39 / 86
39 状況は理解した
しおりを挟む
「ですが団長には伝えておきます。護衛の件もあります。流石に完全には黙っておけませんからね」
まぁ、それくらいならば妥協してやろう。団長ヴィクターは寡黙そうな男だった。ギルが話を通してくれるというならば安心だ。
「それにしても、とんでもないことをしますね」
眼鏡を外した僕をじろじろと眺めたギルは、緩く首を左右に振る。
「いつ気がついたの? 僕がリアだって」
興味本位で訊ねてみれば、ギルが「おかしいと思ったのは昨日ですよ」と顔を顰めた。
「昨日初めてリア様のお姿を拝見いたしましたが。なにやらうちの事務官にそっくりなので驚きました」
「へ、へぇ」
やばい。まったく誤魔化せていなかった。マジかよ。
「そんなにわかりやすい? 普段は気弱な事務官を演じているのに」
「「気弱……?」」
ザックとギルがふたり揃って首を捻っている。なんでだよ。事務官リアムは気弱って設定なんだぞ。僕はずっと忠実にその設定を守っている。
「あれだけ好き勝手にやっておいてよく言いますね」
怖いものでも見るかのように失礼な目線を向けてくるザックは酷いことを言う。好き勝手にやった覚えはないが?
「気弱な事務官は遅刻してきた上に私から休みをもぎ取ったりはしません」
だってそれはエドワードがうるさいから仕方がなく。なにやら僕を馬鹿にしてくる騎士ふたり。
ムスッとしていれば、ギルがザックを振り返る。
「くれぐれも目を離さないようにお願いしますよ」
「お任せください」
なんだその念押しは。僕は子供じゃないぞ、まったく。
※※※
「なんとかなったな!」
「なんとかなりましたか?」
ギルが去った後。
事務室に残された僕は、とりあえずなんとかなった喜びを噛み締める。ギルとの間でエドワードに全部白状すると約束させられたが、このままズルズル引き延ばす。限界まで引き延ばす。だってエドワードに怒られるのはごめんだもん。
そんな僕を白い目で見つめてくるザックは、相変わらずネガティブで困る。人生意外とどうにかなるものだ。僕が教えてやらねば。
「エドワードは鈍感だから。僕が働いてるって気付いていないと思うよ」
「あの殿下を鈍感呼ばわりするのはリア様くらいですよ」
それってどういう意味だろ? 畏れ多いってことか?
どうやらギルは、この件を団長ヴィクターに報告に行ったらしい。黙っていてくれてもいいのに。真面目な男だな。
「それで? これから本当にどうするおつもりですか。まさか本当に黙っておくつもりですか?」
「そのつもりだけど」
「無理だと思いますよ。副団長と団長にまで話が広まりました。殿下のお耳に入るのも時間の問題かと」
「そうかな? でも副団長って約束は守ってくれそうだけど」
僕からエドワードに伝えると約束した以上、僕が話すまでエドワードには内緒にしてくれると思う。
だがザックは「んな単純な話ではないです」と暗い顔をする。
「おそらくですが、スコット殿あたりまではすぐに話が上がると思いますよ」
「え!」
なんで? そういやあいつ近衛騎士だったな。エドワードの側近であるスコットの耳に入れば、それはもうエドワードの耳に入るも同然だ。あいつはすごく口が軽い。僕のやったこと全部をエドワードに報告してしまうくらいには口が軽い。
「困るんだけど?」
「団長、副団長からは直接殿下には報告しないとの約束でしたからね。あのふたり、スコット殿には伝えると思いますよ。なんせリア様のことを一番熟知しているのが彼なので。その上であとは知らん振り。スコット殿が勝手に殿下に話を漏らせば万事解決というわけです」
「ひどい罠だ」
なんてことだ。このままではマジでエドワードに全部バレてしまう。そうなれば今までの努力が水の泡だ。
「……エドワードにバレてもさ、このまま働いていいよって言ってくれないかな?」
「無理じゃないですか」
だよね。
なんか自分の女を働かせる趣味はない的なこと言ってたし。僕男だけど。
「ピンチだ。すごくピンチだ」
「ようやく状況を理解していただけましたか」
偉そうに短く息を吐いたザック。
「どうすればいい⁉︎」
「スコット殿に話が行く前にご自分から殿下に白状してはどうですか」
適当なことを言うザックは役に立たない。こんな時ってどうすればいいんだ!
まぁ、それくらいならば妥協してやろう。団長ヴィクターは寡黙そうな男だった。ギルが話を通してくれるというならば安心だ。
「それにしても、とんでもないことをしますね」
眼鏡を外した僕をじろじろと眺めたギルは、緩く首を左右に振る。
「いつ気がついたの? 僕がリアだって」
興味本位で訊ねてみれば、ギルが「おかしいと思ったのは昨日ですよ」と顔を顰めた。
「昨日初めてリア様のお姿を拝見いたしましたが。なにやらうちの事務官にそっくりなので驚きました」
「へ、へぇ」
やばい。まったく誤魔化せていなかった。マジかよ。
「そんなにわかりやすい? 普段は気弱な事務官を演じているのに」
「「気弱……?」」
ザックとギルがふたり揃って首を捻っている。なんでだよ。事務官リアムは気弱って設定なんだぞ。僕はずっと忠実にその設定を守っている。
「あれだけ好き勝手にやっておいてよく言いますね」
怖いものでも見るかのように失礼な目線を向けてくるザックは酷いことを言う。好き勝手にやった覚えはないが?
「気弱な事務官は遅刻してきた上に私から休みをもぎ取ったりはしません」
だってそれはエドワードがうるさいから仕方がなく。なにやら僕を馬鹿にしてくる騎士ふたり。
ムスッとしていれば、ギルがザックを振り返る。
「くれぐれも目を離さないようにお願いしますよ」
「お任せください」
なんだその念押しは。僕は子供じゃないぞ、まったく。
※※※
「なんとかなったな!」
「なんとかなりましたか?」
ギルが去った後。
事務室に残された僕は、とりあえずなんとかなった喜びを噛み締める。ギルとの間でエドワードに全部白状すると約束させられたが、このままズルズル引き延ばす。限界まで引き延ばす。だってエドワードに怒られるのはごめんだもん。
そんな僕を白い目で見つめてくるザックは、相変わらずネガティブで困る。人生意外とどうにかなるものだ。僕が教えてやらねば。
「エドワードは鈍感だから。僕が働いてるって気付いていないと思うよ」
「あの殿下を鈍感呼ばわりするのはリア様くらいですよ」
それってどういう意味だろ? 畏れ多いってことか?
どうやらギルは、この件を団長ヴィクターに報告に行ったらしい。黙っていてくれてもいいのに。真面目な男だな。
「それで? これから本当にどうするおつもりですか。まさか本当に黙っておくつもりですか?」
「そのつもりだけど」
「無理だと思いますよ。副団長と団長にまで話が広まりました。殿下のお耳に入るのも時間の問題かと」
「そうかな? でも副団長って約束は守ってくれそうだけど」
僕からエドワードに伝えると約束した以上、僕が話すまでエドワードには内緒にしてくれると思う。
だがザックは「んな単純な話ではないです」と暗い顔をする。
「おそらくですが、スコット殿あたりまではすぐに話が上がると思いますよ」
「え!」
なんで? そういやあいつ近衛騎士だったな。エドワードの側近であるスコットの耳に入れば、それはもうエドワードの耳に入るも同然だ。あいつはすごく口が軽い。僕のやったこと全部をエドワードに報告してしまうくらいには口が軽い。
「困るんだけど?」
「団長、副団長からは直接殿下には報告しないとの約束でしたからね。あのふたり、スコット殿には伝えると思いますよ。なんせリア様のことを一番熟知しているのが彼なので。その上であとは知らん振り。スコット殿が勝手に殿下に話を漏らせば万事解決というわけです」
「ひどい罠だ」
なんてことだ。このままではマジでエドワードに全部バレてしまう。そうなれば今までの努力が水の泡だ。
「……エドワードにバレてもさ、このまま働いていいよって言ってくれないかな?」
「無理じゃないですか」
だよね。
なんか自分の女を働かせる趣味はない的なこと言ってたし。僕男だけど。
「ピンチだ。すごくピンチだ」
「ようやく状況を理解していただけましたか」
偉そうに短く息を吐いたザック。
「どうすればいい⁉︎」
「スコット殿に話が行く前にご自分から殿下に白状してはどうですか」
適当なことを言うザックは役に立たない。こんな時ってどうすればいいんだ!
220
お気に入りに追加
1,384
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。
婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。
元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。
だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。
先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。
だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。
ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。
(……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)
家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。
だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。
そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。
『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる