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94 真夜中
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その日の夜。
ジャンとセドリックもそれぞれ自室に戻り静まり返った暗い室内にて。ベッドに潜り込む黒猫を引っ張り出せば『寒い!』と抗議された。人が寝ている横に勝手に潜り込んだくせに偉そうな態度だ。
「ちょっといい?」
『こんな夜中になんだ』
それは仕方ないだろ。だって黒猫の声は他のみんなには聞こえないのだ。あんまり堂々と会話できないからこうやって誰もいない夜しかチャンスがない。
「オーガス兄様に言ったでしょ。セドリックが災難ってどういう意味?」
ずっと気になっていたことを尋ねると、黒猫は面倒くさそうに再びベッドに潜り込む。俺のベッドなんだけどな。別にいいけど。
「ねぇ、どういう意味」
起き上がって布団の上から猫を揺さぶれば『やめろ馬鹿』とストレートな罵倒が返ってきた。
『あいつは副団長を解任されただろ』
顔だけを出してくわっと欠伸をもらした猫が丸くなる。そのまま寝てしまいそうな感じだったので勢いよく布団を剥ぎ取れば『馬鹿』と言われた。口の悪い猫だな。
「それでなんでオーガス兄様が言うこときくの?」
ユリスがセドリックを解任したこととオーガス兄様が俺の言うことに従うことは全く関係ないと思う。首を捻ってベッドに座り込めば、黒猫から『そりゃあいつに都合が悪いからだろ』とよくわからない返事があった。
「どういう意味?」
『だから。セドリックの件の真相がバレるとまずいって話だ。今のところ真実を知っているのはセドリックの他にあいつとおまえだけ。おまえがうっかり口を滑らせたらあいつの立場も悪くなる』
「真相?」
それってユリスがセドリックを解任したって話だろ。でもその理由であるセドリックのやらかしとやらは誰も知らない。もちろん俺も。ブルース兄様も知らないようだったが、オーガス兄様は知っているということか。
しかしそれをバラされて困るのはセドリックでは? だってセドリックが何かやって解任されたわけだろ。
なのにオーガス兄様が困るとは一体どういうことなのか。
話が繋がらなくてフリーズする俺。見兼ねたらしい猫が『つまり』と恩着せがましく口を開く。
『周囲の奴らはセドリックがなにかやらかしてユリスの怒りを買ったと思っている。しかし実際はそうじゃない』
「え?」
『セドリックは特段なにもしていない。まぁ強いて言えば余計なことを知ってしまったというやつか。なのに理不尽に解任されたんだ。災難だろ?』
えーと、それはつまり。
「……セドリック可哀想」
要するにセドリックはなにもやってないのに副団長を辞めさせられたということだ。なんて可哀想な男だ。失恋したサムよりも可哀想。
ひとしきりセドリックのことを憐れんだ俺は、ふうっと息をつく。なんだか真面目な話ばかりで頭が痛くなってきた。
ごろんとベッドに寝転んで、黒猫を撫でる。『やめろ』と言われるが気にしない。本当に嫌なら逃げるだろうから大丈夫。そうしてしばらくもふもふを堪能していたのだが、「ん?」と首を捻る。
『どうした』
「セドリックはなにも悪くないのにユリスに解任されたんでしょ? それをオーガス兄様が知っていたとして、兄様に不都合なことってなくない?」
どっちにしろユリスが勝手に解任してしまっただけ。ユリスが単なる我儘で面倒な子供っていうだけの話であってオーガス兄様はやっぱり関係ないだろ。弱みになるようなことは何もない。強いてあげればユリスを止めなかったという点くらいか。
俺の困惑を楽しそうに見ていた黒猫は、悪そうにニヤリと口角を持ち上げた。
『簡単な話だ。セドリックを解任したのはユリスじゃない』
は?
『あいつを辞めさせたのはオーガスだ』
ジャンとセドリックもそれぞれ自室に戻り静まり返った暗い室内にて。ベッドに潜り込む黒猫を引っ張り出せば『寒い!』と抗議された。人が寝ている横に勝手に潜り込んだくせに偉そうな態度だ。
「ちょっといい?」
『こんな夜中になんだ』
それは仕方ないだろ。だって黒猫の声は他のみんなには聞こえないのだ。あんまり堂々と会話できないからこうやって誰もいない夜しかチャンスがない。
「オーガス兄様に言ったでしょ。セドリックが災難ってどういう意味?」
ずっと気になっていたことを尋ねると、黒猫は面倒くさそうに再びベッドに潜り込む。俺のベッドなんだけどな。別にいいけど。
「ねぇ、どういう意味」
起き上がって布団の上から猫を揺さぶれば『やめろ馬鹿』とストレートな罵倒が返ってきた。
『あいつは副団長を解任されただろ』
顔だけを出してくわっと欠伸をもらした猫が丸くなる。そのまま寝てしまいそうな感じだったので勢いよく布団を剥ぎ取れば『馬鹿』と言われた。口の悪い猫だな。
「それでなんでオーガス兄様が言うこときくの?」
ユリスがセドリックを解任したこととオーガス兄様が俺の言うことに従うことは全く関係ないと思う。首を捻ってベッドに座り込めば、黒猫から『そりゃあいつに都合が悪いからだろ』とよくわからない返事があった。
「どういう意味?」
『だから。セドリックの件の真相がバレるとまずいって話だ。今のところ真実を知っているのはセドリックの他にあいつとおまえだけ。おまえがうっかり口を滑らせたらあいつの立場も悪くなる』
「真相?」
それってユリスがセドリックを解任したって話だろ。でもその理由であるセドリックのやらかしとやらは誰も知らない。もちろん俺も。ブルース兄様も知らないようだったが、オーガス兄様は知っているということか。
しかしそれをバラされて困るのはセドリックでは? だってセドリックが何かやって解任されたわけだろ。
なのにオーガス兄様が困るとは一体どういうことなのか。
話が繋がらなくてフリーズする俺。見兼ねたらしい猫が『つまり』と恩着せがましく口を開く。
『周囲の奴らはセドリックがなにかやらかしてユリスの怒りを買ったと思っている。しかし実際はそうじゃない』
「え?」
『セドリックは特段なにもしていない。まぁ強いて言えば余計なことを知ってしまったというやつか。なのに理不尽に解任されたんだ。災難だろ?』
えーと、それはつまり。
「……セドリック可哀想」
要するにセドリックはなにもやってないのに副団長を辞めさせられたということだ。なんて可哀想な男だ。失恋したサムよりも可哀想。
ひとしきりセドリックのことを憐れんだ俺は、ふうっと息をつく。なんだか真面目な話ばかりで頭が痛くなってきた。
ごろんとベッドに寝転んで、黒猫を撫でる。『やめろ』と言われるが気にしない。本当に嫌なら逃げるだろうから大丈夫。そうしてしばらくもふもふを堪能していたのだが、「ん?」と首を捻る。
『どうした』
「セドリックはなにも悪くないのにユリスに解任されたんでしょ? それをオーガス兄様が知っていたとして、兄様に不都合なことってなくない?」
どっちにしろユリスが勝手に解任してしまっただけ。ユリスが単なる我儘で面倒な子供っていうだけの話であってオーガス兄様はやっぱり関係ないだろ。弱みになるようなことは何もない。強いてあげればユリスを止めなかったという点くらいか。
俺の困惑を楽しそうに見ていた黒猫は、悪そうにニヤリと口角を持ち上げた。
『簡単な話だ。セドリックを解任したのはユリスじゃない』
は?
『あいつを辞めさせたのはオーガスだ』
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