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第5話 あやかしだって前進したい!

6 長生きな化け猫

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「そういえば山瀬さん。なんでこの間、僕のこと置いて帰ったんですか」

 あれは一週間ほど前。化け猫の八太さんを探していたときのことである。見知らぬ土地に僕ひとりを残して、山瀬さんはとっとと立ち去ってしまったのだ。そのときのことを思い出して半眼となれば、前を歩いていた山瀬さんがびくりと肩を揺らした。

「……山瀬は猫だからな」

 苦し紛れに吐き出された言葉は、なんの答えにもなっていない。猫だからなんだ。

「あの後、八太さんを見つけられたからよかったですけど。ちゃんと帰りは送ってくれるって言っていたじゃないですか」
「む。そうだったか?」

 視線を彷徨わせて、とぼけてみせる。

「山瀬さん……」

 非難の目を向けるが、山瀬さんは知らん顔だ。

「朱音の家は知っているか?」
「一度行ったことがありますけど」

 あからさまに話を逸らされた。まぁ、僕も器が小さいわけではないからこれ以上の追及は勘弁してやろう。大人な態度をとると、山瀬さんがにやりと口元を引き上げた。

「そうか。なんの面白味もなかっただろう?」

 なぜ恵さんといい、あやかしは部屋に面白味を求めるのか。別に必要ないだろう。そう思いつつも頷けば、山瀬さんは足取り軽く先へと進む。

「あそこはペット禁止なんだ。だから行くときにはわざわざ人間に化けているのだ。山瀬は気遣いのできる化け猫だからな」

 気遣いのできる化け猫か。だったら僕を置いて行ったのはなんだったんだ? 問い詰めたい衝動に駆られるも、ぐっと我慢する。

「優斗の家はペット禁止か?」
「いや、うちは別に禁止ってわけじゃないですけど」
「じゃあ近々遊びに行くとしよう」

 猫の姿でか? できれば人間に化けてから来てもらいたいのだが。

「八太とマリもいなくなって、寂しくなったしなぁ」

 しみじみと呟いて、山瀬さんは俯いた。思い出しているのは、先日この町を去った八太さんとマリさんのことだ。

「ふたりとも、元気でしょうか」

 長生きのあやかしには、彼らなりの事情がある。

「うむ。あいつらは大丈夫だろう。新しい土地で上手くやっているさ。特にマリは美猫だからな。すぐにでも飼い主は見つかるさ」
「あー、マリさんがきれいっていうのはわかります」

 純白の毛並みを持つマリさんは、やはり猫の目から見ても美しい部類に入るらしい。

「山瀬さんは、この町にいて大丈夫なんですか?」

 ふと気になって尋ねる。
 長生きな化け猫は、ある程度の時が経過したらその土地を移動しなければならない。怪しまれずに人間と上手く生きていく、彼らなりの工夫なのだ。

 山瀬さんも、八太さんたちと一緒に行かなくてもよかったのだろうか。

「山瀬は大丈夫だ。いまの飼い主と出会ってまだ五年ほどしか経っていないからな。老い先短い老夫婦だ。せめて山瀬くらいは最後まで一緒にいてやらねばな。それが山瀬にできる恩返しだ」
「山瀬さん……」

 ぐっと胸が詰まった。きっと山瀬さんはいまの飼い主が大好きなのだろう。やや視線を逸らして放った彼は、照れくさそうに頬を掻いた。
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