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47 帰っていい?
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サムの恋愛を応援すると誓った俺は、忙しいのでさっさと帰ることにした。
「じゃあね、エリック」
「待て待て。なにしれっと帰ろうとしているんだ」
いまのはそのまま帰宅する流れだっただろう。俺の手を遠慮なしに掴んだエリックは不満そうだった。
「私はオーガスを呼んだのだ。それが見てみろ。来たのはブルースじゃないか」
「オーガス兄様に嫌われてるんだね」
「思ったことをそのまま口にするんじゃない」
むにっと俺の頬を両手で挟んだエリックの足を蹴り上げてやろうと奮闘するも、あっさり躱されてしまう。どうやらエリックはどうしてもオーガス兄様に会いたいらしい。じゃあおまえが会いに行けよと思うのだが、意外とシャイなエリックは行動が起こせないらしい。まったく困った大人だな。
やれやれと肩をすくめれば、エリックが心底嫌そうな顔をする。眉間に皺を寄せる姿はブルース兄様そっくりだ。
「なんか失礼なことを考えているだろ?」
「別に。エリックがうちに来ればいいのに」
「それはプロポーズと受け取っていいのか?」
「エリックの冗談は面白くないね」
「おい」
ギャグセンスが死んでいると思う。もう取り返しはつかないだろう。可哀想に。勝手に哀れんでいると、エリックがようやく手を離してくれた。鋭い視線がブルース兄様に向けられる。
「とにかく。私はオーガスを連れてこいと言ったんだ。そうしないとユリスは返さないぞ」
せっかく迎えが来たのに帰れないのはごめんだ。ようはオーガス兄様が来るまでの人質が必要なのだろう。だったら別にそれは俺である必要はない。なんか聞き齧った話だとユリスとオーガス兄様の仲は最悪らしいからな。俺を人質にしてもオーガス兄様は動かないと思うぞ。それよりも良い案がある。
「俺の代わりにブルース兄様をあげます」
「いらん! そんな奴」
ブルース兄様のためだったらオーガス兄様も動くかもしれないという提案はエリックにあっさりと却下された。
「そんな奴とはどういう意味でしょうか、エリック殿下」
エリックの暴言にブルース兄様が立ち向かう。頑張れ兄様! 俺を連れて帰ってくれ!
「そういえばユリスはセドリックを気に入っているんだったな」
ブルース兄様の問いかけをまるっと無視して、エリックがニヤニヤ顔でセドリックと俺を見比べる。唐突に名前を呼ばれたセドリックが「は?」みたいな顔をしている。無表情な彼にしては珍しい。
「そうだな、代わりにセドリックを置いていくというのならユリスは返してもいいが? 優秀な騎士はいくらいても困るものではないからな」
「殿下、お戯れを」
セドリックが淡々と頭を下げるが、エリックは「どうする?」と俺に視線を投げる。どうやら俺に決めさせたいらしい。ブルース兄様だったら嬉々として差し出せるのだが、セドリックを置いて帰るのは可哀想だ。それにユリスのやらかしがあるからな。おそらくセドリックは俺のことが嫌いなはず。この前のパワハラ事件もあるし。これ以上セドリックに恨まれると俺の命が危うい。保身大事。
ぐっと拳を握り締めた俺は、エリックに立ち向かう。
「セドリックは俺のなので、あげません」
ブルース兄様が「は?」と低い声を出した。兄様のガラが悪いのはいつものことだ。気にしていたらキリがない。
「私はユリス様の護衛です。職務を放り出すわけにはまいりません」
そうそう。
セドリックもそう言っていることだしエリックには早々に諦めていただきたい。しかしこの従兄弟、非常に諦めが悪い。
「なんだ。ブルースは知らなかったのか?」
「なんの話でしょうか?」
悪戯っ子のような態度で、今度はブルース兄様へと近づいていく。そのままゴニョゴニョと耳打ちしている。ブルース兄様の顔が目に見えて青ざめていく。
「おい、セドリック。おまえ」
「なにか?」
慇懃な動作でブルース兄様に向き直ったセドリックに、兄様は忌々しい顔をみせる。
「おまえはユリスとどういう関係なんだ」
「私はユリス様にお仕えする一介の騎士でございます。あの、質問の意図がよくわからないのですが」
すかさずエリックがセドリックに何事かを囁いた。途端に、セドリックが青ざめる。
「そのようなことはないと誓って断言いたします」
なにやらお堅い言葉と共に片膝をついたセドリック。忠誠を誓う騎士のような動きにちょっとだけテンションが上がる。しかし場の空気は冷え切っている。なぜだ。
「セドリックがどうかした?」
たまらず質問するが、ブルース兄様が変な顔で俺を凝視してくる。
「あまり触れるべきではないと思っていたのだが」
「うん?」
「なぜセドリックを副団長からおろした?」
鋭い視線に捕らわれて、俺は固まる。なんだその脈略のない質問は。
なぜかなんて俺が知るわけない。だって俺がユリスに成り代わった時にはすでにセドリックは副団長ではなかった。ユリスとセドリックの間に何かあったのかもしれないが、俺はそれを知らない。てかブルース兄様もわかってないの? マジでどういう状況でセドリックが解任されたのか不明なのだが。
しかしブルース兄様に急かされて黙っているのも限界だ。
「お、教えない」
考えた結果、俺は先延ばしにすることにした。
「じゃあね、エリック」
「待て待て。なにしれっと帰ろうとしているんだ」
いまのはそのまま帰宅する流れだっただろう。俺の手を遠慮なしに掴んだエリックは不満そうだった。
「私はオーガスを呼んだのだ。それが見てみろ。来たのはブルースじゃないか」
「オーガス兄様に嫌われてるんだね」
「思ったことをそのまま口にするんじゃない」
むにっと俺の頬を両手で挟んだエリックの足を蹴り上げてやろうと奮闘するも、あっさり躱されてしまう。どうやらエリックはどうしてもオーガス兄様に会いたいらしい。じゃあおまえが会いに行けよと思うのだが、意外とシャイなエリックは行動が起こせないらしい。まったく困った大人だな。
やれやれと肩をすくめれば、エリックが心底嫌そうな顔をする。眉間に皺を寄せる姿はブルース兄様そっくりだ。
「なんか失礼なことを考えているだろ?」
「別に。エリックがうちに来ればいいのに」
「それはプロポーズと受け取っていいのか?」
「エリックの冗談は面白くないね」
「おい」
ギャグセンスが死んでいると思う。もう取り返しはつかないだろう。可哀想に。勝手に哀れんでいると、エリックがようやく手を離してくれた。鋭い視線がブルース兄様に向けられる。
「とにかく。私はオーガスを連れてこいと言ったんだ。そうしないとユリスは返さないぞ」
せっかく迎えが来たのに帰れないのはごめんだ。ようはオーガス兄様が来るまでの人質が必要なのだろう。だったら別にそれは俺である必要はない。なんか聞き齧った話だとユリスとオーガス兄様の仲は最悪らしいからな。俺を人質にしてもオーガス兄様は動かないと思うぞ。それよりも良い案がある。
「俺の代わりにブルース兄様をあげます」
「いらん! そんな奴」
ブルース兄様のためだったらオーガス兄様も動くかもしれないという提案はエリックにあっさりと却下された。
「そんな奴とはどういう意味でしょうか、エリック殿下」
エリックの暴言にブルース兄様が立ち向かう。頑張れ兄様! 俺を連れて帰ってくれ!
「そういえばユリスはセドリックを気に入っているんだったな」
ブルース兄様の問いかけをまるっと無視して、エリックがニヤニヤ顔でセドリックと俺を見比べる。唐突に名前を呼ばれたセドリックが「は?」みたいな顔をしている。無表情な彼にしては珍しい。
「そうだな、代わりにセドリックを置いていくというのならユリスは返してもいいが? 優秀な騎士はいくらいても困るものではないからな」
「殿下、お戯れを」
セドリックが淡々と頭を下げるが、エリックは「どうする?」と俺に視線を投げる。どうやら俺に決めさせたいらしい。ブルース兄様だったら嬉々として差し出せるのだが、セドリックを置いて帰るのは可哀想だ。それにユリスのやらかしがあるからな。おそらくセドリックは俺のことが嫌いなはず。この前のパワハラ事件もあるし。これ以上セドリックに恨まれると俺の命が危うい。保身大事。
ぐっと拳を握り締めた俺は、エリックに立ち向かう。
「セドリックは俺のなので、あげません」
ブルース兄様が「は?」と低い声を出した。兄様のガラが悪いのはいつものことだ。気にしていたらキリがない。
「私はユリス様の護衛です。職務を放り出すわけにはまいりません」
そうそう。
セドリックもそう言っていることだしエリックには早々に諦めていただきたい。しかしこの従兄弟、非常に諦めが悪い。
「なんだ。ブルースは知らなかったのか?」
「なんの話でしょうか?」
悪戯っ子のような態度で、今度はブルース兄様へと近づいていく。そのままゴニョゴニョと耳打ちしている。ブルース兄様の顔が目に見えて青ざめていく。
「おい、セドリック。おまえ」
「なにか?」
慇懃な動作でブルース兄様に向き直ったセドリックに、兄様は忌々しい顔をみせる。
「おまえはユリスとどういう関係なんだ」
「私はユリス様にお仕えする一介の騎士でございます。あの、質問の意図がよくわからないのですが」
すかさずエリックがセドリックに何事かを囁いた。途端に、セドリックが青ざめる。
「そのようなことはないと誓って断言いたします」
なにやらお堅い言葉と共に片膝をついたセドリック。忠誠を誓う騎士のような動きにちょっとだけテンションが上がる。しかし場の空気は冷え切っている。なぜだ。
「セドリックがどうかした?」
たまらず質問するが、ブルース兄様が変な顔で俺を凝視してくる。
「あまり触れるべきではないと思っていたのだが」
「うん?」
「なぜセドリックを副団長からおろした?」
鋭い視線に捕らわれて、俺は固まる。なんだその脈略のない質問は。
なぜかなんて俺が知るわけない。だって俺がユリスに成り代わった時にはすでにセドリックは副団長ではなかった。ユリスとセドリックの間に何かあったのかもしれないが、俺はそれを知らない。てかブルース兄様もわかってないの? マジでどういう状況でセドリックが解任されたのか不明なのだが。
しかしブルース兄様に急かされて黙っているのも限界だ。
「お、教えない」
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