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38 救出
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「お怪我はありませんか!」
「マルセル」
必死の形相で俺を抱き締めてくるマルセルに、なんだか安心して涙が浮いてくる。
そのままぐすぐすと泣き始めた俺を見て、カーソンが青い顔になってしまう。泣くなと必死にジェスチャーで伝えてくるカーソンには悪いが、そう簡単に涙は引っ込まなかった。
「ミナト様!」
怪我はないかとしきりに問いかけてくるマルセルに、俺は無言で左手を差し出した。ちょうど親指の腹に傷がある。
「針で刺された」
「うえぃ! 何をおっしゃいますかミナト様ぁ!」
大慌てで割り込んでくるカーソンに、イアンが容赦なく剣を突きつけている。目を剥いて俺の左手をとったマルセルは、カーソンを怖い顔で睨みつけている。
「単なる! 魔力判定! です!」
大声で主張するカーソンは、死にそうな顔をしていた。どうやら俺を助けにきてくれたらしいマルセルは、普段は勝手に立ち入ることができないはずの神殿を強行突破してきたらしい。もしかして俺のために? やだかっこいい。
久しぶりに見る金髪王子に見惚れていると、マルセルが俺の親指を痛ましそうに見つめてくる。すでに血は止まった。そんな悲痛な顔せんでも。いや言い出したの俺だけどさ。でもあの場で「怪我は!」と強めに問い詰められて、頭の中を鋭い針の映像がよぎったのは事実である。あと普通に突然針で刺されて怖い思いをした。
「あれにやられたんですか」
もはやカーソンをあれ扱いしているマルセルは、物騒な雰囲気であった。うんと頷こうとして、ハッとする。
そういや、俺に無理やり針を刺したのはカーソンではない。イアンである。ちらりとイアンに視線を向ければ、勘の良いマルセルはすぐに把握した。
「イアン……?」
困惑を含んだマルセルの声に、今度はイアンが青ざめる。
「違います、殿下」
しかしすぐに表情を取り繕って、きっぱり否定したイアンは、剣の切っ先でカーソンを示す。その佇まいは、非常に堂々としていた。
「こいつが無理矢理。ミナト様を手にかけろと強要してきまして」
「言い方ぁ! 悪意しかねぇ! なんだこのクソみてぇな後輩!」
喚くカーソンは、必死の形相であった。ここで負けるわけにはいかないという強い思いを感じる。
流石に可哀想になってきた。
「あの、マルセル。指は大丈夫。カーソンの言う通り、単なる魔力判定だから」
「しかし。怖い思いをされたのでは?」
俺を腕に閉じ込めて、優しい手付きで髪を梳いてくるマルセルに、ドキドキしてしまう。
やめて。なにそのイケメンムーブ。心臓がもたないよ。あわあわしていると、マルセルが目を細める。そのまま俺の頭を抱え込むようにして、手をまわしたマルセル。密着するような形になり、顔に熱が集まってくる。
「マ、マルセル」
「ご無事でなによりです」
心底安堵したと息を吐くマルセルに、再び目頭が熱くなってくる。特に酷い扱いをされたわけではないが、なんかこう雰囲気に呑まれてしまった。
まるで酷い目にあったみたいに涙を流す俺に、カーソンが絶望している。ごめんよ、あとでちゃんとマルセルには弁解しておくから。
俺の涙を優しい手つきで拭ったマルセルは、カーソンと神官たちを鋭い目で睨みつけている。
マルセルの背後には、マルセル側だと思われる騎士たちの姿が確認できた。
「あの、マルセル」
たくさんの人に注目されている状況に今更気が付いて、放してくれるように懇願するが、逆にマルセルの腕に力がこもる。
本気で心配させてしまったらしい。けれども、俺も突然攫われて心細かった。マルセルが心配してくれたという事実に、心が満たされる気がした。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「そんなこと。むしろ怖い思いをさせてしまい申し訳ない」
掠れた声で応じるマルセルは、なんだか泣きそうな声色であった。完璧王子様が泣くんじゃないよ。
なんだか唐突に、自分がマルセルに大事にされていることを実感して滲む視界。その中でも認識できる見慣れた金髪は、俺を心底安堵させてくれた。
「帰りましょう、ミナト様」
「……うん」
すごく優しく目を細めるマルセルに、こくんと頷いておく。
背中に添えられた大きな掌が、無性にくすぐったく感じた。
「マルセル」
必死の形相で俺を抱き締めてくるマルセルに、なんだか安心して涙が浮いてくる。
そのままぐすぐすと泣き始めた俺を見て、カーソンが青い顔になってしまう。泣くなと必死にジェスチャーで伝えてくるカーソンには悪いが、そう簡単に涙は引っ込まなかった。
「ミナト様!」
怪我はないかとしきりに問いかけてくるマルセルに、俺は無言で左手を差し出した。ちょうど親指の腹に傷がある。
「針で刺された」
「うえぃ! 何をおっしゃいますかミナト様ぁ!」
大慌てで割り込んでくるカーソンに、イアンが容赦なく剣を突きつけている。目を剥いて俺の左手をとったマルセルは、カーソンを怖い顔で睨みつけている。
「単なる! 魔力判定! です!」
大声で主張するカーソンは、死にそうな顔をしていた。どうやら俺を助けにきてくれたらしいマルセルは、普段は勝手に立ち入ることができないはずの神殿を強行突破してきたらしい。もしかして俺のために? やだかっこいい。
久しぶりに見る金髪王子に見惚れていると、マルセルが俺の親指を痛ましそうに見つめてくる。すでに血は止まった。そんな悲痛な顔せんでも。いや言い出したの俺だけどさ。でもあの場で「怪我は!」と強めに問い詰められて、頭の中を鋭い針の映像がよぎったのは事実である。あと普通に突然針で刺されて怖い思いをした。
「あれにやられたんですか」
もはやカーソンをあれ扱いしているマルセルは、物騒な雰囲気であった。うんと頷こうとして、ハッとする。
そういや、俺に無理やり針を刺したのはカーソンではない。イアンである。ちらりとイアンに視線を向ければ、勘の良いマルセルはすぐに把握した。
「イアン……?」
困惑を含んだマルセルの声に、今度はイアンが青ざめる。
「違います、殿下」
しかしすぐに表情を取り繕って、きっぱり否定したイアンは、剣の切っ先でカーソンを示す。その佇まいは、非常に堂々としていた。
「こいつが無理矢理。ミナト様を手にかけろと強要してきまして」
「言い方ぁ! 悪意しかねぇ! なんだこのクソみてぇな後輩!」
喚くカーソンは、必死の形相であった。ここで負けるわけにはいかないという強い思いを感じる。
流石に可哀想になってきた。
「あの、マルセル。指は大丈夫。カーソンの言う通り、単なる魔力判定だから」
「しかし。怖い思いをされたのでは?」
俺を腕に閉じ込めて、優しい手付きで髪を梳いてくるマルセルに、ドキドキしてしまう。
やめて。なにそのイケメンムーブ。心臓がもたないよ。あわあわしていると、マルセルが目を細める。そのまま俺の頭を抱え込むようにして、手をまわしたマルセル。密着するような形になり、顔に熱が集まってくる。
「マ、マルセル」
「ご無事でなによりです」
心底安堵したと息を吐くマルセルに、再び目頭が熱くなってくる。特に酷い扱いをされたわけではないが、なんかこう雰囲気に呑まれてしまった。
まるで酷い目にあったみたいに涙を流す俺に、カーソンが絶望している。ごめんよ、あとでちゃんとマルセルには弁解しておくから。
俺の涙を優しい手つきで拭ったマルセルは、カーソンと神官たちを鋭い目で睨みつけている。
マルセルの背後には、マルセル側だと思われる騎士たちの姿が確認できた。
「あの、マルセル」
たくさんの人に注目されている状況に今更気が付いて、放してくれるように懇願するが、逆にマルセルの腕に力がこもる。
本気で心配させてしまったらしい。けれども、俺も突然攫われて心細かった。マルセルが心配してくれたという事実に、心が満たされる気がした。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「そんなこと。むしろ怖い思いをさせてしまい申し訳ない」
掠れた声で応じるマルセルは、なんだか泣きそうな声色であった。完璧王子様が泣くんじゃないよ。
なんだか唐突に、自分がマルセルに大事にされていることを実感して滲む視界。その中でも認識できる見慣れた金髪は、俺を心底安堵させてくれた。
「帰りましょう、ミナト様」
「……うん」
すごく優しく目を細めるマルセルに、こくんと頷いておく。
背中に添えられた大きな掌が、無性にくすぐったく感じた。
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