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28 貴族階級
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「ロニーと仲良くなりたい」
「無理でしょうね」
「即答すんな」
諦めの悪い俺は、ティアンが来るなり直近の目標を声高に宣言した。ちなみにセドリックは不在。野暮用があるとか言っていたがすぐに戻ってくるらしい。ジャンはいつも通り佇んでいる。
「なんで?」
「なんでって。ロニーはただの騎士じゃないですか」
「アロンも騎士」
俺の反論に、ティアンは面倒くさそうに緩く首を振った。
「アロン殿はブルース様のお付きですし。それになにより伯爵家の出身ですから」
「伯爵」
「アロン殿ご自身も子爵ですしね」
「ししゃく」
俺の知らん単語を出すな。
伯爵というのはなんとなく聞き覚えがある。だが正確な意味は知らん。子爵は初めて聞いた。要するに貴族身分の話なのだろうが、具体的な意味がわからない。ぽかんとしているとティアンが「ですから」と胸を張った。
「身分的にアロン殿と仲良くするのは構いませんよ。個人的には反対ですが。あの人ろくな大人じゃないので。しかしロニーはダメです。あれは平民です。本来であればユリス様とお話しするなんてあり得ない立場です」
「平民て」
一般人って意味だよな?
「俺はそういうの気にしないけど」
「気にしなければなりません。あなたは大公子です」
いつになく強い物言いに、俺のほうがたじろいでしまう。「大公子ってどれくらい偉いん?」とは訊けない雰囲気だ。
「……ジャンもそう思う?」
首を伸ばしてジャンをみれば、彼は硬い表情でやがて小さく頷いた。
「大公子として相応しき振る舞いをすべきかと」
ジャンにしてははっきりとした口調で、俺の方が間違っているのかと思ってしまう。いや、実際に間違えているのは俺の方なのだろう。すぐさま「出過ぎたことを申しました」と頭を下げるジャンをぼんやりと眺める。
現代日本では明確な身分差なんてなかった。でもここは異世界だ。周囲の話を聞く限り、貴族と平民。明確な身分差があるらしい。
きっちり区別しろとティアンは言う。ジャンも同意見らしい。おそらく誰に尋ねても同様だろう。ここは食い下がっても仕方のない部分なのかもしれない。
黙り込む俺を見兼ねたのか、ティアンが「しかし」と口を開く。
「身分の差をきちんと理解しているのであれば、多少の会話程度は構わないと思いますけどね」
「でもセドリックには止められたけど?」
「それはおそらくユリス様が身分差を理解していなかったからなのでは? どうせおかしな距離の詰め方をしたのでしょう」
「友達になろうって言っただけ」
「うわ。想像以上に酷いですね」
わかりやすく顔を顰めたティアンは「いいですか」と先生口調で腰に手を当てる。
「大公子と平民騎士が友達なんてあり得ません。確かに騎士も貴族階級のひとつではありますが形だけです。命を賭して主君に仕える者たちを讃える意味で与えられた称号に過ぎません。これは実際には貴族とは認められないという意味です」
わかりますか?と諭すような口調でティアンは続ける。
「要するにこの国の騎士は他の爵位を有しない限りただの平民です。ロニーはまさしくそれ。本来大公家とは関わりを持ち得ない人間です」
早口で言い切ったティアンは「だからロニーと友達になるのはダメです」と念押しする。
難しくてよくわからんが、つまりは身分差があるから友達は無理という話だろう。
納得はできないが納得するしかない。だってここは異世界だ。俺ひとりがおかしいと主張したところで多分無意味。逆に俺がヤバい奴扱いされるだけだ。
「……わかった」
渋々呟けば、「わかっていただけて嬉しいです」となんだか妙に淡々とした声が返ってきた。信じてないな、こいつ。
「そもそもロニーのなにがそんなにいいんですか? 話したこともないでしょうに」
「だから長髪がカッコいいって言わなかった?」
「え、あれ本気だったんですか」
「本気だけど」
どうやらティアンは男の長髪が好きという俺の好みが信じられないらしい。唖然としてしばし沈黙したが、ゆっくりと首を横に振った。
「意味はわかりませんけど、とりあえずロニーに髪を切るよう言っておきます」
「やめろバカ!」
なんちゅうことを言うんだ! 長髪男子に対する冒涜だぞ。俺の目の保養を奪うのは許さん。絶対にだ。
「無理でしょうね」
「即答すんな」
諦めの悪い俺は、ティアンが来るなり直近の目標を声高に宣言した。ちなみにセドリックは不在。野暮用があるとか言っていたがすぐに戻ってくるらしい。ジャンはいつも通り佇んでいる。
「なんで?」
「なんでって。ロニーはただの騎士じゃないですか」
「アロンも騎士」
俺の反論に、ティアンは面倒くさそうに緩く首を振った。
「アロン殿はブルース様のお付きですし。それになにより伯爵家の出身ですから」
「伯爵」
「アロン殿ご自身も子爵ですしね」
「ししゃく」
俺の知らん単語を出すな。
伯爵というのはなんとなく聞き覚えがある。だが正確な意味は知らん。子爵は初めて聞いた。要するに貴族身分の話なのだろうが、具体的な意味がわからない。ぽかんとしているとティアンが「ですから」と胸を張った。
「身分的にアロン殿と仲良くするのは構いませんよ。個人的には反対ですが。あの人ろくな大人じゃないので。しかしロニーはダメです。あれは平民です。本来であればユリス様とお話しするなんてあり得ない立場です」
「平民て」
一般人って意味だよな?
「俺はそういうの気にしないけど」
「気にしなければなりません。あなたは大公子です」
いつになく強い物言いに、俺のほうがたじろいでしまう。「大公子ってどれくらい偉いん?」とは訊けない雰囲気だ。
「……ジャンもそう思う?」
首を伸ばしてジャンをみれば、彼は硬い表情でやがて小さく頷いた。
「大公子として相応しき振る舞いをすべきかと」
ジャンにしてははっきりとした口調で、俺の方が間違っているのかと思ってしまう。いや、実際に間違えているのは俺の方なのだろう。すぐさま「出過ぎたことを申しました」と頭を下げるジャンをぼんやりと眺める。
現代日本では明確な身分差なんてなかった。でもここは異世界だ。周囲の話を聞く限り、貴族と平民。明確な身分差があるらしい。
きっちり区別しろとティアンは言う。ジャンも同意見らしい。おそらく誰に尋ねても同様だろう。ここは食い下がっても仕方のない部分なのかもしれない。
黙り込む俺を見兼ねたのか、ティアンが「しかし」と口を開く。
「身分の差をきちんと理解しているのであれば、多少の会話程度は構わないと思いますけどね」
「でもセドリックには止められたけど?」
「それはおそらくユリス様が身分差を理解していなかったからなのでは? どうせおかしな距離の詰め方をしたのでしょう」
「友達になろうって言っただけ」
「うわ。想像以上に酷いですね」
わかりやすく顔を顰めたティアンは「いいですか」と先生口調で腰に手を当てる。
「大公子と平民騎士が友達なんてあり得ません。確かに騎士も貴族階級のひとつではありますが形だけです。命を賭して主君に仕える者たちを讃える意味で与えられた称号に過ぎません。これは実際には貴族とは認められないという意味です」
わかりますか?と諭すような口調でティアンは続ける。
「要するにこの国の騎士は他の爵位を有しない限りただの平民です。ロニーはまさしくそれ。本来大公家とは関わりを持ち得ない人間です」
早口で言い切ったティアンは「だからロニーと友達になるのはダメです」と念押しする。
難しくてよくわからんが、つまりは身分差があるから友達は無理という話だろう。
納得はできないが納得するしかない。だってここは異世界だ。俺ひとりがおかしいと主張したところで多分無意味。逆に俺がヤバい奴扱いされるだけだ。
「……わかった」
渋々呟けば、「わかっていただけて嬉しいです」となんだか妙に淡々とした声が返ってきた。信じてないな、こいつ。
「そもそもロニーのなにがそんなにいいんですか? 話したこともないでしょうに」
「だから長髪がカッコいいって言わなかった?」
「え、あれ本気だったんですか」
「本気だけど」
どうやらティアンは男の長髪が好きという俺の好みが信じられないらしい。唖然としてしばし沈黙したが、ゆっくりと首を横に振った。
「意味はわかりませんけど、とりあえずロニーに髪を切るよう言っておきます」
「やめろバカ!」
なんちゅうことを言うんだ! 長髪男子に対する冒涜だぞ。俺の目の保養を奪うのは許さん。絶対にだ。
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