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93 自慢する
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「ロニーどこかな」
「騎士棟では?」
嫌々ついてきたティアンは寒そうに首をすくめている。『ロニーとは誰だ』とうるさい黒猫をジャンに持たせて、俺は騎士棟へと足を進める。
ブルース兄様は先程屋敷ですれ違ったので騎士棟にはいないはず。今がチャンス。
「クレイグ団長もいるかな?」
ファザコンのティアンが喜ぶと思ってセドリックに訊ねれば「いらっしゃるかと」と簡潔な答えが返ってきた。まぁ別にクレイグ団長に用はないけどさ。ティアンの反応をちらちらと伺えば「なんですか」と眉を顰められた。
訓練場では騎士たちが訓練中だった。危ないから近寄るなとセドリックに注意されたため遠目から探すがロニーの姿はない。建物の中だろうか。
首を傾げつつ騎士棟内部に侵入する。
人気のない廊下をきょろきょろしていれば、見知った顔を発見した。あの緑っぽい髪は間違いなく彼だ。
「ミゲル!」
「ユ、ユリス様」
びくりと肩を揺らしたミゲルに突進していく。騎士団の事務方だという彼は神経質そうな眼鏡の男だ。ジャンに似てちょっと気弱なところがある。相変わらず俺相手にビビっているらしいミゲルにも黒猫を見せてやる。
「見て! 猫!」
「あ、はい」
微妙に視線を外すミゲルは絶対にちゃんと猫を見ていない。ジャンから黒猫を受け取ってミゲルの視線の先に回り込むと「うぇ!」と変な声をあげる。猫嫌いな人か?
「可愛いでしょ」
「そうですね、可愛いですね」
だったらもっと楽しそうな顔をしろ。なんだその引き攣った表情は。ぐいぐいミゲルに猫を押し付けていると『誰なんだ、こいつは』と黒猫が不満そうにこぼした。
「猫。これはミゲル。騎士団の事務の人」
簡単に紹介してやれば、ミゲルが変な顔で黒猫にお辞儀をした。猫相手に挨拶するなんて律儀な奴だな。
「仲良くしてあげてね」
「はい」
小さく頷いたミゲルは困ったようにセドリックに視線を向けている。「ミゲル殿は仕事中でお忙しいんですよ。もう行きましょう」とティアンが俺を促す。
名残惜しいが仕方ない。今日はロニーに会いに来たのだ。「ロニー知らない?」とミゲルに尋ねれば、「先程まで一緒でしたけど」と背後を振り返る。
つられて顔を上げると魅力的な長髪男子くんがちょうどこちらへ向かってくるところだった。
「ロニー!」
両手を上げて駆け寄れば、ロニーは笑顔で応じてくれる。いつ見てもカッコよくて優しいお兄さんだ。ちなみに黒猫はどさくさに紛れて床に着地していたが、すぐにジャンに抱え上げられていた。ナイスだ、ジャン。
「ロニー、彼女いるの」
とりあえずサムの応援という任務をさっさと片付けてしまおう。「唐突過ぎません?」とティアンが眉を顰めるが無視だ。俺は早くミッション遂行して猫を自慢したいのだ。
「えぇ、よくご存知ですね」
お恥ずかしいと頰を掻くロニー。なにやらジャンが変な顔をしているが気にしない。間違って猫を落としたりしなければ彼のことはどうでもいい。
「近々別れたりする?」
「なんて質問をしてるんですか!」
ティアンが肩を怒らせるが無視。彼女がいたとしても破局寸前という可能性もあるだろ。なんでも決めつけはよくないと思う。苦笑したロニーは「今のところそういった予定はないですね」と丁寧に応じてくれる。
「サムもおすすめだよ」
「……おすすめ」
そうですか、と優しく笑ったロニー。これでさり気なくサムをおすすめするというミッションはクリアだ。「さり気なくの意味知らないんですか?」とティアンがぐちぐち言っている。
さて、ここからが本題である。ジャンの抱えている黒猫を見せて、飼うことになった旨をお伝えすればロニーは「よかったですね」と一緒に喜んでくれた。
『だからこいつは誰なんだ』
不服そうな黒猫にもロニーを紹介してやる。アロンと違って普通に優しいお兄さんだと説明してやれば「この間からちょいちょいアロン殿を貶すのはなんなんですか」とティアンの横槍が入る。別に貶してはいない。俺は単に事実を述べただけだ。
「触っていいよ」
『だから勝手に許可を出すなと言っている』
ふにゃふにゃ煩い黒猫。こいつさっきから文句ばっかりだな。猫を優しく撫でたロニーは「可愛いですね」と言ってくれる。「毛の色がユリス様と一緒ですね」と楽しそうだ。ミゲルもこれくらい楽しそうにすればいいのに。
たしかに黒同士お揃いだな。
俺と猫を見比べたロニーは「なんだか目付きもそっくりですね」とひたすら猫を褒めて仕事に戻っていった。この猫、目付き悪いだろ。性格の悪さが滲み出ている。似ていると言われてもあんまり嬉しくはない。
いつの間にかミゲルの姿も消えていた。あいつ、逃げたな。しかし猫を自慢するという当初の目的は達成できて満足だ。
「もう帰りましょうよ。寒いんですけど」
大袈裟に手に息を吹きかけて寒いアピールをしてくるティアンも煩いしな。そろそろ部屋に戻るか。
「騎士棟では?」
嫌々ついてきたティアンは寒そうに首をすくめている。『ロニーとは誰だ』とうるさい黒猫をジャンに持たせて、俺は騎士棟へと足を進める。
ブルース兄様は先程屋敷ですれ違ったので騎士棟にはいないはず。今がチャンス。
「クレイグ団長もいるかな?」
ファザコンのティアンが喜ぶと思ってセドリックに訊ねれば「いらっしゃるかと」と簡潔な答えが返ってきた。まぁ別にクレイグ団長に用はないけどさ。ティアンの反応をちらちらと伺えば「なんですか」と眉を顰められた。
訓練場では騎士たちが訓練中だった。危ないから近寄るなとセドリックに注意されたため遠目から探すがロニーの姿はない。建物の中だろうか。
首を傾げつつ騎士棟内部に侵入する。
人気のない廊下をきょろきょろしていれば、見知った顔を発見した。あの緑っぽい髪は間違いなく彼だ。
「ミゲル!」
「ユ、ユリス様」
びくりと肩を揺らしたミゲルに突進していく。騎士団の事務方だという彼は神経質そうな眼鏡の男だ。ジャンに似てちょっと気弱なところがある。相変わらず俺相手にビビっているらしいミゲルにも黒猫を見せてやる。
「見て! 猫!」
「あ、はい」
微妙に視線を外すミゲルは絶対にちゃんと猫を見ていない。ジャンから黒猫を受け取ってミゲルの視線の先に回り込むと「うぇ!」と変な声をあげる。猫嫌いな人か?
「可愛いでしょ」
「そうですね、可愛いですね」
だったらもっと楽しそうな顔をしろ。なんだその引き攣った表情は。ぐいぐいミゲルに猫を押し付けていると『誰なんだ、こいつは』と黒猫が不満そうにこぼした。
「猫。これはミゲル。騎士団の事務の人」
簡単に紹介してやれば、ミゲルが変な顔で黒猫にお辞儀をした。猫相手に挨拶するなんて律儀な奴だな。
「仲良くしてあげてね」
「はい」
小さく頷いたミゲルは困ったようにセドリックに視線を向けている。「ミゲル殿は仕事中でお忙しいんですよ。もう行きましょう」とティアンが俺を促す。
名残惜しいが仕方ない。今日はロニーに会いに来たのだ。「ロニー知らない?」とミゲルに尋ねれば、「先程まで一緒でしたけど」と背後を振り返る。
つられて顔を上げると魅力的な長髪男子くんがちょうどこちらへ向かってくるところだった。
「ロニー!」
両手を上げて駆け寄れば、ロニーは笑顔で応じてくれる。いつ見てもカッコよくて優しいお兄さんだ。ちなみに黒猫はどさくさに紛れて床に着地していたが、すぐにジャンに抱え上げられていた。ナイスだ、ジャン。
「ロニー、彼女いるの」
とりあえずサムの応援という任務をさっさと片付けてしまおう。「唐突過ぎません?」とティアンが眉を顰めるが無視だ。俺は早くミッション遂行して猫を自慢したいのだ。
「えぇ、よくご存知ですね」
お恥ずかしいと頰を掻くロニー。なにやらジャンが変な顔をしているが気にしない。間違って猫を落としたりしなければ彼のことはどうでもいい。
「近々別れたりする?」
「なんて質問をしてるんですか!」
ティアンが肩を怒らせるが無視。彼女がいたとしても破局寸前という可能性もあるだろ。なんでも決めつけはよくないと思う。苦笑したロニーは「今のところそういった予定はないですね」と丁寧に応じてくれる。
「サムもおすすめだよ」
「……おすすめ」
そうですか、と優しく笑ったロニー。これでさり気なくサムをおすすめするというミッションはクリアだ。「さり気なくの意味知らないんですか?」とティアンがぐちぐち言っている。
さて、ここからが本題である。ジャンの抱えている黒猫を見せて、飼うことになった旨をお伝えすればロニーは「よかったですね」と一緒に喜んでくれた。
『だからこいつは誰なんだ』
不服そうな黒猫にもロニーを紹介してやる。アロンと違って普通に優しいお兄さんだと説明してやれば「この間からちょいちょいアロン殿を貶すのはなんなんですか」とティアンの横槍が入る。別に貶してはいない。俺は単に事実を述べただけだ。
「触っていいよ」
『だから勝手に許可を出すなと言っている』
ふにゃふにゃ煩い黒猫。こいつさっきから文句ばっかりだな。猫を優しく撫でたロニーは「可愛いですね」と言ってくれる。「毛の色がユリス様と一緒ですね」と楽しそうだ。ミゲルもこれくらい楽しそうにすればいいのに。
たしかに黒同士お揃いだな。
俺と猫を見比べたロニーは「なんだか目付きもそっくりですね」とひたすら猫を褒めて仕事に戻っていった。この猫、目付き悪いだろ。性格の悪さが滲み出ている。似ていると言われてもあんまり嬉しくはない。
いつの間にかミゲルの姿も消えていた。あいつ、逃げたな。しかし猫を自慢するという当初の目的は達成できて満足だ。
「もう帰りましょうよ。寒いんですけど」
大袈裟に手に息を吹きかけて寒いアピールをしてくるティアンも煩いしな。そろそろ部屋に戻るか。
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