45 / 51
45 お悩み
しおりを挟む
「最近、マルセルが俺のことを呼び捨てにしてくるのがすごく嫌」
「なんでですか。恋人っぽくていいじゃないですか」
首を捻る雪音ちゃんは、なんにもわかっていない。マルセルにミナトって呼ばれるたびに、俺がどれだけドキッとしていることか。心臓に悪い。
「ところで、カミ様」
「ん?」
いつものように、雪音ちゃんとだらだらお喋りしている時である。マルセルは仕事があるといって、昼間は俺に付き合ってくれない。なんてドライな男だ。俺と仕事、一体どちらが大事なのか。
晴れてマルセルと恋人になった俺は、飽きもせずにひたすらマルセルのことを雪音ちゃんに自慢している。時折、悩み相談も入るが。
今日も今日とて。マルセルによる呼び捨て問題を解決しようと、雪音ちゃんに相談していたのだが、彼女は先程からちらちらと俺に意味深な視線を送ってくるのだ。
なに? と急かすが、雪音ちゃんは迷うように口を開けたり閉じたりしている。今更、俺相手に遠慮なんてしなくていいのに。
「どうした」
「あの、ちょっとアレなこと訊いてもいいですか」
アレってどれ? よくわからんが、聞かれてまずいことなんてない。いいよとお気楽に返事をすれば、雪音ちゃんが意を決するかのように拳を握った。
「マルセル殿下と、どこまでやったんですか?」
「……」
すっと、遠い目になる俺。いくら雪音ちゃんでも、そういうど直球な話はちょっと。だが、なんでも聞いてと言った手前、突っぱね難い。
「いや、普通だけど」
「え、最後までやったんですか?」
「最後ってなに? 雪音ちゃんの言う最後ってどこ? キスか? キスなのか?」
「なんで。いくらなんでも私、そこまでピュアじゃないです」
で、どうなんですか? と身を乗り出す雪音ちゃんには悪いが、たいした進展はないのだよ。
正直、マルセルとは最後まではやっていない。マルセルが、俺の息子を弄って俺が出してそれで終わりである。
だが、流石にこの事実を女子高校生相手に伝えるのは無理。ひどいセクハラになってしまう。
ははっと笑って誤魔化しておくことにする。
我ながらどうかとは思うのだが、致し方ない。だってマルセルが俺を抱くといってきかないのだ。悪いのは、頑ななあちらの方だろう。
ぶっちゃけ、男同士のやり方はなんとなくわかる程度である。だが、なんか痛そうということはわかる。俺には無理そう。
考えてもみて欲しいのだが。
注射にもビビるような俺がよ、いくら恋人同士とはいえだよ、己の尻に突っ込ませるとかさ。あるわけないじゃんね。
毎度毎度、マルセルは懲りずに手を出してこようとする。だが、俺はその度に断固拒否をしていた。もう何度戦ったかわからない。
そうして切羽詰まったマルセルが、一度無理やり突っ込もうとしてきたこともある。その時の俺は、ありったけの大声を出した。その結果、イアンが部屋に突入してこようとした。危うくマルセルを社会的に殺すところだった。別の意味でドキドキした。
それ以来、マルセルは俺に手を出してこなくなった。
相変わらず、夜になれば俺の部屋にしれっとやって来る。だがそれだけ。のほほんとお喋りして終わりである。もはや俺の下半身に触れることすら無くなった。
なんでや。いや俺が悪いんだろうけどさ。
そんなこんなで、すごく行き詰まっているのだ。
だが、雪音ちゃんにこんなこと相談できない。イアンもあまりあてにならない。迷った俺は、ひとり思い出してしまった。なんでも相談できそうな便利な奴が、ひとりいるではないかと。
※※※
「生きていたのか、カーソン」
「そりゃ生きてるだろうよ」
「そうか」
そりゃよかった。激怒したマルセルに殺されていたらどうしようかと。
カーソンに会いたい。
そうごねた俺を、イアンは困ったような顔で見つめてきた。けれどもめげずに主張を繰り返した結果、無事に会えることになった。イアンはすごく不満そうではあったが。
俺の部屋を訪れたカーソンは、あの日と変わらない。俺に対する誘拐紛いの行為が原因で、なんか酷いことになっていたらどうしようと内心ビクビクしていた俺は、心底安堵した。
「クビにならなくて、よかった」
「ご心配どうも」
どうやらマルセルにも、なんか後ろめたい気持ちがあったらしい。俺を神様扱いして勝手に崇めていたが、もちろん俺はこの世界に元々存在していた神ではない。この国には、この国の神様がすでにいるし、それに仕える神官達もいる。マルセルがやったことは、大雑把に言えばこの国の神や神官に対する裏切りにもなりかねない。
ということで、勝手に俺を新しく神と崇めたことを、心の奥底ではずっと気にしていたらしい。雪音ちゃんの失言から始まった事態が、すげぇ色々と影響を及ぼしている。
だから、今回の一部神官やそれに同調する者による誘拐紛いの事件は、不問となったそうだ。
俺としても、少々手荒な攫われ方はしたが、怪我はひとつもない。唯一負った傷は、魔力判定の際に付けられたほんのちょびっとだけの刺し傷だ。お咎めなしに対して、不満はない。
「でさ、ちょっと相談があるんだけど」
「面倒事じゃないだろうな」
嫌々といった様子で話を聞いてくれるカーソンは、明らかにイアンを警戒していた。そのイアンは、じっとカーソンのことを睨み付けている。やめてやれよ。
「相談なら、そこの護衛にでもしとけよ」
「イアンはちょっと。カーソンの方が適任だと思う」
「もう嫌な予感しかしない」
ひくりと口元を引き攣らせるカーソンは、俺の目から見ても遊んでいそうである。つまり、こういう下世話な話も得意そうという俺の偏見からである。
イアンはな、ちょっとな。クール系お兄さんだから。俺が相談しても「左様で」で流されてしまいそうなのだ。俺が何度、イアンに適当にあしらわれてきたことか。
「マルセルとのことなんだけど」
「おう」
腕を組んで耳を傾けてくれるカーソン。
「マルセルを抱くには、どうすればいいと思う?」
「……え、なに? なんて?」
大袈裟に聞き返してくるカーソンは、信じられないと目を見開いていた。俺、なにかおかしなこと言ったかよ。人に話は真面目に聞け。
「なんでですか。恋人っぽくていいじゃないですか」
首を捻る雪音ちゃんは、なんにもわかっていない。マルセルにミナトって呼ばれるたびに、俺がどれだけドキッとしていることか。心臓に悪い。
「ところで、カミ様」
「ん?」
いつものように、雪音ちゃんとだらだらお喋りしている時である。マルセルは仕事があるといって、昼間は俺に付き合ってくれない。なんてドライな男だ。俺と仕事、一体どちらが大事なのか。
晴れてマルセルと恋人になった俺は、飽きもせずにひたすらマルセルのことを雪音ちゃんに自慢している。時折、悩み相談も入るが。
今日も今日とて。マルセルによる呼び捨て問題を解決しようと、雪音ちゃんに相談していたのだが、彼女は先程からちらちらと俺に意味深な視線を送ってくるのだ。
なに? と急かすが、雪音ちゃんは迷うように口を開けたり閉じたりしている。今更、俺相手に遠慮なんてしなくていいのに。
「どうした」
「あの、ちょっとアレなこと訊いてもいいですか」
アレってどれ? よくわからんが、聞かれてまずいことなんてない。いいよとお気楽に返事をすれば、雪音ちゃんが意を決するかのように拳を握った。
「マルセル殿下と、どこまでやったんですか?」
「……」
すっと、遠い目になる俺。いくら雪音ちゃんでも、そういうど直球な話はちょっと。だが、なんでも聞いてと言った手前、突っぱね難い。
「いや、普通だけど」
「え、最後までやったんですか?」
「最後ってなに? 雪音ちゃんの言う最後ってどこ? キスか? キスなのか?」
「なんで。いくらなんでも私、そこまでピュアじゃないです」
で、どうなんですか? と身を乗り出す雪音ちゃんには悪いが、たいした進展はないのだよ。
正直、マルセルとは最後まではやっていない。マルセルが、俺の息子を弄って俺が出してそれで終わりである。
だが、流石にこの事実を女子高校生相手に伝えるのは無理。ひどいセクハラになってしまう。
ははっと笑って誤魔化しておくことにする。
我ながらどうかとは思うのだが、致し方ない。だってマルセルが俺を抱くといってきかないのだ。悪いのは、頑ななあちらの方だろう。
ぶっちゃけ、男同士のやり方はなんとなくわかる程度である。だが、なんか痛そうということはわかる。俺には無理そう。
考えてもみて欲しいのだが。
注射にもビビるような俺がよ、いくら恋人同士とはいえだよ、己の尻に突っ込ませるとかさ。あるわけないじゃんね。
毎度毎度、マルセルは懲りずに手を出してこようとする。だが、俺はその度に断固拒否をしていた。もう何度戦ったかわからない。
そうして切羽詰まったマルセルが、一度無理やり突っ込もうとしてきたこともある。その時の俺は、ありったけの大声を出した。その結果、イアンが部屋に突入してこようとした。危うくマルセルを社会的に殺すところだった。別の意味でドキドキした。
それ以来、マルセルは俺に手を出してこなくなった。
相変わらず、夜になれば俺の部屋にしれっとやって来る。だがそれだけ。のほほんとお喋りして終わりである。もはや俺の下半身に触れることすら無くなった。
なんでや。いや俺が悪いんだろうけどさ。
そんなこんなで、すごく行き詰まっているのだ。
だが、雪音ちゃんにこんなこと相談できない。イアンもあまりあてにならない。迷った俺は、ひとり思い出してしまった。なんでも相談できそうな便利な奴が、ひとりいるではないかと。
※※※
「生きていたのか、カーソン」
「そりゃ生きてるだろうよ」
「そうか」
そりゃよかった。激怒したマルセルに殺されていたらどうしようかと。
カーソンに会いたい。
そうごねた俺を、イアンは困ったような顔で見つめてきた。けれどもめげずに主張を繰り返した結果、無事に会えることになった。イアンはすごく不満そうではあったが。
俺の部屋を訪れたカーソンは、あの日と変わらない。俺に対する誘拐紛いの行為が原因で、なんか酷いことになっていたらどうしようと内心ビクビクしていた俺は、心底安堵した。
「クビにならなくて、よかった」
「ご心配どうも」
どうやらマルセルにも、なんか後ろめたい気持ちがあったらしい。俺を神様扱いして勝手に崇めていたが、もちろん俺はこの世界に元々存在していた神ではない。この国には、この国の神様がすでにいるし、それに仕える神官達もいる。マルセルがやったことは、大雑把に言えばこの国の神や神官に対する裏切りにもなりかねない。
ということで、勝手に俺を新しく神と崇めたことを、心の奥底ではずっと気にしていたらしい。雪音ちゃんの失言から始まった事態が、すげぇ色々と影響を及ぼしている。
だから、今回の一部神官やそれに同調する者による誘拐紛いの事件は、不問となったそうだ。
俺としても、少々手荒な攫われ方はしたが、怪我はひとつもない。唯一負った傷は、魔力判定の際に付けられたほんのちょびっとだけの刺し傷だ。お咎めなしに対して、不満はない。
「でさ、ちょっと相談があるんだけど」
「面倒事じゃないだろうな」
嫌々といった様子で話を聞いてくれるカーソンは、明らかにイアンを警戒していた。そのイアンは、じっとカーソンのことを睨み付けている。やめてやれよ。
「相談なら、そこの護衛にでもしとけよ」
「イアンはちょっと。カーソンの方が適任だと思う」
「もう嫌な予感しかしない」
ひくりと口元を引き攣らせるカーソンは、俺の目から見ても遊んでいそうである。つまり、こういう下世話な話も得意そうという俺の偏見からである。
イアンはな、ちょっとな。クール系お兄さんだから。俺が相談しても「左様で」で流されてしまいそうなのだ。俺が何度、イアンに適当にあしらわれてきたことか。
「マルセルとのことなんだけど」
「おう」
腕を組んで耳を傾けてくれるカーソン。
「マルセルを抱くには、どうすればいいと思う?」
「……え、なに? なんて?」
大袈裟に聞き返してくるカーソンは、信じられないと目を見開いていた。俺、なにかおかしなこと言ったかよ。人に話は真面目に聞け。
164
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる