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14 団長
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「おい、ユリス」
低い声が降ってくるが、到底顔を上げる気にはなれない。横に並ぶティアンが遠い目をしている。なんで初日からこんな騒動に巻き込まれなければならないのかと言いたげだ。
背後では青い顔のジャンがいまにも土下座しそうな雰囲気だった。この世界に土下座という文化があるのかは知らんけど。
「も、申し訳ありません。ブルース様」
地面に膝をついたジャンは震える声で謝罪を繰り返している。それを冷ややかな目で見下ろす兄様。
どうするんだ、この状況。
どうやら俺が押した小型マンホール(仮)は緊急時にそれを騎士団に知らせるための代物だったらしい。要するに緊急ブザーだ。魔法が組み込んであり、ボタンが押されるとその発信場所が騎士団本部に伝わり、近くの騎士が出動するという仕組みらしい。
当然、俺らも集まった騎士に囲まれた。その中になぜかブルース兄様もいた。この人はいつから騎士団員になったのか。当たり前みたいな顔で混じるのはやめて欲しい。
周囲を見渡した騎士たちはおおよその事情を察したらしい。なんとも言えない目がこちらに向けられる。
「まぁまぁ。何事もなくてよかったじゃないですか。それに、きちんと仕組みが作動するってこともわかりましたし。いい訓練になりましたよ。ね? ユリス様」
青筋を浮かべるブルース兄様を宥めるアロンが輝いてみえる。やっぱり優しい人だ。縋るようにアロンへ顔を向けると、その横からガタイの良い男が前に出てくる。
薄青の髪を刈り上げた男でがっしりとした体つき。三十代後半くらいだろうか。腰に剣を携える姿は様になっている。なんというか風格のある男だ。
「申し訳ありません、ブルース様。愚息がついていながらこのような騒動に」
キリッとした眉を困ったように下げた男は、その視線をティアンへと向けた。それを受けて、ティアンが一歩前に出る。
「そうだ。紹介しますね、ユリス様。父のクレイグです」
この状況で父親の紹介なんてするなよ。どういう神経してんだ、こいつ。確かに髪色とか一緒だけど。
息子の愚行に、クレイグが苦笑する。相好を崩すと途端に親しみやすい雰囲気を醸し出す男だ。
「騎士団長のクレイグです。どうぞお見知りおきを」
「ど、どうも」
握手を求められて反射的に応じる。鍛えているとわかるゴツい手が俺の小さな手をしっかり包み込む。
てか団長って。偉い人じゃん。そんな人の息子だったのか、ティアン。
「僕も将来騎士団を目指しているんですよ」
隣のティアンが、そんなことを小声で耳打ちしてくる。その話今じゃないとダメ?
「……おい、話をそらすな」
低い声が頭上から降ってくる。ブルース兄様は相当お怒りのようだ。再び重い沈黙に包まれる。
「でも押せと言ったのはそこの従者ですよ」
「え」
ティアンによる突然の暴露に、ジャンが肩を揺らす。うん、まぁ確かに。どうぞって言ったな、こいつ。
再び矢面に立たされたジャンの顔面は蒼白だ。ブルース兄様の鋭い視線がジャンをとらえる。
「……ジャン」
「申し訳ありません!」
ガバリと頭を下げるジャンに、アロンが小さく苦笑する。
「まぁ、ジャンは従者としての経験が浅いですから。というか新人のジャンを従者に据えたのはブルース様ではないですか」
だから大目に見てやれと肩をすくめるアロンはマジで優しい。俺も見習わないと。ジャンを助けるべく、俺は一歩前に出てブルース兄様を見上げる。
「そうですよ、兄様。大目に見てやってください」
「押したのはおまえだろうが。何を他人事みたいに言ってやがる」
「……ジャンに押せと言われたので」
「ユリス様⁉︎」
うーん、ごめんジャン。だってブルース兄様の目が怖いんだもん。
あっさり引き下がった俺の腕を、なぜかティアンが得意気に掴んだ。そうして胸を張ってこう宣言した。
「ご安心ください。今後は僕がきちんと見ておきますので」
「子供に面倒見てもらうのはちょっと」
俺の高校生としてのプライドが許さない。断固拒否させてもらおう。
「いや、だからおまえの方が子供だろうが」
やれやれと息を吐いたブルース兄様は、俺らをみてこめかみを押さえた。
低い声が降ってくるが、到底顔を上げる気にはなれない。横に並ぶティアンが遠い目をしている。なんで初日からこんな騒動に巻き込まれなければならないのかと言いたげだ。
背後では青い顔のジャンがいまにも土下座しそうな雰囲気だった。この世界に土下座という文化があるのかは知らんけど。
「も、申し訳ありません。ブルース様」
地面に膝をついたジャンは震える声で謝罪を繰り返している。それを冷ややかな目で見下ろす兄様。
どうするんだ、この状況。
どうやら俺が押した小型マンホール(仮)は緊急時にそれを騎士団に知らせるための代物だったらしい。要するに緊急ブザーだ。魔法が組み込んであり、ボタンが押されるとその発信場所が騎士団本部に伝わり、近くの騎士が出動するという仕組みらしい。
当然、俺らも集まった騎士に囲まれた。その中になぜかブルース兄様もいた。この人はいつから騎士団員になったのか。当たり前みたいな顔で混じるのはやめて欲しい。
周囲を見渡した騎士たちはおおよその事情を察したらしい。なんとも言えない目がこちらに向けられる。
「まぁまぁ。何事もなくてよかったじゃないですか。それに、きちんと仕組みが作動するってこともわかりましたし。いい訓練になりましたよ。ね? ユリス様」
青筋を浮かべるブルース兄様を宥めるアロンが輝いてみえる。やっぱり優しい人だ。縋るようにアロンへ顔を向けると、その横からガタイの良い男が前に出てくる。
薄青の髪を刈り上げた男でがっしりとした体つき。三十代後半くらいだろうか。腰に剣を携える姿は様になっている。なんというか風格のある男だ。
「申し訳ありません、ブルース様。愚息がついていながらこのような騒動に」
キリッとした眉を困ったように下げた男は、その視線をティアンへと向けた。それを受けて、ティアンが一歩前に出る。
「そうだ。紹介しますね、ユリス様。父のクレイグです」
この状況で父親の紹介なんてするなよ。どういう神経してんだ、こいつ。確かに髪色とか一緒だけど。
息子の愚行に、クレイグが苦笑する。相好を崩すと途端に親しみやすい雰囲気を醸し出す男だ。
「騎士団長のクレイグです。どうぞお見知りおきを」
「ど、どうも」
握手を求められて反射的に応じる。鍛えているとわかるゴツい手が俺の小さな手をしっかり包み込む。
てか団長って。偉い人じゃん。そんな人の息子だったのか、ティアン。
「僕も将来騎士団を目指しているんですよ」
隣のティアンが、そんなことを小声で耳打ちしてくる。その話今じゃないとダメ?
「……おい、話をそらすな」
低い声が頭上から降ってくる。ブルース兄様は相当お怒りのようだ。再び重い沈黙に包まれる。
「でも押せと言ったのはそこの従者ですよ」
「え」
ティアンによる突然の暴露に、ジャンが肩を揺らす。うん、まぁ確かに。どうぞって言ったな、こいつ。
再び矢面に立たされたジャンの顔面は蒼白だ。ブルース兄様の鋭い視線がジャンをとらえる。
「……ジャン」
「申し訳ありません!」
ガバリと頭を下げるジャンに、アロンが小さく苦笑する。
「まぁ、ジャンは従者としての経験が浅いですから。というか新人のジャンを従者に据えたのはブルース様ではないですか」
だから大目に見てやれと肩をすくめるアロンはマジで優しい。俺も見習わないと。ジャンを助けるべく、俺は一歩前に出てブルース兄様を見上げる。
「そうですよ、兄様。大目に見てやってください」
「押したのはおまえだろうが。何を他人事みたいに言ってやがる」
「……ジャンに押せと言われたので」
「ユリス様⁉︎」
うーん、ごめんジャン。だってブルース兄様の目が怖いんだもん。
あっさり引き下がった俺の腕を、なぜかティアンが得意気に掴んだ。そうして胸を張ってこう宣言した。
「ご安心ください。今後は僕がきちんと見ておきますので」
「子供に面倒見てもらうのはちょっと」
俺の高校生としてのプライドが許さない。断固拒否させてもらおう。
「いや、だからおまえの方が子供だろうが」
やれやれと息を吐いたブルース兄様は、俺らをみてこめかみを押さえた。
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