王太子の愛人である傾国の美男子が正体隠して騎士団の事務方始めたところ色々追い詰められています

岩永みやび

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15 不機嫌な王子様

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 エドワードは怒っていた。そうだと思った。
 本来は心優しい王子様のはずなのに、ここ最近はずっと不機嫌顔しか見ていない気がする。あれ? エドワードって優しい王子様の認識であってるよな。そもそも前提が間違っていたのかもしれない。

 夜もだいぶ遅い時間だというのにエドワードは起きていた。それはスコットが探しに来た時点で察してはいたけれども。というかスコットはエドワードの側近騎士だろうに。僕を探して捕まえてくることは絶対に彼の仕事ではない。

「えっと。こんばんは」

 とりあえず挨拶してみたが返事はない。会話する気もないなら呼びつけるなよ。こっちだって忙しいってのに。

 ベッドに腰掛けて偉そうに足を組んでいるエドワードは、じっと僕を睨みつけている。

「あ、あのエドワード」

 すっかり酔いも醒めた。ほんのり赤かったはずの顔もいまは真っ青に違いない。入口に突っ立ってエドワードのご機嫌伺いをしてみるが効果はなさそうだ。そのまま気まず過ぎる時間が流れる。

 これ帰っていいかな? でもなぁ。帰してくれそうにもないし。なにがしたいんだ、この王子様は。

 ひとり内心で色々考えていると、これまで動かなかったエドワードが大きくため息をついた。思わず肩が揺れる。

「リア」
「……はい」
「やはりおまえ、ここに住め」
「……え」

 なんで?
 その話はお断りしたはずだ。いまさら蒸し返さないでほしい。というかどういう話の流れだよ、これ。固まっていると、エドワードは僕を手招きする。

 いつまでも突っ立っているわけにもいかないので、おずおずと近寄った。隣をぽんぽんと叩かれて、促されるままにベッドに腰を下ろした。

「なあリア」

 返事の代わりに視線を送る。エドワードの青い瞳はひどく真剣で、なんだか吸い込まれそうなほど綺麗だった。

「おまえが私のことをどう思っているのかは正直よくわからない」

 ただのセフレだろ?
 金払いがよくて都合のいい愛人。だが直接それを言うわけにはいかないので黙っておく。というかエドワードも僕のことをただの愛人のひとりだと思っているだろうに。いまさらなんだ。王太子殿下には本命のお嬢様のひとりやふたり居るだろう。

「私はリアのことを愛しているよ」
「僕も、愛してる」

 なにこれ?
 どういうプレイですか。おまえ怒ってたんじゃないんか。よくわからん。とりあえず当たり障りのない返答をしてエドワードの膝に手をのせてみる。すかさずエドワードがその手を取った。

「すぐにとは言わない。しばらくはここに泊まれ。部屋も用意する」
「えっと」
「リアが束縛を嫌うことは知っている。べつに飲みに行っても構わない。しかし夜はここに帰ってきて欲しい。ダメか?」

 う、うーん。
 なんだろうこれ。どう答えるのが正解なんだ。視線を彷徨わせているとエドワードが僕の背中に手を回した。なぜハグ。

「私はリアのことを大切にしている。なによりも」
「エドワード」

 いやなにこれ。
 独占欲えぐいって。ただの愛人にここまでするか? え、僕って愛人であってるよね。なんだか急に不安になってきた。

 とりあえず場の雰囲気に合わせてエドワードの背中をさすれば、彼の腕に力がこもる。なんだかここに住むと言うまで解放してもらえそうにない。自由な私生活とエドワードという名の金づるを天秤にかけて、僕は小さく頷いた。

「……わかった。しばらくはここに泊まる」
「リア」

 ありがとうという言葉と共にベッドに押し倒される。実に真剣な表情をしたエドワードは、再び僕を力強く抱きしめた。
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