35 / 62
35 気難しい王子様
しおりを挟む
だが部屋に戻る前に一悶着あった。
「……誰ですか? 今の男」
「スコット」
部屋の前で待ち構えていたスコットが壁にもたれて偉そうに腕を組んでいる。ひとまずスルーして室内に向かおうとするが、扉の前にスコットが移動してきたために叶わなかった。
「なにやら揉めていたようですが?」
見られてたのかよ。まさか会話聞かれてないよな。とりあえず誤魔化さねば。
「僕が可愛いばかりに。絡まれたんだよ。ほんとだよ。別に昔のセフレとかそういうわけではないから、本当に」
「馬鹿」
聞こえてきた罵倒に素早く振り返る。ザックが「マジで馬鹿なんですか?」と再度罵倒を口にしてくる。なにこいつ。失礼極まりないな。
「なるほど。昔のセフレねぇ。一体何人いるんだか」
緩く首を振ったスコットは、あの男が僕のセフレだと決めつけてくる。偏見は良くないぞ。いや事実だけどさ。
「エドワードには黙っててね」
口止め口止め。
可愛く小首を傾げれば、スコットがすんっと真顔になる。やめろよ。怖いよ。
「まぁいいですけどね。殿下の機嫌を損ねるのは本意ではありませんし。それに殿下とお会いする前の話であれば致し方ありませんからね」
あの男と関係を持っていたのは半年前くらいだ。絶賛エドワードの部屋に入り浸っていた時期の話である。ぱちぱちと目を瞬く僕。よくわからんがエドワードと時期が被っていたことは黙っとこう。スコットが勝手に勘違いしただけだ。うんうん。後ろのザックが変な顔をしている。バラしてくれるなよ。
視線で黙っておけと念押しすれば、ザックが「んんっ」とわざとらしい咳払いをする。
「殿下がお待ちですよ」
スマートに僕を促したザックはドアノブに手をかける。エドワードを待たせるわけにはいかない。スコットも渋々退いてくれた。
「遅かったな」
ゆったりと寛いでいたらしいエドワードは、僕を見て怪訝な顔をする。スコットとザックは中まではついてこない。再びふたりきりとなった僕は、こほんと小さく咳払いをする。
「ちょっとスコットと話してたの」
「スコットと?」
ふむ、と頷いたエドワードは腕を組む。少し考え込むように黙り込んだエドワードは、なにやら僕に疑いの目を向けているような気がする。僕なんかしたか?
「もう出るか?」
突然立ち上がったエドワードの後を追う。もしかしてちょっと不機嫌なんか? なぜ?
※※※
「エドワード? どうしたの?」
「……」
無視すんな、こら。
すたすたと先を急ぐエドワードを小走りで追いかける僕。なにこれ。虐めか? なんか喋れよ、おい。
エドワードがわけわからんタイミングで不機嫌になるのはいつものことだ。どうやらエドワードの急変に護衛たちも困っているらしい。少し後ろを歩くギル副団長がちょっと距離を詰めてくる。やめろ、それ以上近づくんじゃない。
「エドワード」
このままではマズイ。ようやく追いついたエドワードの腕を掴んで引き止めれば、彼は無言で立ち止まる。え、なに? 怒ってんの? 怒ってないの? どっちなの。
「……本当は誰と話していたんだ」
「ん?」
目を伏せたエドワードは「私に言えないような相手か?」と言い募る。どうやら僕がスコットと話し込んで遅くなったという先ほどの話をこれっぽっちも信じていないらしい。
「え、えーと」
え? 正直に昔のセフレって言うべきなのか。でも言ったら言ったで絶対にエドワードの機嫌が悪化する。でもこのまま沈黙を貫いても彼は不機嫌になるだろう。一体どちらがマシなのか。
口をもごもごさせていると「リア?」とエドワードが圧をかけてくる。
「む、昔の知り合い。偶然会ってそれで」
迷った結果、嘘ではないけれども大事なところは伏せておくことにした。エドワードの眉間に皺がよる。慌ててザックも一緒だった旨を伝えて何にもないよとアピールしておく。
「そうか」
なんだか納得いっていないような言い方だった。だが護衛たちに迷惑かける気もないのだろう。やれやれと首を振ったエドワードは再びゆっくりと歩き始める。
「あまり誰にでもついていくなよ」
ちらりと僕に視線を投げたエドワードがそんなことを言う。なにその心配。僕は子供か。
「……誰ですか? 今の男」
「スコット」
部屋の前で待ち構えていたスコットが壁にもたれて偉そうに腕を組んでいる。ひとまずスルーして室内に向かおうとするが、扉の前にスコットが移動してきたために叶わなかった。
「なにやら揉めていたようですが?」
見られてたのかよ。まさか会話聞かれてないよな。とりあえず誤魔化さねば。
「僕が可愛いばかりに。絡まれたんだよ。ほんとだよ。別に昔のセフレとかそういうわけではないから、本当に」
「馬鹿」
聞こえてきた罵倒に素早く振り返る。ザックが「マジで馬鹿なんですか?」と再度罵倒を口にしてくる。なにこいつ。失礼極まりないな。
「なるほど。昔のセフレねぇ。一体何人いるんだか」
緩く首を振ったスコットは、あの男が僕のセフレだと決めつけてくる。偏見は良くないぞ。いや事実だけどさ。
「エドワードには黙っててね」
口止め口止め。
可愛く小首を傾げれば、スコットがすんっと真顔になる。やめろよ。怖いよ。
「まぁいいですけどね。殿下の機嫌を損ねるのは本意ではありませんし。それに殿下とお会いする前の話であれば致し方ありませんからね」
あの男と関係を持っていたのは半年前くらいだ。絶賛エドワードの部屋に入り浸っていた時期の話である。ぱちぱちと目を瞬く僕。よくわからんがエドワードと時期が被っていたことは黙っとこう。スコットが勝手に勘違いしただけだ。うんうん。後ろのザックが変な顔をしている。バラしてくれるなよ。
視線で黙っておけと念押しすれば、ザックが「んんっ」とわざとらしい咳払いをする。
「殿下がお待ちですよ」
スマートに僕を促したザックはドアノブに手をかける。エドワードを待たせるわけにはいかない。スコットも渋々退いてくれた。
「遅かったな」
ゆったりと寛いでいたらしいエドワードは、僕を見て怪訝な顔をする。スコットとザックは中まではついてこない。再びふたりきりとなった僕は、こほんと小さく咳払いをする。
「ちょっとスコットと話してたの」
「スコットと?」
ふむ、と頷いたエドワードは腕を組む。少し考え込むように黙り込んだエドワードは、なにやら僕に疑いの目を向けているような気がする。僕なんかしたか?
「もう出るか?」
突然立ち上がったエドワードの後を追う。もしかしてちょっと不機嫌なんか? なぜ?
※※※
「エドワード? どうしたの?」
「……」
無視すんな、こら。
すたすたと先を急ぐエドワードを小走りで追いかける僕。なにこれ。虐めか? なんか喋れよ、おい。
エドワードがわけわからんタイミングで不機嫌になるのはいつものことだ。どうやらエドワードの急変に護衛たちも困っているらしい。少し後ろを歩くギル副団長がちょっと距離を詰めてくる。やめろ、それ以上近づくんじゃない。
「エドワード」
このままではマズイ。ようやく追いついたエドワードの腕を掴んで引き止めれば、彼は無言で立ち止まる。え、なに? 怒ってんの? 怒ってないの? どっちなの。
「……本当は誰と話していたんだ」
「ん?」
目を伏せたエドワードは「私に言えないような相手か?」と言い募る。どうやら僕がスコットと話し込んで遅くなったという先ほどの話をこれっぽっちも信じていないらしい。
「え、えーと」
え? 正直に昔のセフレって言うべきなのか。でも言ったら言ったで絶対にエドワードの機嫌が悪化する。でもこのまま沈黙を貫いても彼は不機嫌になるだろう。一体どちらがマシなのか。
口をもごもごさせていると「リア?」とエドワードが圧をかけてくる。
「む、昔の知り合い。偶然会ってそれで」
迷った結果、嘘ではないけれども大事なところは伏せておくことにした。エドワードの眉間に皺がよる。慌ててザックも一緒だった旨を伝えて何にもないよとアピールしておく。
「そうか」
なんだか納得いっていないような言い方だった。だが護衛たちに迷惑かける気もないのだろう。やれやれと首を振ったエドワードは再びゆっくりと歩き始める。
「あまり誰にでもついていくなよ」
ちらりと僕に視線を投げたエドワードがそんなことを言う。なにその心配。僕は子供か。
135
お気に入りに追加
1,333
あなたにおすすめの小説
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
薬屋の受難【完】
おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。
魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン
モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています
奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。
生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』
ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。
顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…?
自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。
※エロは後半です
※ムーンライトノベルにも掲載しています
騎士隊長が結婚間近だと聞いてしまいました【完】
おはぎ
BL
定食屋で働くナイル。よく食べに来るラインバルト騎士隊長に一目惚れし、密かに想っていた。そんな中、騎士隊長が恋人にプロポーズをするらしいと聞いてしまって…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる