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41 そういう生き方

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「世話になったな、ルース!」
「どういうテンションなの?」

 翌朝。
 朝ごはんを食べて身支度を済ませたルースは出勤する時間だ。僕も一緒に部屋を出る。

「君も仕事でしょう?」
「ううん。僕今日休み」

 しれっと嘘をついてルースと別れる。休みどころか王宮から逃げてきたのだ。絶対にあそこには戻れない。地味なリアム姿の僕は、早足に道を行く。

 これから本命の避難場所に駆け込むつもりである。ほぼ手ぶらの状態だが大丈夫だろう。自宅には戻れない。あそこは多分すでにスコットが手を回しているはずだ。

 なにやらエドワードは僕に対する執着がすごいからな。愛人とか作るの初めてなのかもしれない。加減が全くわかっていないのだ。なんで僕がなにからなにまであいつの世話をしてやらないといけないのか。

 だがそのうち新しい愛人でも見つけるだろう。てか本命のお嬢様がいるに違いない。だって王太子だし。婚約者がいてもおかしくはない。

 すたすた歩いて目的地が見えてきた。繁華街から外れた通り。そこに佇む立派な門こそがお目当ての建物だ。

 門前には警戒にあたる門番の男がふたり。相変わらずわかりやすいくらい金持ちの屋敷だ。ガタイのいい門番に近寄って行くと、じろりと凝視される。だが少し前まで何度も通っていた屋敷だ。こいつらとも顔見知りである。

 眼鏡を外してへらりと笑えば、僕の顔を思い出してくれたらしい門番が目を見開く。

「リアさん⁉︎」
「久しぶり。ダニエルいる?」
「お待ち下さ、いや、どうぞ中へ」

 動揺しているらしい彼らはあっさり僕を通してくれた。よしよし。第一関門クリアだ。

 そのまま客間に案内された僕は、まったりとお目当ての人物を待つ。運良く在宅中らしく、しばらく待つよう言われた。やがて廊下が騒がしくなる。

「おいおい。なんだよ、急に。俺のことは忘れたんじゃなかったのか」
「ごめーん。あの時はちょっとド忘れしてただけだもん」
「いや本当に忘れてたのかよ」

 てっきり新しい男の手前知らないふりでもしてんのかと思っていたのに、と呆れ顔をみせる男こそ、先日エドワードと訪れた店で偶然鉢合わせた過去のセフレである。名前はダニエル。二日ほど考えてようやく思い出した。頑張ったぞ、僕。

「しばらく泊めて!」
「断る」
「……はぁ?」

 可愛い僕がこんなにお願いしてるのに? 断るとか信じられない。一体どういうつもりだ。

「泊めて」
「だから断るって」

 聞き間違いでもしたのかと思って、もう一度お願いしてみるが答えは変わらなかった。

 は?

 まさか断られるなんて想定もしていなかった僕は、呆然と立ち尽くす。

 え? ここからどうすんの?

 見た目だけは上品なダニエルは、憮然と僕を見下ろしている。中身は全然お上品じゃないな、こいつ。一応ここらで有名な貴族の息子だ。だが長男が跡を継ぎ、次男であるダニエルは実家を出て好き勝手に生活している。貿易事業にも手を出しているらしく、手広く儲かりそうな事業をやっている要領の良さ。この屋敷もこの男が己の稼ぎで建てた家であり、とにかく金だけは持っている男なのだ。

「泊めて?」

 とりあえず色仕掛けでもしておこう。一度は僕と関係を持っていた男である。僕が好みから外れているというわけではあるまい。

 立ち上がって隣に並ぶ。そのまま腕を絡めて甘い声を出せば、ダニエルが眉を寄せた。

「今度はなにやらかしたんだよ」

 なぜ僕がやらかしたと決めつけているのか。だが話は聞いてくれるらしい。腕を引いてソファーに案内すれば、ダニエルはようやく腰を下ろした。するりと隣に座って、とりあえず微笑んでおく。

「ちょっとね。今のセフレが面倒で」
「逃げてきた、と」
「まぁそんな感じ」

 へへっと笑えば、ダニエルが大袈裟に額を押さえた。

「おまえマジでそのうち刺されるぞ。いい加減やめろよな、そういう生き方」
「そういう生き方?」

 なにそれ。どういう生き方?
 よくわからないが「そうだね」と肯定しておこう。

「本当にわかってんのか?」
「うんうん。次は気をつける」
「全然わかってないじゃないか。なんだよ次って」

 首を傾げたいのはこっちだ。
 だがここでダニエルの機嫌を損ねるわけにはいかない。なんとしてもこの屋敷に居座らねばならないのだから。

「まぁいいけどな。ほとぼり冷めるまで匿ってやるよ」
「やった! ありがとう」

 よしよし。なんだかんだ言って僕のこと大好きだな、こいつ。

 これで当面の寝床は確保した。よくやったぞ、僕!
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