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65 広場にて
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「君を騎士団に預けてもいいけどどうする? もうちょっとアロンさんとやらを探してみるかい?」
どうやらオーガス兄様は広場の中心で市民の声に耳を傾けているらしい。先程までは商店を回っていたらしいし随分と仕事熱心だ。ブルース兄様と大違い。
オーガス兄様とお話したいらしい住民で広場は溢れかえっている。この状況だとオーガス兄様に近寄ることもままならない。そして気が付いたのだが、俺はオーガス兄様の顔を知らない。向こうは俺の顔を知っているだろうが、なんせ俺は本物のユリスではないので。オーガス兄様に話しかけに行くのはちょっと難しそうだ。
「アロンさんが行きそうなところに心当たりは?」
意外と親身なフランシスは、どうやらアロン探しを手伝ってくれるらしい。ベネットに抱きかかえられたままの俺は、アロンが行きそうなところを必死に思い浮かべる。
「うーん。具体的なお店はわかんないけど、行きそうなお店はわかる」
「お。ようやく手掛かりが出てきたね。どこだい?」
「エッチなお店」
「おっと」
大袈裟に目を見張ったフランシスは、やがて苦笑する。
「流石に迷子の君を放っておいてまでは行かないと思うけどね」
少し前の俺であれば納得していただろう。しかしアロンはマジでどうしようもないクソ野郎だと知ってしまった。これ幸いと自分だけ楽しんでいる可能性も否定できない。真剣な表情の俺にフランシスも考えを改めたのだろうか。ゆるく首を捻ると、困ったようにベネットを見る。
「ほんとに? いやしかし。まさかこんな子供を連れて行くわけにもいかないしな」
「子供連れでもギリセーフな店を探すって言ってたよ」
「うーん。君の連れのアロンさんはなかなかだね。本当にミュンスト家の彼じゃないのかい?」
だから違うって。そんな家初めて聞いたよ。
どうやらアロン探しは難航しそうだ。ティアンも見当たらない。困ったものだな。ひと通り長髪男子さんを愛でて俺も満足してきた。あと疲れた。そろそろ家に帰りたい気もしてきた。
それにフランシスのプレゼント選びも邪魔してしまった。なんだか彼にも悪い気がしてきた。このまま人混みの中から彼らを見つけ出すのは困難だろう。ここはブルース兄様に叱られること覚悟で騎士たちに助けを求めるしかないのかもしれない。
「俺もう帰るから大丈夫だよ。付き合ってくれてありがとね」
簡潔にお礼を述べれば、フランシスが「いやでも」と顔を顰める。どうも責任感が強いらしい。ベネットも俺を抱っこしたまま降ろしてくれそうにない。
「アロンさんはまだ見つかっていないだろう。ひとりで帰るつもりかい」
「兄様に連れて帰ってもらうから大丈夫」
「え、お兄さんがいるのかい?」
「うん。そこ」
ぐいっと首を伸ばしてオーガス兄様が居そうなところを指さすが、ふたりには伝わらなかったらしい。人混みだとどうにも意思疎通がままならない。
仕方がないので手を大きく振って中心にいる兄様を呼んでみる。俺はオーガス兄様の顔を知らないので向こうから気づいてもらわないと。
「オーガス兄様!」
その瞬間、フランシスとベネットがギョッとするのがわかった。
「は? いまなんて? オーガス兄様って言ったかい?」
「うん。オーガス兄様。あそこにいるんでしょ?」
「いやいやいや。え、てことはユリスくんって」
顔を見合わせたフランシスとベネット。
「ちょっと待った!」
「待ってるよ」
なんだか大慌てのフランシスはよくわからないことを口走る。待てもなにも。俺はベネットに抱えられておりなにもできないが? なにを待てと?
「え、あ、思い出した。まさかヴィアンの氷の花?」
氷の花ってなに。俺のこと?
ユリスってそんな大層なあだ名がついてんの? どういう意味だ。でもなんかカッコいいな。氷や花になぞらえる程美しいってことだろうか。だったらべつにいいけど。
さっと顔色を悪くしたフランシスがわかりやすく動揺をみせる。
「あー、いやその。この度は大変な失礼を。どうかご容赦ください」
急にどうした。
「さっきまでの馴れ馴れしい態度はどうした」
「ひぇ。めっちゃ怒っていらっしゃる」
「? 怒ってないけど」
どうしよう。突然フランシスとのコミュニケーションがままならなくなってしまった。まるでジャンみたいだ。この一瞬でなにがあった。
「あの、フランシス」
「はい! なんでしょう!」
なぜ敬語。
仲良くなったと思ったのに唐突に距離があいてしまった。そんなことある? フランシスの扱い方が難しすぎる。
「急にどうしたの。なんか変だよ。普通にしてよ」
「え、えぇ?」
露骨に困惑してみせる彼は、ちらちらとベネットに視線を送る。これはわかりやすく助けを求めているな。
「せっかく友達になったのに」
「友達」
真顔で呟いたフランシスは、なにかを決意したらしい。ぐっと眉根に力を入れると「わかった」と力を抜く。
「ユリスくんがそう言うのなら。あとで不敬だとか言って処刑するのはナシだからね」
「しないよそんなこと!」
なんなのこいつら。前にティアンも似たようなこと言ってたぞ。子供ってこんな物騒な思考してんのか。今どきの子供の考えはよくわからんな。
「なんか噂とは随分違うね」
「噂って?」
「あ、いや。流石に本人目の前にしては言えないかな」
明後日の方を向いたフランシス。本人に言えない噂話の存在だけを匂わせるとは、なかなかに性悪なことをする。
「ベネットも友達ね」
「それは流石に勘弁してあげて。ベネットが困っているよ」
「ベネット、困ってる?」
「ご容赦ください。ユリス様」
困ってるか否かの確認をしただけなのにベネットはさっと目を伏せて返答を濁してしまう。これはマジで困っているのか、ベネット。ちょっとショックなんだが。もしかして俺が子供だから相手にされていないのか。「なんで困るの?」とさらに質問すればフランシスが間に割って入る。
「いやだからベネットが困っているよ。話聞いてる?」
「きいてる」
「ほんとかなぁ?」
なんだその疑いの目は。お子様扱いするんじゃない。
どうやらオーガス兄様は広場の中心で市民の声に耳を傾けているらしい。先程までは商店を回っていたらしいし随分と仕事熱心だ。ブルース兄様と大違い。
オーガス兄様とお話したいらしい住民で広場は溢れかえっている。この状況だとオーガス兄様に近寄ることもままならない。そして気が付いたのだが、俺はオーガス兄様の顔を知らない。向こうは俺の顔を知っているだろうが、なんせ俺は本物のユリスではないので。オーガス兄様に話しかけに行くのはちょっと難しそうだ。
「アロンさんが行きそうなところに心当たりは?」
意外と親身なフランシスは、どうやらアロン探しを手伝ってくれるらしい。ベネットに抱きかかえられたままの俺は、アロンが行きそうなところを必死に思い浮かべる。
「うーん。具体的なお店はわかんないけど、行きそうなお店はわかる」
「お。ようやく手掛かりが出てきたね。どこだい?」
「エッチなお店」
「おっと」
大袈裟に目を見張ったフランシスは、やがて苦笑する。
「流石に迷子の君を放っておいてまでは行かないと思うけどね」
少し前の俺であれば納得していただろう。しかしアロンはマジでどうしようもないクソ野郎だと知ってしまった。これ幸いと自分だけ楽しんでいる可能性も否定できない。真剣な表情の俺にフランシスも考えを改めたのだろうか。ゆるく首を捻ると、困ったようにベネットを見る。
「ほんとに? いやしかし。まさかこんな子供を連れて行くわけにもいかないしな」
「子供連れでもギリセーフな店を探すって言ってたよ」
「うーん。君の連れのアロンさんはなかなかだね。本当にミュンスト家の彼じゃないのかい?」
だから違うって。そんな家初めて聞いたよ。
どうやらアロン探しは難航しそうだ。ティアンも見当たらない。困ったものだな。ひと通り長髪男子さんを愛でて俺も満足してきた。あと疲れた。そろそろ家に帰りたい気もしてきた。
それにフランシスのプレゼント選びも邪魔してしまった。なんだか彼にも悪い気がしてきた。このまま人混みの中から彼らを見つけ出すのは困難だろう。ここはブルース兄様に叱られること覚悟で騎士たちに助けを求めるしかないのかもしれない。
「俺もう帰るから大丈夫だよ。付き合ってくれてありがとね」
簡潔にお礼を述べれば、フランシスが「いやでも」と顔を顰める。どうも責任感が強いらしい。ベネットも俺を抱っこしたまま降ろしてくれそうにない。
「アロンさんはまだ見つかっていないだろう。ひとりで帰るつもりかい」
「兄様に連れて帰ってもらうから大丈夫」
「え、お兄さんがいるのかい?」
「うん。そこ」
ぐいっと首を伸ばしてオーガス兄様が居そうなところを指さすが、ふたりには伝わらなかったらしい。人混みだとどうにも意思疎通がままならない。
仕方がないので手を大きく振って中心にいる兄様を呼んでみる。俺はオーガス兄様の顔を知らないので向こうから気づいてもらわないと。
「オーガス兄様!」
その瞬間、フランシスとベネットがギョッとするのがわかった。
「は? いまなんて? オーガス兄様って言ったかい?」
「うん。オーガス兄様。あそこにいるんでしょ?」
「いやいやいや。え、てことはユリスくんって」
顔を見合わせたフランシスとベネット。
「ちょっと待った!」
「待ってるよ」
なんだか大慌てのフランシスはよくわからないことを口走る。待てもなにも。俺はベネットに抱えられておりなにもできないが? なにを待てと?
「え、あ、思い出した。まさかヴィアンの氷の花?」
氷の花ってなに。俺のこと?
ユリスってそんな大層なあだ名がついてんの? どういう意味だ。でもなんかカッコいいな。氷や花になぞらえる程美しいってことだろうか。だったらべつにいいけど。
さっと顔色を悪くしたフランシスがわかりやすく動揺をみせる。
「あー、いやその。この度は大変な失礼を。どうかご容赦ください」
急にどうした。
「さっきまでの馴れ馴れしい態度はどうした」
「ひぇ。めっちゃ怒っていらっしゃる」
「? 怒ってないけど」
どうしよう。突然フランシスとのコミュニケーションがままならなくなってしまった。まるでジャンみたいだ。この一瞬でなにがあった。
「あの、フランシス」
「はい! なんでしょう!」
なぜ敬語。
仲良くなったと思ったのに唐突に距離があいてしまった。そんなことある? フランシスの扱い方が難しすぎる。
「急にどうしたの。なんか変だよ。普通にしてよ」
「え、えぇ?」
露骨に困惑してみせる彼は、ちらちらとベネットに視線を送る。これはわかりやすく助けを求めているな。
「せっかく友達になったのに」
「友達」
真顔で呟いたフランシスは、なにかを決意したらしい。ぐっと眉根に力を入れると「わかった」と力を抜く。
「ユリスくんがそう言うのなら。あとで不敬だとか言って処刑するのはナシだからね」
「しないよそんなこと!」
なんなのこいつら。前にティアンも似たようなこと言ってたぞ。子供ってこんな物騒な思考してんのか。今どきの子供の考えはよくわからんな。
「なんか噂とは随分違うね」
「噂って?」
「あ、いや。流石に本人目の前にしては言えないかな」
明後日の方を向いたフランシス。本人に言えない噂話の存在だけを匂わせるとは、なかなかに性悪なことをする。
「ベネットも友達ね」
「それは流石に勘弁してあげて。ベネットが困っているよ」
「ベネット、困ってる?」
「ご容赦ください。ユリス様」
困ってるか否かの確認をしただけなのにベネットはさっと目を伏せて返答を濁してしまう。これはマジで困っているのか、ベネット。ちょっとショックなんだが。もしかして俺が子供だから相手にされていないのか。「なんで困るの?」とさらに質問すればフランシスが間に割って入る。
「いやだからベネットが困っているよ。話聞いてる?」
「きいてる」
「ほんとかなぁ?」
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