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37 好み?
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俺らの奮闘にもかかわらずアロンはどこかへ連れ去られてしまった。去り際に彼は何やら口汚い言葉を吐き捨てていたが、アロンってこんな性格だったっけ? ちょっと会わない間に人格変わり過ぎだと思う。しかし人間ピンチに陥るとなりふり構っていられないからな。あの状況でアロンが取り乱すのは仕方のないことだ、たぶん。
「ひどい」
アロンを見送った後、従兄弟を睨み付ければ嫌悪感丸出しの顔で舌打ちされた。俺を突然誘拐するだけのことはある。悪人面がお似合いだ。
「王宮への侵入者をみすみす逃すわけにはいかないからな」
「アロンは俺を迎えに来ただけ」
「迎えに来ただけなら我が王立騎士団の制服を盗む必要なんてないだろうに」
うーん、たしかに? この状況で言い逃れは苦しいかもしれない。アロンも俺を正々堂々と迎えに来ればよかったのではないか。そしてなによりアロン本人によるあの自白がまずかったな。
結局彼はなにをしに来たのか謎である。だが捕まったままでは可哀想だから後で必ず助けてあげよう。
「ところでなぜそんなに他人行儀なんだ?」
ん? べつに普通だろ?
そんなに馬鹿丁寧に接した覚えはない。しかし従兄弟は思うところがあるのか、怪訝な顔で腕を組んでいる。
「おまえが変にしおらしいと不安になるな。正直、この屋敷に連れ込むのも少し躊躇したんだが。案外大人しいな?」
「はぁ」
だって今まで凶悪犯に誘拐されたと思っていたので。そんな状況で暴れ回る度胸は俺にはない。というか暴れるという選択肢がまずねえよ。しかし従兄弟は納得いかないらしい。胡乱げな目付きで俺を無遠慮に見まわしている。そしてとんでもない言葉を投げつけた。
「てっきり屋敷に火でもつけるかと思っていたが」
「しねえよ! そんなこと!」
こいつなんなんだよ! 失礼にも程がある。誘拐犯がなんで被害者面しているのだ。
いやしかしこの真剣な表情。もしかしてユリスってそんなヤバい奴なのか? だとしたら誘拐犯より断然物騒じゃん!
混乱のあまり大声で否定した俺を、名前も知らない従兄弟が変な目で見つめる。青い瞳が困惑の色に染まっている。
「しばらく会わない間に随分と成長、成長と言っていいのかこれ? とにかくなんだ。大人しくなったな」
「まぁ、そうですね。もう大人なので」
「大人ではないだろう」
精神年齢的には大人だもん!
ムスッとすれば眼前の従兄弟が思い出したとばかりにニヤニヤと笑う。その企みが見え隠れする悪い顔に反射的に身構える。
「聞いたところによると副団長を解任したらしいじゃないか。どうだ。邪魔ならうちで引き取ってやろうか?」
「なにを?」
「だから元副団長だよ。セドリックとかいったか。随分と優秀らしいじゃないか。腕の立つ騎士はいくらいても困るものではないからな」
「セドリックは俺のなのであげません」
「は?」
なんか圧が強い。目力が強いのは血筋なのか?
「どういう意味だ」
「どういう?」
べつにそのままの意味だけど。深い意味なんて何もないからそんな睨まないで欲しい。
「いつも一緒にいるけど」
セドリックは大抵俺の後ろに突っ立っているだけだけど。護衛としての仕事をきちんとしてくれる。俺がひとりになる暇もないくらいに。
聞きかじった限りユリスと色々あったというのに偉いものだ。仕事に私情を挟まないタイプなのだろう。実に真面目だ。
「つまり副団長の任を解いて自分の側に置いていると」
「ん? う、うん」
セドリックを解任したのは俺じゃなくて本物のユリスの方だけど。ついでにセドリックを俺の護衛に任命したのはブルース兄様だ。しかしまあおおよそ従兄弟の言う通りなので頷いておく。やけに突っかかるな?
すると従兄弟は「はぁ?」とガラ悪く睨み付けてくる。なんなんだよ、この人。威圧感はブルース兄様にも負けないほどだ。さすが従兄弟同士。いらんところがそっくりだ。
「おまえあんなのが好みだったか?」
「好み?」
「セドリックを気に入って側に置いているのだろう?」
なんだか微妙に話が噛み合っていないような気もする。でもセドリックのことはべつに嫌いじゃないしな。質問の意図がよくわからんままに肯定しておけば、従兄弟は「なるほど」と意味深に顎に手を持っていく。
多分あれだな。ユリスはいままで従者を解雇しまくっていたらしいからセドリックを解雇せず側に置いているのが不思議なのだろう。生憎と俺はそんなに我儘じゃないし、人を解雇するなんて滅多なことをできるような性格ではない。なんせ前世は平凡な男子高校生なので!
「こりゃあオーガスも大変だな」
「はぁ」
なんで急にオーガス兄様? 話が飛躍しすぎてマジでよくわからない。
そもそも俺はオーガス兄様に会ったことないんだけどな。ブルース兄様とは頻繁に会うけど。おそらくブルース兄様と違って長男だというオーガス兄様はお忙しいのだろう。なんかお父様を継ぐとか言っていたしな。てかユリスとオーガス兄様って仲悪いんだったっけ?
その点、俺は三男だからお気楽だ。成り代わり先がユリスでよかった。俺難しい政治の話とか無理だから。
「ひどい」
アロンを見送った後、従兄弟を睨み付ければ嫌悪感丸出しの顔で舌打ちされた。俺を突然誘拐するだけのことはある。悪人面がお似合いだ。
「王宮への侵入者をみすみす逃すわけにはいかないからな」
「アロンは俺を迎えに来ただけ」
「迎えに来ただけなら我が王立騎士団の制服を盗む必要なんてないだろうに」
うーん、たしかに? この状況で言い逃れは苦しいかもしれない。アロンも俺を正々堂々と迎えに来ればよかったのではないか。そしてなによりアロン本人によるあの自白がまずかったな。
結局彼はなにをしに来たのか謎である。だが捕まったままでは可哀想だから後で必ず助けてあげよう。
「ところでなぜそんなに他人行儀なんだ?」
ん? べつに普通だろ?
そんなに馬鹿丁寧に接した覚えはない。しかし従兄弟は思うところがあるのか、怪訝な顔で腕を組んでいる。
「おまえが変にしおらしいと不安になるな。正直、この屋敷に連れ込むのも少し躊躇したんだが。案外大人しいな?」
「はぁ」
だって今まで凶悪犯に誘拐されたと思っていたので。そんな状況で暴れ回る度胸は俺にはない。というか暴れるという選択肢がまずねえよ。しかし従兄弟は納得いかないらしい。胡乱げな目付きで俺を無遠慮に見まわしている。そしてとんでもない言葉を投げつけた。
「てっきり屋敷に火でもつけるかと思っていたが」
「しねえよ! そんなこと!」
こいつなんなんだよ! 失礼にも程がある。誘拐犯がなんで被害者面しているのだ。
いやしかしこの真剣な表情。もしかしてユリスってそんなヤバい奴なのか? だとしたら誘拐犯より断然物騒じゃん!
混乱のあまり大声で否定した俺を、名前も知らない従兄弟が変な目で見つめる。青い瞳が困惑の色に染まっている。
「しばらく会わない間に随分と成長、成長と言っていいのかこれ? とにかくなんだ。大人しくなったな」
「まぁ、そうですね。もう大人なので」
「大人ではないだろう」
精神年齢的には大人だもん!
ムスッとすれば眼前の従兄弟が思い出したとばかりにニヤニヤと笑う。その企みが見え隠れする悪い顔に反射的に身構える。
「聞いたところによると副団長を解任したらしいじゃないか。どうだ。邪魔ならうちで引き取ってやろうか?」
「なにを?」
「だから元副団長だよ。セドリックとかいったか。随分と優秀らしいじゃないか。腕の立つ騎士はいくらいても困るものではないからな」
「セドリックは俺のなのであげません」
「は?」
なんか圧が強い。目力が強いのは血筋なのか?
「どういう意味だ」
「どういう?」
べつにそのままの意味だけど。深い意味なんて何もないからそんな睨まないで欲しい。
「いつも一緒にいるけど」
セドリックは大抵俺の後ろに突っ立っているだけだけど。護衛としての仕事をきちんとしてくれる。俺がひとりになる暇もないくらいに。
聞きかじった限りユリスと色々あったというのに偉いものだ。仕事に私情を挟まないタイプなのだろう。実に真面目だ。
「つまり副団長の任を解いて自分の側に置いていると」
「ん? う、うん」
セドリックを解任したのは俺じゃなくて本物のユリスの方だけど。ついでにセドリックを俺の護衛に任命したのはブルース兄様だ。しかしまあおおよそ従兄弟の言う通りなので頷いておく。やけに突っかかるな?
すると従兄弟は「はぁ?」とガラ悪く睨み付けてくる。なんなんだよ、この人。威圧感はブルース兄様にも負けないほどだ。さすが従兄弟同士。いらんところがそっくりだ。
「おまえあんなのが好みだったか?」
「好み?」
「セドリックを気に入って側に置いているのだろう?」
なんだか微妙に話が噛み合っていないような気もする。でもセドリックのことはべつに嫌いじゃないしな。質問の意図がよくわからんままに肯定しておけば、従兄弟は「なるほど」と意味深に顎に手を持っていく。
多分あれだな。ユリスはいままで従者を解雇しまくっていたらしいからセドリックを解雇せず側に置いているのが不思議なのだろう。生憎と俺はそんなに我儘じゃないし、人を解雇するなんて滅多なことをできるような性格ではない。なんせ前世は平凡な男子高校生なので!
「こりゃあオーガスも大変だな」
「はぁ」
なんで急にオーガス兄様? 話が飛躍しすぎてマジでよくわからない。
そもそも俺はオーガス兄様に会ったことないんだけどな。ブルース兄様とは頻繁に会うけど。おそらくブルース兄様と違って長男だというオーガス兄様はお忙しいのだろう。なんかお父様を継ぐとか言っていたしな。てかユリスとオーガス兄様って仲悪いんだったっけ?
その点、俺は三男だからお気楽だ。成り代わり先がユリスでよかった。俺難しい政治の話とか無理だから。
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