冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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43 裏切りでは?

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 アロンのいらん一言が原因で今夜帰る帰らない問題が勃発してしまった。

 帰る派のアロンは、王宮とヴィアン家は近いから問題ない。ロニーの分の馬はどこかからくすねてこいと主張している。さらりと犯罪行為を勧めるあたり実にクズである。

 一方のロニーは帰らない派に寝返った。彼の主張はただひとつ。アロンが信用できない。実にシンプルかつ説得的な理由だ。

「ユリス様はどう思われます?」

 痺れを切らしたアロンが俺を見下ろす。頭からすっぽり被っていたはずの毛布はアロンの手中にある。俺は無防備だった。

「ど、どちらでも」

 結果、どっちつかずの対応をする。だって! アロンが怖いんだもん!

 そりゃあ俺だってね、早く帰れるなら帰りたいよ。でもそれは安全性が保証されていたらの話だよ。今の状況で帰るのはちょっと危ない気がする。主にアロンが。

 いやアロンが俺を守ってくれるんならいいんだよ? でもこいつ絶対そんな信念ないじゃん? なにかトラブルがあったら俺を置いてさっさと逃げそうな気がする。とすれば今夜は帰らない一択なのだが、それを伝えたときのアロンの行動が予測できなくて怖い。

 目をキョロキョロさせていると、アロンが「おまえのせいだぞ」とロニーを睨みつける。

「なにが私のせいなのですか?」

 負けじと応戦するロニーはかっこいい。是非とも頑張っていただきたい。

「早くしないと連中に気付かれます」

 手際よく俺の着替えを用意したらしいアロンが腕を組んで俺を見下ろしてくる。はよ着替えろということらしい。

「迎えが来るまで待機していた方が確実ではありませんか?」

 眉を寄せたロニーが、アロンが強奪していった毛布を取り返して再び俺の肩に掛けてくれる。やだ優しい。さすが長髪男子くん。うっかり惚れてしまいそうなくらいスマートだ。

 しばらく無言で睨み合っていたふたりだが、終わりは唐突に訪れた。

「あ」

 そんな間の抜けた声を発したアロンが素早く隣室に駆け込んだ。そこはロニーが寝泊まりするための部屋である。急にどうした?

 呆然とアロンの奇行を眺めていた俺だが、続いて聞こえてきたノックの音に我に返った。

 え、なに? 誰?

 オロオロする俺に代わり、ロニーがドアへと近寄る。てかアロン逃げたな。早速裏切られた俺は、アロンが消えたドアを忌々しく睨みつける。

「夜分に申し訳ありません。アロン子爵がどこへ行ったかご存知ですか?」

 訪問者はサムだった。
 白い騎士服に身を包んだ彼は、くるりと室内を見回してから俺を見据える。蛇を彷彿とさせる鋭い目に、思わず首をすくめると迷わず隣室のドアを指差した。

「ありがとうございます」

 色々察したらしいサムは「失礼します」と丁寧にお辞儀して部屋に踏み込んでくる。躊躇なく続きドアに手をかけた彼は豪快に開け放った。と同時に影が素早く動いた。

「ひどい裏切りですよ! ユリス様!」

 いやおまえが言うな。
 部屋から飛び出してきたアロンは、器用にサムを避けると俺の背後に回り込んでぐっと肩を掴む。サムの前に押し出される形となった俺は思わず半眼になる。十歳児を盾にするな、それでも騎士か!

「外で見張りの騎士が伸びていましたが?」
「賊でも入ったんですかね? 物騒ですねぇ」

 サムに鋭い眼光を向けられたアロンは、悪びれもせずにへらへら笑う。こいつどういうメンタルしてるんだよ。

「なるほど。王立騎士団としては王宮に忍び込んだ賊を逃すわけにはいきませんね」
「大変ですね、俺も手伝いましょうか?」

 アロンがすげぇ図々しい。こんな図々しい奴初めてだよ。サムも苛立たしそうにコツコツと爪先で床を鳴らしている。
 どう考えてもここでいう賊ってアロンのことだろ。なぜ素知らぬフリを貫けるのか。呆れを通り越して感動すら覚えていると、どさくさに紛れてロニーがアロンの手を俺の肩から引っぺがしてくれる。

「ユリス様、もう遅いですしお休みになりましょう。起こしてしまい申し訳ありませんでした」
「ロニーが謝ることじゃないよ」

 ふるふると首を振れば、ロニーが小さく笑った。悪いのは全面的にアロンだと思う。
 ロニーはぐしゃぐしゃになった寝具を丁寧に整えてくれる。ついでにちょっと乱れた俺の寝巻きも優しい手つきできちんと正してくれる。

「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 元通り俺に布団をかけるとロニーは静かに立ち上がる。そうして大股でサムに食ってかかるアロンへと近寄ると彼の体をぐいぐい押して外に出してしまう。やれやれと肩をすくめたサムも後に続く。

「ちょ! 話は終わってないが⁉︎」
「もう終わりましたよ。頼みますからあなたは大人しくしていてください」

 そんなやり取りを最後にパタンとドアが閉められた。

 うん、非常に疲れた。
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