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81 知らん人
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「どうぞ?」
きれいで広い屋敷の中の一室。フランシスの部屋だそうでベネットもここにいるらしい。豪快に扉が開け放たれる。促されるままに足を踏み入れた俺は、視界に入った長髪に勢いよく駆け寄った。
「ベネット!」
「お久しぶりでございます。ユリス様」
突進した俺をさりげなく避けて、ベネットはソファーを勧めてくる。テーブルに美味しそうなケーキが用意されていることに気がついた俺は、わくわくと腰掛ける。そうして向かいの席に見慣れぬ少年が座っていることにようやく気が付いた。
「……誰?」
問いかけるが返答はない。
真っ赤な髪が特徴的な少年は、中途半端にソファーから腰を上げたままの姿勢で固まっている。その目が驚きに見開かれていた。
「彼はキャリー・モーガン。僕の友人さ。キャリー、こちらはユリスくん」
手慣れた様子で軽くお互いを紹介したフランシスはティアンにも席を勧める。なんの遠慮もなく俺の隣を陣取ったティアンは「ご無沙汰してます、キャリー殿」と見知らぬ少年に話しかけている。しかし相変わらず彼は動かない。その姿勢きつくない? いつまで固まっているつもりなのか。
困ってキャリーを見つめていると、フランシスが彼の背中を思い切り叩いた。「おい」とようやくキャリーが声を発した。そのまま姿勢を正した彼は、軽く咳払いをすると「初めまして、ユリス様。キャリー・モーガンといいます。お会いできて光栄です」と畏まった挨拶をする。
ぼけっと眺めていた俺であったが、隣のティアンに肘で突かれてそちらに視線を移す。
「ちゃんと自己紹介してください」
「ユリス」
「なんですか、そのあり得ない簡潔さは」
「十歳」
ティアンに言われて付け足せば、キャリーは「私は十六になります」となぜか張り合ってきた。なんだこいつ。年上アピールか?
「言っておくけど。だいたい俺と同い年だからね」
「……はい?」
一瞬だけ怪訝な表情をみせたキャリーであったが、すぐに取り繕う。どうやら大人アピールしているらしい。背伸びしたいお年頃なのだろう。あるよね、そういうお年頃。わかるわかると頷いていればティアンに睨まれた。
「絶対なにかおかしなことを考えていらっしゃいますよね」
「別に」
キャリーはなんだか変な人だった。なんというか動きが不審。じっと俺に視線を向けているから何事かとそちらを向けば、ふいと逸らされてしまう。なんだろう、この焦ったい感じ。
美味しいケーキを食べて満足した俺は、ベネットを観察する。隣にロニーも控えているから最高だ。写真撮りたいくらい。この世界に写真とかなさそうだけど。
フランシスは相変わらず社交的というか馴れ馴れしいというか。ずっとひとりで喋っている。たまにティアンが相槌を入れてなかなかいいコンビだと思う。一方のキャリーはギクシャクしている。
「今日はアロンさんは一緒じゃないんだね」
カップを傾けながらフランシスはそんなことを言う。
「アロンはお留守番。余計なことするから」
「なるほど」
これで納得されるアロンはいままでなにをやらかしてきたのだろうか。やはりやばい奴だな、あいつは。
「よし。ティータイムも済んだことだし、よければ屋敷を案内するよ」
「行く!」
会話にも飽きてきた頃。タイミングよくフランシスが陽気な提案をしてくる。お屋敷探検とか絶対に面白い。張り切って手を上げれば、フランシスは「そうこなくっちゃ!」と指を鳴らす。ノリの良さは抜群だな。
「キャリーとティアンもついておいで。ベネットは彼らを頼むよ」
ん? ロニーたちは置いていくのか?
戸惑っているとセドリックが苦い顔をする。どうやら俺に同行したいらしい。そうだよね。目を離すと後でブルース兄様にキレられるもんね。だがフランシスがそれを許さなかった。
「ここはシモンズの屋敷の中だ。護衛は必要ない。それともなにか、うちに危険があるとでも?」
「いえ、とんでもございません」
強気なフランシスにセドリックも勝てなかったようだ。渋々と引き下がったセドリックは俺に不安そうな目を向けている。しかしティアンが胸を叩く。
「大丈夫ですよ。ユリス様のことは僕がしっかり見張っておきますので」
見張るって、言い方。まるで俺がなにかやらかすみたいじゃないか。
「私はいいかな。この屋敷にはもう何度も訪れているからね」
挙動不審なキャリーは、フランシスのお誘いに乗り気ではないらしい。「そんなこと言わずに。おいでよ」とフランシスが再度声をかけるが色良い返事はもらえない。そこで俺も一緒になって声をかけると、キャリーはすぐさま立ち上がった。
「ご一緒いたします」
「? うん」
なんか急に物わかりがよくなったな。なにはともあれお屋敷探検だ。
きれいで広い屋敷の中の一室。フランシスの部屋だそうでベネットもここにいるらしい。豪快に扉が開け放たれる。促されるままに足を踏み入れた俺は、視界に入った長髪に勢いよく駆け寄った。
「ベネット!」
「お久しぶりでございます。ユリス様」
突進した俺をさりげなく避けて、ベネットはソファーを勧めてくる。テーブルに美味しそうなケーキが用意されていることに気がついた俺は、わくわくと腰掛ける。そうして向かいの席に見慣れぬ少年が座っていることにようやく気が付いた。
「……誰?」
問いかけるが返答はない。
真っ赤な髪が特徴的な少年は、中途半端にソファーから腰を上げたままの姿勢で固まっている。その目が驚きに見開かれていた。
「彼はキャリー・モーガン。僕の友人さ。キャリー、こちらはユリスくん」
手慣れた様子で軽くお互いを紹介したフランシスはティアンにも席を勧める。なんの遠慮もなく俺の隣を陣取ったティアンは「ご無沙汰してます、キャリー殿」と見知らぬ少年に話しかけている。しかし相変わらず彼は動かない。その姿勢きつくない? いつまで固まっているつもりなのか。
困ってキャリーを見つめていると、フランシスが彼の背中を思い切り叩いた。「おい」とようやくキャリーが声を発した。そのまま姿勢を正した彼は、軽く咳払いをすると「初めまして、ユリス様。キャリー・モーガンといいます。お会いできて光栄です」と畏まった挨拶をする。
ぼけっと眺めていた俺であったが、隣のティアンに肘で突かれてそちらに視線を移す。
「ちゃんと自己紹介してください」
「ユリス」
「なんですか、そのあり得ない簡潔さは」
「十歳」
ティアンに言われて付け足せば、キャリーは「私は十六になります」となぜか張り合ってきた。なんだこいつ。年上アピールか?
「言っておくけど。だいたい俺と同い年だからね」
「……はい?」
一瞬だけ怪訝な表情をみせたキャリーであったが、すぐに取り繕う。どうやら大人アピールしているらしい。背伸びしたいお年頃なのだろう。あるよね、そういうお年頃。わかるわかると頷いていればティアンに睨まれた。
「絶対なにかおかしなことを考えていらっしゃいますよね」
「別に」
キャリーはなんだか変な人だった。なんというか動きが不審。じっと俺に視線を向けているから何事かとそちらを向けば、ふいと逸らされてしまう。なんだろう、この焦ったい感じ。
美味しいケーキを食べて満足した俺は、ベネットを観察する。隣にロニーも控えているから最高だ。写真撮りたいくらい。この世界に写真とかなさそうだけど。
フランシスは相変わらず社交的というか馴れ馴れしいというか。ずっとひとりで喋っている。たまにティアンが相槌を入れてなかなかいいコンビだと思う。一方のキャリーはギクシャクしている。
「今日はアロンさんは一緒じゃないんだね」
カップを傾けながらフランシスはそんなことを言う。
「アロンはお留守番。余計なことするから」
「なるほど」
これで納得されるアロンはいままでなにをやらかしてきたのだろうか。やはりやばい奴だな、あいつは。
「よし。ティータイムも済んだことだし、よければ屋敷を案内するよ」
「行く!」
会話にも飽きてきた頃。タイミングよくフランシスが陽気な提案をしてくる。お屋敷探検とか絶対に面白い。張り切って手を上げれば、フランシスは「そうこなくっちゃ!」と指を鳴らす。ノリの良さは抜群だな。
「キャリーとティアンもついておいで。ベネットは彼らを頼むよ」
ん? ロニーたちは置いていくのか?
戸惑っているとセドリックが苦い顔をする。どうやら俺に同行したいらしい。そうだよね。目を離すと後でブルース兄様にキレられるもんね。だがフランシスがそれを許さなかった。
「ここはシモンズの屋敷の中だ。護衛は必要ない。それともなにか、うちに危険があるとでも?」
「いえ、とんでもございません」
強気なフランシスにセドリックも勝てなかったようだ。渋々と引き下がったセドリックは俺に不安そうな目を向けている。しかしティアンが胸を叩く。
「大丈夫ですよ。ユリス様のことは僕がしっかり見張っておきますので」
見張るって、言い方。まるで俺がなにかやらかすみたいじゃないか。
「私はいいかな。この屋敷にはもう何度も訪れているからね」
挙動不審なキャリーは、フランシスのお誘いに乗り気ではないらしい。「そんなこと言わずに。おいでよ」とフランシスが再度声をかけるが色良い返事はもらえない。そこで俺も一緒になって声をかけると、キャリーはすぐさま立ち上がった。
「ご一緒いたします」
「? うん」
なんか急に物わかりがよくなったな。なにはともあれお屋敷探検だ。
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