29 / 51
29 嫉妬
しおりを挟む
そのままマルセルに手を引かれて、雪音ちゃんの部屋を後にする。
無口なマルセルが向かったのは、俺の部屋であった。我が物顔で部屋を占領するマルセルは、少しくらい遠慮というものを覚えて欲しい。ここ一応、俺の部屋だからな。いや、俺も居候の身だから強くは言えないけどさ。
イアンは、マルセルの圧におされて部屋には入ってこない。あんまり邪険に扱ってやるなよ。
そうしてふたりきりの部屋にて。
こちらに向き直ったマルセルは、なんだか苦しそうな顔をしていた。
「ミナト様が、聖女と仲が良いのは存じております」
「はぁ」
なんの報告だよ。意味がわからず、ぽかんとするしかない俺。構わずにマルセルは続ける。
「本当にそれだけですか?」
「それ、だけ?」
なにが?
こいつはマジでなにを言っとるんだ。え? 意味不明。こういう時は、正直に伝えるに限る。
「意味がわからない」
そう主張しておけば、マルセルがグッと眉間に皺を寄せた。やめろよ。せっかくの王子顔が台無しだよ。
「聖女と非常に仲がよろしいようなので。その」
言葉を切ったマルセルは、深く息を吸って吐いた。ただならぬ雰囲気である。
だが、ここまでくれば、さすがの俺でも察する。要するにマルセルは、俺と雪音ちゃんが仲良しなのが気に食わないのだ。そして、マルセルは俺のことが好き。ここから導き出せる結論なんてひとつだ。
「もしかして、嫉妬してんの?」
「っ!」
どうやら図星だったようで、マルセルが顔を覆ってしまう。やめろよ。せっかくの貴重なマルセルの焦り顔が見えなくなる。
マルセルの両手を掴んで、とりあえず握っておく。
「心配しなくても。マジで雪音ちゃんとは楽しくお話してるだけだよ。てか俺のタイプは年上だから。雪音ちゃんには興味ない」
「そう、ですか」
俺はどちらかというと、恋人に面倒見てもらいたいタイプである。年下の面倒見るのはごめんだ。
どうやら最近、俺が雪音ちゃんの部屋に入り浸っているから邪推したらしい。意外と可愛いところあるな、こいつ。
なんだか無性におかしくて、ニヤニヤと口元が緩んでしまう。照れたように頬を掻くマルセルは、ちょっと顔が赤かった。王子様の貴重な照れ顔である。写真撮りてぇ。
微笑ましい目で、マルセルを見守っていれば、彼は咳払いで誤魔化すように仕切り直した。
「聖女にも悪いことを」
「気にしすぎだよ。雪音ちゃんは、むしろ楽しんでいた」
めっちゃニヤニヤしてたもん。だから大丈夫とフォローしておけば、マルセルが「ならいいのですが」とまだ心配そうに眉を寄せる。
格好のつかないマルセルは珍しい。
楽しくなる俺を、マルセルがちょっと恨めしそうに睨んでくる。しかしすぐに頬を緩めた彼は、「私の気持ちに応えてくださると考えてよろしいですか」と優しい目で俺を見つめてくる。
「いや、それはちょっと」
慌てて否定すれば、先程までの笑顔から一転して、マルセルが無表情になる。急な真顔は怖いって。
「なぜ?」
「なぜって。この前、説明したじゃん」
「それは理解したと申しました」
「君はなにも理解していない」
やれやれと肩をすくめてやれば、マルセルが一歩こちらに寄ってくる。
「私のことが嫌いですか?」
「ううん、好きだよ。結構好き」
へへっと笑えば、マルセルが「だったら!」と苛立ったように眉間の皺を深くする。
そ、そんなに怒らんでも。
どうやらマルセルは、本気で俺とお付き合いしたいらしい。それはいいよ。いいんだけどさ。異界の神と思われたまま付き合うのはちょっと嫌だ。
もう一度根気強く説明してやるが、マルセルは「わかりました」と投げやりに返事するだけで、まったく理解してくれない。
「わかってないだろ!」
「わかっていますよ。きちんと理解しました。ミナト様は人間なんですよね」
「そう! 俺は人間!」
「そのような扱いを徹底しますので、ご安心を」
「君はなんにもわかっていない!」
なんだ人間扱いを徹底するって。それって俺が人間ではないこと前提じゃないか。クソが。
「なんでわかってくれないのか!」
「わかっていますよ」
いいや、なんにもわかっていない。びっくりするくらいわかっていない。これでは堂々巡りだ。段々と腹の立ってきた俺は、強く拳を握り締める。
「ふざけるな! いい加減理解してくれ!」
大声で主張すれば、マルセルが「はぁ?」と怖い顔をする。
「いい加減にして欲しいのはこちらですよ。なにを訳のわからないことを。そんなに私のことが嫌いならば、はっきり嫌いと言えばよろしいではないですか」
「はぁ!?」
なんで俺が悪いみたいな言い方しやがる。
どう考えても頭の固いマルセルが悪い。そもそも人間だと主張する俺を、頑なに神様扱いする意味もわからない。これは本当に、神様である俺にしか用がないのかもしれない。あれだ。この国のために、神である俺を手玉に取ろうとか思っているのかもしれない。そうだとすれば、マルセルは別に俺自身には興味がないことになる。なんて奴だ。この腹黒王子がよ。
「もういい! わかってくれないならもういい!」
感情に任せて怒鳴れば、マルセルが小さく舌打ちしたのがわかった。なにその態度。ムカつくわ。
舌打ちしたな! と指摘すれば、マルセルが露骨に嫌な顔をする。はぁ? なにその態度。
もう知らねぇ!
無口なマルセルが向かったのは、俺の部屋であった。我が物顔で部屋を占領するマルセルは、少しくらい遠慮というものを覚えて欲しい。ここ一応、俺の部屋だからな。いや、俺も居候の身だから強くは言えないけどさ。
イアンは、マルセルの圧におされて部屋には入ってこない。あんまり邪険に扱ってやるなよ。
そうしてふたりきりの部屋にて。
こちらに向き直ったマルセルは、なんだか苦しそうな顔をしていた。
「ミナト様が、聖女と仲が良いのは存じております」
「はぁ」
なんの報告だよ。意味がわからず、ぽかんとするしかない俺。構わずにマルセルは続ける。
「本当にそれだけですか?」
「それ、だけ?」
なにが?
こいつはマジでなにを言っとるんだ。え? 意味不明。こういう時は、正直に伝えるに限る。
「意味がわからない」
そう主張しておけば、マルセルがグッと眉間に皺を寄せた。やめろよ。せっかくの王子顔が台無しだよ。
「聖女と非常に仲がよろしいようなので。その」
言葉を切ったマルセルは、深く息を吸って吐いた。ただならぬ雰囲気である。
だが、ここまでくれば、さすがの俺でも察する。要するにマルセルは、俺と雪音ちゃんが仲良しなのが気に食わないのだ。そして、マルセルは俺のことが好き。ここから導き出せる結論なんてひとつだ。
「もしかして、嫉妬してんの?」
「っ!」
どうやら図星だったようで、マルセルが顔を覆ってしまう。やめろよ。せっかくの貴重なマルセルの焦り顔が見えなくなる。
マルセルの両手を掴んで、とりあえず握っておく。
「心配しなくても。マジで雪音ちゃんとは楽しくお話してるだけだよ。てか俺のタイプは年上だから。雪音ちゃんには興味ない」
「そう、ですか」
俺はどちらかというと、恋人に面倒見てもらいたいタイプである。年下の面倒見るのはごめんだ。
どうやら最近、俺が雪音ちゃんの部屋に入り浸っているから邪推したらしい。意外と可愛いところあるな、こいつ。
なんだか無性におかしくて、ニヤニヤと口元が緩んでしまう。照れたように頬を掻くマルセルは、ちょっと顔が赤かった。王子様の貴重な照れ顔である。写真撮りてぇ。
微笑ましい目で、マルセルを見守っていれば、彼は咳払いで誤魔化すように仕切り直した。
「聖女にも悪いことを」
「気にしすぎだよ。雪音ちゃんは、むしろ楽しんでいた」
めっちゃニヤニヤしてたもん。だから大丈夫とフォローしておけば、マルセルが「ならいいのですが」とまだ心配そうに眉を寄せる。
格好のつかないマルセルは珍しい。
楽しくなる俺を、マルセルがちょっと恨めしそうに睨んでくる。しかしすぐに頬を緩めた彼は、「私の気持ちに応えてくださると考えてよろしいですか」と優しい目で俺を見つめてくる。
「いや、それはちょっと」
慌てて否定すれば、先程までの笑顔から一転して、マルセルが無表情になる。急な真顔は怖いって。
「なぜ?」
「なぜって。この前、説明したじゃん」
「それは理解したと申しました」
「君はなにも理解していない」
やれやれと肩をすくめてやれば、マルセルが一歩こちらに寄ってくる。
「私のことが嫌いですか?」
「ううん、好きだよ。結構好き」
へへっと笑えば、マルセルが「だったら!」と苛立ったように眉間の皺を深くする。
そ、そんなに怒らんでも。
どうやらマルセルは、本気で俺とお付き合いしたいらしい。それはいいよ。いいんだけどさ。異界の神と思われたまま付き合うのはちょっと嫌だ。
もう一度根気強く説明してやるが、マルセルは「わかりました」と投げやりに返事するだけで、まったく理解してくれない。
「わかってないだろ!」
「わかっていますよ。きちんと理解しました。ミナト様は人間なんですよね」
「そう! 俺は人間!」
「そのような扱いを徹底しますので、ご安心を」
「君はなんにもわかっていない!」
なんだ人間扱いを徹底するって。それって俺が人間ではないこと前提じゃないか。クソが。
「なんでわかってくれないのか!」
「わかっていますよ」
いいや、なんにもわかっていない。びっくりするくらいわかっていない。これでは堂々巡りだ。段々と腹の立ってきた俺は、強く拳を握り締める。
「ふざけるな! いい加減理解してくれ!」
大声で主張すれば、マルセルが「はぁ?」と怖い顔をする。
「いい加減にして欲しいのはこちらですよ。なにを訳のわからないことを。そんなに私のことが嫌いならば、はっきり嫌いと言えばよろしいではないですか」
「はぁ!?」
なんで俺が悪いみたいな言い方しやがる。
どう考えても頭の固いマルセルが悪い。そもそも人間だと主張する俺を、頑なに神様扱いする意味もわからない。これは本当に、神様である俺にしか用がないのかもしれない。あれだ。この国のために、神である俺を手玉に取ろうとか思っているのかもしれない。そうだとすれば、マルセルは別に俺自身には興味がないことになる。なんて奴だ。この腹黒王子がよ。
「もういい! わかってくれないならもういい!」
感情に任せて怒鳴れば、マルセルが小さく舌打ちしたのがわかった。なにその態度。ムカつくわ。
舌打ちしたな! と指摘すれば、マルセルが露骨に嫌な顔をする。はぁ? なにその態度。
もう知らねぇ!
122
お気に入りに追加
814
あなたにおすすめの小説
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》
クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。
そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。
アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。
その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。
サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。
一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。
R18は多分なるからつけました。
2020年10月18日、題名を変更しました。
『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。
前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。
櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。
でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!?
そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。
その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない!
なので、全力で可愛がる事にします!
すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──?
【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる