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62 迷子
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それから数分後。
俺は往来の中で途方に暮れていた。長髪男子くん。いや年齢的に長髪男子さん? どっちでもいいか。彼は非常に背が高かった。一方の俺は十歳児である。人混みに突入した途端、俺はあっさりと彼を見失った。この背丈ではろくに周囲が見えないのだ。
おまけにティアンも居なくなってしまった。俺ちゃんと声かけたよね? 行くぞって言ったよね? あのお子様め。ちょっと目を離すとすぐこれだ。大人しく俺についてくることもできないのか。
しかしティアンは十二歳である。迷子になったら泣いちゃう年頃だと思われる。仕方がないので早いところ探し出してやろう。
やれやれと来た道を戻ってみる。けれどもティアンらしきお子様の姿が見えない。というか人が多すぎてよくわからない。一体彼はどこにいるのか。迷子が行きそうなところってどこなのか。
もしかしてさっきティアンが行きたいと言っていた本屋にいるかもしれない。本当は迷子センター的なところに行きたいのだが、ここはショッピングセンターではないからな。ただの商店街みたいなここに迷子センターはなさそうだ。
こういう時スマホがあれば便利なんだけどな。残念ながらこの世界ではそこまで科学が発展していないらしい。
「ティアン!」
一応呼びかけてみるが返答はない。
「そういえばアロンとセドリックは?」
なんてこった。大人ふたりも迷子になってしまった。思い返せばあのふたり、広場の隅で言い争いをしていたな。まだあそこに居るかもしれない。一旦広場まで戻るか?
くるりと向きを変えて、はたと気がつく。
広場どこ?
まずいまずい。自分の居場所がよくわからなくなってしまった。これではまるで俺が迷子みたいじゃないか。ティアンを探してやらないといけないのに。
プチパニックに陥った俺は、あっちこっち歩き回る。そうしてどれくらい経っただろうか。体感にして十分くらいか。ちらりと視界を掠めた長髪に、ぴたりと足が止まった。
いた! 間違いない。先程見失った長髪男子さんだ。俺は運がいい。
ティアンのことなんて頭から吹っ飛んだ俺は、そのまま彼を追いかける。今度は見失うわけにはいかない。なんとか人をかき分けて彼の元に辿り着く。どうやら眼前の店に用があるらしく中へと吸い込まれていく。当然俺も後を追う。
「いらっしゃいませ」
きれいなお姉さん店員がにこりと営業スマイルを浮かべていた。しかし俺は店内に目もくれずお目当ての彼の横まで歩いて行く。ぴたりと横に張り付いてじっと顔(正確には長髪)を見上げていると、視線に気がついたらしい彼と目があった。ヤバい、めっちゃタイプ。これぞ理想の長髪男子。結構イケメンである。切れ長の目が特徴的な涼し気な顔立ち。
紳士然とした彼は器用に片眉を持ち上げたものの、口を開く気配はない。そんな中、彼の向こうからひょっこりと顔を覗かせた少年が俺と長髪男子さんを見比べて首を傾げた。
「……なんだかすごく見られているね。知り合いかい?」
「いえ。初対面だと思いますが」
低い声は落ち着き払っておりどこまでも大人な振る舞いである。オシャレなバーとかに居そう。バーとか行ったことないけど。
「君、ベネットになにか用かい?」
ずいっと前に出てきた少年がにこやかに問いかける。話の流れ的にベネットとは長髪男子さんのお名前だろう。
彼とは全くの初対面である。ふるふると首を横に振れば、黒髪の少年が「ん?」と腰を折る。どうやら俺と目線をあわせてくれたらしい。肩につかないくらいの黒髪に、ちょっと茶色がかった瞳は好奇心に満ちている。ヤンチャそうな男の子だ。高校生くらい?
「でも彼のことを見ていただろう? あ、僕はフランシス。こっちのお兄さんはベネットね。君のお名前を訊いても?」
「ユリス」
「ユリスくんね。よろしく」
差し出された手を反射的に取って握手する。ぐいぐいくるな、この子。
「フランシスは何歳?」
「僕? 十六だよ」
ということは高校生か。前世の俺も高校生。同級生かもしれない。
「俺とだいたい同い年だね」
「……ユリスくん、いくつ?」
「十歳」
「十歳かぁ。だいたいの範囲広すぎない?」
小さく笑ったフランシスは、俺の手を取ったまま腰を伸ばす。そのままキョロキョロと周囲を見回すと再び俺に視線を落とした。
「ご両親は?」
「家にいる」
「じゃあひとりで来たの?」
「ううん。アロンたちと一緒」
「そのアロンさんはどこ行ったんだい」
「アロンね。迷子」
口の中で小さく「迷子」と呟いたフランシスは、困ったようにベネットを振り返る。
「迷子を保護した時ってどうすればいいんだっけ」
「ここら辺の子供であれば私営騎士団に任せるのがよろしいかと」
「あぁ、あそこね」
ふむふむと顎に手をやったフランシスは、どうやら俺を迷子扱いしているらしい。違うんだけどな。
「あのね、迷子になったのは俺じゃなくてアロンの方だから」
「アロンさんっていくつ?」
そういやアロンっていくつだ? 知らないな。でも確実に二十は超えているはず。
「知らない。でもフランシスより年上」
「そうか。大丈夫、心配せずとも僕が探すの手伝ってあげるよ」
「どうも」
なんだか子供扱いされている。
一応中身は同い年くらいなんだけどな。すっかり俺を迷子認定したフランシスは、アロンを探す気満々らしい。ありがたいけど距離の詰め方がちょっとな。なんでこんなにぐいぐいくるのか。俺が見た目十歳児だからか?
そっとフランシスからはなれてベネットに近付く。ベネットはまともな大人っぽいので安心だ。
「ベネットが子供に懐かれるなんて珍しいこともあるもんだね」
なんでだよ。
ベネットは紳士っぽくていい人そうだろ。ちょっと近寄りがたい雰囲気はあるけれども。
俺は往来の中で途方に暮れていた。長髪男子くん。いや年齢的に長髪男子さん? どっちでもいいか。彼は非常に背が高かった。一方の俺は十歳児である。人混みに突入した途端、俺はあっさりと彼を見失った。この背丈ではろくに周囲が見えないのだ。
おまけにティアンも居なくなってしまった。俺ちゃんと声かけたよね? 行くぞって言ったよね? あのお子様め。ちょっと目を離すとすぐこれだ。大人しく俺についてくることもできないのか。
しかしティアンは十二歳である。迷子になったら泣いちゃう年頃だと思われる。仕方がないので早いところ探し出してやろう。
やれやれと来た道を戻ってみる。けれどもティアンらしきお子様の姿が見えない。というか人が多すぎてよくわからない。一体彼はどこにいるのか。迷子が行きそうなところってどこなのか。
もしかしてさっきティアンが行きたいと言っていた本屋にいるかもしれない。本当は迷子センター的なところに行きたいのだが、ここはショッピングセンターではないからな。ただの商店街みたいなここに迷子センターはなさそうだ。
こういう時スマホがあれば便利なんだけどな。残念ながらこの世界ではそこまで科学が発展していないらしい。
「ティアン!」
一応呼びかけてみるが返答はない。
「そういえばアロンとセドリックは?」
なんてこった。大人ふたりも迷子になってしまった。思い返せばあのふたり、広場の隅で言い争いをしていたな。まだあそこに居るかもしれない。一旦広場まで戻るか?
くるりと向きを変えて、はたと気がつく。
広場どこ?
まずいまずい。自分の居場所がよくわからなくなってしまった。これではまるで俺が迷子みたいじゃないか。ティアンを探してやらないといけないのに。
プチパニックに陥った俺は、あっちこっち歩き回る。そうしてどれくらい経っただろうか。体感にして十分くらいか。ちらりと視界を掠めた長髪に、ぴたりと足が止まった。
いた! 間違いない。先程見失った長髪男子さんだ。俺は運がいい。
ティアンのことなんて頭から吹っ飛んだ俺は、そのまま彼を追いかける。今度は見失うわけにはいかない。なんとか人をかき分けて彼の元に辿り着く。どうやら眼前の店に用があるらしく中へと吸い込まれていく。当然俺も後を追う。
「いらっしゃいませ」
きれいなお姉さん店員がにこりと営業スマイルを浮かべていた。しかし俺は店内に目もくれずお目当ての彼の横まで歩いて行く。ぴたりと横に張り付いてじっと顔(正確には長髪)を見上げていると、視線に気がついたらしい彼と目があった。ヤバい、めっちゃタイプ。これぞ理想の長髪男子。結構イケメンである。切れ長の目が特徴的な涼し気な顔立ち。
紳士然とした彼は器用に片眉を持ち上げたものの、口を開く気配はない。そんな中、彼の向こうからひょっこりと顔を覗かせた少年が俺と長髪男子さんを見比べて首を傾げた。
「……なんだかすごく見られているね。知り合いかい?」
「いえ。初対面だと思いますが」
低い声は落ち着き払っておりどこまでも大人な振る舞いである。オシャレなバーとかに居そう。バーとか行ったことないけど。
「君、ベネットになにか用かい?」
ずいっと前に出てきた少年がにこやかに問いかける。話の流れ的にベネットとは長髪男子さんのお名前だろう。
彼とは全くの初対面である。ふるふると首を横に振れば、黒髪の少年が「ん?」と腰を折る。どうやら俺と目線をあわせてくれたらしい。肩につかないくらいの黒髪に、ちょっと茶色がかった瞳は好奇心に満ちている。ヤンチャそうな男の子だ。高校生くらい?
「でも彼のことを見ていただろう? あ、僕はフランシス。こっちのお兄さんはベネットね。君のお名前を訊いても?」
「ユリス」
「ユリスくんね。よろしく」
差し出された手を反射的に取って握手する。ぐいぐいくるな、この子。
「フランシスは何歳?」
「僕? 十六だよ」
ということは高校生か。前世の俺も高校生。同級生かもしれない。
「俺とだいたい同い年だね」
「……ユリスくん、いくつ?」
「十歳」
「十歳かぁ。だいたいの範囲広すぎない?」
小さく笑ったフランシスは、俺の手を取ったまま腰を伸ばす。そのままキョロキョロと周囲を見回すと再び俺に視線を落とした。
「ご両親は?」
「家にいる」
「じゃあひとりで来たの?」
「ううん。アロンたちと一緒」
「そのアロンさんはどこ行ったんだい」
「アロンね。迷子」
口の中で小さく「迷子」と呟いたフランシスは、困ったようにベネットを振り返る。
「迷子を保護した時ってどうすればいいんだっけ」
「ここら辺の子供であれば私営騎士団に任せるのがよろしいかと」
「あぁ、あそこね」
ふむふむと顎に手をやったフランシスは、どうやら俺を迷子扱いしているらしい。違うんだけどな。
「あのね、迷子になったのは俺じゃなくてアロンの方だから」
「アロンさんっていくつ?」
そういやアロンっていくつだ? 知らないな。でも確実に二十は超えているはず。
「知らない。でもフランシスより年上」
「そうか。大丈夫、心配せずとも僕が探すの手伝ってあげるよ」
「どうも」
なんだか子供扱いされている。
一応中身は同い年くらいなんだけどな。すっかり俺を迷子認定したフランシスは、アロンを探す気満々らしい。ありがたいけど距離の詰め方がちょっとな。なんでこんなにぐいぐいくるのか。俺が見た目十歳児だからか?
そっとフランシスからはなれてベネットに近付く。ベネットはまともな大人っぽいので安心だ。
「ベネットが子供に懐かれるなんて珍しいこともあるもんだね」
なんでだよ。
ベネットは紳士っぽくていい人そうだろ。ちょっと近寄りがたい雰囲気はあるけれども。
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