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33 ここはどこ
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どうやら誘拐犯さんは俺をどうこうするつもりはないらしい。
徐々に気を許した俺は、部屋に控える白騎士さんに一方的に話しかけていた。
「ずっと立ってて暇じゃないの?」
「いえ、仕事ですから」
「何歳?」
「二十二になります」
律儀に返答してくれる白騎士さんは、戸惑った様子で居心地悪そうだ。なんかごめん。
そんな俺をロニーは何とも言えない表情で見つめていた。なんだか誰にでも気軽に話しかける奴って思われてそうだな、俺。
「失礼致します」
だらだらとお喋りを楽しんでいたところ、控えめなノックとともにサムが姿を現した。昨日はロニーと同じくヴィアン家騎士団の黒い制服を身に付けていた彼だが、一転して今日は白い服を着込んでいる。
「ご気分はいかがですか」
「はぁ」
強いて言えばはよ帰りたい。そう伝えれば、サムは涼しい顔で「もうしばらくご辛抱ください」とのたまう。
「なんで服、白なの」
「これが本来私が着るべき制服なので」
「色違いだね」
「そうですね」
対応が素っ気ないな。いや、誘拐犯にしては丁寧な方か?
「彼らは王立騎士団ですね」
「おう、りつ?」
側にいたロニーが小声で教えてくれたがピンとこない。とりあえず騎士団であることは間違いないようだが、王立ってなんだ。私立とか公立とかそういう話か? だとしたら王が運営している騎士団ってことだろうか。なんで急に王様?
俺を庇うように一歩前へ出たロニーは、毅然とした態度でサムを睨み付ける。
「王立騎士団がユリス様に何用で?」
「たいした用事ではありませんよ。いつもの殿下によるお遊びです」
「止めてくださいよ」
「無茶言わないでいただきたい」
よくわからんが、頑張れロニー!
サムに食ってかかるロニーは物腰柔らかに、しかし芯を持って堂々としている。ヤバい、カッコいい。こんな状況でなければ両手を上げてカッコいいと称賛しまくっていただろう。
トレードマークである緩く括った長髪を食い入る様に見つめていると、唐突にサムがこちらを向いた。一瞬ビクっと肩を揺らす俺に構わず、彼は丁寧に一礼する。
「なにかございましたらなんなりとお申し付けください」
「なんなりと」
「はい、なんなりと」
なにこの状況。サムは結局どういう立場の人間なのか。丁寧に接してくるところをみるに悪人とは言い難い。いやしかしこいつがロニーに刃物を向けたのは紛れもない事実だ。
混乱のあまり黙りこくった俺にもう一度頭を下げて、サムは退出した。どうやら俺の様子を見に来ただけらしい。
一体どういう状況なんだよ、これ。
※※※
ロニーによるとここは王宮らしい。王宮っていうのは、つまりあれだ。王様が住むところだ。
やたら豪華絢爛な内装にも納得だ。しかしそうだとすれば誘拐犯は王様ということになるのか? マジでなんでだよ。王様に狙われる心当たりなんてこれっぽっちもないぞ。しかしロニーは首を横に振る。
「首謀者は王太子殿下でしょうね」
「おーたいしでんか」
誰なんだよ、それは。難しい単語を出すんじゃない。しかし「王太子殿下ってなに?」とは口が裂けてもきけない雰囲気だ。
それきりロニーは「ですからご心配には及びません」と俺を宥めにかかる。わからねぇよ。なんで王太子殿下なる人物が首謀者だと心配いらなくなるのだ。
釈然としないが、ロニーが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。ロニーと過ごしたのは少しの時間だが、彼の実直な性格はよくわかった。はじめこそ俺に対して緊張のあまり一歩引いているところはあったが、それ以上に恐怖で震える俺をなんとか落ち着かせようと優しく接してくれる。多分だけどアロンより優しいかもしれない。
アロンも優しいお兄さんだが危機的状況に陥ると、場合によっては俺を放っておきそうな危うい感じがする。ティアンが散々俺にアロンの悪口を吹き込んでくるせいだろうか? いかんな。アロンに失礼だ。
ふるふると頭を振って嫌な考えを追い出す。そもそもアロンとロニーを比べるのが失礼だよな。どっちも優しいお兄さんだ。
応接用のソファーに腰掛けてロニーと当たり障りのない話をしていると、再びドアがノックされた。今日は来客が多いな。いや、俺自体がこの屋敷にとってはお客さんか。
ドアを開けた白騎士さんが外の人物と言葉を交わして、次いでドアが大きく開け放たれる。
「ご無沙汰しております、ユリス様」
ゆったりと部屋に足を踏み入れた人物を見て、俺は心底驚いた。
「カル先生?」
ここに居るはずのないカル先生は、眼鏡の奥で穏やかに目を細めた。
徐々に気を許した俺は、部屋に控える白騎士さんに一方的に話しかけていた。
「ずっと立ってて暇じゃないの?」
「いえ、仕事ですから」
「何歳?」
「二十二になります」
律儀に返答してくれる白騎士さんは、戸惑った様子で居心地悪そうだ。なんかごめん。
そんな俺をロニーは何とも言えない表情で見つめていた。なんだか誰にでも気軽に話しかける奴って思われてそうだな、俺。
「失礼致します」
だらだらとお喋りを楽しんでいたところ、控えめなノックとともにサムが姿を現した。昨日はロニーと同じくヴィアン家騎士団の黒い制服を身に付けていた彼だが、一転して今日は白い服を着込んでいる。
「ご気分はいかがですか」
「はぁ」
強いて言えばはよ帰りたい。そう伝えれば、サムは涼しい顔で「もうしばらくご辛抱ください」とのたまう。
「なんで服、白なの」
「これが本来私が着るべき制服なので」
「色違いだね」
「そうですね」
対応が素っ気ないな。いや、誘拐犯にしては丁寧な方か?
「彼らは王立騎士団ですね」
「おう、りつ?」
側にいたロニーが小声で教えてくれたがピンとこない。とりあえず騎士団であることは間違いないようだが、王立ってなんだ。私立とか公立とかそういう話か? だとしたら王が運営している騎士団ってことだろうか。なんで急に王様?
俺を庇うように一歩前へ出たロニーは、毅然とした態度でサムを睨み付ける。
「王立騎士団がユリス様に何用で?」
「たいした用事ではありませんよ。いつもの殿下によるお遊びです」
「止めてくださいよ」
「無茶言わないでいただきたい」
よくわからんが、頑張れロニー!
サムに食ってかかるロニーは物腰柔らかに、しかし芯を持って堂々としている。ヤバい、カッコいい。こんな状況でなければ両手を上げてカッコいいと称賛しまくっていただろう。
トレードマークである緩く括った長髪を食い入る様に見つめていると、唐突にサムがこちらを向いた。一瞬ビクっと肩を揺らす俺に構わず、彼は丁寧に一礼する。
「なにかございましたらなんなりとお申し付けください」
「なんなりと」
「はい、なんなりと」
なにこの状況。サムは結局どういう立場の人間なのか。丁寧に接してくるところをみるに悪人とは言い難い。いやしかしこいつがロニーに刃物を向けたのは紛れもない事実だ。
混乱のあまり黙りこくった俺にもう一度頭を下げて、サムは退出した。どうやら俺の様子を見に来ただけらしい。
一体どういう状況なんだよ、これ。
※※※
ロニーによるとここは王宮らしい。王宮っていうのは、つまりあれだ。王様が住むところだ。
やたら豪華絢爛な内装にも納得だ。しかしそうだとすれば誘拐犯は王様ということになるのか? マジでなんでだよ。王様に狙われる心当たりなんてこれっぽっちもないぞ。しかしロニーは首を横に振る。
「首謀者は王太子殿下でしょうね」
「おーたいしでんか」
誰なんだよ、それは。難しい単語を出すんじゃない。しかし「王太子殿下ってなに?」とは口が裂けてもきけない雰囲気だ。
それきりロニーは「ですからご心配には及びません」と俺を宥めにかかる。わからねぇよ。なんで王太子殿下なる人物が首謀者だと心配いらなくなるのだ。
釈然としないが、ロニーが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。ロニーと過ごしたのは少しの時間だが、彼の実直な性格はよくわかった。はじめこそ俺に対して緊張のあまり一歩引いているところはあったが、それ以上に恐怖で震える俺をなんとか落ち着かせようと優しく接してくれる。多分だけどアロンより優しいかもしれない。
アロンも優しいお兄さんだが危機的状況に陥ると、場合によっては俺を放っておきそうな危うい感じがする。ティアンが散々俺にアロンの悪口を吹き込んでくるせいだろうか? いかんな。アロンに失礼だ。
ふるふると頭を振って嫌な考えを追い出す。そもそもアロンとロニーを比べるのが失礼だよな。どっちも優しいお兄さんだ。
応接用のソファーに腰掛けてロニーと当たり障りのない話をしていると、再びドアがノックされた。今日は来客が多いな。いや、俺自体がこの屋敷にとってはお客さんか。
ドアを開けた白騎士さんが外の人物と言葉を交わして、次いでドアが大きく開け放たれる。
「ご無沙汰しております、ユリス様」
ゆったりと部屋に足を踏み入れた人物を見て、俺は心底驚いた。
「カル先生?」
ここに居るはずのないカル先生は、眼鏡の奥で穏やかに目を細めた。
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