上 下
73 / 586

69 忘れてた

しおりを挟む
 どうも俺のうっかり発言が原因でアロンの失態がブルース兄様にバレてしまった。ここは俺がどうにかしないと。

「兄様。アロンの話信じてあげてよ。ほんとに離れてないよ、ちゃんと仕事してたよ」
「ユリス。おまえ嘘つくの下手だな」

 なんだと。俺の迫真の演技を酷評した兄様はアロンに詰め寄る。

「目を離さないだけジャンの方がマシだったかもな」
「はぁ⁉︎ 言っときますけどね、ブルース様! 目を離したのは俺だけじゃないですからね。そこの使えない元副団長とティアンもですから!」

 言っちゃったよ、こいつ。
 せっかくみんなで口裏合わせたのに。自分がピンチになったらあっさりセドリックとティアンも巻き込みやがった。さすがアロン、クソ野郎だな。

 俺が冷たい目を送っていると、「こうなる予感はしてましたよね」と諦めたようなティアンの声が聞こえてきた。すかさずセドリックが片膝をついて頭を下げる。たぶんこの中でまともな大人はセドリックだけだ。アロンはなんか逆ギレしてるし。

「申し訳ありません、ブルース様。私がついていながらこのような失態を。しかしながらすぐにシモンズ侯爵家のご令息様が保護をしてくださったようで。大事には至っておりません」
「フランシスと会ったのか」

 目を見張ったブルース兄様は、俺を見下ろす。

「なぜ迷子になる」
「でもベネットと友達になれたよ」
「誰だそれは」
「フランシスの従者」
「従者と友達になるんじゃない」

 頭を抱えた兄様はひどく疲れた顔をしていた。兄様は屋敷に引き篭もっていただけなのになにをそんなに疲れることがあったのか。

「フランシスはどうだった? 仲良くなれそうか」
「友達になった。でもちょっと偉そうな子供だった」
「おまえも十分偉そうな子供だけどな」

 俺を部屋まで送ってくれた兄様は「フランシスと友達になるのは構わん」と偉そうに許可を出す。なんで俺の友達作りに首を突っ込もうとしてくるのか。過干渉は嫌われるぞ。

「フランシスは社交的だからな。いろいろ教えてもらうといい」
「たしかに。なんか馴れ馴れしい感じがしたもんね」
「馴れ馴れしいて。言い方」

 今日はもう疲れた。さっさと休んでしまおうと部屋のドアに手をかける。

「ばいばい兄様」
「待て待て。追い出すんじゃない」

 ぐっとドアを掴んで全開にした兄様は、我が物顔で俺の部屋に侵入してくる。はよ帰れよ。

 まさかお土産をもらうまで粘るつもりなのだろうか。なんて奴だ。俺が手ぶらなのは見てわかるだろうに。

「だからお土産はないってば」
「おまえは俺をなんだと思っているんだ」

 先程までブルース兄様に怒鳴られて大人しくしていたアロンが「え。お土産欲しかったんですか?」とにこやかな笑顔で絡みにいっている。どうやらアロンは反省というものをしないらしい。思った通りブルース兄様に睨まれている。

「なんの用?」

 早く出ていけと念を送っていると、ブルース兄様が呆れたように腕を組んだ。そのまま勝手に椅子に座ってしまう。ジャンが無言で椅子を引いていたがたった一日ですっかりブルース兄様の従者っぽくなっている。アロンのポジションが奪われている。可哀想に。

「おまえ、まさか迷子になった件を忘れたわけじゃないだろうな」
「ティアン、もう疲れたよね。子供は寝る時間だよ」
「まだ夕食前です、ユリス様」

 素っ気なく答えたティアンは、いつものことながら空気が読めない。

「お母様にただいまの挨拶してくるね」
「おいこら。逃げられると思うなよ」

 怖いって。もはや悪役のセリフだよ。

 アロンはこういう時頼りにならない。ティアンとセドリックもだ。そうなれば俺の味方はひとりしかいない。

「よしジャン。お母様のとこに行くよ」
「は、はい!」

 背筋を伸ばして返答したジャンであったが、ブルース兄様にひと睨みされてあっさり俺を見捨ててしまった。

「母上とは今朝顔を合わせたと聞いたが?」

 そうだけど。べつにお母様と会うのは一日一回までとの決まりがあるわけでもないし。なんとかブルース兄様から逃げようと頭を働かせていた俺はふと思い出してしまった。

「あ」
「今度はなんだ」
「そういえば、朝お母様に会った時なんだけど。お父様にも顔見せてあげてって言われてたんだった」

 しんと部屋が静まり返った。後ろで小さくジャンが「あっ」と間の抜けた声をあげている。この様子だとジャンも忘れていたな。

 ブルース兄様の口元が引き攣っている。

「おま、そういうことは早く言え!」
しおりを挟む
感想 424

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...