王太子の愛人である傾国の美男子が正体隠して騎士団の事務方始めたところ色々追い詰められています

岩永みやび

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39 状況は理解した

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「ですが団長には伝えておきます。護衛の件もあります。流石に完全には黙っておけませんからね」

 まぁ、それくらいならば妥協してやろう。団長ヴィクターは寡黙そうな男だった。ギルが話を通してくれるというならば安心だ。

「それにしても、とんでもないことをしますね」

 眼鏡を外した僕をじろじろと眺めたギルは、緩く首を左右に振る。

「いつ気がついたの? 僕がリアだって」

 興味本位で訊ねてみれば、ギルが「おかしいと思ったのは昨日ですよ」と顔を顰めた。

「昨日初めてリア様のお姿を拝見いたしましたが。なにやらうちの事務官にそっくりなので驚きました」
「へ、へぇ」

 やばい。まったく誤魔化せていなかった。マジかよ。

「そんなにわかりやすい? 普段は気弱な事務官を演じているのに」
「「気弱……?」」

 ザックとギルがふたり揃って首を捻っている。なんでだよ。事務官リアムは気弱って設定なんだぞ。僕はずっと忠実にその設定を守っている。

「あれだけ好き勝手にやっておいてよく言いますね」

 怖いものでも見るかのように失礼な目線を向けてくるザックは酷いことを言う。好き勝手にやった覚えはないが?

「気弱な事務官は遅刻してきた上に私から休みをもぎ取ったりはしません」

 だってそれはエドワードがうるさいから仕方がなく。なにやら僕を馬鹿にしてくる騎士ふたり。

 ムスッとしていれば、ギルがザックを振り返る。

「くれぐれも目を離さないようにお願いしますよ」
「お任せください」

 なんだその念押しは。僕は子供じゃないぞ、まったく。


※※※


「なんとかなったな!」
「なんとかなりましたか?」

 ギルが去った後。

 事務室に残された僕は、とりあえずなんとかなった喜びを噛み締める。ギルとの間でエドワードに全部白状すると約束させられたが、このままズルズル引き延ばす。限界まで引き延ばす。だってエドワードに怒られるのはごめんだもん。

 そんな僕を白い目で見つめてくるザックは、相変わらずネガティブで困る。人生意外とどうにかなるものだ。僕が教えてやらねば。

「エドワードは鈍感だから。僕が働いてるって気付いていないと思うよ」
「あの殿下を鈍感呼ばわりするのはリア様くらいですよ」

 それってどういう意味だろ? 畏れ多いってことか?

 どうやらギルは、この件を団長ヴィクターに報告に行ったらしい。黙っていてくれてもいいのに。真面目な男だな。

「それで? これから本当にどうするおつもりですか。まさか本当に黙っておくつもりですか?」
「そのつもりだけど」
「無理だと思いますよ。副団長と団長にまで話が広まりました。殿下のお耳に入るのも時間の問題かと」
「そうかな? でも副団長って約束は守ってくれそうだけど」

 僕からエドワードに伝えると約束した以上、僕が話すまでエドワードには内緒にしてくれると思う。

 だがザックは「んな単純な話ではないです」と暗い顔をする。

「おそらくですが、スコット殿あたりまではすぐに話が上がると思いますよ」
「え!」

 なんで? そういやあいつ近衛騎士だったな。エドワードの側近であるスコットの耳に入れば、それはもうエドワードの耳に入るも同然だ。あいつはすごく口が軽い。僕のやったこと全部をエドワードに報告してしまうくらいには口が軽い。

「困るんだけど?」
「団長、副団長からは直接殿下には報告しないとの約束でしたからね。あのふたり、スコット殿には伝えると思いますよ。なんせリア様のことを一番熟知しているのが彼なので。その上であとは知らん振り。スコット殿が勝手に殿下に話を漏らせば万事解決というわけです」
「ひどい罠だ」

 なんてことだ。このままではマジでエドワードに全部バレてしまう。そうなれば今までの努力が水の泡だ。

「……エドワードにバレてもさ、このまま働いていいよって言ってくれないかな?」
「無理じゃないですか」

 だよね。
 なんか自分の女を働かせる趣味はない的なこと言ってたし。僕男だけど。

「ピンチだ。すごくピンチだ」
「ようやく状況を理解していただけましたか」

 偉そうに短く息を吐いたザック。

「どうすればいい⁉︎」
「スコット殿に話が行く前にご自分から殿下に白状してはどうですか」

 適当なことを言うザックは役に立たない。こんな時ってどうすればいいんだ!
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