聖女召喚に巻き込まれた単なるアイドルですが異世界で神と崇められています。誰か聖女を止めてくれ

岩永みやび

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45 お悩み

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「最近、マルセルが俺のことを呼び捨てにしてくるのがすごく嫌」
「なんでですか。恋人っぽくていいじゃないですか」

 首を捻る雪音ちゃんは、なんにもわかっていない。マルセルにミナトって呼ばれるたびに、俺がどれだけドキッとしていることか。心臓に悪い。

「ところで、カミ様」
「ん?」

 いつものように、雪音ちゃんとだらだらお喋りしている時である。マルセルは仕事があるといって、昼間は俺に付き合ってくれない。なんてドライな男だ。俺と仕事、一体どちらが大事なのか。

 晴れてマルセルと恋人になった俺は、飽きもせずにひたすらマルセルのことを雪音ちゃんに自慢している。時折、悩み相談も入るが。

 今日も今日とて。マルセルによる呼び捨て問題を解決しようと、雪音ちゃんに相談していたのだが、彼女は先程からちらちらと俺に意味深な視線を送ってくるのだ。

 なに? と急かすが、雪音ちゃんは迷うように口を開けたり閉じたりしている。今更、俺相手に遠慮なんてしなくていいのに。

「どうした」
「あの、ちょっとアレなこと訊いてもいいですか」

 アレってどれ? よくわからんが、聞かれてまずいことなんてない。いいよとお気楽に返事をすれば、雪音ちゃんが意を決するかのように拳を握った。

「マルセル殿下と、どこまでやったんですか?」
「……」

 すっと、遠い目になる俺。いくら雪音ちゃんでも、そういうど直球な話はちょっと。だが、なんでも聞いてと言った手前、突っぱね難い。

「いや、普通だけど」
「え、最後までやったんですか?」
「最後ってなに? 雪音ちゃんの言う最後ってどこ? キスか? キスなのか?」
「なんで。いくらなんでも私、そこまでピュアじゃないです」

 で、どうなんですか? と身を乗り出す雪音ちゃんには悪いが、たいした進展はないのだよ。

 正直、マルセルとは最後まではやっていない。マルセルが、俺の息子を弄って俺が出してそれで終わりである。

 だが、流石にこの事実を女子高校生相手に伝えるのは無理。ひどいセクハラになってしまう。

 ははっと笑って誤魔化しておくことにする。

 我ながらどうかとは思うのだが、致し方ない。だってマルセルが俺を抱くといってきかないのだ。悪いのは、頑ななあちらの方だろう。

 ぶっちゃけ、男同士のやり方はなんとなくわかる程度である。だが、なんか痛そうということはわかる。俺には無理そう。

 考えてもみて欲しいのだが。
 注射にもビビるような俺がよ、いくら恋人同士とはいえだよ、己の尻に突っ込ませるとかさ。あるわけないじゃんね。

 毎度毎度、マルセルは懲りずに手を出してこようとする。だが、俺はその度に断固拒否をしていた。もう何度戦ったかわからない。

 そうして切羽詰まったマルセルが、一度無理やり突っ込もうとしてきたこともある。その時の俺は、ありったけの大声を出した。その結果、イアンが部屋に突入してこようとした。危うくマルセルを社会的に殺すところだった。別の意味でドキドキした。

 それ以来、マルセルは俺に手を出してこなくなった。

 相変わらず、夜になれば俺の部屋にしれっとやって来る。だがそれだけ。のほほんとお喋りして終わりである。もはや俺の下半身に触れることすら無くなった。

 なんでや。いや俺が悪いんだろうけどさ。

 そんなこんなで、すごく行き詰まっているのだ。

 だが、雪音ちゃんにこんなこと相談できない。イアンもあまりあてにならない。迷った俺は、ひとり思い出してしまった。なんでも相談できそうな便利な奴が、ひとりいるではないかと。


※※※


「生きていたのか、カーソン」
「そりゃ生きてるだろうよ」
「そうか」

 そりゃよかった。激怒したマルセルに殺されていたらどうしようかと。

 カーソンに会いたい。
 そうごねた俺を、イアンは困ったような顔で見つめてきた。けれどもめげずに主張を繰り返した結果、無事に会えることになった。イアンはすごく不満そうではあったが。

 俺の部屋を訪れたカーソンは、あの日と変わらない。俺に対する誘拐紛いの行為が原因で、なんか酷いことになっていたらどうしようと内心ビクビクしていた俺は、心底安堵した。

「クビにならなくて、よかった」
「ご心配どうも」

 どうやらマルセルにも、なんか後ろめたい気持ちがあったらしい。俺を神様扱いして勝手に崇めていたが、もちろん俺はこの世界に元々存在していた神ではない。この国には、この国の神様がすでにいるし、それに仕える神官達もいる。マルセルがやったことは、大雑把に言えばこの国の神や神官に対する裏切りにもなりかねない。

 ということで、勝手に俺を新しく神と崇めたことを、心の奥底ではずっと気にしていたらしい。雪音ちゃんの失言から始まった事態が、すげぇ色々と影響を及ぼしている。

 だから、今回の一部神官やそれに同調する者による誘拐紛いの事件は、不問となったそうだ。

 俺としても、少々手荒な攫われ方はしたが、怪我はひとつもない。唯一負った傷は、魔力判定の際に付けられたほんのちょびっとだけの刺し傷だ。お咎めなしに対して、不満はない。

「でさ、ちょっと相談があるんだけど」
「面倒事じゃないだろうな」

 嫌々といった様子で話を聞いてくれるカーソンは、明らかにイアンを警戒していた。そのイアンは、じっとカーソンのことを睨み付けている。やめてやれよ。

「相談なら、そこの護衛にでもしとけよ」
「イアンはちょっと。カーソンの方が適任だと思う」
「もう嫌な予感しかしない」

 ひくりと口元を引き攣らせるカーソンは、俺の目から見ても遊んでいそうである。つまり、こういう下世話な話も得意そうという俺の偏見からである。

 イアンはな、ちょっとな。クール系お兄さんだから。俺が相談しても「左様で」で流されてしまいそうなのだ。俺が何度、イアンに適当にあしらわれてきたことか。

「マルセルとのことなんだけど」
「おう」

 腕を組んで耳を傾けてくれるカーソン。

「マルセルを抱くには、どうすればいいと思う?」
「……え、なに? なんて?」

 大袈裟に聞き返してくるカーソンは、信じられないと目を見開いていた。俺、なにかおかしなこと言ったかよ。人に話は真面目に聞け。
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