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46 嫌な相談
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「え、えっとぉ? つまりミナト様は、殿下を抱くつもりでいたと」
「そういうこと」
「無茶だろ」
「なにが無茶なんだ!」
クソ失礼なことを口走るカーソンは、「え、怖い。なんで殿下を相手に、自分がそっち側だと思えるんだよ」と、俺のことを馬鹿にしてくる。
「俺は男ですが!?」
「殿下も男だ」
んなの知ってる。だから揉めているのだ。
俺もマルセルも男である。ここはもう変更できないから仕方がない。
問題は、どちらも男であるのに、マルセルも周囲の人間も、なぜかマルセルが突っ込む側だと信じて疑わない点である。これはおかしい。色々と不公平だ。俺はこの世界に来てから(というより人生において)一度も自分が突っ込まれる側だなんて主張したことはない。にも関わらず、勝手に役割分担されている。これはいけない。なんとかせねば。
「あー、じゃあもうあれだ。身長で決めろ。こういうのは、体がデカい方が突っ込む側だと相場が決まっているからな」
「適当言ってるだろ?」
「事実を言っているだけだ」
俺のことをすごく適当に扱ってくるカーソンだが、言いたいことはわからなくもない。
「……身長。たぶん俺の方が高いと思う」
「どう見ても殿下の方が高いわ、ボケ」
「なんだと! 背伸びすればギリ俺の方が高いかもしれないだろ!!」
「背伸びで補える身長差じゃねぇだろ。つうか、背伸び必要な時点で負けてんじゃねぇか!」
ああ言えばこう言う。
なぜか俺の勝ちを認めないカーソンも、どうやらマルセルが突っ込む側だと決めつけている。
「カーソン。もっとさ、物事を柔軟に考えないと。決めつけはよくないよ?」
「すげぇ腹立つ」
もう帰っていいか? と冷たいこと言うカーソンを「まぁまぁ」と宥めて、改めて向き直る。
イアンは、ひたすら無言でカーソンを睨みつけている。先輩相手にすごいな。さすがイアン。
「それでさぁ、マルセルにいい加減諦めるよう言ってくれない?」
「言えるわけないだろ」
俺のお願いを突っぱねるカーソンは、「なにがそんなに嫌なんだ」と首を傾げる。
「恋人なんだろ? 別によくないか。一度くらい突っ込ませてやれよ」
「痛そうだから嫌」
「……」
絶句するカーソンは、どうやら先日の神殿での出来事を思い出しているらしかった。あの時も、魔力判定のためにちょびっとだけ血が必要と聞いた俺が、断固拒否してすごく揉めた。その時のことを思い出しているらしい。
ひくりと口元を引き攣らせたカーソンは、「もしかして殿下をどうにかした方がはやいのか?」と考え込んでしまう。そうだ。マルセルを説得する方がはやいと思うぞ。
「痛いのなんて最初だけだろ」
「その最初の痛みが嫌だ」
「いやでも。あんたが突っ込む側にまわるとしてよ、そしたら殿下が痛い思いをするわけだが、それはいいのか?」
「俺が痛くなければ、別になんでもいい」
「ひでぇ」
なにがひどいんだ。マルセルだって、今まさに同じようなことをやろうとしているだろ。要するに、マルセルは自分のことしか考えていないのだ。あの腹黒王子が。ふざけやがって。
俺のことが好きとか、俺のためとか言うのであれば、俺に突っ込ませろっていうんだ。ボケが。
マルセルは基本いい人ではあるのだが、さらりと自分の意見を通そうとするところが、非常によろしくない。さすが王子様。自分の意見は通って当然という態度が気に食わないし、従わない俺がおかしい的な困った表情浮かべてくるところも気に食わない。
「つまりだ。全部マルセルが悪いってことだよ」
「……」
半眼になるカーソンは、もはや返事すらしてくれない。ちくしょう。そういえば、こいつもマルセルの部下である。
なんだか腹が立ってきた。俺の味方が皆無だ。
ぎゅっと拳を握りしめて、怒りを鎮めようとするが、無理だった。俺のことを「やれやれ」的な顔で見ているカーソンに、指を突きつけてやる。
「わかった! もうわかった! 俺が折れればいいんだろ!? 泣いて嫌がる俺を無理やり犯せばいいだろ!! さすが王子様! やることが違うな!」
「……おい、イアン。これどうにかしろよ」
こうなったら全力で被害者面してやる。「俺をいじめて楽しいか!?」と、全力で叫んでおくことにする。
しれっとイアンに俺を押し付けるカーソンだが、当のイアンは緩く首を左右に振っている。
「私はちょっと。ここは人生経験豊富な先輩がどうにかしてくださいよ」
「こんな時だけ先輩扱いやめろ。んな歳、変わんねぇだろ」
ぶつぶつ俺の押し付け合いをするふたりであるが、構うものか。全力主張を続けていれば、イアンとの勝負に負けたらしいカーソンが「あー」と、頭をガシガシ掻きながら近寄ってくる。
「なんだ! なんで近付いてくるんだよ! 俺に手を出すつもりか!?」
「とりあえず、俺の名誉のために黙ってくれませんかね、ミナト様」
苦い顔をしたカーソンは「これはとっておきなんだが」と、真剣な顔で俺を凝視してくる。そのただならぬ雰囲気に、大声主張をやめて、耳を傾けることにする。
「神殿に、なんかすごく極秘の物があってな」
なんかすごく極秘の物ってなに。すごく怪しい。胡散臭い。
ジトッと半眼になって警戒していると、カーソンが「誰にも知られちゃいけないことだ」と、小声になってしまう。
ひょいっと手招きされて、迷う俺。だが、イアンも居るし大丈夫だろうと、カーソンに寄って行く。
そうして俺の耳に手を当てたカーソンは、ひどく真面目な顔でこう告げた。
「要するに、痛くなきゃいいんだろ?」
「そういうこと」
「無茶だろ」
「なにが無茶なんだ!」
クソ失礼なことを口走るカーソンは、「え、怖い。なんで殿下を相手に、自分がそっち側だと思えるんだよ」と、俺のことを馬鹿にしてくる。
「俺は男ですが!?」
「殿下も男だ」
んなの知ってる。だから揉めているのだ。
俺もマルセルも男である。ここはもう変更できないから仕方がない。
問題は、どちらも男であるのに、マルセルも周囲の人間も、なぜかマルセルが突っ込む側だと信じて疑わない点である。これはおかしい。色々と不公平だ。俺はこの世界に来てから(というより人生において)一度も自分が突っ込まれる側だなんて主張したことはない。にも関わらず、勝手に役割分担されている。これはいけない。なんとかせねば。
「あー、じゃあもうあれだ。身長で決めろ。こういうのは、体がデカい方が突っ込む側だと相場が決まっているからな」
「適当言ってるだろ?」
「事実を言っているだけだ」
俺のことをすごく適当に扱ってくるカーソンだが、言いたいことはわからなくもない。
「……身長。たぶん俺の方が高いと思う」
「どう見ても殿下の方が高いわ、ボケ」
「なんだと! 背伸びすればギリ俺の方が高いかもしれないだろ!!」
「背伸びで補える身長差じゃねぇだろ。つうか、背伸び必要な時点で負けてんじゃねぇか!」
ああ言えばこう言う。
なぜか俺の勝ちを認めないカーソンも、どうやらマルセルが突っ込む側だと決めつけている。
「カーソン。もっとさ、物事を柔軟に考えないと。決めつけはよくないよ?」
「すげぇ腹立つ」
もう帰っていいか? と冷たいこと言うカーソンを「まぁまぁ」と宥めて、改めて向き直る。
イアンは、ひたすら無言でカーソンを睨みつけている。先輩相手にすごいな。さすがイアン。
「それでさぁ、マルセルにいい加減諦めるよう言ってくれない?」
「言えるわけないだろ」
俺のお願いを突っぱねるカーソンは、「なにがそんなに嫌なんだ」と首を傾げる。
「恋人なんだろ? 別によくないか。一度くらい突っ込ませてやれよ」
「痛そうだから嫌」
「……」
絶句するカーソンは、どうやら先日の神殿での出来事を思い出しているらしかった。あの時も、魔力判定のためにちょびっとだけ血が必要と聞いた俺が、断固拒否してすごく揉めた。その時のことを思い出しているらしい。
ひくりと口元を引き攣らせたカーソンは、「もしかして殿下をどうにかした方がはやいのか?」と考え込んでしまう。そうだ。マルセルを説得する方がはやいと思うぞ。
「痛いのなんて最初だけだろ」
「その最初の痛みが嫌だ」
「いやでも。あんたが突っ込む側にまわるとしてよ、そしたら殿下が痛い思いをするわけだが、それはいいのか?」
「俺が痛くなければ、別になんでもいい」
「ひでぇ」
なにがひどいんだ。マルセルだって、今まさに同じようなことをやろうとしているだろ。要するに、マルセルは自分のことしか考えていないのだ。あの腹黒王子が。ふざけやがって。
俺のことが好きとか、俺のためとか言うのであれば、俺に突っ込ませろっていうんだ。ボケが。
マルセルは基本いい人ではあるのだが、さらりと自分の意見を通そうとするところが、非常によろしくない。さすが王子様。自分の意見は通って当然という態度が気に食わないし、従わない俺がおかしい的な困った表情浮かべてくるところも気に食わない。
「つまりだ。全部マルセルが悪いってことだよ」
「……」
半眼になるカーソンは、もはや返事すらしてくれない。ちくしょう。そういえば、こいつもマルセルの部下である。
なんだか腹が立ってきた。俺の味方が皆無だ。
ぎゅっと拳を握りしめて、怒りを鎮めようとするが、無理だった。俺のことを「やれやれ」的な顔で見ているカーソンに、指を突きつけてやる。
「わかった! もうわかった! 俺が折れればいいんだろ!? 泣いて嫌がる俺を無理やり犯せばいいだろ!! さすが王子様! やることが違うな!」
「……おい、イアン。これどうにかしろよ」
こうなったら全力で被害者面してやる。「俺をいじめて楽しいか!?」と、全力で叫んでおくことにする。
しれっとイアンに俺を押し付けるカーソンだが、当のイアンは緩く首を左右に振っている。
「私はちょっと。ここは人生経験豊富な先輩がどうにかしてくださいよ」
「こんな時だけ先輩扱いやめろ。んな歳、変わんねぇだろ」
ぶつぶつ俺の押し付け合いをするふたりであるが、構うものか。全力主張を続けていれば、イアンとの勝負に負けたらしいカーソンが「あー」と、頭をガシガシ掻きながら近寄ってくる。
「なんだ! なんで近付いてくるんだよ! 俺に手を出すつもりか!?」
「とりあえず、俺の名誉のために黙ってくれませんかね、ミナト様」
苦い顔をしたカーソンは「これはとっておきなんだが」と、真剣な顔で俺を凝視してくる。そのただならぬ雰囲気に、大声主張をやめて、耳を傾けることにする。
「神殿に、なんかすごく極秘の物があってな」
なんかすごく極秘の物ってなに。すごく怪しい。胡散臭い。
ジトッと半眼になって警戒していると、カーソンが「誰にも知られちゃいけないことだ」と、小声になってしまう。
ひょいっと手招きされて、迷う俺。だが、イアンも居るし大丈夫だろうと、カーソンに寄って行く。
そうして俺の耳に手を当てたカーソンは、ひどく真面目な顔でこう告げた。
「要するに、痛くなきゃいいんだろ?」
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