44 / 637
41 尾行(sideアロン)
しおりを挟む
どうやらサムは平凡な騎士を演じているらしい。こっそりと彼の見張りを始めてから早数日。特に不審な動きはない。
この日もサムを見張っていた時である。騎士棟に近づく小柄な人影を視界に捉えて、俺は目を見張った。ユリス様だ。背後にはジャンとセドリックもいる。前日にもユリス様が騎士棟周辺をうろついていたという話は聞いていたが本日もか。
ユリス様は真っ直ぐに騎士たちへ目を向けている。そのうち特定の人物に視線が集中していることに気がついてはっとする。
サムか?
なぜユリス様が間者である彼に注目するのか。もしやなにかご存知なのか。嫌な考えが頭をよぎったのも束の間、ユリス様の視線がサムから微妙にズレていることに思い至る。
どうやら隣のロニーを熱心に見つめているらしい。
理由はよくわからないがその瞳には羨望の色が浮かんでいる。とりあえず害はなさそうなので放っておくことにした。一応上にも報告しておいた方がいいかと思いユリス様をクレイグ団長のもとへ案内すれば、団長は面白いくらいに頰を引き攣らせていた。
どうやらユリス様はロニーにご執心らしい。しかし彼の隣にはサムがいる。騎士たちは基本的に単独行動はしない。見回りもふたり一組が基本。ロニーとサムはペアで動くことが多いのだ。一瞬、ロニーのペアを別の者に変更しようかとも考えたが、それでは不自然すぎる。サムになにか勘付かれる恐れがある。
だがサムが間者である以上、どうにかユリス様には彼から距離を置いてもらいたい。しかし好奇心旺盛なユリス様のことである。下手にサムに近寄るなと警告すれば余計に首を突っ込むに決まっていた。
どうしたものかと思案していたのだが、そこはセドリックがどうにか誤魔化してくれたらしい。さすが元副団長。仕事だけは的確だ。
庭ですれ違った際に、平民騎士に馴々しく接するものではないと諌めたらしい。確かに間違ったことは言っていない。大公家のお坊ちゃんが騎士に気を使うなどあってはならない。
ユリス様がどう受け止めたのかは謎だが、意外にも素直に聞き入れたらしいから驚きだ。てっきりセドリックの苦言に激怒して今度こそ彼を騎士団から追い出すかと思っていたのに期待が外れた。セドリックが騎士団に在籍している限り俺が副団長に任命されることはなさそうなので困ったものだ。
「上手いことやりますね。さすがは元副団長」
廊下ですれ違った際に嫌味ったらしく声をかけたところ、セドリックは何か言いたげに眉を顰めて去って行った。どうにも嫌われているらしい。残念ながら心当たりは山ほどある。
「サムはどうだ」
「不審な動きは特に」
「そうか」
団長との実りのない報告会は何度目だろうか。そろそろサムに張り付くのも飽きてきた頃、ようやく動きがあった。
きっかけは偶然だ。
寝る前にもう一度サムの様子でもみてくるかと重い腰をあげたのは我ながらよくやったと思う。副団長に出世してもいいくらいの働きだ。
ロニーと共に庭園の見回りをしているらしいサムを背後からこっそり追っていると予想外の人物に行き当たった。ユリス様だ。
噴水に片手を突っ込んでひとり満足そうにしている小さな影をみた時は心臓が止まるかと思った。
なぜこんな時刻にユリス様が。
周囲の様子を窺うが、セドリックとジャンの姿はみえない。どうやらひとりで部屋を抜け出してきたらしい。
元副団長め! そんなんだから解任されるんだぞと心中で悪態をつく。というかセドリックの隙を付くとは。恐るべし、ユリス様。
想定していなかった事態に、俺の体は硬直する。その間にもサムはユリス様へと近寄っていく。初めは頭を下げていた彼だが、何やらロニーとユリス様が会話をしている隙に立ち上がる。その手に光るものをみて息を呑んだ。
おいおい、冗談だろ?
てっきり狙いはオーガス様だとばかり。迷った末に、俺は駆け出した。近くに居た騎士を捕まえて簡単に状況を説明する。ブルース様と団長を叩き起こすよう言い付けて、馬を用意する。
どうやらサムは馬車を用意していたらしい。どこまでも用意周到な奴だ。
行き先は王宮に決まっている。前を行く馬車から十分に距離をとって追いかける。あちらは俺には気付いていないだろう。呑気に馬車を走らせており特に急ぐ気配はない。
サムの目的は不明だが、一応王立騎士団の人間だ。間違ってもユリス様を傷付けるような事態は起こさないはず。それに見た限りだとロニーも一緒のようだ。あいつは入団して間もない新人だが、それなりに使える。温厚な性格がちょっとあれだが、いざとなれば身を挺してユリス様をお守りする覚悟のある奴だ。問題ない。
そう言い聞かせて馬を走らせる。
どうやらこの目でユリス様の無事を確認しない限り、安心できそうになかった。
焦るあまり軽率に王立騎士団に紛れてユリス様の監禁されている部屋に侵入してしまった。あっさりとエリック殿下に見破られたのは失敗だったな。
この日もサムを見張っていた時である。騎士棟に近づく小柄な人影を視界に捉えて、俺は目を見張った。ユリス様だ。背後にはジャンとセドリックもいる。前日にもユリス様が騎士棟周辺をうろついていたという話は聞いていたが本日もか。
ユリス様は真っ直ぐに騎士たちへ目を向けている。そのうち特定の人物に視線が集中していることに気がついてはっとする。
サムか?
なぜユリス様が間者である彼に注目するのか。もしやなにかご存知なのか。嫌な考えが頭をよぎったのも束の間、ユリス様の視線がサムから微妙にズレていることに思い至る。
どうやら隣のロニーを熱心に見つめているらしい。
理由はよくわからないがその瞳には羨望の色が浮かんでいる。とりあえず害はなさそうなので放っておくことにした。一応上にも報告しておいた方がいいかと思いユリス様をクレイグ団長のもとへ案内すれば、団長は面白いくらいに頰を引き攣らせていた。
どうやらユリス様はロニーにご執心らしい。しかし彼の隣にはサムがいる。騎士たちは基本的に単独行動はしない。見回りもふたり一組が基本。ロニーとサムはペアで動くことが多いのだ。一瞬、ロニーのペアを別の者に変更しようかとも考えたが、それでは不自然すぎる。サムになにか勘付かれる恐れがある。
だがサムが間者である以上、どうにかユリス様には彼から距離を置いてもらいたい。しかし好奇心旺盛なユリス様のことである。下手にサムに近寄るなと警告すれば余計に首を突っ込むに決まっていた。
どうしたものかと思案していたのだが、そこはセドリックがどうにか誤魔化してくれたらしい。さすが元副団長。仕事だけは的確だ。
庭ですれ違った際に、平民騎士に馴々しく接するものではないと諌めたらしい。確かに間違ったことは言っていない。大公家のお坊ちゃんが騎士に気を使うなどあってはならない。
ユリス様がどう受け止めたのかは謎だが、意外にも素直に聞き入れたらしいから驚きだ。てっきりセドリックの苦言に激怒して今度こそ彼を騎士団から追い出すかと思っていたのに期待が外れた。セドリックが騎士団に在籍している限り俺が副団長に任命されることはなさそうなので困ったものだ。
「上手いことやりますね。さすがは元副団長」
廊下ですれ違った際に嫌味ったらしく声をかけたところ、セドリックは何か言いたげに眉を顰めて去って行った。どうにも嫌われているらしい。残念ながら心当たりは山ほどある。
「サムはどうだ」
「不審な動きは特に」
「そうか」
団長との実りのない報告会は何度目だろうか。そろそろサムに張り付くのも飽きてきた頃、ようやく動きがあった。
きっかけは偶然だ。
寝る前にもう一度サムの様子でもみてくるかと重い腰をあげたのは我ながらよくやったと思う。副団長に出世してもいいくらいの働きだ。
ロニーと共に庭園の見回りをしているらしいサムを背後からこっそり追っていると予想外の人物に行き当たった。ユリス様だ。
噴水に片手を突っ込んでひとり満足そうにしている小さな影をみた時は心臓が止まるかと思った。
なぜこんな時刻にユリス様が。
周囲の様子を窺うが、セドリックとジャンの姿はみえない。どうやらひとりで部屋を抜け出してきたらしい。
元副団長め! そんなんだから解任されるんだぞと心中で悪態をつく。というかセドリックの隙を付くとは。恐るべし、ユリス様。
想定していなかった事態に、俺の体は硬直する。その間にもサムはユリス様へと近寄っていく。初めは頭を下げていた彼だが、何やらロニーとユリス様が会話をしている隙に立ち上がる。その手に光るものをみて息を呑んだ。
おいおい、冗談だろ?
てっきり狙いはオーガス様だとばかり。迷った末に、俺は駆け出した。近くに居た騎士を捕まえて簡単に状況を説明する。ブルース様と団長を叩き起こすよう言い付けて、馬を用意する。
どうやらサムは馬車を用意していたらしい。どこまでも用意周到な奴だ。
行き先は王宮に決まっている。前を行く馬車から十分に距離をとって追いかける。あちらは俺には気付いていないだろう。呑気に馬車を走らせており特に急ぐ気配はない。
サムの目的は不明だが、一応王立騎士団の人間だ。間違ってもユリス様を傷付けるような事態は起こさないはず。それに見た限りだとロニーも一緒のようだ。あいつは入団して間もない新人だが、それなりに使える。温厚な性格がちょっとあれだが、いざとなれば身を挺してユリス様をお守りする覚悟のある奴だ。問題ない。
そう言い聞かせて馬を走らせる。
どうやらこの目でユリス様の無事を確認しない限り、安心できそうになかった。
焦るあまり軽率に王立騎士団に紛れてユリス様の監禁されている部屋に侵入してしまった。あっさりとエリック殿下に見破られたのは失敗だったな。
681
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる