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35 協力するか

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 そこからちょっと揉めた。

 準備があるからと部屋を出て行こうとするカーソンに、イアンが待ったをかけたのだ。

 イアンとしては、俺の身の安全を守ることを最優先に考えているらしい。カーソンが上手いこと言って部屋から出たあと、応援を呼んで戻ってくる可能性を視野に入れているらしい。こちらの戦力は、イアンひとりである。おまけに俺という足枷もある。俺がこの場において、何の戦力にもならないことは一目瞭然であった。

 イアンが慎重になるのも無理はない。現状、彼に頼るしかない俺は、口を挟むこともできずに、ただただイアンの背中に守られるようにして立ち尽くすことしかできなかった。

 ジトッと疑いの目を向ける俺たちに、カーソンは「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」とちょっとキレ気味で問いかけてくる。俺に訊かれてもな。交渉ならイアンとお願いします。

 このままでは、進展がない。けれどもイアンの懸念もその通りだ。じっと睨み合いのようになる俺らであったが、それを遮るかのように扉からひとりの男が顔を出した。

「おい! 何をしている!」

 イアンに剣を突き付けられているカーソンに目を剥いた男は、格好からして神官だと察せられた。

 すかさず、イアンの目付きが鋭くなるが、それを制止したのはカーソンであった。

「あ、いや。何も心配はない。すこぶる順調だ」

 ひらひらと手を振るカーソンは、どう見ても心配なくはなかった。完全にイアンによって制圧されている。びっくりするくらい無抵抗であった。

 神官さんも同様に考えたらしく、「どこが大丈夫なんだ?」と若干引いておられる。しかし、これをチャンスだと捉えたのだろう。神官さんを振り返るカーソンは、緩く笑っていた。

「計画は変更なし。むしろ協力してくれるってよ。よかったな」
「どう見ても協力者の態度ではないだろ」

 眼光鋭いイアンを一瞥して、神官さんが顔を引き攣らせる。確かに、イアンは不満をあらわにしていた。どう頑張って好意的に見ても、協力の姿勢は見られない。

 だが、神官さんも俺たちを今すぐにどうこうするつもりはないらしい。剣を向けられているカーソンを前にしても、特に焦ることなく会話している。見たところ、手ぶらの神官さんは、一歩離れたところで俺たちを見守り始める。

 思えば、俺たちを多少手荒にとはいえ、ほとんど無傷で連れ去っている。カーソンの言う通り、俺が本物の神様か否かを確認するのが目的であって、俺を殺したりといった物騒な手段をとるつもりはないのかもしれない。ここに至るまで、俺を手にかけるチャンスはいくらでもあったはずだ。

 迷った末に、イアンへと縋るような目を向ける。

 ぶっちゃけ、俺の判断はあてにならないと思うのだ。なんせこの世界の住民ではないから、この国の常識なんかがわかっていない。それにカーソンが果たして危険な人物なのかも皆目見当つかないからだ。俺よりも、カーソンの後輩であり、マルセルから俺のお世話を任されているイアンの判断の方が、断然あてになる。

「どうする?」

 率直に判断を仰げば、イアンが思案するように眉間に皺を寄せてしまう。

「……ミナト様に危害を加えないと誓うのであれば」
「それは約束する。もとより、んなつもりはねぇよ。殺すつもりならとっくに殺してる。それこそおまえが気を失っている時にでもな」

 軽く約束したカーソンを、果たしてどこまで信頼して良いのか。黙って成り行きを見守っていれば、イアンが決意するかのように息を吐いた。彼としても、このまま膠着状態ではこちらが不利だと判断したのだろう。

 ここは神殿である。カーソンの計画に賛同する神官たちが何人いるかわからない。このまま剣を構えていても、形勢的にはこちらが圧倒的に不利だった。

「ミナト様に何かあれば。生きて帰れると思うなよ」
「だから怖いって。あとそのセリフ、どっちかっていうと俺らがいうべきセリフだろ」

 低く唸ったイアンは、雑にカーソンから剣を逸らすと、俺の前に立つ。「さっさと案内しろ」と顎で先輩をこき使うイアンは、とても頼もしかった。

「……彼を連れてきたのは、失敗だったのでは?」

 ぼそっと呟いた神官さんに、カーソンが「俺もそう思っていたところだ」と軽く肩をすくめてみせた。
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