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39 もういい
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マルセルに手を引かれて、自室に戻る。時間的にはそんなに経っていないのだが、なんだかすごく久しぶりな気がする。
俺をソファーに座らせたマルセルは、当然のような顔して隣に腰掛けてくる。
後始末があるとかで、イアンはいない。どうでもいいけど、意外とバイオレンスなイアンが後始末とか言うとなんか怖いな。
ふたりきりの室内で、先程からマルセルはじっと俺の顔を凝視してくる。そんなに見つめられると、照れるんだが。
気まずくて俯いていれば、マルセルがこちらに手を伸ばしてくるのがわかった。すっと耳に触れられて、肩を揺らす。どうやら、先日マルセルからもらったイヤーカフを触っているらしい。
息を詰める俺に、マルセルが優しく微笑んだ。俺がイヤーカフをつけていたことを、喜んでいるらしい。やめて、そんなにベタベタ触らないで。緊張するから。
「本当に。ご無事でなによりです」
「うん」
「ミナト様の姿が見えないと知った時、私がどれほど心を痛めたことか」
「うん」
無事でよかった、と何度も口にするマルセルは、マジで泣きそうな顔になってしまう。俺もマルセルに会えて安心した。助けに来てくれてすごく嬉しかった。
でも、気に掛かっていることがある。
「あ、あのさ」
「はい」
「俺、あの。その、神殿で」
「はい」
じっと俺の言葉を待ってくれるマルセルに、意を決した。緊張を誤魔化すように、ぎゅっと拳を握り締める。
「俺、神様ではないよ」
先程の魔力判定で、何の力も持っていないと判明した。マルセルは、どうやら神様である俺のことが好きっぽいし、俺が人間だと分かったら捨てられるかもしれない。
マルセルを前にして、まわらない頭で、そんなことばかり考える。おそるおそる告げれば、マルセルが黙り込んでしまう。
なんか言えよ。
反応のないマルセルが、急に怖くなって顔を伏せる。
はやくなんか言えよ。
ばくばくと音を立て始める心臓に、なんだか気が遠くなる。いつもであれば「またか」という感じで適当にあしらってくるのに。なんだこの沈黙は。
ここに来る前、マルセルは俺から少し離れて神官と思わしき知らない人と少し会話をしていた。きっと俺に摩訶不思議な力なんて一切ないと、彼から聞かされたはずだ。
もしかして、俺に飽きたとか? 人間だと証明したいと焦るあまり、つい簡単に魔力判定なんてやってしまったが、よく考えてからにすればよかった。雪音ちゃんも、俺が人間だとバレることによって最悪の結末になることを心配していたではないか。
頑なに俺を神様扱いしてくるマルセルが、実は俺が人間であると知ってしまったら。彼がどういう反応をするのか、まったく考えてもいなかった。少なくとも、喜びはしないと思う。下手をすれば嫌われるかもしれない。いや、嫌われるくらいならまだマシという結論だってあり得る。
息の詰まる長い沈黙の末、マルセルがようやく動いた。
両手で顔を覆って俯いてしまうマルセルに、俺は愕然とする。なにその反応。俺が人間であることが、そんなにショックなのかよ。喜びはしないだろうなとは薄々思っていたが、実際にそんな微妙な反応をされると、ショックが大きかった。
めそめそしていた弱気な感情なんて、一気に吹っ飛んだ。あれだけ俺のこと好きとか言っていたくせに。結局は珍しい神様という生き物が好きなだけであって、俺自体には興味ないのかよ。あぁ、そうですか!
カッとなった俺は、勢いよく立ち上がる。
「ミナト様?」
マルセルがなにやら口を開いたが、それ以上言わせてたまるか。どうせもう終わりにしようとか、人間には興味ないとか酷いこと言うんだろ。
あと、なんか助けに来てくれたという余韻に浸ってすっかり忘れていたが、俺とマルセルは絶賛絶交中であったことも思い出してしまった。それもこれも俺を人間だとは認めないマルセルが悪かった。俺はずっと己が人間だと主張し続けてきたのに、マジで人間だと判明すればあっさり捨てられるなんてごめんだ。こんなことなら神様のフリを続けていればよかったのか?
色々なことが、頭の中をものすごい速さでよぎっていく。思い出せば思い出すほど、目の前で顔を覆って「呆れた」と言わんばかりのマルセルに、腹が立ってくる。
「人間で悪かったな! どうせ人間である俺には興味ないとか言うんだろ!」
「誰がそんなこと」
ゆっくりと顔を上げたマルセルの表情は、怖くて確認できなかった。ぎゅっと目を瞑って、マルセルの顔を頭の中から追い出した。
「うるさい! もう放っておけ!」
「は? ちょっ!」
こちらに手を伸ばしてくるマルセルを振り切って。
俺は全力で部屋を飛び出した。
俺をソファーに座らせたマルセルは、当然のような顔して隣に腰掛けてくる。
後始末があるとかで、イアンはいない。どうでもいいけど、意外とバイオレンスなイアンが後始末とか言うとなんか怖いな。
ふたりきりの室内で、先程からマルセルはじっと俺の顔を凝視してくる。そんなに見つめられると、照れるんだが。
気まずくて俯いていれば、マルセルがこちらに手を伸ばしてくるのがわかった。すっと耳に触れられて、肩を揺らす。どうやら、先日マルセルからもらったイヤーカフを触っているらしい。
息を詰める俺に、マルセルが優しく微笑んだ。俺がイヤーカフをつけていたことを、喜んでいるらしい。やめて、そんなにベタベタ触らないで。緊張するから。
「本当に。ご無事でなによりです」
「うん」
「ミナト様の姿が見えないと知った時、私がどれほど心を痛めたことか」
「うん」
無事でよかった、と何度も口にするマルセルは、マジで泣きそうな顔になってしまう。俺もマルセルに会えて安心した。助けに来てくれてすごく嬉しかった。
でも、気に掛かっていることがある。
「あ、あのさ」
「はい」
「俺、あの。その、神殿で」
「はい」
じっと俺の言葉を待ってくれるマルセルに、意を決した。緊張を誤魔化すように、ぎゅっと拳を握り締める。
「俺、神様ではないよ」
先程の魔力判定で、何の力も持っていないと判明した。マルセルは、どうやら神様である俺のことが好きっぽいし、俺が人間だと分かったら捨てられるかもしれない。
マルセルを前にして、まわらない頭で、そんなことばかり考える。おそるおそる告げれば、マルセルが黙り込んでしまう。
なんか言えよ。
反応のないマルセルが、急に怖くなって顔を伏せる。
はやくなんか言えよ。
ばくばくと音を立て始める心臓に、なんだか気が遠くなる。いつもであれば「またか」という感じで適当にあしらってくるのに。なんだこの沈黙は。
ここに来る前、マルセルは俺から少し離れて神官と思わしき知らない人と少し会話をしていた。きっと俺に摩訶不思議な力なんて一切ないと、彼から聞かされたはずだ。
もしかして、俺に飽きたとか? 人間だと証明したいと焦るあまり、つい簡単に魔力判定なんてやってしまったが、よく考えてからにすればよかった。雪音ちゃんも、俺が人間だとバレることによって最悪の結末になることを心配していたではないか。
頑なに俺を神様扱いしてくるマルセルが、実は俺が人間であると知ってしまったら。彼がどういう反応をするのか、まったく考えてもいなかった。少なくとも、喜びはしないと思う。下手をすれば嫌われるかもしれない。いや、嫌われるくらいならまだマシという結論だってあり得る。
息の詰まる長い沈黙の末、マルセルがようやく動いた。
両手で顔を覆って俯いてしまうマルセルに、俺は愕然とする。なにその反応。俺が人間であることが、そんなにショックなのかよ。喜びはしないだろうなとは薄々思っていたが、実際にそんな微妙な反応をされると、ショックが大きかった。
めそめそしていた弱気な感情なんて、一気に吹っ飛んだ。あれだけ俺のこと好きとか言っていたくせに。結局は珍しい神様という生き物が好きなだけであって、俺自体には興味ないのかよ。あぁ、そうですか!
カッとなった俺は、勢いよく立ち上がる。
「ミナト様?」
マルセルがなにやら口を開いたが、それ以上言わせてたまるか。どうせもう終わりにしようとか、人間には興味ないとか酷いこと言うんだろ。
あと、なんか助けに来てくれたという余韻に浸ってすっかり忘れていたが、俺とマルセルは絶賛絶交中であったことも思い出してしまった。それもこれも俺を人間だとは認めないマルセルが悪かった。俺はずっと己が人間だと主張し続けてきたのに、マジで人間だと判明すればあっさり捨てられるなんてごめんだ。こんなことなら神様のフリを続けていればよかったのか?
色々なことが、頭の中をものすごい速さでよぎっていく。思い出せば思い出すほど、目の前で顔を覆って「呆れた」と言わんばかりのマルセルに、腹が立ってくる。
「人間で悪かったな! どうせ人間である俺には興味ないとか言うんだろ!」
「誰がそんなこと」
ゆっくりと顔を上げたマルセルの表情は、怖くて確認できなかった。ぎゅっと目を瞑って、マルセルの顔を頭の中から追い出した。
「うるさい! もう放っておけ!」
「は? ちょっ!」
こちらに手を伸ばしてくるマルセルを振り切って。
俺は全力で部屋を飛び出した。
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