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48 極秘のやつ
しおりを挟む どうやらマルセルは、俺の浮気を疑っているらしい。どうしてそうなった。
いや、それよりも。
「なにおまえ! 意味わかんない! 俺ってそんな尻軽に見えんの? そうですか。そうですか。もういいわ! マルセルなんて知らない!」
「あ、わかりました。申し訳ない。すべては私の勘違いですね。そんなに怒らないで」
なぜか突然、物分かりのよくなったマルセルは、俺のことを腕に閉じ込めてくる。あっさりと謝罪してみせたマルセルに、困惑する俺。
普段であれば、俺が部屋を飛び出す場面である。ここ俺の部屋だけど。行くあてはないが、とりあえずで飛び出して、マルセルの悪口を吐き捨てる場面である。
それを阻止されて、頭が動かなくなってしまう。
私が悪かったと繰り返すマルセルは、俺が力を抜いたことを確認して、ようやく解放してくれた。
じっと正面から、困ったように眉尻を下げて見つめてくるマルセルは「それで?」と、先を促してくる。宥めるように背中を優しくさすってくるマルセルに、目を瞬く。
えっと、なんの話をしていましたっけ?
「痛くないというのは、具体的にはどういう意味ですか」
私はてっきり、他の男とやったのかと、と頬を掻くマルセル。なんでそんな突拍子もない発想になるんだよ。
どうやら、俺が様付けに戻せと言った件と合わせて、他に好きな男ができたと勘違いしたらしい。
へ、へぇ。変な勘違いすんのな、おまえ。
ぱちぱちと何度も目を瞬く俺。どうやら俺が激昂したことにより、すべては彼の勘違いだと気付いたらしい。「ミナト様は嘘がつけない性格ですからね」と、わかったような口を利くマルセル。
どうやら本当に俺が浮気をしていれば、先程の彼の問いかけに、俺が「浮気して何か悪いのか!? 悪いのは俺に浮気させたマルセルの方だろ!」と開き直るだろうと予想していたらしい。
俺、どんなクソな性格だと思われてんだよ。色々言いたいことはあるが、まぁいいだろう。今は許す。
そうして俺の浮気疑惑が解決したところで。マルセルは、「それで?」と再度優しく促してくる。俺を興奮させまいとの奮闘が伝わってくる。
別に隠すことはない。カーソンに良い物もらった。それだけである。
正直に話せば、なんかマルセルが変な顔になってしまう。すごく疑われている。
「……それ、ちょっと見せてください」
「嫌だ。とるだろ」
「とりはしませんよ。確認するだけです」
「嫌だ!」
「ミナト」
「呼び捨てにすんなって言っただろ!」
諦めの悪いマルセルは、大袈裟にため息をつくと、無理やりこちらに手を伸ばしてくる。カーソンにもらったやつは、大事に保管してある。そう簡単に渡してたまるか。
「わかりました。私は触りませんから。とりあえず見せてください」
「むう」
本当は隠しておきたいが、そう真剣に頼まれると断りづらい。これはカーソンいわく、神殿に保管されている極秘の物らしいから。誰彼構わずに見せるんじゃないと、口を酸っぱくして言われているのだ。
でもマルセルは王太子だしな。別に見せてもいいかもしれない。神殿とマルセルの関係性がいまいちわからないけれども。
仕方ないなぁと立ち上がる。
そうして隠してあった小瓶を取り出せば、マルセルが怪訝な顔になってしまった。手のひらサイズの小さな瓶には、怪しげな液体が入っている。青色っぽい液体だ。「ほら」と掲げてみせれば、マルセルはなんだか俺を哀れむように眉尻を下げた。
「ミナト」
「ミナト様と呼べ」
「……ミナト様」
「なに」
俺の手中にある小瓶に目をやって、マルセルはゆっくりと口を開く。
「それはただのポーションですね」
「ポーション……?」
え、めっちゃファンタジーじゃん。しかし、その前についていた言葉が気になる。ただのポーションって言ったよな。別に珍しくもなんともないみたいな言い方したよな。
「マルセル。これはカーソンにもらっためっちゃ良い物。極秘のやつって」
「いえ、どこにでもあるポーションです。珍しくもなんともありません」
あん?
マルセルの俺を哀れむような顔と、カーソンの俺を適当にあしらおうとするかのような態度を思い出して、思考が停止する。
これは、あれだ。あの、ほら、あれだよ。
「……カーソンめ」
騙したな、俺のことを。なんやあいつ。
つまりだ。俺が痛いの嫌だと駄々をこねるあまり、相手にするのが面倒になったカーソンは、俺の無知を利用したのだ。さも特別な物であるかのように手渡してきたが、思い返せば、あの時のカーソンは笑いを堪えていたような気もする。クソが。
そういえば、イアンもずっと何か言いたそうにしていた。おそらく、これが単なるポーションだと教えたかったのだろう。けれども、俺が喜ぶあまり口を出せなかったのかもしれない。あるいは、ここで水を差してまた振り出しに戻るのが面倒だと思われたのか。イアンめ。
「じゃあこれは、使えないのか」
「いえ、普通に使えますよ」
しゅんと肩を落とす俺を励ますように、マルセルがポーションについて説明してくれる。いわく、たいていの怪我はこれを飲めば治ってしまうらしい。ファンタジーだ。
だが、病気などには効かないらしい。切り傷や擦り傷なんかには効果的。ふーん。
「……」
使えないことはないな?
しかし。
「尻が切れてから使ったのでは、結局俺が痛い思いをすることに変わりはないよな」
指摘すれば、マルセルは「嫌なことに気が付いたな、こいつ」みたいな顔をした。
いや、それよりも。
「なにおまえ! 意味わかんない! 俺ってそんな尻軽に見えんの? そうですか。そうですか。もういいわ! マルセルなんて知らない!」
「あ、わかりました。申し訳ない。すべては私の勘違いですね。そんなに怒らないで」
なぜか突然、物分かりのよくなったマルセルは、俺のことを腕に閉じ込めてくる。あっさりと謝罪してみせたマルセルに、困惑する俺。
普段であれば、俺が部屋を飛び出す場面である。ここ俺の部屋だけど。行くあてはないが、とりあえずで飛び出して、マルセルの悪口を吐き捨てる場面である。
それを阻止されて、頭が動かなくなってしまう。
私が悪かったと繰り返すマルセルは、俺が力を抜いたことを確認して、ようやく解放してくれた。
じっと正面から、困ったように眉尻を下げて見つめてくるマルセルは「それで?」と、先を促してくる。宥めるように背中を優しくさすってくるマルセルに、目を瞬く。
えっと、なんの話をしていましたっけ?
「痛くないというのは、具体的にはどういう意味ですか」
私はてっきり、他の男とやったのかと、と頬を掻くマルセル。なんでそんな突拍子もない発想になるんだよ。
どうやら、俺が様付けに戻せと言った件と合わせて、他に好きな男ができたと勘違いしたらしい。
へ、へぇ。変な勘違いすんのな、おまえ。
ぱちぱちと何度も目を瞬く俺。どうやら俺が激昂したことにより、すべては彼の勘違いだと気付いたらしい。「ミナト様は嘘がつけない性格ですからね」と、わかったような口を利くマルセル。
どうやら本当に俺が浮気をしていれば、先程の彼の問いかけに、俺が「浮気して何か悪いのか!? 悪いのは俺に浮気させたマルセルの方だろ!」と開き直るだろうと予想していたらしい。
俺、どんなクソな性格だと思われてんだよ。色々言いたいことはあるが、まぁいいだろう。今は許す。
そうして俺の浮気疑惑が解決したところで。マルセルは、「それで?」と再度優しく促してくる。俺を興奮させまいとの奮闘が伝わってくる。
別に隠すことはない。カーソンに良い物もらった。それだけである。
正直に話せば、なんかマルセルが変な顔になってしまう。すごく疑われている。
「……それ、ちょっと見せてください」
「嫌だ。とるだろ」
「とりはしませんよ。確認するだけです」
「嫌だ!」
「ミナト」
「呼び捨てにすんなって言っただろ!」
諦めの悪いマルセルは、大袈裟にため息をつくと、無理やりこちらに手を伸ばしてくる。カーソンにもらったやつは、大事に保管してある。そう簡単に渡してたまるか。
「わかりました。私は触りませんから。とりあえず見せてください」
「むう」
本当は隠しておきたいが、そう真剣に頼まれると断りづらい。これはカーソンいわく、神殿に保管されている極秘の物らしいから。誰彼構わずに見せるんじゃないと、口を酸っぱくして言われているのだ。
でもマルセルは王太子だしな。別に見せてもいいかもしれない。神殿とマルセルの関係性がいまいちわからないけれども。
仕方ないなぁと立ち上がる。
そうして隠してあった小瓶を取り出せば、マルセルが怪訝な顔になってしまった。手のひらサイズの小さな瓶には、怪しげな液体が入っている。青色っぽい液体だ。「ほら」と掲げてみせれば、マルセルはなんだか俺を哀れむように眉尻を下げた。
「ミナト」
「ミナト様と呼べ」
「……ミナト様」
「なに」
俺の手中にある小瓶に目をやって、マルセルはゆっくりと口を開く。
「それはただのポーションですね」
「ポーション……?」
え、めっちゃファンタジーじゃん。しかし、その前についていた言葉が気になる。ただのポーションって言ったよな。別に珍しくもなんともないみたいな言い方したよな。
「マルセル。これはカーソンにもらっためっちゃ良い物。極秘のやつって」
「いえ、どこにでもあるポーションです。珍しくもなんともありません」
あん?
マルセルの俺を哀れむような顔と、カーソンの俺を適当にあしらおうとするかのような態度を思い出して、思考が停止する。
これは、あれだ。あの、ほら、あれだよ。
「……カーソンめ」
騙したな、俺のことを。なんやあいつ。
つまりだ。俺が痛いの嫌だと駄々をこねるあまり、相手にするのが面倒になったカーソンは、俺の無知を利用したのだ。さも特別な物であるかのように手渡してきたが、思い返せば、あの時のカーソンは笑いを堪えていたような気もする。クソが。
そういえば、イアンもずっと何か言いたそうにしていた。おそらく、これが単なるポーションだと教えたかったのだろう。けれども、俺が喜ぶあまり口を出せなかったのかもしれない。あるいは、ここで水を差してまた振り出しに戻るのが面倒だと思われたのか。イアンめ。
「じゃあこれは、使えないのか」
「いえ、普通に使えますよ」
しゅんと肩を落とす俺を励ますように、マルセルがポーションについて説明してくれる。いわく、たいていの怪我はこれを飲めば治ってしまうらしい。ファンタジーだ。
だが、病気などには効かないらしい。切り傷や擦り傷なんかには効果的。ふーん。
「……」
使えないことはないな?
しかし。
「尻が切れてから使ったのでは、結局俺が痛い思いをすることに変わりはないよな」
指摘すれば、マルセルは「嫌なことに気が付いたな、こいつ」みたいな顔をした。
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