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57 おでかけ準備
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絶対に余計なことをしないように。
午後から街に行くと決めた俺に、ブルース兄様が口を酸っぱくして言い募る。余計なことって具体的にはなんだろうか。ちょっと思い付かない。
「一応、アロンをつけるがこいつのことはあまり当てにするな」
「わかった」
言われなくともそのつもりだ。アロンがなにやら文句を垂れているが気にしない。
「あとセドリックも連れて行け。いいか? いざという時はアロンではなくセドリックの言うことに従え」
「はーい」
でもセドリックって無口なんだよな。いや、いざという時は喋るか。じゃあ大丈夫だ。
「それとティアンから離れるなよ」
「わかった、ティアン? 俺から離れないでね」
「それはこちらのセリフです」
どうやらティアンは何度も街に行ったことがあるらしい。そりゃそうか。きっとユリスだって何度も訪れたことがあるに違いない。ボロを出さないようにしないと。
どこから用意したのか、ティアンは小さなショルダーバッグを持参していた。たいして中身は詰まっていそうにないお飾りバッグだ。浮かれ具合がよくわかる。
「暗くなる前に帰ってこいよ」
「わかった!」
元気に返事をすれば、ブルース兄様はひくりと口元を引き攣らせる。「本当にわかってるのか、こいつ」とでも言いたそうな顔だ。心配しないでほしい。これでも精神年齢は高校生だ。街歩きくらいなんとでもなる。
「それとジャンは置いて行け。アロンの代わりだ」
「ばいばいジャン! 元気でね!」
ジャンは騎士ではないので護衛には不向きらしい。そこで今日はジャンとアロンを交換することにした。アロンが俺について、ブルース兄様にはジャンがつく。でもそうするとブルース兄様の護衛がいなくなるが、兄様は脳筋なので大丈夫だろう。なんとかなる。
「本当はもっとマシな護衛をつけたいがな」
「副団長を解任されたセドリック殿だと少々心許ないですもんね」
「いやセドリックではなくおまえの話だ」
ブルース兄様とアロンがなにやら口論を始めそうな雰囲気である。放っておこう。
なんでも今日は騎士団の精鋭たちが出払っているらしい。ロニーも見当たらなかったしな。なんか重要な仕事があるとか。
ジャンは気弱なので、ブルース兄様の眼力に耐えられるか謎だが、是非とも頑張って欲しい。お土産買ってくるから。
くれぐれも余計なことはするなと再度口にして、ブルース兄様は部屋に戻って行った。どうやら仕事が忙しいらしい。兄様には気が向いたらお土産を買ってきてやろう。
「じゃあ行きましょうか、ユリス様」
いつもの騎士服ではなく、なんだかラフな格好をしたアロンはいつになく張り切っている。おそらく仕事をサボれたことが嬉しいのだろう。なんて奴だ。
「服どうしたの」
「騎士服は目立ちますからね。あの服でユリス様を取り囲んでいたら狙ってくれと言っているようなものですよ」
「ふーん」
セドリックも同様にラフな格好だ。なんだか違和感がすごい。
わくわくしていると、なぜかアロンはくるりと屋敷裏へ向かってしまう。屋敷を出るなら正門からでは? なぜ真反対に足を向けるのか。
「アロン、どこ行くの」
「どこって。街に行くんですから、馬を用意しないと」
「え」
ピシッと固まった。
そんな俺に気が付かないアロンではない。怪訝な顔で振り返る。
「どうしました、ユリス様」
「……馬は乗らない」
ふるふると首を左右に振るが、アロンは納得いかないらしい。馬に乗らないと遠出は難しいですよ、と言葉を重ねてくる。
「嫌だ」
乗馬は断固拒否だ。今朝、二度と乗らないと決意したばかりなのに。意地でも動いてやるかとその場に踏み止まれば、カツカツと近寄ってきたアロンが俺をひょいと持ち上げてしまう。簡単に抱っこされてしまう十歳児の体が憎い。
「降ろせ!」
バタバタ暴れてやるが、アロンは涼しい顔である。さすが騎士を名乗るだけはあるな。無駄に力が強い。
「今朝、乗ったんでしょ? なにが嫌なんですか」
「馬は乗らない! 絶対に嫌!」
「心配せずとも、俺が一緒だから大丈夫ですよ」
おまえ相手だから嫌なんだよ、ボケ。
クレイグ団長と乗った時でさえ怖かったのに。それよりガサツそうなアロンと一緒とか地獄だろ。俺が落馬しても助けてくれない気がする。
今朝の騒動を見ていたセドリックとティアンは微妙な顔をしている。見てないで、アロンを止めてくれ。
「馬車を出すわけにはいかないでしょ。目立ちますよ」
「歩いていく!」
「ちょっと遠いですよ」
「大丈夫!」
声を荒げればようやくアロンが立ち止まってくれる。よし、そうだ。そのまま俺を降ろせ。
「本当に歩けます?」
「歩いていける! 毎日庭で遊んでるから大丈夫!」
頑張れ俺。ここが今日一番の踏ん張りどころだ。拳を握りしめる俺を見兼ねたのか、横からティアンが口を挟んでくる。
「アロン殿。ユリス様を馬に乗せるのはやめた方がいいですよ。今朝もすごい騒ぎでしたから」
「え? そうなんですか」
「えぇ。父上が非常に困るほどの暴れっぷりでした。どうやら馬が怖いみたいで」
「なにそれ見たかった」
ぽつりと不穏な本音を漏らしたアロンが、腕の中の俺を見下ろしてくる。見たいというなら見せてやろう。俺を馬に乗せたこと後悔させてやるぞ。殺気高めに睨み付ければ、アロンが眉を寄せる。
「暴れられても面倒ですね」
そうだろう。だから馬はやめとけ。
「ユリス様」
「なに」
「ちゃんと歩いて行くって約束できます? 途中で疲れたとかいうのはなしですよ」
「わかった!」
うんうん頷けば、アロンはようやく俺を地面に降ろしてくれた。よかった。これで安心して街に向かえる。
午後から街に行くと決めた俺に、ブルース兄様が口を酸っぱくして言い募る。余計なことって具体的にはなんだろうか。ちょっと思い付かない。
「一応、アロンをつけるがこいつのことはあまり当てにするな」
「わかった」
言われなくともそのつもりだ。アロンがなにやら文句を垂れているが気にしない。
「あとセドリックも連れて行け。いいか? いざという時はアロンではなくセドリックの言うことに従え」
「はーい」
でもセドリックって無口なんだよな。いや、いざという時は喋るか。じゃあ大丈夫だ。
「それとティアンから離れるなよ」
「わかった、ティアン? 俺から離れないでね」
「それはこちらのセリフです」
どうやらティアンは何度も街に行ったことがあるらしい。そりゃそうか。きっとユリスだって何度も訪れたことがあるに違いない。ボロを出さないようにしないと。
どこから用意したのか、ティアンは小さなショルダーバッグを持参していた。たいして中身は詰まっていそうにないお飾りバッグだ。浮かれ具合がよくわかる。
「暗くなる前に帰ってこいよ」
「わかった!」
元気に返事をすれば、ブルース兄様はひくりと口元を引き攣らせる。「本当にわかってるのか、こいつ」とでも言いたそうな顔だ。心配しないでほしい。これでも精神年齢は高校生だ。街歩きくらいなんとでもなる。
「それとジャンは置いて行け。アロンの代わりだ」
「ばいばいジャン! 元気でね!」
ジャンは騎士ではないので護衛には不向きらしい。そこで今日はジャンとアロンを交換することにした。アロンが俺について、ブルース兄様にはジャンがつく。でもそうするとブルース兄様の護衛がいなくなるが、兄様は脳筋なので大丈夫だろう。なんとかなる。
「本当はもっとマシな護衛をつけたいがな」
「副団長を解任されたセドリック殿だと少々心許ないですもんね」
「いやセドリックではなくおまえの話だ」
ブルース兄様とアロンがなにやら口論を始めそうな雰囲気である。放っておこう。
なんでも今日は騎士団の精鋭たちが出払っているらしい。ロニーも見当たらなかったしな。なんか重要な仕事があるとか。
ジャンは気弱なので、ブルース兄様の眼力に耐えられるか謎だが、是非とも頑張って欲しい。お土産買ってくるから。
くれぐれも余計なことはするなと再度口にして、ブルース兄様は部屋に戻って行った。どうやら仕事が忙しいらしい。兄様には気が向いたらお土産を買ってきてやろう。
「じゃあ行きましょうか、ユリス様」
いつもの騎士服ではなく、なんだかラフな格好をしたアロンはいつになく張り切っている。おそらく仕事をサボれたことが嬉しいのだろう。なんて奴だ。
「服どうしたの」
「騎士服は目立ちますからね。あの服でユリス様を取り囲んでいたら狙ってくれと言っているようなものですよ」
「ふーん」
セドリックも同様にラフな格好だ。なんだか違和感がすごい。
わくわくしていると、なぜかアロンはくるりと屋敷裏へ向かってしまう。屋敷を出るなら正門からでは? なぜ真反対に足を向けるのか。
「アロン、どこ行くの」
「どこって。街に行くんですから、馬を用意しないと」
「え」
ピシッと固まった。
そんな俺に気が付かないアロンではない。怪訝な顔で振り返る。
「どうしました、ユリス様」
「……馬は乗らない」
ふるふると首を左右に振るが、アロンは納得いかないらしい。馬に乗らないと遠出は難しいですよ、と言葉を重ねてくる。
「嫌だ」
乗馬は断固拒否だ。今朝、二度と乗らないと決意したばかりなのに。意地でも動いてやるかとその場に踏み止まれば、カツカツと近寄ってきたアロンが俺をひょいと持ち上げてしまう。簡単に抱っこされてしまう十歳児の体が憎い。
「降ろせ!」
バタバタ暴れてやるが、アロンは涼しい顔である。さすが騎士を名乗るだけはあるな。無駄に力が強い。
「今朝、乗ったんでしょ? なにが嫌なんですか」
「馬は乗らない! 絶対に嫌!」
「心配せずとも、俺が一緒だから大丈夫ですよ」
おまえ相手だから嫌なんだよ、ボケ。
クレイグ団長と乗った時でさえ怖かったのに。それよりガサツそうなアロンと一緒とか地獄だろ。俺が落馬しても助けてくれない気がする。
今朝の騒動を見ていたセドリックとティアンは微妙な顔をしている。見てないで、アロンを止めてくれ。
「馬車を出すわけにはいかないでしょ。目立ちますよ」
「歩いていく!」
「ちょっと遠いですよ」
「大丈夫!」
声を荒げればようやくアロンが立ち止まってくれる。よし、そうだ。そのまま俺を降ろせ。
「本当に歩けます?」
「歩いていける! 毎日庭で遊んでるから大丈夫!」
頑張れ俺。ここが今日一番の踏ん張りどころだ。拳を握りしめる俺を見兼ねたのか、横からティアンが口を挟んでくる。
「アロン殿。ユリス様を馬に乗せるのはやめた方がいいですよ。今朝もすごい騒ぎでしたから」
「え? そうなんですか」
「えぇ。父上が非常に困るほどの暴れっぷりでした。どうやら馬が怖いみたいで」
「なにそれ見たかった」
ぽつりと不穏な本音を漏らしたアロンが、腕の中の俺を見下ろしてくる。見たいというなら見せてやろう。俺を馬に乗せたこと後悔させてやるぞ。殺気高めに睨み付ければ、アロンが眉を寄せる。
「暴れられても面倒ですね」
そうだろう。だから馬はやめとけ。
「ユリス様」
「なに」
「ちゃんと歩いて行くって約束できます? 途中で疲れたとかいうのはなしですよ」
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