16 / 577
16 魔法
しおりを挟む
「そういえば、明日から新しい家庭教師が来るそうですよ。これで何人目ですか?」
「知らんけど」
早速庭に行こうとする俺を引き留めるようにティアンが疑問を呈する。そのまま椅子に腰掛けようとするティアンは、もしや庭遊びに消極的なのだろうか。そんなまさか。
「そろそろ真面目にお勉強した方がいいですよ」
もしかしてティアンって口うるさいタイプか? 小言をもらうのはブルース兄様だけで十分だ。勉強云々の話を聞き流して、俺はドアに手をかける。
「え、どこ行くんですか?」
「庭だけど」
途端にティアンが嫌そうな顔をする。こいつ子供のくせに庭遊び嫌いなの? 信じられない。
「昨日の騒ぎがあったのにですか? 懲りないですね」
「騒ぎって」
確かに大事にはなったけど。さすがにあの緊急ブザーはもう軽率に押さないから大丈夫だ。しかしティアンは動こうとしない。無口な騎士さんは俺らのやり取りを無言で見守っている。
「それよりユリス様。読書でもしませんか? 面白い本を持って来たんですよ」
「興味ない」
「じゃあお勉強でもします? 簡単なものなら僕でも教えられますよ」
「絶対に嫌」
子供に教わるとか屈辱的すぎる。これでも中身は高校生なんだ。小学生か中学生くらいの子供に教えを乞うなんて嫌すぎる。露骨に顔を顰めてやると、ティアンがやれやれと肩を竦めた。大変偉そうな態度である。
「じゃあ今日はお部屋で遊びましょう」
「ふ」
「噴水は絶対にダメです」
先越された。
てかなんだよ、その仕方がないからこっちが折れてやろう的な態度。
ドアノブを握ったまま立ち尽くす俺の側に歩み寄ってきたティアンは、そっと俺の手をノブから離そうとしてくる。反射的に力を込めて抵抗するが、さすが年上。力が強い。そういえば騎士を目指しているとか言っていたな。
そこまで考えて俺はハッとする。あの緊急ブザー事件のごたごたで有耶無耶になっていたが、確かこの世界には魔法があると言っていた!
「ティアン!」
「……嫌な予感がしますね」
勢いよく振り返った俺に、ティアンが露骨に面倒くさいという素振りをみせる。失礼な奴だ。
「ティアンは魔法使える?」
「魔法、ですか?」
ゆるく首を傾げたティアンは「使えますけど」とあっさり肯定した。
「みせて!」
「え? なんでですか」
困惑するティアンは、抜かりなく俺をドアから引き離すと壁際の騎士さんをちらりと見遣った。
「そんなもの見て面白いですか?」
「面白い」
「はぁ、そうですか」
明らかにやる気のないティアンであるが、外遊びよりもマシだと思ったのだろう。「少しだけですよ」と前置きしてから渋々魔法を見せてくれることになった。
「特別珍しいものでもないと思いますが」
そう言ったティアンはなにやら両手を組むと意識を集中する。そうして次に手を離したときには、掌から小さな炎が上がっていた。
「おぉ!」
「こんなの見て面白いですか?」
面白いに決まっている。なんせ魔法なんて初めてだ。しかしティアンはまったくわからないと小首を傾げている。
「他には?」
「え? これだけですけど」
素っ気なく答えたティアンは、小さな炎を包み込むように両手を合わせて早々に火を消してしまう。どうやら乗り気ではないらしい。
「そもそも魔法なんてあんまり役に立ちませんし」
「すごく便利じゃん」
「あればちょっと便利だな、程度ですよ」
そんなことある? なんだかティアンの魔法に対する評価が低すぎる。何もないところから炎を生み出すなんてそれだけですごいというのに。
「やっぱり騎士も魔法使って戦ったりするの」
「しませんよ、そんなこと」
え?
目を見開く俺に、ティアンは形の良い眉を顰める。
「そもそもこんな小さな炎でどうやって戦うんですか。せいぜい相手にちょっとした火傷を負わせるくらいですよ。まぁそれも難しいと思いますけど」
「いやいや。もっと威力を高めればさ」
「そんなのおとぎ話の中だけですよ」
ファンタジー世界の住人がなにか言ってやがる。
「え、でもすごく強い人はもっと強い魔法使えるんじゃ」
「ユリス様。現実を見てください。そんなことはあり得ません」
きっぱり言い切ったティアンが嘘を言っているようにはみえない。
えっと、これはつまり。
「魔法なんてあってもなくても変わりません。実戦においては剣が一番です」
な、なんか思ってたんと違う。
「知らんけど」
早速庭に行こうとする俺を引き留めるようにティアンが疑問を呈する。そのまま椅子に腰掛けようとするティアンは、もしや庭遊びに消極的なのだろうか。そんなまさか。
「そろそろ真面目にお勉強した方がいいですよ」
もしかしてティアンって口うるさいタイプか? 小言をもらうのはブルース兄様だけで十分だ。勉強云々の話を聞き流して、俺はドアに手をかける。
「え、どこ行くんですか?」
「庭だけど」
途端にティアンが嫌そうな顔をする。こいつ子供のくせに庭遊び嫌いなの? 信じられない。
「昨日の騒ぎがあったのにですか? 懲りないですね」
「騒ぎって」
確かに大事にはなったけど。さすがにあの緊急ブザーはもう軽率に押さないから大丈夫だ。しかしティアンは動こうとしない。無口な騎士さんは俺らのやり取りを無言で見守っている。
「それよりユリス様。読書でもしませんか? 面白い本を持って来たんですよ」
「興味ない」
「じゃあお勉強でもします? 簡単なものなら僕でも教えられますよ」
「絶対に嫌」
子供に教わるとか屈辱的すぎる。これでも中身は高校生なんだ。小学生か中学生くらいの子供に教えを乞うなんて嫌すぎる。露骨に顔を顰めてやると、ティアンがやれやれと肩を竦めた。大変偉そうな態度である。
「じゃあ今日はお部屋で遊びましょう」
「ふ」
「噴水は絶対にダメです」
先越された。
てかなんだよ、その仕方がないからこっちが折れてやろう的な態度。
ドアノブを握ったまま立ち尽くす俺の側に歩み寄ってきたティアンは、そっと俺の手をノブから離そうとしてくる。反射的に力を込めて抵抗するが、さすが年上。力が強い。そういえば騎士を目指しているとか言っていたな。
そこまで考えて俺はハッとする。あの緊急ブザー事件のごたごたで有耶無耶になっていたが、確かこの世界には魔法があると言っていた!
「ティアン!」
「……嫌な予感がしますね」
勢いよく振り返った俺に、ティアンが露骨に面倒くさいという素振りをみせる。失礼な奴だ。
「ティアンは魔法使える?」
「魔法、ですか?」
ゆるく首を傾げたティアンは「使えますけど」とあっさり肯定した。
「みせて!」
「え? なんでですか」
困惑するティアンは、抜かりなく俺をドアから引き離すと壁際の騎士さんをちらりと見遣った。
「そんなもの見て面白いですか?」
「面白い」
「はぁ、そうですか」
明らかにやる気のないティアンであるが、外遊びよりもマシだと思ったのだろう。「少しだけですよ」と前置きしてから渋々魔法を見せてくれることになった。
「特別珍しいものでもないと思いますが」
そう言ったティアンはなにやら両手を組むと意識を集中する。そうして次に手を離したときには、掌から小さな炎が上がっていた。
「おぉ!」
「こんなの見て面白いですか?」
面白いに決まっている。なんせ魔法なんて初めてだ。しかしティアンはまったくわからないと小首を傾げている。
「他には?」
「え? これだけですけど」
素っ気なく答えたティアンは、小さな炎を包み込むように両手を合わせて早々に火を消してしまう。どうやら乗り気ではないらしい。
「そもそも魔法なんてあんまり役に立ちませんし」
「すごく便利じゃん」
「あればちょっと便利だな、程度ですよ」
そんなことある? なんだかティアンの魔法に対する評価が低すぎる。何もないところから炎を生み出すなんてそれだけですごいというのに。
「やっぱり騎士も魔法使って戦ったりするの」
「しませんよ、そんなこと」
え?
目を見開く俺に、ティアンは形の良い眉を顰める。
「そもそもこんな小さな炎でどうやって戦うんですか。せいぜい相手にちょっとした火傷を負わせるくらいですよ。まぁそれも難しいと思いますけど」
「いやいや。もっと威力を高めればさ」
「そんなのおとぎ話の中だけですよ」
ファンタジー世界の住人がなにか言ってやがる。
「え、でもすごく強い人はもっと強い魔法使えるんじゃ」
「ユリス様。現実を見てください。そんなことはあり得ません」
きっぱり言い切ったティアンが嘘を言っているようにはみえない。
えっと、これはつまり。
「魔法なんてあってもなくても変わりません。実戦においては剣が一番です」
な、なんか思ってたんと違う。
714
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる