冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
49 / 637

46 天才的な推理

しおりを挟む
「申し訳ございません、殿下。目を離すとすぐこれですよ」
「ご苦労だったな、サムソン」

 どうやらアロンはまたもや抜け出してきたらしい。これはアロンがとんでもないのか、王宮の警備がゆるゆるなのか。たぶん前者だろう。おまけに今回は白騎士さんに混じって何食わぬ顔で客間の警備をしている。王宮に侵入した不審者がどの面下げて警備をしているのか。図々しいにも程がある。

 アロンの乱入に毒気を抜かれたらしいエリックは、やれやれと肩をすくめて俺を床に下ろしてくれる。

「アロン、大丈夫だった?」
「はい、ユリス様。俺のことはご心配なく」

 言葉通りアロンはピンピンしていた。どこから調達したのか、腰には剣までさしている。ちなみにロニーの剣はサムに奪われたまま行方不明だ。それとサムの本名はサムソンというらしい。長いからサムでいいや。王立騎士団第二部隊の副隊長の彼は長期任務としてヴィアン家騎士団に潜入していたらしい。しかしその理由がいまいちよくわからない。

 せっかくアロンの乱入で緩んだ空気を先程までのピリついたものに戻してたまるかと、俺はここぞとばかりにサムに駆け寄った。このまま側室の話をうやむやにしてしまえ。

「サムはなんでうちに潜入してたの?」

 どうやらヴィアン家と王宮は親戚同士らしいからそんなことしなくてもいいのに。てか王宮と親戚ってなんだよ。どういう家なんだよ、ヴィアン家って。怖すぎるわ。

「それは私の口からは説明できません。殿下にお尋ねください」

 すっと細められた目が、エリックを見据える。しかしエリックはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべるだけで疑問に答えてくれそうにない。

 なんだろう、その悪い顔。エリックの奴め、どうせくだらないことを考えているに違いない。友達の恋バナを揶揄うときのような悪い笑みだ。

 唐突にはっとした。天才的な推理力を持つ俺は、そこまでしてサムがうちに潜る理由に思い至ってしまったのだ。だってエリックの顔を見ていればたぶんこれはもう色恋沙汰に違いなかった。好きな子バレした奴を揶揄うような趣味の悪いニヤニヤ顔だもん。

 サムの鋭い目をじっと見つめる。

 サムのことはヴィアン家で何度か見かけた。悲しいことに俺の目はロニーに釘付けだったのであんまり記憶にはないが、何度か言葉を交わしたこともある。そしてサムがいつも一緒にいた人物といえば明白。惚れるのも致し方ないほど魅力的な長髪男子くん。

「も、もしかしてだけど」
「なんでしょうか、ユリス様」

 俺の震える声に、サムが首を傾げる。これって聞いてもいいことかな? でも無茶苦茶気になる。なんてったって俺の中身は男子高校生だ。色恋沙汰なんて面白そうなことには進んで首を突っ込んでいくお年頃である。いつの間にか隣に来ていたアロンも興味津々で俺とサムを見比べている。

「サムってロニーのことが好きなの?」
「……はい?」

 サムが目を見張るのと同時に、アロンが噴き出した。

「ダメだよ、アロン! 人の恋愛を笑ったら」
「れ、恋愛?」

 ますます首を傾げるサムに、アロンが膝をついて肩を震わせる。マジで失礼だから、その笑い方やめろよ!

 しかし俺の奮闘も虚しく、アロンは気の済むままに笑い転げている。クソ野郎じゃん、こいつ。気遣いのひとつもできないのか。

「ごめんね、サム。アロンはちょっと倫理観的なものがちょっと、アレだから」

 しどろもどろに言い訳を紡ぐが、サムは理解できないといった様子で俺を凝視している。

「あの、ユリス様? なにか誤解があるようで」
「大丈夫、俺口は堅いから」
「口が堅いもなにも。これだけの前で今更口止めなんてできないでしょうに」

 サムの言葉にはっとする。
 そうだよ。ここには俺らの他にエリックとブルース兄様、セドリックに大勢の白騎士さん(おそらくサムの部下)がいる。そしてなによりまずいことに当の本人であるロニーがいるではないか!

「……ロニー、いまの聞こえた?」

 おそるおそる訊ねると、ロニーは一瞬体を強張らせた後に、さっと柔らかな笑みを浮かべた。

「なんのことでしょうか、ユリス様? 申し訳ありません。少しばかり距離がありますのでよく聞こえませんでしたね」
「聞こえてないって、サム! よかったね!」
「いや絶対に聞こえてますよ。いま思い切り会話したじゃないですか。あいつ返事してるじゃないですか」

 手放しで安堵する俺とは対照的に、サムが青い顔をする。どうやら好きな子バレのショックで疑心暗鬼に陥っているらしい。

「ロニーはアロンと違って嘘つかないから大丈夫!」
「俺を引き合いに出す必要ありました?」

 なにやらアロンが文句を言っているが気にしない。彼の言うことを真に受けてはいけないとここ数日で学んだのだ。

「ユリス様。一度落ち着きましょう? ロニーとはなんともないですから」
「大丈夫。俺も応援するから」

 青い顔のサムを励ます俺の背後では、いまだにアロンが肩を震わせている。

「ヴィアン家はどういう教育をしているんだ」
「文句は大公妃にお願いします」
「あの人か。随分とまあ、伸び伸び子育てしているらしいな」
「困ったものですよ、本当に」

 背後ではエリックとブルース兄様が頭を抱えている。あとであのふたりにも口止めしておかないと!
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...