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50 聖女ですからね
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「カーソン。俺のこと騙しただろ」
「別に騙したわけでは」
なぜか困った顔をしてみせるカーソンに、拳を握りしめる。誰がどう見たって、あれは俺のことを騙していた。現に俺は、騙された。
カーソンいわく、あれは神殿が極秘に保管しているなんかすごいやつで、あれを飲んでから行為に及べば、まったく痛くないという話であった。大嘘つかれたというわけだ。
そもそもマルセルの話によると、神殿にそんな怪しい物は保管されていないらしい。
うきうきと取り出した小瓶を、マルセルに単なるポーションと言われた時のショックはすごかった。
その後、色々流されて結局最後までやってしまった。行為後、マルセルは大丈夫、切れてはいないと言うが、いまいち信用できなかった。
終わるなりポーションを飲み干したおかげか、朝にはすっかり元気だった。想定外だったのは、俺がカーソンにまんまと騙されたことについて、マルセルが淡々と説教してきたことだ。
普通さ、やること終わった後って、なんかこう甘い空気になるもんじゃないの? なぜかマジギレしてきたマルセルは、ベッドに倒れ込む俺相手に、危機感がないだの、明らかな嘘に引っかかってどうするだの、ずっとうるさかった。
ここ俺にとっては異世界だぞ? 摩訶不思議アイテムがあっても、普通に信じてしまうのだが。言い訳めいた言葉を並べたのもまずかった。ますます眉を吊り上げるマルセルは、もはや手のつけようがなかった。
騙されたことは許せない。俺が怒られたことも許せない。というわけで、カーソンに文句を言えば、彼は「責められる覚えはない」と、開き直ってしまう。
「イアンもさ。知っていたのなら教えてくれればよかったのに」
俺がカーソンに騙される場面を、しっかり目撃していたはずである。半眼になる俺に、イアンは「申し訳ありません」と目を伏せてしまう。
「先輩に楯突くなど、私にはとても」
「うおい! なにを全部俺のせいにしようとしてんの!? おまえ、マジ! 散々俺に楯突いておいてよく言うな」
すかさずカーソンが大声をあげているが、イアンは涼しい顔である。さすがクール系お兄さんだな。
※※※
「でさぁ、結局のところ、マルセルって俺のこと好きなんだよ」
「よかったですね! カミ様! 惚気がすごい!」
ぱちぱちと拍手してくる雪音ちゃんに、得意になる俺。進展あったら教えてくれと、毎度うるさい彼女である。流石にやることやったと、女子高校生相手にして直球で伝えることには抵抗があったので、なんかふんわりと伝えたところ、彼女は正しく意味を理解してくれたらしい。
手放しで喜んでくれる雪音ちゃんは「カミ様が幸せなら、私も幸せです!」と、嬉しいことを言ってくれる。さすが俺のファン。
てれてれと頬を掻いていると、「はい、これ」と唐突に雪音ちゃんが何かを押し付けてきた。反射的に受け取って確認すれば、以前マルセルにもらったイヤーカフ。
「忘れ物です」
「あ、うん」
そういや、これにGPS的な機能があると知って、ぶん投げたな。雪音ちゃんは、それを拾って保管しておいてくれたらしい。
手のひらでころころと転がして、ちょっと考える。マルセルからの贈り物であることは事実だから、その点については嬉しい。だが、GPS的機能については、俺のプライバシーという面からいい気分にはならない。
うーん、と唸る俺に、雪音ちゃんは「つけておいた方がいいと思いますよ」とお気楽に提案してくる。
「でも、俺のプライバシーはどうなる」
「居場所がわかるだけでしょ? カミ様、どうせ自分の部屋か私の部屋しか行かないから。マルセル殿下にバレても特に問題ないですよね」
悪かったな、行動範囲が狭くて。
すべては俺を自由にしてくれないマルセルのせいだ。相変わらず、マルセルは俺の外出に反対らしい。カミ様ではないとわかったから大丈夫だと主張するが、彼は納得しない。
「そりゃそうですよ。だってカミ様は、マルセル殿下と付き合ってるんですよ!? 王太子殿下の恋人!! そりゃマルセル殿下も気軽に外出させたくはないでしょうよ」
「……意味がわからない」
「なんで! なんかこう、カミ様に何かあったらどうするんですか!」
熱意のすごい雪音ちゃんは、どうやら俺の心配をしてくれているらしい。確かに、俺の立場的には色々気を付けなければならないこともあるのだろう。漫画とかでも、王子周辺の人物が命を狙われる的な展開はよくある。
だが、この世界はそこまで治安悪くない。俺の命については、そこまで心配いらないのだ。では、マルセルは一体何を心配しているのか。
「マルセルはね、俺を外に出すと、うっかり迷って帰れなくなると思っているんだよ」
「あー、なるほど」
納得するんじゃない。
失礼な雪音ちゃんに、思わず半眼となる。いくらなんでも、迷子になったりはしない。俺のことをなんだと思っているんだ。
「じゃあ、そのイヤーカフつけとけばいいじゃないですか。それなら、迷子になってもマルセル殿下に見つけてもらえますよ」
「……たしかに」
子供扱いされているようで非常に不服ではあるが、これをつけておくと言えば、マルセルも俺の外出に納得してくれるかもしれない。
「さすが雪音ちゃん。いいこと言うね」
「聖女ですからね!」
聖女かどうかはあまり関係ないと思うけどな。
「別に騙したわけでは」
なぜか困った顔をしてみせるカーソンに、拳を握りしめる。誰がどう見たって、あれは俺のことを騙していた。現に俺は、騙された。
カーソンいわく、あれは神殿が極秘に保管しているなんかすごいやつで、あれを飲んでから行為に及べば、まったく痛くないという話であった。大嘘つかれたというわけだ。
そもそもマルセルの話によると、神殿にそんな怪しい物は保管されていないらしい。
うきうきと取り出した小瓶を、マルセルに単なるポーションと言われた時のショックはすごかった。
その後、色々流されて結局最後までやってしまった。行為後、マルセルは大丈夫、切れてはいないと言うが、いまいち信用できなかった。
終わるなりポーションを飲み干したおかげか、朝にはすっかり元気だった。想定外だったのは、俺がカーソンにまんまと騙されたことについて、マルセルが淡々と説教してきたことだ。
普通さ、やること終わった後って、なんかこう甘い空気になるもんじゃないの? なぜかマジギレしてきたマルセルは、ベッドに倒れ込む俺相手に、危機感がないだの、明らかな嘘に引っかかってどうするだの、ずっとうるさかった。
ここ俺にとっては異世界だぞ? 摩訶不思議アイテムがあっても、普通に信じてしまうのだが。言い訳めいた言葉を並べたのもまずかった。ますます眉を吊り上げるマルセルは、もはや手のつけようがなかった。
騙されたことは許せない。俺が怒られたことも許せない。というわけで、カーソンに文句を言えば、彼は「責められる覚えはない」と、開き直ってしまう。
「イアンもさ。知っていたのなら教えてくれればよかったのに」
俺がカーソンに騙される場面を、しっかり目撃していたはずである。半眼になる俺に、イアンは「申し訳ありません」と目を伏せてしまう。
「先輩に楯突くなど、私にはとても」
「うおい! なにを全部俺のせいにしようとしてんの!? おまえ、マジ! 散々俺に楯突いておいてよく言うな」
すかさずカーソンが大声をあげているが、イアンは涼しい顔である。さすがクール系お兄さんだな。
※※※
「でさぁ、結局のところ、マルセルって俺のこと好きなんだよ」
「よかったですね! カミ様! 惚気がすごい!」
ぱちぱちと拍手してくる雪音ちゃんに、得意になる俺。進展あったら教えてくれと、毎度うるさい彼女である。流石にやることやったと、女子高校生相手にして直球で伝えることには抵抗があったので、なんかふんわりと伝えたところ、彼女は正しく意味を理解してくれたらしい。
手放しで喜んでくれる雪音ちゃんは「カミ様が幸せなら、私も幸せです!」と、嬉しいことを言ってくれる。さすが俺のファン。
てれてれと頬を掻いていると、「はい、これ」と唐突に雪音ちゃんが何かを押し付けてきた。反射的に受け取って確認すれば、以前マルセルにもらったイヤーカフ。
「忘れ物です」
「あ、うん」
そういや、これにGPS的な機能があると知って、ぶん投げたな。雪音ちゃんは、それを拾って保管しておいてくれたらしい。
手のひらでころころと転がして、ちょっと考える。マルセルからの贈り物であることは事実だから、その点については嬉しい。だが、GPS的機能については、俺のプライバシーという面からいい気分にはならない。
うーん、と唸る俺に、雪音ちゃんは「つけておいた方がいいと思いますよ」とお気楽に提案してくる。
「でも、俺のプライバシーはどうなる」
「居場所がわかるだけでしょ? カミ様、どうせ自分の部屋か私の部屋しか行かないから。マルセル殿下にバレても特に問題ないですよね」
悪かったな、行動範囲が狭くて。
すべては俺を自由にしてくれないマルセルのせいだ。相変わらず、マルセルは俺の外出に反対らしい。カミ様ではないとわかったから大丈夫だと主張するが、彼は納得しない。
「そりゃそうですよ。だってカミ様は、マルセル殿下と付き合ってるんですよ!? 王太子殿下の恋人!! そりゃマルセル殿下も気軽に外出させたくはないでしょうよ」
「……意味がわからない」
「なんで! なんかこう、カミ様に何かあったらどうするんですか!」
熱意のすごい雪音ちゃんは、どうやら俺の心配をしてくれているらしい。確かに、俺の立場的には色々気を付けなければならないこともあるのだろう。漫画とかでも、王子周辺の人物が命を狙われる的な展開はよくある。
だが、この世界はそこまで治安悪くない。俺の命については、そこまで心配いらないのだ。では、マルセルは一体何を心配しているのか。
「マルセルはね、俺を外に出すと、うっかり迷って帰れなくなると思っているんだよ」
「あー、なるほど」
納得するんじゃない。
失礼な雪音ちゃんに、思わず半眼となる。いくらなんでも、迷子になったりはしない。俺のことをなんだと思っているんだ。
「じゃあ、そのイヤーカフつけとけばいいじゃないですか。それなら、迷子になってもマルセル殿下に見つけてもらえますよ」
「……たしかに」
子供扱いされているようで非常に不服ではあるが、これをつけておくと言えば、マルセルも俺の外出に納得してくれるかもしれない。
「さすが雪音ちゃん。いいこと言うね」
「聖女ですからね!」
聖女かどうかはあまり関係ないと思うけどな。
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