64 / 577
60 告白
しおりを挟む
絶対に側室の話を受け入れてはならないとティアンはいつになく真剣な表情で力説する。どうやらこいつはエリックの冗談を真に受けているらしい。さすがお子様。ユーモアセンスが皆無だ。
「俺エリックの愛人とか嫌だから大丈夫だよ」
「ほんとですね⁉︎」
「ほんとほんと」
てか俺は普通に女の子と結婚したいし。何が悲しくて歳のはなれた同性の従兄弟と結婚せねばならないのか。
「俺どっちかっていうと歳近いほうがいいし」
ジェネレーションギャップとかめんどいし。歳の差が好みとかいうわけでもない。
俺の言葉にティアンは「じゃあいいですけど」と顔を逸らしてしまう。いいですけどって何? よくよく考えれば俺の恋愛事情にこいつが首突っ込もうとしているのはおかしくない?
「なんか今の言葉傷付きますね」
なんだか急にイライラが募る俺であったが、ティアンに噛みつく前に突然話に割り込んできたアロンに視線が移ってしまう。
なに? どういうこと?
「まるで俺のことが眼中にないみたいな言い方しますね」
にこっと笑うアロンは、珍しく拗ねたようにすぐに視線を逸らしてしまう。
こいつは何を言っているんだ?
今は俺の恋愛対象の話をしていたはずだ。なぜそこにアロンが悲しい顔で存在感を主張しだすのか。疲労のあまり頭がバグっているのかもしれない。
そういえばアロンがいらん本性を露にしたのも俺の誘拐騒動で彼が疲れ切っている時だった。おそらくアロンは一定以上の疲労が溜まるとバグっておかしな言動をするに違いない。人間だもの。それくらいの欠点あってもおかしくはない。いや、アロンは欠点だらけだけど。だからこそ、それくらいの欠点いまさら驚いたりはしない。
「……どんまい」
俺を抱っこして歩いてきたから。きっと疲れているのだ。労いのためにつま先立ちでアロンの背中を軽く叩けば、アロンがすごい顔をした。
「え、マジで脈なしですか?」
「脈? 脈ないの? 脈なかったら死んじゃう?」
「えぇ、死ぬかもしれません」
「え。アロン死ぬの?」
マジで?
そんな疲れてんのか、こいつ。だったら先程の俺のジュース強奪の件は許してやろう。大人で騎士だから俺ひとり抱っこするくらいなんともないと思っていたんだけどな。まぁ十歳児って割と重いよね、知らんけど。
混乱する俺に、アロンはなおも言い募る。
「で? 結局脈アリって考えていいですか」
俺に聞かないで。医者に聞けよ。
なんで十歳児に脈の件を問い合わせるの、この人。もしかしてマジで頭働いてないの? 救急車呼んだほうがいいレベルですか?
「死んでないから、まだ大丈夫だと思うよ」
よくわからんが脈って止まると死ぬよね?
アロンはまだ立ってるし、ピンピンしてるし。たぶん脈はまだある。きっと。
「死んでなきゃ誰でもいいんですか? それとも死ぬまで諦めるなっていう激励ですか?」
「う、うーん?」
どういうことだろうか。アロンの言っていることがイマイチ理解できない。
必死になって頭を捻る俺の肩を、ティアンがそっと叩いた。
「あんまり口を挟みたくはないのですが、恐ろしいほどに会話が噛み合っていないと思いますよ」
そうなの?
※※※
「いいですか。とんでもなくとっ散らかっているようなので一回整理しましょう」
とっ散らかした本人であるアロンが、偉そうにしゃがみ込んで俺と目線を合わせた。
さすがに人混みを避けて、俺たちは今開けた広場のような場所の一角にいた。なにやらアロンは俺に言いたいことがあるらしい。先程の脈云々と同様の話だろう。
にこっと愛想よく笑ったアロンの後ろで、セドリックが怖い顔して腕を組んでいる。なんだこの状況。
「おい、アロン。それ以上はやめておけ」
「副団長には関係ないじゃないですか。あ、元でしたね。元」
セドリックが喋っている。それもなんかぞんざいな態度だ。物珍しさから思わず視線が不機嫌そうなセドリックに向いてしまうが、それが気に食わないらしいアロンに頬を包まれて無理やり視線を戻される。
「ユリス様。空気読んでくださいね。今は俺を見るところですよ」
ちなみにティアンは俺たちを心配そうに見守っている。
「ユリス様に遠回しな表現は伝わらないらしいのではっきり言いますね」
「馬鹿にするな。これでも空気は結構読めるし察しもいいぞ」
「いまそこ突っ込むところではないです」
やっぱり空気読めてねぇと失礼な言葉を吐き捨てて、アロンはもう一度にこっと笑う。
「俺、ユリス様のこと好きですよ」
「俺も」
「え」
目を丸くするアロンが、俺の肩をガシッと掴んでくる。遠くからティアンが「ちょっと展開早くないですか⁉︎」と騒ぐ声が聞こえてくる。セドリックに至っては口をあんぐり開けている。無表情な彼にしては珍しい。
「え、嘘でしょ。ユリス様。それって」
「うん。俺も俺のこと好き」
「……はぁ?」
顔こわ。
ぎゅっと俺の肩を掴むアロンの手に力が入る。いや痛いて。骨でも折るつもりかよ。この馬鹿力が。
すっと無表情に戻ったセドリックは唐突に口元を押さえて静かに俯いてしまう。
「なに笑ってるんですかっ! セドリック殿!」
あれ笑ってるのか。わかりにくいな。てかセドリックが笑うところとか貴重すぎる。
少し離れたところではティアンが「ですよね。ユリス様はそういう人です」となにやらしたり顔で何度も頷いている。ただアロンひとりだけが納得いかないと騒ぎ立てる。
「そういうことじゃないです! いいですか。俺がユリス様のこと好きって話ですよ。もちろん愛しているって意味です」
「ありがと」
「ちゃんと理解してます?」
理解してる。今度はちゃんと理解しているから俺を揺さぶるのはやめてほしい。ちょっと吐きそう。
「俺エリックの愛人とか嫌だから大丈夫だよ」
「ほんとですね⁉︎」
「ほんとほんと」
てか俺は普通に女の子と結婚したいし。何が悲しくて歳のはなれた同性の従兄弟と結婚せねばならないのか。
「俺どっちかっていうと歳近いほうがいいし」
ジェネレーションギャップとかめんどいし。歳の差が好みとかいうわけでもない。
俺の言葉にティアンは「じゃあいいですけど」と顔を逸らしてしまう。いいですけどって何? よくよく考えれば俺の恋愛事情にこいつが首突っ込もうとしているのはおかしくない?
「なんか今の言葉傷付きますね」
なんだか急にイライラが募る俺であったが、ティアンに噛みつく前に突然話に割り込んできたアロンに視線が移ってしまう。
なに? どういうこと?
「まるで俺のことが眼中にないみたいな言い方しますね」
にこっと笑うアロンは、珍しく拗ねたようにすぐに視線を逸らしてしまう。
こいつは何を言っているんだ?
今は俺の恋愛対象の話をしていたはずだ。なぜそこにアロンが悲しい顔で存在感を主張しだすのか。疲労のあまり頭がバグっているのかもしれない。
そういえばアロンがいらん本性を露にしたのも俺の誘拐騒動で彼が疲れ切っている時だった。おそらくアロンは一定以上の疲労が溜まるとバグっておかしな言動をするに違いない。人間だもの。それくらいの欠点あってもおかしくはない。いや、アロンは欠点だらけだけど。だからこそ、それくらいの欠点いまさら驚いたりはしない。
「……どんまい」
俺を抱っこして歩いてきたから。きっと疲れているのだ。労いのためにつま先立ちでアロンの背中を軽く叩けば、アロンがすごい顔をした。
「え、マジで脈なしですか?」
「脈? 脈ないの? 脈なかったら死んじゃう?」
「えぇ、死ぬかもしれません」
「え。アロン死ぬの?」
マジで?
そんな疲れてんのか、こいつ。だったら先程の俺のジュース強奪の件は許してやろう。大人で騎士だから俺ひとり抱っこするくらいなんともないと思っていたんだけどな。まぁ十歳児って割と重いよね、知らんけど。
混乱する俺に、アロンはなおも言い募る。
「で? 結局脈アリって考えていいですか」
俺に聞かないで。医者に聞けよ。
なんで十歳児に脈の件を問い合わせるの、この人。もしかしてマジで頭働いてないの? 救急車呼んだほうがいいレベルですか?
「死んでないから、まだ大丈夫だと思うよ」
よくわからんが脈って止まると死ぬよね?
アロンはまだ立ってるし、ピンピンしてるし。たぶん脈はまだある。きっと。
「死んでなきゃ誰でもいいんですか? それとも死ぬまで諦めるなっていう激励ですか?」
「う、うーん?」
どういうことだろうか。アロンの言っていることがイマイチ理解できない。
必死になって頭を捻る俺の肩を、ティアンがそっと叩いた。
「あんまり口を挟みたくはないのですが、恐ろしいほどに会話が噛み合っていないと思いますよ」
そうなの?
※※※
「いいですか。とんでもなくとっ散らかっているようなので一回整理しましょう」
とっ散らかした本人であるアロンが、偉そうにしゃがみ込んで俺と目線を合わせた。
さすがに人混みを避けて、俺たちは今開けた広場のような場所の一角にいた。なにやらアロンは俺に言いたいことがあるらしい。先程の脈云々と同様の話だろう。
にこっと愛想よく笑ったアロンの後ろで、セドリックが怖い顔して腕を組んでいる。なんだこの状況。
「おい、アロン。それ以上はやめておけ」
「副団長には関係ないじゃないですか。あ、元でしたね。元」
セドリックが喋っている。それもなんかぞんざいな態度だ。物珍しさから思わず視線が不機嫌そうなセドリックに向いてしまうが、それが気に食わないらしいアロンに頬を包まれて無理やり視線を戻される。
「ユリス様。空気読んでくださいね。今は俺を見るところですよ」
ちなみにティアンは俺たちを心配そうに見守っている。
「ユリス様に遠回しな表現は伝わらないらしいのではっきり言いますね」
「馬鹿にするな。これでも空気は結構読めるし察しもいいぞ」
「いまそこ突っ込むところではないです」
やっぱり空気読めてねぇと失礼な言葉を吐き捨てて、アロンはもう一度にこっと笑う。
「俺、ユリス様のこと好きですよ」
「俺も」
「え」
目を丸くするアロンが、俺の肩をガシッと掴んでくる。遠くからティアンが「ちょっと展開早くないですか⁉︎」と騒ぐ声が聞こえてくる。セドリックに至っては口をあんぐり開けている。無表情な彼にしては珍しい。
「え、嘘でしょ。ユリス様。それって」
「うん。俺も俺のこと好き」
「……はぁ?」
顔こわ。
ぎゅっと俺の肩を掴むアロンの手に力が入る。いや痛いて。骨でも折るつもりかよ。この馬鹿力が。
すっと無表情に戻ったセドリックは唐突に口元を押さえて静かに俯いてしまう。
「なに笑ってるんですかっ! セドリック殿!」
あれ笑ってるのか。わかりにくいな。てかセドリックが笑うところとか貴重すぎる。
少し離れたところではティアンが「ですよね。ユリス様はそういう人です」となにやらしたり顔で何度も頷いている。ただアロンひとりだけが納得いかないと騒ぎ立てる。
「そういうことじゃないです! いいですか。俺がユリス様のこと好きって話ですよ。もちろん愛しているって意味です」
「ありがと」
「ちゃんと理解してます?」
理解してる。今度はちゃんと理解しているから俺を揺さぶるのはやめてほしい。ちょっと吐きそう。
585
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる