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46 天才的な推理
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「申し訳ございません、殿下。目を離すとすぐこれですよ」
「ご苦労だったな、サムソン」
どうやらアロンはまたもや抜け出してきたらしい。これはアロンがとんでもないのか、王宮の警備がゆるゆるなのか。たぶん前者だろう。おまけに今回は白騎士さんに混じって何食わぬ顔で客間の警備をしている。王宮に侵入した不審者がどの面下げて警備をしているのか。図々しいにも程がある。
アロンの乱入に毒気を抜かれたらしいエリックは、やれやれと肩をすくめて俺を床に下ろしてくれる。
「アロン、大丈夫だった?」
「はい、ユリス様。俺のことはご心配なく」
言葉通りアロンはピンピンしていた。どこから調達したのか、腰には剣までさしている。ちなみにロニーの剣はサムに奪われたまま行方不明だ。それとサムの本名はサムソンというらしい。長いからサムでいいや。王立騎士団第二部隊の副隊長の彼は長期任務としてヴィアン家騎士団に潜入していたらしい。しかしその理由がいまいちよくわからない。
せっかくアロンの乱入で緩んだ空気を先程までのピリついたものに戻してたまるかと、俺はここぞとばかりにサムに駆け寄った。このまま側室の話をうやむやにしてしまえ。
「サムはなんでうちに潜入してたの?」
どうやらヴィアン家と王宮は親戚同士らしいからそんなことしなくてもいいのに。てか王宮と親戚ってなんだよ。どういう家なんだよ、ヴィアン家って。怖すぎるわ。
「それは私の口からは説明できません。殿下にお尋ねください」
すっと細められた目が、エリックを見据える。しかしエリックはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべるだけで疑問に答えてくれそうにない。
なんだろう、その悪い顔。エリックの奴め、どうせくだらないことを考えているに違いない。友達の恋バナを揶揄うときのような悪い笑みだ。
唐突にはっとした。天才的な推理力を持つ俺は、そこまでしてサムがうちに潜る理由に思い至ってしまったのだ。だってエリックの顔を見ていればたぶんこれはもう色恋沙汰に違いなかった。好きな子バレした奴を揶揄うような趣味の悪いニヤニヤ顔だもん。
サムの鋭い目をじっと見つめる。
サムのことはヴィアン家で何度か見かけた。悲しいことに俺の目はロニーに釘付けだったのであんまり記憶にはないが、何度か言葉を交わしたこともある。そしてサムがいつも一緒にいた人物といえば明白。惚れるのも致し方ないほど魅力的な長髪男子くん。
「も、もしかしてだけど」
「なんでしょうか、ユリス様」
俺の震える声に、サムが首を傾げる。これって聞いてもいいことかな? でも無茶苦茶気になる。なんてったって俺の中身は男子高校生だ。色恋沙汰なんて面白そうなことには進んで首を突っ込んでいくお年頃である。いつの間にか隣に来ていたアロンも興味津々で俺とサムを見比べている。
「サムってロニーのことが好きなの?」
「……はい?」
サムが目を見張るのと同時に、アロンが噴き出した。
「ダメだよ、アロン! 人の恋愛を笑ったら」
「れ、恋愛?」
ますます首を傾げるサムに、アロンが膝をついて肩を震わせる。マジで失礼だから、その笑い方やめろよ!
しかし俺の奮闘も虚しく、アロンは気の済むままに笑い転げている。クソ野郎じゃん、こいつ。気遣いのひとつもできないのか。
「ごめんね、サム。アロンはちょっと倫理観的なものがちょっと、アレだから」
しどろもどろに言い訳を紡ぐが、サムは理解できないといった様子で俺を凝視している。
「あの、ユリス様? なにか誤解があるようで」
「大丈夫、俺口は堅いから」
「口が堅いもなにも。これだけの前で今更口止めなんてできないでしょうに」
サムの言葉にはっとする。
そうだよ。ここには俺らの他にエリックとブルース兄様、セドリックに大勢の白騎士さん(おそらくサムの部下)がいる。そしてなによりまずいことに当の本人であるロニーがいるではないか!
「……ロニー、いまの聞こえた?」
おそるおそる訊ねると、ロニーは一瞬体を強張らせた後に、さっと柔らかな笑みを浮かべた。
「なんのことでしょうか、ユリス様? 申し訳ありません。少しばかり距離がありますのでよく聞こえませんでしたね」
「聞こえてないって、サム! よかったね!」
「いや絶対に聞こえてますよ。いま思い切り会話したじゃないですか。あいつ返事してるじゃないですか」
手放しで安堵する俺とは対照的に、サムが青い顔をする。どうやら好きな子バレのショックで疑心暗鬼に陥っているらしい。
「ロニーはアロンと違って嘘つかないから大丈夫!」
「俺を引き合いに出す必要ありました?」
なにやらアロンが文句を言っているが気にしない。彼の言うことを真に受けてはいけないとここ数日で学んだのだ。
「ユリス様。一度落ち着きましょう? ロニーとはなんともないですから」
「大丈夫。俺も応援するから」
青い顔のサムを励ます俺の背後では、いまだにアロンが肩を震わせている。
「ヴィアン家はどういう教育をしているんだ」
「文句は大公妃にお願いします」
「あの人か。随分とまあ、伸び伸び子育てしているらしいな」
「困ったものですよ、本当に」
背後ではエリックとブルース兄様が頭を抱えている。あとであのふたりにも口止めしておかないと!
「ご苦労だったな、サムソン」
どうやらアロンはまたもや抜け出してきたらしい。これはアロンがとんでもないのか、王宮の警備がゆるゆるなのか。たぶん前者だろう。おまけに今回は白騎士さんに混じって何食わぬ顔で客間の警備をしている。王宮に侵入した不審者がどの面下げて警備をしているのか。図々しいにも程がある。
アロンの乱入に毒気を抜かれたらしいエリックは、やれやれと肩をすくめて俺を床に下ろしてくれる。
「アロン、大丈夫だった?」
「はい、ユリス様。俺のことはご心配なく」
言葉通りアロンはピンピンしていた。どこから調達したのか、腰には剣までさしている。ちなみにロニーの剣はサムに奪われたまま行方不明だ。それとサムの本名はサムソンというらしい。長いからサムでいいや。王立騎士団第二部隊の副隊長の彼は長期任務としてヴィアン家騎士団に潜入していたらしい。しかしその理由がいまいちよくわからない。
せっかくアロンの乱入で緩んだ空気を先程までのピリついたものに戻してたまるかと、俺はここぞとばかりにサムに駆け寄った。このまま側室の話をうやむやにしてしまえ。
「サムはなんでうちに潜入してたの?」
どうやらヴィアン家と王宮は親戚同士らしいからそんなことしなくてもいいのに。てか王宮と親戚ってなんだよ。どういう家なんだよ、ヴィアン家って。怖すぎるわ。
「それは私の口からは説明できません。殿下にお尋ねください」
すっと細められた目が、エリックを見据える。しかしエリックはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべるだけで疑問に答えてくれそうにない。
なんだろう、その悪い顔。エリックの奴め、どうせくだらないことを考えているに違いない。友達の恋バナを揶揄うときのような悪い笑みだ。
唐突にはっとした。天才的な推理力を持つ俺は、そこまでしてサムがうちに潜る理由に思い至ってしまったのだ。だってエリックの顔を見ていればたぶんこれはもう色恋沙汰に違いなかった。好きな子バレした奴を揶揄うような趣味の悪いニヤニヤ顔だもん。
サムの鋭い目をじっと見つめる。
サムのことはヴィアン家で何度か見かけた。悲しいことに俺の目はロニーに釘付けだったのであんまり記憶にはないが、何度か言葉を交わしたこともある。そしてサムがいつも一緒にいた人物といえば明白。惚れるのも致し方ないほど魅力的な長髪男子くん。
「も、もしかしてだけど」
「なんでしょうか、ユリス様」
俺の震える声に、サムが首を傾げる。これって聞いてもいいことかな? でも無茶苦茶気になる。なんてったって俺の中身は男子高校生だ。色恋沙汰なんて面白そうなことには進んで首を突っ込んでいくお年頃である。いつの間にか隣に来ていたアロンも興味津々で俺とサムを見比べている。
「サムってロニーのことが好きなの?」
「……はい?」
サムが目を見張るのと同時に、アロンが噴き出した。
「ダメだよ、アロン! 人の恋愛を笑ったら」
「れ、恋愛?」
ますます首を傾げるサムに、アロンが膝をついて肩を震わせる。マジで失礼だから、その笑い方やめろよ!
しかし俺の奮闘も虚しく、アロンは気の済むままに笑い転げている。クソ野郎じゃん、こいつ。気遣いのひとつもできないのか。
「ごめんね、サム。アロンはちょっと倫理観的なものがちょっと、アレだから」
しどろもどろに言い訳を紡ぐが、サムは理解できないといった様子で俺を凝視している。
「あの、ユリス様? なにか誤解があるようで」
「大丈夫、俺口は堅いから」
「口が堅いもなにも。これだけの前で今更口止めなんてできないでしょうに」
サムの言葉にはっとする。
そうだよ。ここには俺らの他にエリックとブルース兄様、セドリックに大勢の白騎士さん(おそらくサムの部下)がいる。そしてなによりまずいことに当の本人であるロニーがいるではないか!
「……ロニー、いまの聞こえた?」
おそるおそる訊ねると、ロニーは一瞬体を強張らせた後に、さっと柔らかな笑みを浮かべた。
「なんのことでしょうか、ユリス様? 申し訳ありません。少しばかり距離がありますのでよく聞こえませんでしたね」
「聞こえてないって、サム! よかったね!」
「いや絶対に聞こえてますよ。いま思い切り会話したじゃないですか。あいつ返事してるじゃないですか」
手放しで安堵する俺とは対照的に、サムが青い顔をする。どうやら好きな子バレのショックで疑心暗鬼に陥っているらしい。
「ロニーはアロンと違って嘘つかないから大丈夫!」
「俺を引き合いに出す必要ありました?」
なにやらアロンが文句を言っているが気にしない。彼の言うことを真に受けてはいけないとここ数日で学んだのだ。
「ユリス様。一度落ち着きましょう? ロニーとはなんともないですから」
「大丈夫。俺も応援するから」
青い顔のサムを励ます俺の背後では、いまだにアロンが肩を震わせている。
「ヴィアン家はどういう教育をしているんだ」
「文句は大公妃にお願いします」
「あの人か。随分とまあ、伸び伸び子育てしているらしいな」
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