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35 気難しい王子様

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 だが部屋に戻る前に一悶着あった。

「……誰ですか? 今の男」
「スコット」

 部屋の前で待ち構えていたスコットが壁にもたれて偉そうに腕を組んでいる。ひとまずスルーして室内に向かおうとするが、扉の前にスコットが移動してきたために叶わなかった。

「なにやら揉めていたようですが?」

 見られてたのかよ。まさか会話聞かれてないよな。とりあえず誤魔化さねば。

「僕が可愛いばかりに。絡まれたんだよ。ほんとだよ。別に昔のセフレとかそういうわけではないから、本当に」
「馬鹿」

 聞こえてきた罵倒に素早く振り返る。ザックが「マジで馬鹿なんですか?」と再度罵倒を口にしてくる。なにこいつ。失礼極まりないな。

「なるほど。昔のセフレねぇ。一体何人いるんだか」

 緩く首を振ったスコットは、あの男が僕のセフレだと決めつけてくる。偏見は良くないぞ。いや事実だけどさ。

「エドワードには黙っててね」

 口止め口止め。
 可愛く小首を傾げれば、スコットがすんっと真顔になる。やめろよ。怖いよ。

「まぁいいですけどね。殿下の機嫌を損ねるのは本意ではありませんし。それに殿下とお会いする前の話であれば致し方ありませんからね」

 あの男と関係を持っていたのは半年前くらいだ。絶賛エドワードの部屋に入り浸っていた時期の話である。ぱちぱちと目を瞬く僕。よくわからんがエドワードと時期が被っていたことは黙っとこう。スコットが勝手に勘違いしただけだ。うんうん。後ろのザックが変な顔をしている。バラしてくれるなよ。

 視線で黙っておけと念押しすれば、ザックが「んんっ」とわざとらしい咳払いをする。

「殿下がお待ちですよ」

 スマートに僕を促したザックはドアノブに手をかける。エドワードを待たせるわけにはいかない。スコットも渋々退いてくれた。

「遅かったな」

 ゆったりと寛いでいたらしいエドワードは、僕を見て怪訝な顔をする。スコットとザックは中まではついてこない。再びふたりきりとなった僕は、こほんと小さく咳払いをする。

「ちょっとスコットと話してたの」
「スコットと?」

 ふむ、と頷いたエドワードは腕を組む。少し考え込むように黙り込んだエドワードは、なにやら僕に疑いの目を向けているような気がする。僕なんかしたか?

「もう出るか?」

 突然立ち上がったエドワードの後を追う。もしかしてちょっと不機嫌なんか? なぜ?


※※※


「エドワード? どうしたの?」
「……」

 無視すんな、こら。
 すたすたと先を急ぐエドワードを小走りで追いかける僕。なにこれ。虐めか? なんか喋れよ、おい。

 エドワードがわけわからんタイミングで不機嫌になるのはいつものことだ。どうやらエドワードの急変に護衛たちも困っているらしい。少し後ろを歩くギル副団長がちょっと距離を詰めてくる。やめろ、それ以上近づくんじゃない。

「エドワード」

 このままではマズイ。ようやく追いついたエドワードの腕を掴んで引き止めれば、彼は無言で立ち止まる。え、なに? 怒ってんの? 怒ってないの? どっちなの。

「……本当は誰と話していたんだ」
「ん?」

 目を伏せたエドワードは「私に言えないような相手か?」と言い募る。どうやら僕がスコットと話し込んで遅くなったという先ほどの話をこれっぽっちも信じていないらしい。

「え、えーと」

 え? 正直に昔のセフレって言うべきなのか。でも言ったら言ったで絶対にエドワードの機嫌が悪化する。でもこのまま沈黙を貫いても彼は不機嫌になるだろう。一体どちらがマシなのか。

 口をもごもごさせていると「リア?」とエドワードが圧をかけてくる。

「む、昔の知り合い。偶然会ってそれで」

 迷った結果、嘘ではないけれども大事なところは伏せておくことにした。エドワードの眉間に皺がよる。慌ててザックも一緒だった旨を伝えて何にもないよとアピールしておく。

「そうか」

 なんだか納得いっていないような言い方だった。だが護衛たちに迷惑かける気もないのだろう。やれやれと首を振ったエドワードは再びゆっくりと歩き始める。

「あまり誰にでもついていくなよ」

 ちらりと僕に視線を投げたエドワードがそんなことを言う。なにその心配。僕は子供か。
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