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19 sideクレイグ

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 いつも通り訓練場にて鍛錬に勤しんでいた時である。それは唐突に訪れた。

 ちょこまかと視界を掠めた小さな影に、ぎょっと息を呑む。

 ユリス様だ。隣には息子のティアンもいる。どうやら騎士団の見学に来たようだ。
 そういえば最近、ユリス様が騎士に興味津々だという話をブルース様から聞かされていた。どうやらブルース様付きのアロンが元凶らしい。あの男は裏表の激しい奴だ。ユリス様の前ではしっかり猫を被っているらしいアロンに、年若のお坊ちゃんが懐くのは自然な流れだろう。

 まったく、アロンの奴め。上手いこと取り入ったものだ。

 ブルース様に苦手意識を持っているらしいユリス様は、普段は滅多に騎士団本部には近づかない。しかし本日ブルース様は不在である。

 こっそりと息を吐く。

 どうやら隠密行動をしているつもりらしいが気配でバレバレだ。どうしたものか。
 騎士たちも気付いているらしく、チラチラと好奇や嫌悪を含んだ目線が飛んでいる。厄介なことになる前にどうにかしなければ。

 大きく手を叩いて騎士たちの注目を集める。

「いつも通り、訓練に集中するように」

 その言葉だけで察してくれたようだ。以降、騎士たちがユリス様へ視線を送ることはない。

 本音を言えば危ないので見学はやめて欲しい。ここにブルース様がいればすぐにでも取っ捕まえに行っていただろう。でも私がそれをするわけにはいかない。頼みのアロンもブルース様についており不在だ。

 本当にどうしたものか。

 ゆるく思案していたが、ふとユリス様の視線の先を追って動きを止める。ユリス様はなにやら熱心な様子で騎士のひとりを見つめている。

 ロニーだ。
 裏表のあるアロンと違い、好青年の彼だ。ユリス様の視線に困惑しながらも必死に素知らぬフリを貫いている。

 一体ロニーのなにが気に入ったのか。なにやら我が愚息が叫んでいるがユリス様は動じない。

 ユリス様といえば、その冷酷な振る舞いは周知の事実だ。つい最近も我らが副団長であるセドリックが標的となった。そのため騎士の中にはユリス様をよく思わない者もいる。

 そろそろ打ち合いの練習を始めたいのだが。
 悟られない程度にユリス様を観察する。どうやらまだまだ見学を続けるつもりらしい。

 練習用に刃を潰してあるとはいえ重量のある剣であることに変わりはない。打ち合いの最中に、騎士の手元を離れて飛んでいくこともしばしばだ。安全のためにも、ユリス様には離れていただきたい。

 ユリス様の背後にはセドリックが控えている。今はただの騎士の身分に落ち着いているが、少し前は副団長の肩書を有していたのは紛れもない事実である。実力は折り紙付きだ。護衛としてこれ以上の適任はいないだろう。

 セドリックが側にいる限り危険はない。そう判断して、普段通り打ち合いの練習を始める。

 案の定、こちらの意図を察したらしいセドリックがユリス様の前に立つ。まったく出来た男である。

 現状、副団長の席は空いたままだ。これは大公様の指示でもある。どうやらユリス様の言に従ってセドリックを下ろしたはいいが後任を見つけきれないでいるようだ。大公様としてはユリス様が忘れた頃にしれっとセドリックを元の椅子に戻すつもりなのだろう。セドリックを慕う騎士たちの気持ちを考えれば良い案かもしれない。それまでの辛抱だ。

 それにしても。

 まさかブルース様が休暇を取るというユリス様付きの従者代わりにセドリックを付けるとは思わなかった。

 当然ユリス様が猛反対するかと思われたが、何故かそのまま受け入れているらしいのも奇妙な話だ。よほどブルース様に強く言われたのか。はたまた一度切り捨てた者にさして興味がないのか。いずれにせよ大きな騒動に発展せず心底安堵した。
 ティアンの話を聞く限り、どうにもユリス様はご機嫌が良いらしい。ティアンの砕けた態度を許しているのが何よりの証拠だろう。我が息子ながらユリス様に対する気安い振る舞いは肝を冷やすものがある。

 まったく、どうしてこうなったのか。
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