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47 お誘いでしょうが
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「やっぱり来たな! マルセル!」
「ご機嫌ですね」
夜。
今日も来るだろうなと、部屋の中央で仁王立ちをして待ち構えていたところ、やっぱりマルセルはのこのことやって来た。
マルセルの姿を確認するなり、イアンは俺のことを振り返る。そうして何か言いたそうな顔をしたものの、結局は何も言わずに部屋を出て行った。
大丈夫。俺に任せておけ。
ふふっと不敵に笑う俺を見て、マルセルが眉間に皺を寄せる。どうやら今夜もお茶だけで終わらせるつもりで来たらしいマルセルは、手にしていたトレーをサイドテーブルに置く。
俺との時間を邪魔されるのが心底嫌なようで、イアンを含む使用人を立ち入らせないところは、徹底している。王子様なのに自分でお茶を淹れてしまうほどだ。
だが残念なことに、本日はゆっくりお茶している暇はない。
「マルセル!」
「なんですか」
ベッドに腰掛けて足を組むマルセルは、怪訝な顔である。
「やる?」
とりあえず、隣に座ってそっと彼の膝に手を置いてみる。僅かに肩を揺らしたマルセルは「なにを?」と野暮な質問をしてくる。
「んなこと訊くなよ」
にやにやと肩を小突けば、マルセルは微妙な表情になってしまう。もしかして伝わってない? 恋人が、夜にベッドの上で「やる?」と問いかけてんだぞ。やることはひとつしかないだろうが。
なんか急に察しの悪くなったらしいマルセルは、俺へと体ごと向き直る。そうして、相変わらず皺の寄っている眉間を戻すことなく、俺の両肩に手を置いた。
「ミナト」
「あと俺のこと呼び捨てにすんのやめてくれない? これまで通り、ミナト様って呼んで」
「なぜ。いや、その話は後です」
「後回しにするな。今改善しろ」
「いや、だから。ちょっと黙っていてください」
「はぁ!?」
突然偉そうなことを言い放つマルセルに、カッとなって拳を握る。俺は今、ものすごく大事な話をした。それを後回しにするとは何事だ。
けれども、マルセルは面倒くさそうに舌打ちしてしまう。なんじゃおまえ、その態度。
「前から思ってたんだけどさ! なんかマルセルってすげぇ偉そうだよな!?」
「わかりました。申し訳ありません。私が悪かったです」
「なにその適当な謝罪!」
もう帰る! と勢いよく立ちあがろうとする俺を、マルセルは力尽くで押さえつけてくる。
「どこに帰ると言うのですか。ミナト、様の部屋はここでしょう」
そうだったな。ここ俺の部屋だわ。
すごく不服な様子で俺を様付けしたマルセルは、多分俺の相手が面倒なのだろう。これ以上、話を拗らせてはいけないと、適当に俺に話を合わせにきている。
ムスッと頬を膨らませて、わかりやすく不満ですとアピールをしておくことにする。
やれやれと肩をすくめたマルセルは、「それで」と俺の目を覗き込んでくる。
「どういう心境の変化ですか?」
よくぞ聞いてくれました!
ようやく本題に入れた俺は、不満アピールをさっさとやめて、ニヤッと口角を上げる。それを見て、マルセルがすんっと真顔になってしまう。
「大丈夫! ということでやろう!」
「いやいや。説明をしてくださいよ。あんなに嫌がっていたじゃないですか」
「なに? 俺とはやりたくないってか。やっぱり俺のことそんなに好きじゃないんだろ!」
「好きです。好きですから、私の話も聞いてください」
真正面から好きと言われて、不意にドキッとしてしまう。照れ隠しに「んな恥ずかしいこと言うなよ!」と、マルセルを軽く小突けば、「あぁ、はい。すみません」と疲れたような声が返ってきた。
まぁ、いいや。
気を取り直して、俺はマルセルの青い瞳を見据えた。いつ見ても、きらきら王子様だな。これが自分の恋人っていまいち信じられない。夢じゃないよな、と赤くなる頬を隠すように両手を添える。
こんないい奴を捕まえたんだから、恋人っぽいことはやりたい。本当ならば、俺がマルセルを押し倒してやってもいいのだが、現実的には無理そうである。
でも突っ込ませるのは、痛そうで無理と考えていたのだが。カーソンに良い物もらった。これで全て解決である。
得意になった俺は、マルセルの肩をペシペシ叩く。
「大丈夫! もう痛くないから」
「……は?」
思ってたんと違う。
なぜか俺のことを睨みつけてくるマルセルは、確実に怒っていた。怒る要素どこ。
あんなにやりたいって言ってたのに。そんなマルセルの思いに応えてやったというのに、当のマルセルは青筋を立てている。ここは喜ぶところだよ。なんで怒るんだよ。どういう情緒してんだよ。
ガシッと、押さえつけるように両肩を力強く掴まれて、首をすくめる。
「マルセル?」
おずおずと名前を呼ぶが、彼はそのまま俯いてしまう。
「マルセル? ちょっと痛いんだけど」
肩に置かれた手に、徐々に力がこもっていく。そうしてたっぷり時間が経った後、マルセルが顔を上げた。こちらを半眼で睨みつけてくる彼は、間違いなくキレていた。
「他に男でもできましたか?」
「あん?」
なにを言うんだ、こいつは。わけがわからないんだが。
「ご機嫌ですね」
夜。
今日も来るだろうなと、部屋の中央で仁王立ちをして待ち構えていたところ、やっぱりマルセルはのこのことやって来た。
マルセルの姿を確認するなり、イアンは俺のことを振り返る。そうして何か言いたそうな顔をしたものの、結局は何も言わずに部屋を出て行った。
大丈夫。俺に任せておけ。
ふふっと不敵に笑う俺を見て、マルセルが眉間に皺を寄せる。どうやら今夜もお茶だけで終わらせるつもりで来たらしいマルセルは、手にしていたトレーをサイドテーブルに置く。
俺との時間を邪魔されるのが心底嫌なようで、イアンを含む使用人を立ち入らせないところは、徹底している。王子様なのに自分でお茶を淹れてしまうほどだ。
だが残念なことに、本日はゆっくりお茶している暇はない。
「マルセル!」
「なんですか」
ベッドに腰掛けて足を組むマルセルは、怪訝な顔である。
「やる?」
とりあえず、隣に座ってそっと彼の膝に手を置いてみる。僅かに肩を揺らしたマルセルは「なにを?」と野暮な質問をしてくる。
「んなこと訊くなよ」
にやにやと肩を小突けば、マルセルは微妙な表情になってしまう。もしかして伝わってない? 恋人が、夜にベッドの上で「やる?」と問いかけてんだぞ。やることはひとつしかないだろうが。
なんか急に察しの悪くなったらしいマルセルは、俺へと体ごと向き直る。そうして、相変わらず皺の寄っている眉間を戻すことなく、俺の両肩に手を置いた。
「ミナト」
「あと俺のこと呼び捨てにすんのやめてくれない? これまで通り、ミナト様って呼んで」
「なぜ。いや、その話は後です」
「後回しにするな。今改善しろ」
「いや、だから。ちょっと黙っていてください」
「はぁ!?」
突然偉そうなことを言い放つマルセルに、カッとなって拳を握る。俺は今、ものすごく大事な話をした。それを後回しにするとは何事だ。
けれども、マルセルは面倒くさそうに舌打ちしてしまう。なんじゃおまえ、その態度。
「前から思ってたんだけどさ! なんかマルセルってすげぇ偉そうだよな!?」
「わかりました。申し訳ありません。私が悪かったです」
「なにその適当な謝罪!」
もう帰る! と勢いよく立ちあがろうとする俺を、マルセルは力尽くで押さえつけてくる。
「どこに帰ると言うのですか。ミナト、様の部屋はここでしょう」
そうだったな。ここ俺の部屋だわ。
すごく不服な様子で俺を様付けしたマルセルは、多分俺の相手が面倒なのだろう。これ以上、話を拗らせてはいけないと、適当に俺に話を合わせにきている。
ムスッと頬を膨らませて、わかりやすく不満ですとアピールをしておくことにする。
やれやれと肩をすくめたマルセルは、「それで」と俺の目を覗き込んでくる。
「どういう心境の変化ですか?」
よくぞ聞いてくれました!
ようやく本題に入れた俺は、不満アピールをさっさとやめて、ニヤッと口角を上げる。それを見て、マルセルがすんっと真顔になってしまう。
「大丈夫! ということでやろう!」
「いやいや。説明をしてくださいよ。あんなに嫌がっていたじゃないですか」
「なに? 俺とはやりたくないってか。やっぱり俺のことそんなに好きじゃないんだろ!」
「好きです。好きですから、私の話も聞いてください」
真正面から好きと言われて、不意にドキッとしてしまう。照れ隠しに「んな恥ずかしいこと言うなよ!」と、マルセルを軽く小突けば、「あぁ、はい。すみません」と疲れたような声が返ってきた。
まぁ、いいや。
気を取り直して、俺はマルセルの青い瞳を見据えた。いつ見ても、きらきら王子様だな。これが自分の恋人っていまいち信じられない。夢じゃないよな、と赤くなる頬を隠すように両手を添える。
こんないい奴を捕まえたんだから、恋人っぽいことはやりたい。本当ならば、俺がマルセルを押し倒してやってもいいのだが、現実的には無理そうである。
でも突っ込ませるのは、痛そうで無理と考えていたのだが。カーソンに良い物もらった。これで全て解決である。
得意になった俺は、マルセルの肩をペシペシ叩く。
「大丈夫! もう痛くないから」
「……は?」
思ってたんと違う。
なぜか俺のことを睨みつけてくるマルセルは、確実に怒っていた。怒る要素どこ。
あんなにやりたいって言ってたのに。そんなマルセルの思いに応えてやったというのに、当のマルセルは青筋を立てている。ここは喜ぶところだよ。なんで怒るんだよ。どういう情緒してんだよ。
ガシッと、押さえつけるように両肩を力強く掴まれて、首をすくめる。
「マルセル?」
おずおずと名前を呼ぶが、彼はそのまま俯いてしまう。
「マルセル? ちょっと痛いんだけど」
肩に置かれた手に、徐々に力がこもっていく。そうしてたっぷり時間が経った後、マルセルが顔を上げた。こちらを半眼で睨みつけてくる彼は、間違いなくキレていた。
「他に男でもできましたか?」
「あん?」
なにを言うんだ、こいつは。わけがわからないんだが。
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