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61 理解した

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「つまり俺と付き合いたいとかそういう話でしょ」
「やっとわかってくれましたか」

 どうやらアロンは俺に気があるらしい。気があるとはつまり俺のことを好きかもしれないみたいな話だ。完全に理解した。

「まあそういうこともあるよね」
「おや。意外とあっさり受け入れるんですね」
「だって俺は美少年だもん。アロンがうっかり俺に惚れてもなにもおかしくはない。むしろ惚れて当然だと思う」
「……ソウデスネ」

 なぜか片言になったアロンが遠い目をしている。文句でもあるのか。

 だってユリスは美少年だぞ。近くにいたらうっかり惚れて当然。おまけにアロンは周りからの扱いが雑だったからな。当初、アロンのことを優しいお兄さんだと思って一方的に懐いていた俺にアロンが好意をもったとしてもなにもおかしくはない。

 冷静に状況を分析した俺がそう言い聞かせてやれば、アロンは「思ってたんと違う」と顰めっ面になってしまう。なんでだよ。おまえの気持ちはきちんと理解しただろ。俺に惚れたであろう理由まで理解してやったのに。一体なにが不満なのか。

 はあっとため息をついたアロンは、ついで口元を緩めると俺の髪をひと撫でする。

「じゃあ俺と付き合ってくれますか?」
「それは無理」
「なぜ」

 なぜって。
 いやどう見ても歳の差が。あとおまえ男だろうが。それに俺はアロンと付き合いたいとかそういう感情はない。アロンが俺に惚れる気持ちは非常によくわかるが、だからといってお付き合いするか否かはまた別の話だ。

 それを懇切丁寧に説明してやったところ、アロンはきょとんとする。

「愛に歳の差なんて関係ないですよ? それに性別も」
「いつもそうやって女の子口説いてんの?」
「茶化さないでください」

 むにっと頬を抓まれる。痛いからやめろ。腕を掴んで抵抗すればあっさり解放される。

「今日のところはこれで勘弁してあげましょう」

 アロンのくせに随分と偉そうだ。話の区切りを見計らってそそくさと隣に来たティアンが「そろそろいいですか? 早くしないと日が暮れますよ」と俺の手を取って歩き出す。

 そうだった。ブルース兄様に暗くなる前に帰って来いと言われているんだった。それにジャンのお土産もまだ買っていない。滅多にない街歩きだ。楽しまないと損だろう。こんなところで道草くってる場合ではない。

「行こう、アロン。はやくしないと日が暮れる」

 いまだにしゃがみ込んでいるアロンに声をかける。「そんな奴置いて行きましょうよ」とティアンに促されて、手を繋いだまま商店が並ぶ通りへと足を向ける。

「……俺いま告白しましたよね? なんでこんな雑に流されているんですか」
「日頃の行いのせいだろう」
「セドリック殿、今日はよく喋りますね」

 背後でなにやらアロンとセドリックがバチバチしている。俺の街歩きの邪魔は許さん。喧嘩ならふたりで勝手にやってくれ。


※※※


 広場から出てすぐ。人混みの中にそれを見つけた瞬間、俺のテンションは爆上がりした。綺麗な黒だ。長さも申し分ない。

「ちょ、ティアン! あれ見て!」
「どれですか」

 隣にいたティアンの背中をバシバシ叩けば、嫌そうな顔をされた。ごめんて。
 しかしそれどころではない。なんせこんな人混みである。目を離したらすぐに見失ってしまいそうだ。

「ほら! あそこ! ちゃんと見て」
「はいはい。すごい人混みですねー。今日ってなにかありましたっけ?」
「ちゃんと見てってば!」

 ダメだ。ティアンめ!
 せっかく教えてやったのにろくに見もしない。

「ところであのふたりまだ睨み合ってるんですか? 信じられない。僕ちょっと声かけてきますね。ユリス様も行きますよ」

 くるりと踵を返したティアンが、広場の一角で睨み合うアロンとセドリックに呼びかけている。いやだから! あっちを見ろって!

 ティアンがぐずぐずしている間にもお目当ての人物はすいすい移動してしまう。このままでは逃してしまう。俺の理想ドンピシャの長髪男子くんを!

 俺の視線を掴んではなさない彼は見事な黒髪長髪だった。まさに俺の理想。ロニーもいいんだけどね。ロニーの髪はちょっと短めなんだよね。希望としてはもう少し伸ばして欲しい。それに色がね。赤みの強い茶髪なのだ。べつにいいけどね。我儘を言えば黒髪がいい。そう! ちょうどそこの彼みたいに!

 まさに理想! 完璧!
 俺の好みを探ったんですかと言いたくなるくらい性癖ドンピシャ。かっちりとした黒い燕尾服のようなものに身を包み、背中まで垂らしたきれいな黒髪を下の方できっちり結えている。三十代くらいかな? ロニーよりは確実に歳上だろう。落ち着き払った態度は大人の余裕を醸し出す。

 これはお近付きにならねば……!

 だって俺が異世界に来た意義って現代日本であまりお目にかかれない長髪男子くんと仲良くなることにあると言っても過言ではないのだ。だってそれ以外にこの世界でやることなんて特にないしね。湧き上がってきた使命感を胸に、俺は一歩踏み出した。

「行くぞ、ティアン」

 一応ティアンにも声をかけておくが返事がない。まぁいいや。すぐに追いかけてくるだろう。

 そうして俺は新たな長髪男子くんとお近付きになるべく彼の背中を追いかけたのであった。
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