62 / 81
番外編
ふたりのその後3
しおりを挟む
「エドワード! 仕事終わったよ!」
「はやいな」
まだ午前中だぞ、と首を傾げるエドワードはなにやらバタバタしている。どうやら仕事が忙しいらしい。王太子も大変だな。なにをやっているのかはまったくわからないが、とにかく忙しそう。
「大丈夫? 僕も手伝おうか?」
「いや、気持ちだけもらっておこう」
謙虚なエドワードは僕の申し出を辞退してしまう。そんな僕に気を使う必要ないのに。仕事くらいいくらでも手伝ってやるぞ?
「リア様に任せると二度手間ですからね」
急に口を開いたと思ったら、僕に対する嫌味を吐き捨てるスコット。なんだあいつ。相変わらず失礼な奴だ。
「でも僕、副団長の手伝い頑張ってるよ。今日も仕事してきた」
胸を張って成果を報告すれば、エドワードとスコットが揃ってザックに視線を向ける。一瞬だけ怯んだザックであったが、すぐに「頑張ると言ってもリア様ですから」とよくわからない主張をし始めた。どういう意味だよ。
「なあ、リア」
「なに? エドワード」
仕事の手を止めて、エドワードがこちらを覗き込んでくる。とりあえず可愛く笑っておいてやる。だがエドワードは微妙な表情を見せた。
「私が働けと言った手前ちょっとあれなんだが」
「ん?」
「副団長が困っているからやめてやれ?」
「なにを?」
眉を顰めたエドワードは「おまえに仕事は早かったな」ととんでもないことを言い始める。抗議しようとするも、ザックがうんうん頷いており、スコットも「そうですね。副団長が気の毒なのでやめましょうよ、このシステム」と言い出す始末である。どういうことだよ。
「でも働かないとエドワードがお金くれない」
「私が悪かった。人には向き不向きがあったな」
突然の謝罪に戸惑う僕。
よくわからんが、働かなくて良くなったらしい。それ自体はラッキーだが、僕貶されてないか? 気のせい?
とりあえず場の空気を変えようと可愛くへへっと笑えば、エドワードはどこか遠くを見つめていた。「おまえ、今までどうやって生きてきたんだ?」と前触れなく僕の過去を詮索してこようとするエドワード。どうって、普通に生きてきたよ。
「あ、でも僕ね。実家に仕送りしてるんだ。偉いだろ」
「……その金はどこから?」
変な顔をするエドワード。ここはちゃんと親孝行してて偉いと誉める場面だろ。なんだその疑いの目は。だが金の出所なんてひとつしかない。訊くまでもないと思うが、一応お答えしておいてやる。
「なんか色々な男からもらったやつ」
「……それは、ご存知なのか? おまえのご両親は」
「あー。知らないと思うよ? 僕、酒場で働いてるって設定になってるから」
「設定て」
でも少し前までの僕は酒場に入り浸って金持ちの男を探していた。もはや酒場が職場だと言っても過言ではない。だからまったくの嘘ではないと思う。それに最近はやってない。浮気だなんだとエドワードが騒ぐからな。大丈夫、と宣言するがエドワードは苦い顔だ。
「リアのご両親にも挨拶しないとな」
「えー? なんか恋人っぽいね」
「ぽいじゃなくて。恋人だろう?」
いつの間にか側に寄って来ていたエドワードが、すっと僕の顎を掬う。青い瞳を見上げて、なんだか照れ臭くなってくる。いつの間にかスコットとザックの姿が消えている。気を遣って退出したらしい。
「でもいきなり彼氏できたって言ったらビックリしちゃうよ。しかも相手が王太子殿下とか」
驚愕し過ぎて心臓止まったらどうしよう。息子が彼氏連れてくるのも予想外だと思うけど、相手が王族とかもはや信じてもらえない可能性すらある。
だがエドワードは柔らかく微笑む。
「大丈夫。ちゃんとわかってもらえるまで説明するさ」
「えー?」
なんか必死なエドワードが珍しくて顔がにやけてしまう。首に手を回してキスをねだれば、エドワードが小さく笑って応じてくれる。
「エドワードは僕のどこが好き?」
「全部」
なにそののろけた答え。
ニマニマしながら「えー?」と笑えば、エドワードが再びキスを落としてくる。
「リアは? 私のどこが好きなんだ。金以外で」
「ん。顔」
「それだけか?」
「優しいとこも好きだよ。あ、でも怒ると怖いから怒らないでね」
「おまえが余計なことをしなければな」
余計なことってなんだよ。僕がいつやったよ、そんなこと。
ムスッと抗議すれば、エドワードが噴き出した。
「リアはいつ見ても可愛いな」
「当然」
なんせ王太子殿下を捕まえた傾国なので。可愛いに決まっている。今更なにを言い出すんだか。
「じゃあ私は仕事があるから。大人しくしておけよ?」
「はーい」
入念に「いらんことをするな」と僕に言いつけたエドワードは仕事へと戻るらしい。だからいらんことってなんだよ。僕がなにをするって言うんだ。
「エドワードの相手も大変だな」
やれやれと肩をすくめてやれば、今まさに扉をくぐろうとしていたエドワードが勢いよく振り返った。
「それは私のセリフだ」
「なんでだよ」
「はやいな」
まだ午前中だぞ、と首を傾げるエドワードはなにやらバタバタしている。どうやら仕事が忙しいらしい。王太子も大変だな。なにをやっているのかはまったくわからないが、とにかく忙しそう。
「大丈夫? 僕も手伝おうか?」
「いや、気持ちだけもらっておこう」
謙虚なエドワードは僕の申し出を辞退してしまう。そんな僕に気を使う必要ないのに。仕事くらいいくらでも手伝ってやるぞ?
「リア様に任せると二度手間ですからね」
急に口を開いたと思ったら、僕に対する嫌味を吐き捨てるスコット。なんだあいつ。相変わらず失礼な奴だ。
「でも僕、副団長の手伝い頑張ってるよ。今日も仕事してきた」
胸を張って成果を報告すれば、エドワードとスコットが揃ってザックに視線を向ける。一瞬だけ怯んだザックであったが、すぐに「頑張ると言ってもリア様ですから」とよくわからない主張をし始めた。どういう意味だよ。
「なあ、リア」
「なに? エドワード」
仕事の手を止めて、エドワードがこちらを覗き込んでくる。とりあえず可愛く笑っておいてやる。だがエドワードは微妙な表情を見せた。
「私が働けと言った手前ちょっとあれなんだが」
「ん?」
「副団長が困っているからやめてやれ?」
「なにを?」
眉を顰めたエドワードは「おまえに仕事は早かったな」ととんでもないことを言い始める。抗議しようとするも、ザックがうんうん頷いており、スコットも「そうですね。副団長が気の毒なのでやめましょうよ、このシステム」と言い出す始末である。どういうことだよ。
「でも働かないとエドワードがお金くれない」
「私が悪かった。人には向き不向きがあったな」
突然の謝罪に戸惑う僕。
よくわからんが、働かなくて良くなったらしい。それ自体はラッキーだが、僕貶されてないか? 気のせい?
とりあえず場の空気を変えようと可愛くへへっと笑えば、エドワードはどこか遠くを見つめていた。「おまえ、今までどうやって生きてきたんだ?」と前触れなく僕の過去を詮索してこようとするエドワード。どうって、普通に生きてきたよ。
「あ、でも僕ね。実家に仕送りしてるんだ。偉いだろ」
「……その金はどこから?」
変な顔をするエドワード。ここはちゃんと親孝行してて偉いと誉める場面だろ。なんだその疑いの目は。だが金の出所なんてひとつしかない。訊くまでもないと思うが、一応お答えしておいてやる。
「なんか色々な男からもらったやつ」
「……それは、ご存知なのか? おまえのご両親は」
「あー。知らないと思うよ? 僕、酒場で働いてるって設定になってるから」
「設定て」
でも少し前までの僕は酒場に入り浸って金持ちの男を探していた。もはや酒場が職場だと言っても過言ではない。だからまったくの嘘ではないと思う。それに最近はやってない。浮気だなんだとエドワードが騒ぐからな。大丈夫、と宣言するがエドワードは苦い顔だ。
「リアのご両親にも挨拶しないとな」
「えー? なんか恋人っぽいね」
「ぽいじゃなくて。恋人だろう?」
いつの間にか側に寄って来ていたエドワードが、すっと僕の顎を掬う。青い瞳を見上げて、なんだか照れ臭くなってくる。いつの間にかスコットとザックの姿が消えている。気を遣って退出したらしい。
「でもいきなり彼氏できたって言ったらビックリしちゃうよ。しかも相手が王太子殿下とか」
驚愕し過ぎて心臓止まったらどうしよう。息子が彼氏連れてくるのも予想外だと思うけど、相手が王族とかもはや信じてもらえない可能性すらある。
だがエドワードは柔らかく微笑む。
「大丈夫。ちゃんとわかってもらえるまで説明するさ」
「えー?」
なんか必死なエドワードが珍しくて顔がにやけてしまう。首に手を回してキスをねだれば、エドワードが小さく笑って応じてくれる。
「エドワードは僕のどこが好き?」
「全部」
なにそののろけた答え。
ニマニマしながら「えー?」と笑えば、エドワードが再びキスを落としてくる。
「リアは? 私のどこが好きなんだ。金以外で」
「ん。顔」
「それだけか?」
「優しいとこも好きだよ。あ、でも怒ると怖いから怒らないでね」
「おまえが余計なことをしなければな」
余計なことってなんだよ。僕がいつやったよ、そんなこと。
ムスッと抗議すれば、エドワードが噴き出した。
「リアはいつ見ても可愛いな」
「当然」
なんせ王太子殿下を捕まえた傾国なので。可愛いに決まっている。今更なにを言い出すんだか。
「じゃあ私は仕事があるから。大人しくしておけよ?」
「はーい」
入念に「いらんことをするな」と僕に言いつけたエドワードは仕事へと戻るらしい。だからいらんことってなんだよ。僕がなにをするって言うんだ。
「エドワードの相手も大変だな」
やれやれと肩をすくめてやれば、今まさに扉をくぐろうとしていたエドワードが勢いよく振り返った。
「それは私のセリフだ」
「なんでだよ」
550
お気に入りに追加
1,372
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
勢力争いに負けた異国の貴族の子供であるレイナードは、人質としてアドラー家に送り込まれる。彼の目的は、内情を探ること。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイどころか悪役令息続けられないよ!そんなファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
真面目で熱血漢。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。
受→レイナード
斜陽の家から和平の関係でアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる