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51 お家訪問

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「ここが僕の家です!」

 じゃーんとテンション高くご紹介してやったのにエドワードは「そうか」と軽く流してしまう。おまえが来たいって言ったんだろうが。もっと喜べ。

 空気を読んだザックだけがパチパチとまばらな拍手をしてくれる。ありがたいが、なんか虚しいからやめて欲しい。

「どうぞ!」

 大きく扉を開け放って迎え入れれば、エドワードはそわそわと室内を見渡しながら「意外と片付いているな」と失礼な感想をもらす。マジで僕どんなイメージもたれてんの?

「物が少ないだけだよ」
「あまり生活感がないな」

 おまえが言うか? エドワードが自分の部屋に泊まれとうるさいからだろ。もともとこの家は帰宅頻度が少ない。男のとこに転がり込んでばかりだからな。エドワードには言えないけど。

「本気で、一緒に住まないか?」

 遠慮を知らないエドワードが我が物顔でソファーに腰掛けたと思ったら。
 突然そんなことを言った彼は、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。

「えっとぉ」
「私はリアといつも共にいたい」

 おぉ。なんちゅう恥ずかしいことを。てれてれと頰を掻けば「じゃあそういうことで。引越しはスコットに任せる」となんだかとんでもない決定がなされた。待てい。

「いやいや。僕の家ですけど? 引越しはいいよ」
「遠慮するな」
「いやだ! 僕の家だもん!」

 ムスッとしたエドワードは「私と住むのがそんなに嫌か?」と足を組む。決めつけが酷いな。なんでそんなにネガティブなの? もっとポジティブにいこうよ。

「そうじゃなくて。べつに一緒に住むのはいいよ? でもここは必要」
「だからなぜ」
「ここ引き払ったら僕の逃げ場がなくなるじゃん!」
「そんなもの必要ないだろ。おまえまた逃げるつもりか?」
「に、逃げないとは言い切れないこともないようなあるような?」

 じりじりと後退るが、ガシッと背後から肩を掴まれた。びっくりして振り返れば、「逃げるのはやめたのでは?」と嫌味な顔をするスコットがいる。

 ひぇ。

 助けを求めて視線を彷徨わせれば、ひとり壁際に佇むザックとばっちり目があった。けれども僕が声を発する前にさっと顔を背けられてしまう。薄情者め。

「リア」

 あわあわしていると、なにやらふっと小さく笑ったエドワードと目があった。おまえ、怒ってたんじゃないのか? 不機嫌になったり笑ったり、今日のエドワードは忙しいな。

 柔らかい表情をしたエドワードは、「リアが私の元に来てくれると言うのならば今はそれでいい」とひとりで納得している。

「引越しは追々考えよう。とりあえず必要な物だけ運ぶぞ」
「う、うん」

 よかった。とりあえず今すぐの引越しは免れた。適当に必要そうな服なんかを準備する。本当はひとりで帰宅してゆっくりするつもりだったのに、まるでエドワードの部屋へのお泊まり準備に帰ってきたみたいになっている。別にいいけどさ。

 そんな僕を興味深そうに眺めているエドワードは手伝ってくれる様子がない。しかしずっと楽しそうだ。

「リア」
「んー?」

 ふふっと笑うエドワードは相当浮かれているらしい。用もなく僕の名前を呼ぶんじゃない。

「エドワード!」

 仕返しにビシッと名前を呼んでやれば、エドワードがふやけた顔をする。

 お、おぉ。

 なんだその顔は。いつもの隙のない王子様の仮面はどこにやったんだ。なんだか落ち着かなくてちらちらとエドワードの金髪を目で追っていれば、すかさずエドワードが微笑んでくる。まるで恋人に向けるみたいな甘い笑みである。

 そういや、一応恋人みたいな感じだったな、僕ら。なんか照れるな?
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