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41 尾行(sideアロン)
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どうやらサムは平凡な騎士を演じているらしい。こっそりと彼の見張りを始めてから早数日。特に不審な動きはない。
この日もサムを見張っていた時である。騎士棟に近づく小柄な人影を視界に捉えて、俺は目を見張った。ユリス様だ。背後にはジャンとセドリックもいる。前日にもユリス様が騎士棟周辺をうろついていたという話は聞いていたが本日もか。
ユリス様は真っ直ぐに騎士たちへ目を向けている。そのうち特定の人物に視線が集中していることに気がついてはっとする。
サムか?
なぜユリス様が間者である彼に注目するのか。もしやなにかご存知なのか。嫌な考えが頭をよぎったのも束の間、ユリス様の視線がサムから微妙にズレていることに思い至る。
どうやら隣のロニーを熱心に見つめているらしい。
理由はよくわからないがその瞳には羨望の色が浮かんでいる。とりあえず害はなさそうなので放っておくことにした。一応上にも報告しておいた方がいいかと思いユリス様をクレイグ団長のもとへ案内すれば、団長は面白いくらいに頰を引き攣らせていた。
どうやらユリス様はロニーにご執心らしい。しかし彼の隣にはサムがいる。騎士たちは基本的に単独行動はしない。見回りもふたり一組が基本。ロニーとサムはペアで動くことが多いのだ。一瞬、ロニーのペアを別の者に変更しようかとも考えたが、それでは不自然すぎる。サムになにか勘付かれる恐れがある。
だがサムが間者である以上、どうにかユリス様には彼から距離を置いてもらいたい。しかし好奇心旺盛なユリス様のことである。下手にサムに近寄るなと警告すれば余計に首を突っ込むに決まっていた。
どうしたものかと思案していたのだが、そこはセドリックがどうにか誤魔化してくれたらしい。さすが元副団長。仕事だけは的確だ。
庭ですれ違った際に、平民騎士に馴々しく接するものではないと諌めたらしい。確かに間違ったことは言っていない。大公家のお坊ちゃんが騎士に気を使うなどあってはならない。
ユリス様がどう受け止めたのかは謎だが、意外にも素直に聞き入れたらしいから驚きだ。てっきりセドリックの苦言に激怒して今度こそ彼を騎士団から追い出すかと思っていたのに期待が外れた。セドリックが騎士団に在籍している限り俺が副団長に任命されることはなさそうなので困ったものだ。
「上手いことやりますね。さすがは元副団長」
廊下ですれ違った際に嫌味ったらしく声をかけたところ、セドリックは何か言いたげに眉を顰めて去って行った。どうにも嫌われているらしい。残念ながら心当たりは山ほどある。
「サムはどうだ」
「不審な動きは特に」
「そうか」
団長との実りのない報告会は何度目だろうか。そろそろサムに張り付くのも飽きてきた頃、ようやく動きがあった。
きっかけは偶然だ。
寝る前にもう一度サムの様子でもみてくるかと重い腰をあげたのは我ながらよくやったと思う。副団長に出世してもいいくらいの働きだ。
ロニーと共に庭園の見回りをしているらしいサムを背後からこっそり追っていると予想外の人物に行き当たった。ユリス様だ。
噴水に片手を突っ込んでひとり満足そうにしている小さな影をみた時は心臓が止まるかと思った。
なぜこんな時刻にユリス様が。
周囲の様子を窺うが、セドリックとジャンの姿はみえない。どうやらひとりで部屋を抜け出してきたらしい。
元副団長め! そんなんだから解任されるんだぞと心中で悪態をつく。というかセドリックの隙を付くとは。恐るべし、ユリス様。
想定していなかった事態に、俺の体は硬直する。その間にもサムはユリス様へと近寄っていく。初めは頭を下げていた彼だが、何やらロニーとユリス様が会話をしている隙に立ち上がる。その手に光るものをみて息を呑んだ。
おいおい、冗談だろ?
てっきり狙いはオーガス様だとばかり。迷った末に、俺は駆け出した。近くに居た騎士を捕まえて簡単に状況を説明する。ブルース様と団長を叩き起こすよう言い付けて、馬を用意する。
どうやらサムは馬車を用意していたらしい。どこまでも用意周到な奴だ。
行き先は王宮に決まっている。前を行く馬車から十分に距離をとって追いかける。あちらは俺には気付いていないだろう。呑気に馬車を走らせており特に急ぐ気配はない。
サムの目的は不明だが、一応王立騎士団の人間だ。間違ってもユリス様を傷付けるような事態は起こさないはず。それに見た限りだとロニーも一緒のようだ。あいつは入団して間もない新人だが、それなりに使える。温厚な性格がちょっとあれだが、いざとなれば身を挺してユリス様をお守りする覚悟のある奴だ。問題ない。
そう言い聞かせて馬を走らせる。
どうやらこの目でユリス様の無事を確認しない限り、安心できそうになかった。
焦るあまり軽率に王立騎士団に紛れてユリス様の監禁されている部屋に侵入してしまった。あっさりとエリック殿下に見破られたのは失敗だったな。
この日もサムを見張っていた時である。騎士棟に近づく小柄な人影を視界に捉えて、俺は目を見張った。ユリス様だ。背後にはジャンとセドリックもいる。前日にもユリス様が騎士棟周辺をうろついていたという話は聞いていたが本日もか。
ユリス様は真っ直ぐに騎士たちへ目を向けている。そのうち特定の人物に視線が集中していることに気がついてはっとする。
サムか?
なぜユリス様が間者である彼に注目するのか。もしやなにかご存知なのか。嫌な考えが頭をよぎったのも束の間、ユリス様の視線がサムから微妙にズレていることに思い至る。
どうやら隣のロニーを熱心に見つめているらしい。
理由はよくわからないがその瞳には羨望の色が浮かんでいる。とりあえず害はなさそうなので放っておくことにした。一応上にも報告しておいた方がいいかと思いユリス様をクレイグ団長のもとへ案内すれば、団長は面白いくらいに頰を引き攣らせていた。
どうやらユリス様はロニーにご執心らしい。しかし彼の隣にはサムがいる。騎士たちは基本的に単独行動はしない。見回りもふたり一組が基本。ロニーとサムはペアで動くことが多いのだ。一瞬、ロニーのペアを別の者に変更しようかとも考えたが、それでは不自然すぎる。サムになにか勘付かれる恐れがある。
だがサムが間者である以上、どうにかユリス様には彼から距離を置いてもらいたい。しかし好奇心旺盛なユリス様のことである。下手にサムに近寄るなと警告すれば余計に首を突っ込むに決まっていた。
どうしたものかと思案していたのだが、そこはセドリックがどうにか誤魔化してくれたらしい。さすが元副団長。仕事だけは的確だ。
庭ですれ違った際に、平民騎士に馴々しく接するものではないと諌めたらしい。確かに間違ったことは言っていない。大公家のお坊ちゃんが騎士に気を使うなどあってはならない。
ユリス様がどう受け止めたのかは謎だが、意外にも素直に聞き入れたらしいから驚きだ。てっきりセドリックの苦言に激怒して今度こそ彼を騎士団から追い出すかと思っていたのに期待が外れた。セドリックが騎士団に在籍している限り俺が副団長に任命されることはなさそうなので困ったものだ。
「上手いことやりますね。さすがは元副団長」
廊下ですれ違った際に嫌味ったらしく声をかけたところ、セドリックは何か言いたげに眉を顰めて去って行った。どうにも嫌われているらしい。残念ながら心当たりは山ほどある。
「サムはどうだ」
「不審な動きは特に」
「そうか」
団長との実りのない報告会は何度目だろうか。そろそろサムに張り付くのも飽きてきた頃、ようやく動きがあった。
きっかけは偶然だ。
寝る前にもう一度サムの様子でもみてくるかと重い腰をあげたのは我ながらよくやったと思う。副団長に出世してもいいくらいの働きだ。
ロニーと共に庭園の見回りをしているらしいサムを背後からこっそり追っていると予想外の人物に行き当たった。ユリス様だ。
噴水に片手を突っ込んでひとり満足そうにしている小さな影をみた時は心臓が止まるかと思った。
なぜこんな時刻にユリス様が。
周囲の様子を窺うが、セドリックとジャンの姿はみえない。どうやらひとりで部屋を抜け出してきたらしい。
元副団長め! そんなんだから解任されるんだぞと心中で悪態をつく。というかセドリックの隙を付くとは。恐るべし、ユリス様。
想定していなかった事態に、俺の体は硬直する。その間にもサムはユリス様へと近寄っていく。初めは頭を下げていた彼だが、何やらロニーとユリス様が会話をしている隙に立ち上がる。その手に光るものをみて息を呑んだ。
おいおい、冗談だろ?
てっきり狙いはオーガス様だとばかり。迷った末に、俺は駆け出した。近くに居た騎士を捕まえて簡単に状況を説明する。ブルース様と団長を叩き起こすよう言い付けて、馬を用意する。
どうやらサムは馬車を用意していたらしい。どこまでも用意周到な奴だ。
行き先は王宮に決まっている。前を行く馬車から十分に距離をとって追いかける。あちらは俺には気付いていないだろう。呑気に馬車を走らせており特に急ぐ気配はない。
サムの目的は不明だが、一応王立騎士団の人間だ。間違ってもユリス様を傷付けるような事態は起こさないはず。それに見た限りだとロニーも一緒のようだ。あいつは入団して間もない新人だが、それなりに使える。温厚な性格がちょっとあれだが、いざとなれば身を挺してユリス様をお守りする覚悟のある奴だ。問題ない。
そう言い聞かせて馬を走らせる。
どうやらこの目でユリス様の無事を確認しない限り、安心できそうになかった。
焦るあまり軽率に王立騎士団に紛れてユリス様の監禁されている部屋に侵入してしまった。あっさりとエリック殿下に見破られたのは失敗だったな。
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