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69 忘れてた
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どうも俺のうっかり発言が原因でアロンの失態がブルース兄様にバレてしまった。ここは俺がどうにかしないと。
「兄様。アロンの話信じてあげてよ。ほんとに離れてないよ、ちゃんと仕事してたよ」
「ユリス。おまえ嘘つくの下手だな」
なんだと。俺の迫真の演技を酷評した兄様はアロンに詰め寄る。
「目を離さないだけジャンの方がマシだったかもな」
「はぁ⁉︎ 言っときますけどね、ブルース様! 目を離したのは俺だけじゃないですからね。そこの使えない元副団長とティアンもですから!」
言っちゃったよ、こいつ。
せっかくみんなで口裏合わせたのに。自分がピンチになったらあっさりセドリックとティアンも巻き込みやがった。さすがアロン、クソ野郎だな。
俺が冷たい目を送っていると、「こうなる予感はしてましたよね」と諦めたようなティアンの声が聞こえてきた。すかさずセドリックが片膝をついて頭を下げる。たぶんこの中でまともな大人はセドリックだけだ。アロンはなんか逆ギレしてるし。
「申し訳ありません、ブルース様。私がついていながらこのような失態を。しかしながらすぐにシモンズ侯爵家のご令息様が保護をしてくださったようで。大事には至っておりません」
「フランシスと会ったのか」
目を見張ったブルース兄様は、俺を見下ろす。
「なぜ迷子になる」
「でもベネットと友達になれたよ」
「誰だそれは」
「フランシスの従者」
「従者と友達になるんじゃない」
頭を抱えた兄様はひどく疲れた顔をしていた。兄様は屋敷に引き篭もっていただけなのになにをそんなに疲れることがあったのか。
「フランシスはどうだった? 仲良くなれそうか」
「友達になった。でもちょっと偉そうな子供だった」
「おまえも十分偉そうな子供だけどな」
俺を部屋まで送ってくれた兄様は「フランシスと友達になるのは構わん」と偉そうに許可を出す。なんで俺の友達作りに首を突っ込もうとしてくるのか。過干渉は嫌われるぞ。
「フランシスは社交的だからな。いろいろ教えてもらうといい」
「たしかに。なんか馴れ馴れしい感じがしたもんね」
「馴れ馴れしいて。言い方」
今日はもう疲れた。さっさと休んでしまおうと部屋のドアに手をかける。
「ばいばい兄様」
「待て待て。追い出すんじゃない」
ぐっとドアを掴んで全開にした兄様は、我が物顔で俺の部屋に侵入してくる。はよ帰れよ。
まさかお土産をもらうまで粘るつもりなのだろうか。なんて奴だ。俺が手ぶらなのは見てわかるだろうに。
「だからお土産はないってば」
「おまえは俺をなんだと思っているんだ」
先程までブルース兄様に怒鳴られて大人しくしていたアロンが「え。お土産欲しかったんですか?」とにこやかな笑顔で絡みにいっている。どうやらアロンは反省というものをしないらしい。思った通りブルース兄様に睨まれている。
「なんの用?」
早く出ていけと念を送っていると、ブルース兄様が呆れたように腕を組んだ。そのまま勝手に椅子に座ってしまう。ジャンが無言で椅子を引いていたがたった一日ですっかりブルース兄様の従者っぽくなっている。アロンのポジションが奪われている。可哀想に。
「おまえ、まさか迷子になった件を忘れたわけじゃないだろうな」
「ティアン、もう疲れたよね。子供は寝る時間だよ」
「まだ夕食前です、ユリス様」
素っ気なく答えたティアンは、いつものことながら空気が読めない。
「お母様にただいまの挨拶してくるね」
「おいこら。逃げられると思うなよ」
怖いって。もはや悪役のセリフだよ。
アロンはこういう時頼りにならない。ティアンとセドリックもだ。そうなれば俺の味方はひとりしかいない。
「よしジャン。お母様のとこに行くよ」
「は、はい!」
背筋を伸ばして返答したジャンであったが、ブルース兄様にひと睨みされてあっさり俺を見捨ててしまった。
「母上とは今朝顔を合わせたと聞いたが?」
そうだけど。べつにお母様と会うのは一日一回までとの決まりがあるわけでもないし。なんとかブルース兄様から逃げようと頭を働かせていた俺はふと思い出してしまった。
「あ」
「今度はなんだ」
「そういえば、朝お母様に会った時なんだけど。お父様にも顔見せてあげてって言われてたんだった」
しんと部屋が静まり返った。後ろで小さくジャンが「あっ」と間の抜けた声をあげている。この様子だとジャンも忘れていたな。
ブルース兄様の口元が引き攣っている。
「おま、そういうことは早く言え!」
「兄様。アロンの話信じてあげてよ。ほんとに離れてないよ、ちゃんと仕事してたよ」
「ユリス。おまえ嘘つくの下手だな」
なんだと。俺の迫真の演技を酷評した兄様はアロンに詰め寄る。
「目を離さないだけジャンの方がマシだったかもな」
「はぁ⁉︎ 言っときますけどね、ブルース様! 目を離したのは俺だけじゃないですからね。そこの使えない元副団長とティアンもですから!」
言っちゃったよ、こいつ。
せっかくみんなで口裏合わせたのに。自分がピンチになったらあっさりセドリックとティアンも巻き込みやがった。さすがアロン、クソ野郎だな。
俺が冷たい目を送っていると、「こうなる予感はしてましたよね」と諦めたようなティアンの声が聞こえてきた。すかさずセドリックが片膝をついて頭を下げる。たぶんこの中でまともな大人はセドリックだけだ。アロンはなんか逆ギレしてるし。
「申し訳ありません、ブルース様。私がついていながらこのような失態を。しかしながらすぐにシモンズ侯爵家のご令息様が保護をしてくださったようで。大事には至っておりません」
「フランシスと会ったのか」
目を見張ったブルース兄様は、俺を見下ろす。
「なぜ迷子になる」
「でもベネットと友達になれたよ」
「誰だそれは」
「フランシスの従者」
「従者と友達になるんじゃない」
頭を抱えた兄様はひどく疲れた顔をしていた。兄様は屋敷に引き篭もっていただけなのになにをそんなに疲れることがあったのか。
「フランシスはどうだった? 仲良くなれそうか」
「友達になった。でもちょっと偉そうな子供だった」
「おまえも十分偉そうな子供だけどな」
俺を部屋まで送ってくれた兄様は「フランシスと友達になるのは構わん」と偉そうに許可を出す。なんで俺の友達作りに首を突っ込もうとしてくるのか。過干渉は嫌われるぞ。
「フランシスは社交的だからな。いろいろ教えてもらうといい」
「たしかに。なんか馴れ馴れしい感じがしたもんね」
「馴れ馴れしいて。言い方」
今日はもう疲れた。さっさと休んでしまおうと部屋のドアに手をかける。
「ばいばい兄様」
「待て待て。追い出すんじゃない」
ぐっとドアを掴んで全開にした兄様は、我が物顔で俺の部屋に侵入してくる。はよ帰れよ。
まさかお土産をもらうまで粘るつもりなのだろうか。なんて奴だ。俺が手ぶらなのは見てわかるだろうに。
「だからお土産はないってば」
「おまえは俺をなんだと思っているんだ」
先程までブルース兄様に怒鳴られて大人しくしていたアロンが「え。お土産欲しかったんですか?」とにこやかな笑顔で絡みにいっている。どうやらアロンは反省というものをしないらしい。思った通りブルース兄様に睨まれている。
「なんの用?」
早く出ていけと念を送っていると、ブルース兄様が呆れたように腕を組んだ。そのまま勝手に椅子に座ってしまう。ジャンが無言で椅子を引いていたがたった一日ですっかりブルース兄様の従者っぽくなっている。アロンのポジションが奪われている。可哀想に。
「おまえ、まさか迷子になった件を忘れたわけじゃないだろうな」
「ティアン、もう疲れたよね。子供は寝る時間だよ」
「まだ夕食前です、ユリス様」
素っ気なく答えたティアンは、いつものことながら空気が読めない。
「お母様にただいまの挨拶してくるね」
「おいこら。逃げられると思うなよ」
怖いって。もはや悪役のセリフだよ。
アロンはこういう時頼りにならない。ティアンとセドリックもだ。そうなれば俺の味方はひとりしかいない。
「よしジャン。お母様のとこに行くよ」
「は、はい!」
背筋を伸ばして返答したジャンであったが、ブルース兄様にひと睨みされてあっさり俺を見捨ててしまった。
「母上とは今朝顔を合わせたと聞いたが?」
そうだけど。べつにお母様と会うのは一日一回までとの決まりがあるわけでもないし。なんとかブルース兄様から逃げようと頭を働かせていた俺はふと思い出してしまった。
「あ」
「今度はなんだ」
「そういえば、朝お母様に会った時なんだけど。お父様にも顔見せてあげてって言われてたんだった」
しんと部屋が静まり返った。後ろで小さくジャンが「あっ」と間の抜けた声をあげている。この様子だとジャンも忘れていたな。
ブルース兄様の口元が引き攣っている。
「おま、そういうことは早く言え!」
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