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34 知り合い?
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終始上機嫌のエドワードを相手にするのはなかなか楽しかった。
ゆったりと食事を堪能した僕はトイレに行こうと席を立つ。外で控えていたザックが当然のように後をつけてくる。
「なんでついてくるの」
「おひとりにするわけにはまいりませんので」
僕のプライバシーはどこへ行った。だがザックが僕についてまわるのはいつものことだ。放置していると「殿下とのお出かけ、楽しんでますか?」と訊かれた。
「普通に楽しいよ」
「そりゃあよかったです。このまま諦めて仕事辞めたらどうですか?」
どういう流れだよ。なんでお出かけが楽しいと仕事辞めるって発想になるんだ。どういう思考回路してんだ、こいつ。
ザックはたまに変なことを言う。これだから脳筋騎士は。やれやれと肩をすくめてやれば「呆れたいのはこっちですよ」と嫌味っぽい言葉が返ってきた。
そのままトイレを済ませて部屋に戻ろうとした時である。
「……リア?」
ザックと連れ立って、エドワードの待つ個室へと向かっていた僕に声をかける者があった。反射的に立ち止まって振り返ると、なんだか見覚えあるようなないような男が立っていた。
きっちりとした服に身を包んだ、いかにも上流階級にいますよ的な若い男は驚きに目を見開いている。てか僕の名前呼んだよな? 「お知り合いですか?」とザックが問いかけてくるがちょっと待ってほしい。今思い出しているところだから。
「リアだよな。こんなとこで何してんの」
「……ご飯食べてる」
とりあえず事実を伝えておけば「いやそういうことじゃなくて」と男が突っかかってくる。それにしても金持ってそうな男だな。こいつなら僕が引っ掛けていてもおかしくはない。もしや過去に遊んだ男か? 可能性はあるな。
きっちりした服装に反してなにやらチャラついた雰囲気である。セットした髪型にキリッとした目元。ぐっと眉間に皺を寄せた彼は「誰だ、そいつ」とザックを睨みつけている。剣呑な雰囲気を察したらしいザックが、僕を庇うように前に出た。
それを見て、男が鼻で笑う。
「新しい男かよ。どんだけ節操ないんだ」
はぁ?
なにその唐突な悪口。反射的に振り上げた拳を、ザックが掴んで制止する。邪魔をするんじゃない。一発殴ってやらねば気が済まない。「知り合いですか?」と小声で訊ねてくるザックも、眼光鋭く男を見据えている。
「こんな失礼な男知らないから!」
大声で宣言してやれば、男が眉を吊り上げた。
「人に散々貢がせておいてよく言うわ」
吐き捨てられたセリフに眉を寄せる。僕こいつに貢がせたか? ザックが目を見開いて僕を凝視している。頑張って記憶を探る。
「……似たような男を結構引っ掛けてきたから、ちょっとよくわかんない」
一回だけ金を引き出してさよならした男とか、しばらくお付き合いらしきものをしてみた男やら。心当たりがありすぎる。
正直に誰かわからないと告げたところ、ザックと男が静かに目を合わせていた。次いでふたりして僕を見下ろしてくる。その目には呆れのような憐れみのような微妙な色が浮かんでいる。
沈黙を破ったのは、名前も思い出せぬ男だった。
「……おまえ、前々から思ってたけどやっぱり馬鹿だろ」
なんだと。
「普通そんなこと思ってても言わないだろ。どういう神経してんだよ」
いきなり僕を侮辱した男は、興味が失せたとでも言いたげに肩をすくめた。随分と偉そうな態度だ。
「んな怖い顔すんなよ。新しい男つれてたからちょっと揶揄ってやろうと思っただけだよ。まさか顔も忘れられているとは思わなかったけどな」
どうやらこの失礼男はザックを僕の新しい金づるだと思っているらしい。んなわけないだろ。
「相変わらず危ない生き方してんな。そのうち誰かに刺されるぞ」
一方的に捲し立てた男は、「じゃあな。せいぜい気をつけろ」と片手を上げて去っていく。結局誰なんだよ、おまえは。
だがこのクソ失礼な態度で思い出した。確か僕が半年ほど前に一時期養ってもらっていた男だ。いや正確にはすでにエドワードの愛人やってたから暇な時に転がり込む程度だったのだが。金だけは持っていた気がする。だんだん思い出してきたぞ。
記憶によればなんだか有耶無耶な感じで別れた気がする。いや別れようと互いに言った覚えはないな。エドワードの屋敷に入り浸るうちに自然と足が遠のいたのだ。
まさかこんな場所で再会するとは。ぼけっと小さくなっていく背中を見送っていると、ザックが僕の肩に手を乗せた。我に返って振り返る。
「え? 結局はお知り合いってことでいいんですか?」
「昔のセフレ。エドワードと鉢合わせなくてよかったね」
「なんでそんな他人事なんですか」
呆れるザックにつれられて。僕はやっとのことでエドワードの元へと戻って行った。
ゆったりと食事を堪能した僕はトイレに行こうと席を立つ。外で控えていたザックが当然のように後をつけてくる。
「なんでついてくるの」
「おひとりにするわけにはまいりませんので」
僕のプライバシーはどこへ行った。だがザックが僕についてまわるのはいつものことだ。放置していると「殿下とのお出かけ、楽しんでますか?」と訊かれた。
「普通に楽しいよ」
「そりゃあよかったです。このまま諦めて仕事辞めたらどうですか?」
どういう流れだよ。なんでお出かけが楽しいと仕事辞めるって発想になるんだ。どういう思考回路してんだ、こいつ。
ザックはたまに変なことを言う。これだから脳筋騎士は。やれやれと肩をすくめてやれば「呆れたいのはこっちですよ」と嫌味っぽい言葉が返ってきた。
そのままトイレを済ませて部屋に戻ろうとした時である。
「……リア?」
ザックと連れ立って、エドワードの待つ個室へと向かっていた僕に声をかける者があった。反射的に立ち止まって振り返ると、なんだか見覚えあるようなないような男が立っていた。
きっちりとした服に身を包んだ、いかにも上流階級にいますよ的な若い男は驚きに目を見開いている。てか僕の名前呼んだよな? 「お知り合いですか?」とザックが問いかけてくるがちょっと待ってほしい。今思い出しているところだから。
「リアだよな。こんなとこで何してんの」
「……ご飯食べてる」
とりあえず事実を伝えておけば「いやそういうことじゃなくて」と男が突っかかってくる。それにしても金持ってそうな男だな。こいつなら僕が引っ掛けていてもおかしくはない。もしや過去に遊んだ男か? 可能性はあるな。
きっちりした服装に反してなにやらチャラついた雰囲気である。セットした髪型にキリッとした目元。ぐっと眉間に皺を寄せた彼は「誰だ、そいつ」とザックを睨みつけている。剣呑な雰囲気を察したらしいザックが、僕を庇うように前に出た。
それを見て、男が鼻で笑う。
「新しい男かよ。どんだけ節操ないんだ」
はぁ?
なにその唐突な悪口。反射的に振り上げた拳を、ザックが掴んで制止する。邪魔をするんじゃない。一発殴ってやらねば気が済まない。「知り合いですか?」と小声で訊ねてくるザックも、眼光鋭く男を見据えている。
「こんな失礼な男知らないから!」
大声で宣言してやれば、男が眉を吊り上げた。
「人に散々貢がせておいてよく言うわ」
吐き捨てられたセリフに眉を寄せる。僕こいつに貢がせたか? ザックが目を見開いて僕を凝視している。頑張って記憶を探る。
「……似たような男を結構引っ掛けてきたから、ちょっとよくわかんない」
一回だけ金を引き出してさよならした男とか、しばらくお付き合いらしきものをしてみた男やら。心当たりがありすぎる。
正直に誰かわからないと告げたところ、ザックと男が静かに目を合わせていた。次いでふたりして僕を見下ろしてくる。その目には呆れのような憐れみのような微妙な色が浮かんでいる。
沈黙を破ったのは、名前も思い出せぬ男だった。
「……おまえ、前々から思ってたけどやっぱり馬鹿だろ」
なんだと。
「普通そんなこと思ってても言わないだろ。どういう神経してんだよ」
いきなり僕を侮辱した男は、興味が失せたとでも言いたげに肩をすくめた。随分と偉そうな態度だ。
「んな怖い顔すんなよ。新しい男つれてたからちょっと揶揄ってやろうと思っただけだよ。まさか顔も忘れられているとは思わなかったけどな」
どうやらこの失礼男はザックを僕の新しい金づるだと思っているらしい。んなわけないだろ。
「相変わらず危ない生き方してんな。そのうち誰かに刺されるぞ」
一方的に捲し立てた男は、「じゃあな。せいぜい気をつけろ」と片手を上げて去っていく。結局誰なんだよ、おまえは。
だがこのクソ失礼な態度で思い出した。確か僕が半年ほど前に一時期養ってもらっていた男だ。いや正確にはすでにエドワードの愛人やってたから暇な時に転がり込む程度だったのだが。金だけは持っていた気がする。だんだん思い出してきたぞ。
記憶によればなんだか有耶無耶な感じで別れた気がする。いや別れようと互いに言った覚えはないな。エドワードの屋敷に入り浸るうちに自然と足が遠のいたのだ。
まさかこんな場所で再会するとは。ぼけっと小さくなっていく背中を見送っていると、ザックが僕の肩に手を乗せた。我に返って振り返る。
「え? 結局はお知り合いってことでいいんですか?」
「昔のセフレ。エドワードと鉢合わせなくてよかったね」
「なんでそんな他人事なんですか」
呆れるザックにつれられて。僕はやっとのことでエドワードの元へと戻って行った。
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