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第1話 あやかしだって恋愛したい!

16 信じてやってもいいけど

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「いやぁ、お手柄でしたね。優斗さん」
「宮下さんのせいで僕けっこうピンチだったんですけど」
「終わったことを気にしていてはだめですよぉ。前に進まないと」

 あの後、雪乃さんと和之さんの仲は上手く修復できたようだ。和之さんは雪乃さんを怖がらず、決しておもしろがるようなことはしなかった。純粋に、雪乃さんを心配していたのだ。

 ふたりの邪魔をしては悪いと宮下さんに背中を押され、僕たちは早々に雪乃さん宅を立ち去っていた。やって来たのは、当然のように僕の自宅。宮下さんが淹れたコーヒーを、なぜかリビングで囲んでいる。

「和之さんがあやかしの存在を公にしようと考えていたら、私たちも対応を考えなければいけませんでしたからねぇ。いやはや、優斗さんには助けられました。やはり、事務所に人間を招くべきという私の考えは間違っていなかったわけです」

 宮下さんは上機嫌で笑っている。

 しかし、もしも和之さんがあやかしの存在をおもしろおかしく扱うつもりだったならば、一体どうしていたのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、僕の隣に座っていた朱音が前を向いたまま補足する。

「あやかしの存在を悪用する人間は、記憶を消すのが一番です。そのために、俺がいます」

 記憶を消す? 随分と物騒だ。

「優斗さん、これであやかしの存在信じてくれました?」

 朱音が僕に丁寧な態度をとるのは、宮下さんが一緒にいるからだ。
 朱音と宮下さんの視線が僕に突き刺さる。

「あやかし……」

 つまり、朱音たちの話を信じるかということだ。

 あやかしなんているわけない。そう思うのに、口にできない自分がいる。否定しようとすれば、雪乃さんと和之さんの顔が頭をよぎる。

「宮下さんと、朱音はあやかしだってことですよね?」

 ふたりが頷く。確かにふたりは変わり者で、不思議な存在だ。あやかし、か。そんな非科学的な存在、以前ならばいるわけないと突っぱねていただろう。雪女である雪乃さんをすんなりと受け入れた和之さんを思い出す。

「……信じてやっても、いいけど」

 口を突いて出たのは、そんな偉そうな物言いだった。間違えた。また朱音に睨まれる。びくびくして彼に視線を遣って、僕は虚を突かれた。

「ありがとうございます」

 そこには、穏やかな笑みを浮かべる朱音がいた。
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