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63 長髪男子さん

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「その前にちょっと買い物してもいい? 大丈夫。アロンさんとやらは後でちゃんと探してあげるから」

 そう言うなりフランシスは店内をゆったりと歩き出す。今更だがフランシスは結構身なりがいい。隣にいるベネットもそうだ。まるでどこぞのお坊ちゃんと執事のように見えなくもない。

 店名も確認せずにベネットを追いかけて店に踏み入れた俺は、ここにきて初めて店内を見回した。

 なんだか全体的にキラキラしている。雑貨屋みたいなものだろうか。よくわからん小物が整然と並べられている。

「友人への贈り物を用意したくてね。なにがいいかな?」

 独り言ともとれる呟きを放って、フランシスは目についたものを手に取っては戻すという作業を繰り返す。

「友人って?」
「いろいろお世話になっている人だよ。もうすぐ誕生日でね」

 なるほど。これはちょっと時間がかかりそうだ。
 手持ち無沙汰になってしまった俺は、ここぞとばかりにベネットへと近寄った。

「俺、ユリス」
「初めまして、ユリス様。ベネットと申します」
「何歳?」
「三十二でございます」
「彼女いる?」
「いえ、特には」
「そうなんだ。俺もいない」
「左様でございますか」

 ちらりとこちらを振り返ったフランシスが「ベネットがナンパされてる」と珍しいものでも見るかのように目を細めた。

「なに買うの?」

 なかなか時間がかかりそうである。早いところアロンたちと合流して街歩きを再開したくなった俺は、フランシスの手元を覗き込む。

「それなに」
「ブックマーカーだよ」

 なんそれ。
 フランシスは金属製の細い棒のような物を手にしていた。なにやら煌びやかな装飾が施された掌サイズの物である。

「読みかけの本に挟んで目印にするんだよ」

 なるほど、栞か。それならわかるぞ。ゆるくカーブしているそれは先端に異なるデザインの飾りが付いている。その中に犬の形を見つけて手に取った。

「ジャンのお土産これにしようかな」

 ジャンは犬派らしいからな。
 これなら持って帰るのにも嵩張らなくてちょうど良さそうだ。

「ジャンさんっていうのは? お友達?」
「ううん、従者」
「従者? 誰の?」
「俺の」

 ぱちぱちとフランシスが目を瞬く。

「てっきり平民の子だと思っていたけど。もしかして貴族の家の子だったりする?」

 俺を無遠慮に眺めて、フランシスが顎に手を持っていく。そういえば今の俺はいつもとは違いここらの平民の子供っぽい格好をしているんだった。

 後ろで何やらフランシスとベネットが話し込み始めてしまう。

 栞を棚に戻してふたりに視線を向けると、フランシスが「買わないの?」と小首を傾げた。話は終わったのだろうか。

「うん。よく考えたらお金持ってないし。それにジャンが本読んでるところ見たことない」
「そうかい」

 ジャンはいつも俺の側で突っ立っているだけだからな。彼の私生活はまったくの謎だ。使うかわからん栞よりも無難にお菓子とかの方がいいかもしれない。財布を持っているのはセドリックなので、後で彼に買ってもらおう。

 頭の中で計画を練っていると、店の外が一段と騒がしくなっていることに気がついた。

「街っていつもこんな感じなの?」
「ん? あぁいや。今日は特に人が多いね。なんでも大公家のご令息様がいらっしゃっているみたいで。街の視察だろうね。私営騎士団が物々しい警備をしているよ」
「大公家」
「そう。高台に大きなお屋敷があるの知ってるかな? ヴィアン家っていうんだけど。そこのご長男様がおいでなんだ。オーガス様っていうんだけどね」

 ヴィアン家ならよく知っている。俺の家だ。てか今オーガス兄様が来ているって言ったか? やっぱり俺は運がいい。ヴィアン家の騎士団も来ているらしいし、そこに行けば家に帰れるじゃん。

「俺も行く!」
「え? 見に行きたいの?」

 勢いよく頷けば、フランシスは困った顔をする。

「確かにオーガス様にお会いできる機会は滅多にないけど。遠目からお姿を拝見できるくらいだと思うよ? 警備もすごいし」
「行きたい! 連れて行って」
「うーん。困ったな」

 言葉通り眉を寄せた彼は、ちらりとベネットに視線をやる。促された彼が、「ご提案なのですが」と低く落ち着き払った声を紡ぐ。

「そのまま騎士団に任せてはいかがでしょうか。この人混みでお連れ様を探し出すのは骨が折れるでしょうし」
「それもそうだな」

 ようやく納得してくれたらしいフランシスは「わかった」と俺の頭をひと撫でする。子供扱いはやめろ。精神年齢同い年だぞ。

「そうと決まれば早速行こうか。あ、その前にアロンさんとやらはどんな人かな? 道中探してみようと思うんだけど」

 アロン? えっと、アロンは。急な質問に、俺は口から思ったことをそのままこぼしてしまう。

「クズでクソ野郎のお兄さん」
「うーん、それじゃあちょっと探せないかな」

 予想外の言葉だったらしく、頰を掻いたフランシスは苦笑する。

「もっとこう外見の特徴を教えて欲しいんだけど」

 外見? いつもはヴィアン家の黒い騎士服を着ているんだけどな。今日は一般人に紛れるとかで特徴のない格好をしていた。

「普通の服を着てる」
「まったく絞り込めないね」

 小さく笑ったフランシスは「まぁいいか」と立ち上がる。

「アロンさんらしき人が居たら教えてね」
「うん」

 また迷子になっても困るからと手を繋いでくる。そのまま俺たちはオーガス兄様に会うべく店を後にした。
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