20 / 62
20 副団長
しおりを挟む
「いいですか。とりあえず謝っといてください。あまり副団長を刺激しないで」
「僕、礼節はわきまえてるから大丈夫」
「本当ですか?」
今のどこに疑いの目を向ける要素があった。
失礼なザックは副団長室の前で立ち止まると一度息を吐いてから軽くノックする。すぐに中から「どうぞ」と声がかかった。
「失礼いたします」
かしこまって挨拶をしたザックが扉を開けてくれる。中に入るよう視線で促された僕は、とりあえず堂々としておくことにする。胸を張って入室した僕。
執務机でなにやら書類を見ていたらしい副団長っぽい男が顔を上げる。神経質そうな顔。ザックも大概真面目そうな見た目だが、なんだろう。だいぶ違う。
ザックがいいとこの世間知らずのお坊ちゃんみたいな見た目なのに対して、副団長はクソ真面目な学者みたいな顔してた。四角い眼鏡が余計にそう印象付けるのかもしれない。あんまり騎士には見えないな。僕より事務仕事得意そう。近衛騎士だから見た目重視なのかな。イケメンではある。僕には劣るけど。
そんなことを考えながらボケっとしていれば、背後でザックがわざとらしく咳払いをした。なんだ?
「風邪でもひいた?」
体調を気遣ってやればすごい目で見られた。なんだよ。
「副団長。リアムさんをお連れしました」
視線を副団長に向けたザックが、僕の背中を押す。ようやく意図を察した僕は「初めまして」と頭を下げた。
「事務官のリアムです」
「初めまして、リアムさん。近衛騎士団副団長のギルと申します」
立ち上がって丁寧に自己紹介してくれたギルはすぐに座ってこちらを見上げてくる。鋭い目だ。
「色々と引き継ぎなどをしようと思ってお呼びしたのですがその前に」
言葉を切ったギルが、すっと目を細める。
「今までどこで何を? 随分と探したのですが」
淡々とした静かな声だ。たぶん怒っているな、これは。なんて答えようか。遅刻の言い訳を考えるのをすっかり忘れていた。困った僕は目を伏せる。気弱なリアムらしい答えを出さねば。
「えっと、その。寝坊してしまいまして。申し訳ありません」
結局無難な答えになってしまった。まぁエドワードに捕まってベッドからなかなか抜け出せなかったのだ。あながち嘘ではない。
ぺこりと頭を下げれば、ギルがなにやら言いたげな顔をしている。しばらく無言のまま見つめあっていた僕らだが、先にギルが口を開いた。
「物事には限度があると思いませんか。少しの遅刻であれば大目に見ることも考えますが、いくらなんでもこれは酷い。もうすぐ昼ですよ」
「はい、すみません」
「あなた初日にも遅刻してきたそうじゃないですか」
「はい」
「はいじゃなくて。改善する気はないのですか」
「あります」
そうですか、と腕を組んだギルは小さく首を振る。
「わかりました。今日のところはあなたのその言葉を信じましょう」
「ありがとうございます。以後気をつけます」
やった。なんだかよくわからんが許してもらえた。話は終わったのだし回れ右して帰ろうとしたら「ちょっと待ちなさい」とギルに制止された。
「引き継ぎのために呼んだのですよ」
そういやそうだったな。笑顔を取り繕って対応すればギルはなにやら難しい話を始める。僕の背後でザックが心配そうにしている気配を感じた。
ギルの話は半分も理解できなかったが、わからないと白状して怒られるのも嫌なのでふんふん頷いておく。後でザックに確認しよう。
「ということでお願いできますか」
「はい!」
最後に元気よく返事をすれば完璧だ。
「……本当にわかっています?」
「もちろん!」
なんだかギルが不安そうな顔をしていた。勢いよく返事をしすぎたかな。
「僕、礼節はわきまえてるから大丈夫」
「本当ですか?」
今のどこに疑いの目を向ける要素があった。
失礼なザックは副団長室の前で立ち止まると一度息を吐いてから軽くノックする。すぐに中から「どうぞ」と声がかかった。
「失礼いたします」
かしこまって挨拶をしたザックが扉を開けてくれる。中に入るよう視線で促された僕は、とりあえず堂々としておくことにする。胸を張って入室した僕。
執務机でなにやら書類を見ていたらしい副団長っぽい男が顔を上げる。神経質そうな顔。ザックも大概真面目そうな見た目だが、なんだろう。だいぶ違う。
ザックがいいとこの世間知らずのお坊ちゃんみたいな見た目なのに対して、副団長はクソ真面目な学者みたいな顔してた。四角い眼鏡が余計にそう印象付けるのかもしれない。あんまり騎士には見えないな。僕より事務仕事得意そう。近衛騎士だから見た目重視なのかな。イケメンではある。僕には劣るけど。
そんなことを考えながらボケっとしていれば、背後でザックがわざとらしく咳払いをした。なんだ?
「風邪でもひいた?」
体調を気遣ってやればすごい目で見られた。なんだよ。
「副団長。リアムさんをお連れしました」
視線を副団長に向けたザックが、僕の背中を押す。ようやく意図を察した僕は「初めまして」と頭を下げた。
「事務官のリアムです」
「初めまして、リアムさん。近衛騎士団副団長のギルと申します」
立ち上がって丁寧に自己紹介してくれたギルはすぐに座ってこちらを見上げてくる。鋭い目だ。
「色々と引き継ぎなどをしようと思ってお呼びしたのですがその前に」
言葉を切ったギルが、すっと目を細める。
「今までどこで何を? 随分と探したのですが」
淡々とした静かな声だ。たぶん怒っているな、これは。なんて答えようか。遅刻の言い訳を考えるのをすっかり忘れていた。困った僕は目を伏せる。気弱なリアムらしい答えを出さねば。
「えっと、その。寝坊してしまいまして。申し訳ありません」
結局無難な答えになってしまった。まぁエドワードに捕まってベッドからなかなか抜け出せなかったのだ。あながち嘘ではない。
ぺこりと頭を下げれば、ギルがなにやら言いたげな顔をしている。しばらく無言のまま見つめあっていた僕らだが、先にギルが口を開いた。
「物事には限度があると思いませんか。少しの遅刻であれば大目に見ることも考えますが、いくらなんでもこれは酷い。もうすぐ昼ですよ」
「はい、すみません」
「あなた初日にも遅刻してきたそうじゃないですか」
「はい」
「はいじゃなくて。改善する気はないのですか」
「あります」
そうですか、と腕を組んだギルは小さく首を振る。
「わかりました。今日のところはあなたのその言葉を信じましょう」
「ありがとうございます。以後気をつけます」
やった。なんだかよくわからんが許してもらえた。話は終わったのだし回れ右して帰ろうとしたら「ちょっと待ちなさい」とギルに制止された。
「引き継ぎのために呼んだのですよ」
そういやそうだったな。笑顔を取り繕って対応すればギルはなにやら難しい話を始める。僕の背後でザックが心配そうにしている気配を感じた。
ギルの話は半分も理解できなかったが、わからないと白状して怒られるのも嫌なのでふんふん頷いておく。後でザックに確認しよう。
「ということでお願いできますか」
「はい!」
最後に元気よく返事をすれば完璧だ。
「……本当にわかっています?」
「もちろん!」
なんだかギルが不安そうな顔をしていた。勢いよく返事をしすぎたかな。
138
お気に入りに追加
1,344
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる