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23 護衛騎士
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翌朝。
目を覚ました僕はのろのろと支度を整える。部屋ではエドワードがすでに身支度を終えて読書をしていた。勉強熱心な王子様である。
本を閉じたエドワードが櫛を片手に寄ってくる。「リアの髪は綺麗だな」なんて言いながら上機嫌に僕の頭を触りまくる。
ムスッとして身を委ねていた僕。思ったのだが、ただの愛人相手になんでこんなにも束縛してくるのか。世間知らずな王子様はちょっと人との距離感がおかしいと思う。私生活に口を出されるのは好きではない。そんなちょっぴり機嫌の悪い僕を気にせずに、エドワードはマイペースに世話を焼いてくる。
本日も遅刻確定である。昨日の今日でこの失態。今度こそ副団長のギルがブチ切れそうでそわそわしていた。
椅子に座らされてエドワードに髪をいじられていた時である。扉をノックする音が響いた。おそらくスコットがエドワードを迎えに来たのだろう。やれやれ。ようやく解放される。僕も早く仕事に行きたい。
エドワードの声掛けで入室してきたのはやはりスコットだった。朝から爽やかな笑みを浮かべた彼は、「リア様。紹介しますよ」なんて言って扉を開け放つ。
僕に何を紹介するって?
不機嫌に顔を顰めていた僕であったが、スコットの背後から入室してきた男を見て死ぬほど驚いた。
「っ!」
悲鳴を上げなかったことを褒めて欲しいくらいだ。目を伏せていた男は、スコットに促されてようやく顔を上げる。その純朴そうな目が、僕を視界にとらえるなり動揺に揺れた。
慌てて顔を逸らす。
スコットにバレないよう男をひと睨みして圧をかければ、彼もなんとなく察してくれたらしい。すっと表情を引き締めるあたりやはり優秀な男なのかもしれない。
「本日からこの者をリア様の護衛につけます。必要があれば何なりとお申し付けください」
スコットに背中を押されて、男が覚悟を決めるように頭を下げた。
「初めまして、リア様。近衛騎士のザックと申します。どうぞお見知りおきを」
「よろしくね」
エドワードの手前、にこりと微笑んでおく。
顔を上げたザックもやんわりと笑みを返してくる。なんて気が利く男だ。素晴らしい。
「では仕事に行ってくる。留守の間のことはザックに任せる。リア、いい子にしてろよ」
「はーい」
ちょっと不満そうな声で返事をして、いかにも「護衛なんて要りません」感を全面に押し出しておく。苦笑したエドワードが頭を撫でてくる。やめて、髪型崩れる。
そのまま流れるように僕の額にキスを落としたエドワードは上機嫌で去って行った。僕に見張りをつけて一安心しているらしい。どれだけ僕が信用されていないかよく分かるな。
バタンと重厚な扉が閉まり、部屋にふたりきりとなる。それから数秒後、壁際にじっと佇んでいたザックが目を剥いた。
「なにをしていらっしゃるんですか⁉︎」
「こっちのセリフなんだけど! なんでザックがここにいるの!」
もはや被っていた猫を盛大に投げ捨てて、ザックを指差す。こいつには僕の素顔も変装姿も全部見られている。名前だって呼び捨てにしてやった。
僕の剣幕におされたザックは、困惑した表情で歩み寄ってくる。スコットと揃いの騎士服をきっちり着込んだ彼は目を白黒させている。
「……一応お聞きしますが、どっちが本名ですか」
「リアだよ。リアムは偽名」
「よかった! 殿下に対して偽名使ってんのかとヒヤヒヤしました」
流石にそこまでは。バレた時にエドワードがお怒りになってしまう。
紛うことなき美男子スタイルの僕を遠慮なしに見回したザックは、思わずといった感じで口元を押さえる。
「それにしてもお美しいですね。殿下が惚れ込まれるのもわかります」
「そうだろう」
容姿には自信がある。胸を張れば微妙な顔をされた。
「性格はちょっと、あれですけど」
あれってなんだ。はっ倒すぞ。
「それにしても。えっと、これどういう状況でしょうか」
困ったように眉尻を下げるザック。どうやら彼はエドワード直々に僕の護衛を頼まれたらしい。彼が出世がどうとか言っていたのはこのことだ。
「僕の護衛が出世になるの?」
「もちろんです。殿下の大切なお方とお聞きしております」
「ふーん」
まぁ大切な愛人だもんね。とにかく顔がいいセフレ。手放したくはないよね。僕以上の美貌を見つけ出すって難しそうだから。
「ところで、リア様」
「なに?」
「先程の雰囲気で察しましたが、殿下にはお伝えになっていないんですよね?」
「なにを?」
「リア様が近衛騎士団に勤務しておられることです」
「うん。エドワードは僕のことを無職のヒモ野郎だと思っているから」
ザックが遠い目をする。そして気がついた。もうとっくに出勤時間が過ぎていることに。
「やばい! 遅刻する! 今度こそ副団長に怒られる」
「え、まさか出勤されるんですか」
「無断欠勤はまずいだろ。クビになっちゃう」
急いで用意をしていれば、「別に構わないのでは?」とザックが酷いことを言う。クビになっていいわけあるか。どういう思考してんだ、こいつ。
鞄を掴んだ僕はザックを振り返る。
「というわけで、僕は仕事に行くからここでお別れね。ばいばい」
「いやいやいや」
僕の腕を掴んだザック。なんだよ、離せよ。
「話聞いておられましたか? 俺はリア様の護衛です。お側を離れるわけにはまいりません」
「大丈夫、僕は気にしないから」
「気にしてください。バレたら俺、クビどころじゃ済まないんですけど」
僕を解放する気配のないザック。なんてことだ。どうすればいいんだよ、これ。
目を覚ました僕はのろのろと支度を整える。部屋ではエドワードがすでに身支度を終えて読書をしていた。勉強熱心な王子様である。
本を閉じたエドワードが櫛を片手に寄ってくる。「リアの髪は綺麗だな」なんて言いながら上機嫌に僕の頭を触りまくる。
ムスッとして身を委ねていた僕。思ったのだが、ただの愛人相手になんでこんなにも束縛してくるのか。世間知らずな王子様はちょっと人との距離感がおかしいと思う。私生活に口を出されるのは好きではない。そんなちょっぴり機嫌の悪い僕を気にせずに、エドワードはマイペースに世話を焼いてくる。
本日も遅刻確定である。昨日の今日でこの失態。今度こそ副団長のギルがブチ切れそうでそわそわしていた。
椅子に座らされてエドワードに髪をいじられていた時である。扉をノックする音が響いた。おそらくスコットがエドワードを迎えに来たのだろう。やれやれ。ようやく解放される。僕も早く仕事に行きたい。
エドワードの声掛けで入室してきたのはやはりスコットだった。朝から爽やかな笑みを浮かべた彼は、「リア様。紹介しますよ」なんて言って扉を開け放つ。
僕に何を紹介するって?
不機嫌に顔を顰めていた僕であったが、スコットの背後から入室してきた男を見て死ぬほど驚いた。
「っ!」
悲鳴を上げなかったことを褒めて欲しいくらいだ。目を伏せていた男は、スコットに促されてようやく顔を上げる。その純朴そうな目が、僕を視界にとらえるなり動揺に揺れた。
慌てて顔を逸らす。
スコットにバレないよう男をひと睨みして圧をかければ、彼もなんとなく察してくれたらしい。すっと表情を引き締めるあたりやはり優秀な男なのかもしれない。
「本日からこの者をリア様の護衛につけます。必要があれば何なりとお申し付けください」
スコットに背中を押されて、男が覚悟を決めるように頭を下げた。
「初めまして、リア様。近衛騎士のザックと申します。どうぞお見知りおきを」
「よろしくね」
エドワードの手前、にこりと微笑んでおく。
顔を上げたザックもやんわりと笑みを返してくる。なんて気が利く男だ。素晴らしい。
「では仕事に行ってくる。留守の間のことはザックに任せる。リア、いい子にしてろよ」
「はーい」
ちょっと不満そうな声で返事をして、いかにも「護衛なんて要りません」感を全面に押し出しておく。苦笑したエドワードが頭を撫でてくる。やめて、髪型崩れる。
そのまま流れるように僕の額にキスを落としたエドワードは上機嫌で去って行った。僕に見張りをつけて一安心しているらしい。どれだけ僕が信用されていないかよく分かるな。
バタンと重厚な扉が閉まり、部屋にふたりきりとなる。それから数秒後、壁際にじっと佇んでいたザックが目を剥いた。
「なにをしていらっしゃるんですか⁉︎」
「こっちのセリフなんだけど! なんでザックがここにいるの!」
もはや被っていた猫を盛大に投げ捨てて、ザックを指差す。こいつには僕の素顔も変装姿も全部見られている。名前だって呼び捨てにしてやった。
僕の剣幕におされたザックは、困惑した表情で歩み寄ってくる。スコットと揃いの騎士服をきっちり着込んだ彼は目を白黒させている。
「……一応お聞きしますが、どっちが本名ですか」
「リアだよ。リアムは偽名」
「よかった! 殿下に対して偽名使ってんのかとヒヤヒヤしました」
流石にそこまでは。バレた時にエドワードがお怒りになってしまう。
紛うことなき美男子スタイルの僕を遠慮なしに見回したザックは、思わずといった感じで口元を押さえる。
「それにしてもお美しいですね。殿下が惚れ込まれるのもわかります」
「そうだろう」
容姿には自信がある。胸を張れば微妙な顔をされた。
「性格はちょっと、あれですけど」
あれってなんだ。はっ倒すぞ。
「それにしても。えっと、これどういう状況でしょうか」
困ったように眉尻を下げるザック。どうやら彼はエドワード直々に僕の護衛を頼まれたらしい。彼が出世がどうとか言っていたのはこのことだ。
「僕の護衛が出世になるの?」
「もちろんです。殿下の大切なお方とお聞きしております」
「ふーん」
まぁ大切な愛人だもんね。とにかく顔がいいセフレ。手放したくはないよね。僕以上の美貌を見つけ出すって難しそうだから。
「ところで、リア様」
「なに?」
「先程の雰囲気で察しましたが、殿下にはお伝えになっていないんですよね?」
「なにを?」
「リア様が近衛騎士団に勤務しておられることです」
「うん。エドワードは僕のことを無職のヒモ野郎だと思っているから」
ザックが遠い目をする。そして気がついた。もうとっくに出勤時間が過ぎていることに。
「やばい! 遅刻する! 今度こそ副団長に怒られる」
「え、まさか出勤されるんですか」
「無断欠勤はまずいだろ。クビになっちゃう」
急いで用意をしていれば、「別に構わないのでは?」とザックが酷いことを言う。クビになっていいわけあるか。どういう思考してんだ、こいつ。
鞄を掴んだ僕はザックを振り返る。
「というわけで、僕は仕事に行くからここでお別れね。ばいばい」
「いやいやいや」
僕の腕を掴んだザック。なんだよ、離せよ。
「話聞いておられましたか? 俺はリア様の護衛です。お側を離れるわけにはまいりません」
「大丈夫、僕は気にしないから」
「気にしてください。バレたら俺、クビどころじゃ済まないんですけど」
僕を解放する気配のないザック。なんてことだ。どうすればいいんだよ、これ。
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