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23 空気が地獄
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セドリックを副団長からおろしたのは誰だと問い詰めたところ俺という答えが返ってきました。地獄じゃん。
この世の終わりみたいな空気を醸し出す騎士棟にあるブルース兄様の部屋は物音ひとつせず静まり返っている。
「……まぁ、そういうこともあるよね」
なにがだよ、俺!
焦りのあまり紡いだ言葉に、ジャンが蒼白になる。
マジで誰も喋らない、地獄だよ。ここは。
というか今の俺の行動を客観視すると非常にまずい気がする。自分でセドリックを副団長から引きずりおろしておいて、なにも知りませんみたいな顔で「誰がおまえを辞めさせたんか?」と問い詰めたのだ。控えめに言ってサイコパスじゃん。
もしかしてあれか。「誰がおまえをクビにしたんか? ん? ほら言ってみろ。ユリスって言ってみろよ、ボケが」的な感じに受け止められているかもしれない。パワハラじゃん。言い訳のしようがないほどパワハラじゃん。
凍りついた空気が溶ける気配はまったくない。しかしこの絶望した雰囲気に耐え切れるはずもなく、俺はゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ俺はこれで」
え? この状況で帰るの? みたいな目で見ないでください、アロン。マジで悪いと思っているので!
外に出ようとする俺を、ブルース兄様は止めなかった。兄様でも対処しきれないと判断したのだろう。賢明な判断だ。
そうして外に出た俺であったが、当然のように後をついてきたセドリックを見て絶望した。
そうだった! この人俺の護衛だったよ! さすが元副団長。どんな状況でも職務放棄しないとは立派です! 誰か助けて!
※※※
「地獄でも見てきたんですか?」
「なんでわかるの……」
部屋に戻ってきた俺は気まずいなんてものじゃなかった。これでセドリックが俺に嫌味のひとつでも言ってくれれば少しは気楽になれたのに。生真面目なセドリックはどんな理不尽な状況でも文句ひとつ溢さない。つらい!
ジャンも死にそうな顔をしている。
昼食時も地獄だった。そうしてようやく訪れたティアンは、部屋に踏み入れるなりぎょっとした。
「なにをしたんですか。ユリス様」
「なんで俺が何かやらかしたこと前提なのか」
やらかしたけどさ! 誤魔化しがきかないくらいにはやらかしたけどさぁ!
無言のセドリックがマジで怖い。しかしセドリックが俺についていくことを誰も止めなかった時点で、おそらく彼が俺にブチ切れたりすることはないと思われる。というかそう思いたい。切実に。
幸いこの部屋にはジャンもいるし。あんまり役には立たないが一応ティアンもいる。命の危機的な状況にはならないと信じたい。セドリックが腰にさしている剣が怖いけど。
しかし考え込んでも仕方がないのも事実だ。どれだけ後悔しようが過去は変えられないしな。
「うん、よし。すべてを忘れよう」
「はぁ」
俺の決意を適当に聞き流して、ティアンが横に座り早速教科書を広げる真面目さを発揮している。おまえは今まで勉強してたんじゃなかったのか? そんなに勉強好きなの?
「ユリス様。ちゃんと予習はしましたか」
「してるわけないだろ」
「開き直りがすごいですね」
こっちはそれどころじゃなかったんだ。まったく。
時間通りにやって来たカル先生は俺らを見るなり眉を顰めた。
「なにかありました?」
「とんでもない事件がありました」
「……左様で」
壁際に佇むジャンは青い顔で首を左右に振っている。それを見て何かを察したらしいカル先生はそれ以上突っ込んでくることはなかった。さすがです。
「では授業を始めましょう。予習はやりましたか?」
「ユリス様はやってないです!」
とりあえずティアンの裏切りが酷い。
この世の終わりみたいな空気を醸し出す騎士棟にあるブルース兄様の部屋は物音ひとつせず静まり返っている。
「……まぁ、そういうこともあるよね」
なにがだよ、俺!
焦りのあまり紡いだ言葉に、ジャンが蒼白になる。
マジで誰も喋らない、地獄だよ。ここは。
というか今の俺の行動を客観視すると非常にまずい気がする。自分でセドリックを副団長から引きずりおろしておいて、なにも知りませんみたいな顔で「誰がおまえを辞めさせたんか?」と問い詰めたのだ。控えめに言ってサイコパスじゃん。
もしかしてあれか。「誰がおまえをクビにしたんか? ん? ほら言ってみろ。ユリスって言ってみろよ、ボケが」的な感じに受け止められているかもしれない。パワハラじゃん。言い訳のしようがないほどパワハラじゃん。
凍りついた空気が溶ける気配はまったくない。しかしこの絶望した雰囲気に耐え切れるはずもなく、俺はゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ俺はこれで」
え? この状況で帰るの? みたいな目で見ないでください、アロン。マジで悪いと思っているので!
外に出ようとする俺を、ブルース兄様は止めなかった。兄様でも対処しきれないと判断したのだろう。賢明な判断だ。
そうして外に出た俺であったが、当然のように後をついてきたセドリックを見て絶望した。
そうだった! この人俺の護衛だったよ! さすが元副団長。どんな状況でも職務放棄しないとは立派です! 誰か助けて!
※※※
「地獄でも見てきたんですか?」
「なんでわかるの……」
部屋に戻ってきた俺は気まずいなんてものじゃなかった。これでセドリックが俺に嫌味のひとつでも言ってくれれば少しは気楽になれたのに。生真面目なセドリックはどんな理不尽な状況でも文句ひとつ溢さない。つらい!
ジャンも死にそうな顔をしている。
昼食時も地獄だった。そうしてようやく訪れたティアンは、部屋に踏み入れるなりぎょっとした。
「なにをしたんですか。ユリス様」
「なんで俺が何かやらかしたこと前提なのか」
やらかしたけどさ! 誤魔化しがきかないくらいにはやらかしたけどさぁ!
無言のセドリックがマジで怖い。しかしセドリックが俺についていくことを誰も止めなかった時点で、おそらく彼が俺にブチ切れたりすることはないと思われる。というかそう思いたい。切実に。
幸いこの部屋にはジャンもいるし。あんまり役には立たないが一応ティアンもいる。命の危機的な状況にはならないと信じたい。セドリックが腰にさしている剣が怖いけど。
しかし考え込んでも仕方がないのも事実だ。どれだけ後悔しようが過去は変えられないしな。
「うん、よし。すべてを忘れよう」
「はぁ」
俺の決意を適当に聞き流して、ティアンが横に座り早速教科書を広げる真面目さを発揮している。おまえは今まで勉強してたんじゃなかったのか? そんなに勉強好きなの?
「ユリス様。ちゃんと予習はしましたか」
「してるわけないだろ」
「開き直りがすごいですね」
こっちはそれどころじゃなかったんだ。まったく。
時間通りにやって来たカル先生は俺らを見るなり眉を顰めた。
「なにかありました?」
「とんでもない事件がありました」
「……左様で」
壁際に佇むジャンは青い顔で首を左右に振っている。それを見て何かを察したらしいカル先生はそれ以上突っ込んでくることはなかった。さすがです。
「では授業を始めましょう。予習はやりましたか?」
「ユリス様はやってないです!」
とりあえずティアンの裏切りが酷い。
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