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「こじらせのプロでいらっしゃいますか?」
「こじらせてなんかいない」
「めっちゃこじれてますよ。さすがカミ様。マルセル殿下が可哀想」
なぜか俺ではなく、マルセルに同情した雪音ちゃんは、のんびりとカップを傾ける。
部屋を飛び出した俺は、結局ほかに逃げ込める場所がなくて、いつものように雪音ちゃんの部屋に転がり込んだ。ここならマルセルも強引に突入してきたりはしないだろうしな。安心である。
そうして唐突に始まったお茶会に、雪音ちゃんの護衛だという青年がオロオロしている。どうやらマルセルに、俺がここに隠れていることを伝えるかで迷っているらしい。告げ口は許さないぞ。
普段であれば、気を使って外に出て行ってくれる護衛さんであるが、今日はそうもいかない。なんせ俺はマルセルから逃げてきたのだから。雪音ちゃんにベッタリの護衛さんが廊下に立っていれば、俺が雪音ちゃんの部屋に閉じ籠っていることが丸分かりである。
みんなには内緒ね、と口止めの意味も兼ねてお皿にのった美味しそうな焼き菓子をひとつ差し出せば、彼は青い顔で受け取って、こくこくと必死に頷いてくれた。よくわからんが口止め成功である。
「ところで。俺はつい先程戻ってきたわけだが。なんかこう、無事でよかったです的な言葉はどうした」
「自分からねだるなんて。流石カミ様ですね!」
いいと思います! と両手を上げて喜ぶ雪音ちゃんは、本日も楽しそうである。
「マルセル殿下がめっちゃ探してましたよ」
「それは、うん。そうだろうね」
神殿に駆けつけてくれたマルセルは、必死の形相であった。それだけで、彼が真剣に俺を探してくれていたことはわかる。
「でもイヤーカフとは、殿下も考えましたね」
「ん? なにが?」
「え……?」
ぱちぱちと目を瞬いた雪音ちゃんは、「あ。私、余計なこと言ったかも」と口元を押さえてしまう。
そのまま黙り込んでしまう彼女に、なんだか嫌な予感がする。
「イヤーカフがなに」
それってこれだろ。以前、マルセルにもらったイヤーカフなら、今も俺の耳にバッチリあるぞ。反射的に触って、そういえば、マルセルも先程これに触れていたなと思い出す。てっきりプレゼントを俺が身につけていることを喜んでいると思っていたのだが。
「なに! これなんかあんの!? 怖いんだけど!」
慌てて外せば、雪音ちゃんが困ったように壁際で控える青年へと顔を向けている。聖女に助けを求められた茶髪の青年は、「ええっと」と眉尻を下げてたどたどしく言葉を紡ぐ。
「それは、その、魔石が埋められておりまして。ええっと、はい。そういうことです」
「どういうことだよ」
そんな濁さないで。はっきり言って。
どういうことなの!? と詰め寄れば、青年が泣きそうな顔になってしまう。やめろ。俺がいじめたみたいな反応やめろ。
「その、魔力を辿ることで、居場所を把握できるといいますか」
「把握?」
え、それって。
「GPSみたいなもんですよ!」
ようやく口を開いた雪音ちゃんは、簡潔に事実を伝えてくる。要するに、このイヤーカフのおかげで、俺の居場所はマルセルに筒抜けというわけだ。
「……そんなの、マルセルには言われなかったけど」
「無断でGPSつけられたってことですね!? 犯罪行為っぽいですね!」
てっきりカミ様も知っているかと、と驚きに目を見開く雪音ちゃんは、なんとも言えない顔をしていた。
GPSなんて初耳である。ふざけんな、あの腹黒王子がよ。
何気ないプレゼントかと思って浮かれていた自分が馬鹿みたいである。結局は監視のためかよ。思えば、マルセルは俺が外に出ることを嫌っていた。理由は簡単。俺が外へ逃げると困るからだ。そんなに俺のことが信用できないのかよ。
「……マルセルなんて嫌いだ」
「そんなこと言わずに! それのおかげで助けに来れたんですから! ポジティブに考えましょうよ!」
ね? と無理矢理にテンション上げる雪音ちゃんには悪いが、沈んでしまった俺の心はそう簡単には戻らなかった。
とりあえず、マルセルとの絶交は続けようと思う。マジで許さん。あの腹黒王子!
「こじらせてなんかいない」
「めっちゃこじれてますよ。さすがカミ様。マルセル殿下が可哀想」
なぜか俺ではなく、マルセルに同情した雪音ちゃんは、のんびりとカップを傾ける。
部屋を飛び出した俺は、結局ほかに逃げ込める場所がなくて、いつものように雪音ちゃんの部屋に転がり込んだ。ここならマルセルも強引に突入してきたりはしないだろうしな。安心である。
そうして唐突に始まったお茶会に、雪音ちゃんの護衛だという青年がオロオロしている。どうやらマルセルに、俺がここに隠れていることを伝えるかで迷っているらしい。告げ口は許さないぞ。
普段であれば、気を使って外に出て行ってくれる護衛さんであるが、今日はそうもいかない。なんせ俺はマルセルから逃げてきたのだから。雪音ちゃんにベッタリの護衛さんが廊下に立っていれば、俺が雪音ちゃんの部屋に閉じ籠っていることが丸分かりである。
みんなには内緒ね、と口止めの意味も兼ねてお皿にのった美味しそうな焼き菓子をひとつ差し出せば、彼は青い顔で受け取って、こくこくと必死に頷いてくれた。よくわからんが口止め成功である。
「ところで。俺はつい先程戻ってきたわけだが。なんかこう、無事でよかったです的な言葉はどうした」
「自分からねだるなんて。流石カミ様ですね!」
いいと思います! と両手を上げて喜ぶ雪音ちゃんは、本日も楽しそうである。
「マルセル殿下がめっちゃ探してましたよ」
「それは、うん。そうだろうね」
神殿に駆けつけてくれたマルセルは、必死の形相であった。それだけで、彼が真剣に俺を探してくれていたことはわかる。
「でもイヤーカフとは、殿下も考えましたね」
「ん? なにが?」
「え……?」
ぱちぱちと目を瞬いた雪音ちゃんは、「あ。私、余計なこと言ったかも」と口元を押さえてしまう。
そのまま黙り込んでしまう彼女に、なんだか嫌な予感がする。
「イヤーカフがなに」
それってこれだろ。以前、マルセルにもらったイヤーカフなら、今も俺の耳にバッチリあるぞ。反射的に触って、そういえば、マルセルも先程これに触れていたなと思い出す。てっきりプレゼントを俺が身につけていることを喜んでいると思っていたのだが。
「なに! これなんかあんの!? 怖いんだけど!」
慌てて外せば、雪音ちゃんが困ったように壁際で控える青年へと顔を向けている。聖女に助けを求められた茶髪の青年は、「ええっと」と眉尻を下げてたどたどしく言葉を紡ぐ。
「それは、その、魔石が埋められておりまして。ええっと、はい。そういうことです」
「どういうことだよ」
そんな濁さないで。はっきり言って。
どういうことなの!? と詰め寄れば、青年が泣きそうな顔になってしまう。やめろ。俺がいじめたみたいな反応やめろ。
「その、魔力を辿ることで、居場所を把握できるといいますか」
「把握?」
え、それって。
「GPSみたいなもんですよ!」
ようやく口を開いた雪音ちゃんは、簡潔に事実を伝えてくる。要するに、このイヤーカフのおかげで、俺の居場所はマルセルに筒抜けというわけだ。
「……そんなの、マルセルには言われなかったけど」
「無断でGPSつけられたってことですね!? 犯罪行為っぽいですね!」
てっきりカミ様も知っているかと、と驚きに目を見開く雪音ちゃんは、なんとも言えない顔をしていた。
GPSなんて初耳である。ふざけんな、あの腹黒王子がよ。
何気ないプレゼントかと思って浮かれていた自分が馬鹿みたいである。結局は監視のためかよ。思えば、マルセルは俺が外に出ることを嫌っていた。理由は簡単。俺が外へ逃げると困るからだ。そんなに俺のことが信用できないのかよ。
「……マルセルなんて嫌いだ」
「そんなこと言わずに! それのおかげで助けに来れたんですから! ポジティブに考えましょうよ!」
ね? と無理矢理にテンション上げる雪音ちゃんには悪いが、沈んでしまった俺の心はそう簡単には戻らなかった。
とりあえず、マルセルとの絶交は続けようと思う。マジで許さん。あの腹黒王子!
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