーガス兄様のことを嫌いでもむしろ好都合だろう。

 よかったよかったと話を切り上げる。とりあえずしばらくこの真実は誰にも言わずに黙っておこう。

 真相を知って満足した俺はようやく枕に頭を預けた。布団の中では図々しい黒猫がぬくぬくと寝ている。とりあえずセドリックが可哀想だから明日からもっと彼に優しくしてやろう。俺のおやつを分けてあげてもいい気になるくらいには可哀想。

 なんとかオーガス兄様と話をつけてセドリックを副団長に戻してあげたい。やることなくて毎日暇だからそれくらいは働いてやろう。

 ウトウトする意識の中で、ぼんやりと今後の計画を立てる。

 なんとかユリスと騎士たちの仲も改善したい。やりたいことはいっぱいある。

 薄れゆく意識の中、俺は先程までの黒猫との会話を思い返してなんだか引っ掛かりを覚えた。

 ん?

 さっきの会話、なんか変じゃなかったか? なんだろう。よくわからんが違和感がすごい。黒猫が妙にヴィアン家事情に詳しいことか? でもそれは屋敷に棲み着いていたからであって別におかしなことではない。

 あれ? でもなんでセドリックの件の真相を黒猫が知っているんだ? そんな都合よく盗み聞きなんてできるものだろうか。もしかして今の話は全部黒猫が適当言ってるだけかもしれない。他にも色々おかしい気がする。

 なんだかよくわからなくなってきた。

 けれどもとりあえず今は眠い。考えるのは明日でもいいや。
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