聖女召喚に巻き込まれた単なるアイドルですが異世界で神と崇められています。誰か聖女を止めてくれ

岩永みやび

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26 変な悩み

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「雪音ちゃんのせいで変なことになった」
「その点については本当に申し訳ありません」

 ソファーの上で深々と頭を下げた雪音ちゃんは、気まずそうに頬を掻いている。

「わかるか? なんかこういい感じに告白みたいなことされてさ。わーってプチパニックになっている時にさ。突然、異界の神とか呼ばれる俺の気持ちが。冷めるわ」
「申し訳ありません」

 マルセルは頑なだった。

 思えば、俺もマルセルのことが好きだったのかもしれない。周囲から散々恋愛感情云々言われた影響もあるだろうが、マルセルを見ると動悸がするのは事実である。

 初めこそ、マルセルに対する嫉妬だと思い込んで有耶無耶にしようと画策していたが、ああやって真正面からマルセルに好意を伝えられると悪い気はしなかった。多分、俺マルセルのこと好きだわ。

 そう思えた矢先のことである。綺麗な王子様の口から異界の神とかいうワードが聞こえてきたらね、もうね。冷めるよ。いくらなんでも。「いや、あの、俺、人間」って弱々しい声が頭の中を支配するよ。もう恋愛どころじゃないからね。本当に。

 俺の精一杯の訂正を、マルセルはくすりと笑って流した。そういや神様は自分が神様だとバレてはいけないという謎ルールもあった。こんな時にも人間アピールか。真面目かよ、みたいな雰囲気だった。違うんだって。俺、マジもんの人間だから。神様違う。

 本当だったら、あそこで「俺も。マルセルのこと好き」とかなんとか言って終わりのはずだった。だが種族が違うけど自分は気にしない的な話を大真面目に語る王子様を前にして、俺は手放しで喜ぶことはできなかった。聖女をぶん殴りてぇ気持ちを必死に抑えていた。危うく大笑いするところだった。

 なんとか「少し時間が欲しい」とか適当言って、場を切り抜けた。マルセルと別れるなり、俺は雪音ちゃんへとクレームを入れにきたというわけである。

「というか、しれっとマルセル殿下の告白受け入れてますけど。心変わりですか?」
「……まぁ、好きと言われて悪い気はしない」

 むしろ嬉しいまである。だってあんな完璧王子が俺のこと好きとかさ、もうテンション上がるね。

「俺、マルセルのこと好きだわ」
「吹っ切れ方がすごい」

 呆れたような感心したような。微妙な目を向けてくる雪音ちゃんは、話を逸らそうとしていた。

「それでだよ! 俺は人間なのですが?」
「存じております」

 ぺこぺこする雪音ちゃんは、一応悪いとは思っているらしい。全ては召喚された日。雪音ちゃんが俺を指差して大声で「カミ様です!」と叫んだことから始まった。責任持ってどうにかしろと迫ってみるが、雪音ちゃんは「でも」と口答えしてくる。

「私があそこでカミ様と叫ばなかったら、カミ様今頃殺されていたかもしれませんよ? 恋愛どころじゃないですよ」
「……それもそうだな」

 そうだったよ。思えばあの日、俺は剣を向けられていた。すっかり忘れていたが、マルセルだって俺のことを「貴様」と呼んでいた。「それでもまだ私を責めますか!?」と腰に手をあてる雪音ちゃんは強かった。そうだね。ごめんね。俺が悪かったよ。

「すみませんでした。聖女様」
「いいえ、私こそ。申し訳ないです」

 互いに謝罪をし合って、息を吐く。今更過去の行いを嘆いたところでどうしようもない。これからのことを考えなければならない。

「それで? マルセル殿下にOKしたんですか?」
「いやまだ」
「まだ?」

 だって、突然真顔で異界の神とか言い始めるんだもん。ちょっと笑いそうになって無理だった。吹き出す前に逃げてきたのだ。その時のことを思い返して、再びため息。俺の名前を呼ぶマルセルは、ちょっと困ったような声だった。そりゃそうか。思い切って告白したら、相手が急に考えさせて欲しいとか言って逃げたらそうなるか。

「なんて言ったら人間だと信じてもらえるかな」
「別にそのままでいいのでは? だってマルセル殿下、神様でも構わないって言ったんでしょ?」
「そうだけど。なんか騙しているみたいでヤダ」
「そうですよね」

 俺は恋人に対しては誠実でいたいタイプだ。あんまり嘘はつきたくない。くだらない嘘ならまだいいが、人間ではないというのは流石にとんでもないと思う。神様扱いされると俺が居た堪れない。

「これはもう、地道にアピールするしかないのでは?」

 雪音ちゃんは苦しげにそんなことを提案するが、それはもう散々やっている。神様は神様だと知られてはいけないという謎ルールのせいで、これではいつまで経っても俺が人間だと理解してもらえそうにない。

 俺は一体どんな悩みを抱えているのか。ふと冷静になると、なんだかすごく虚しくなるな。
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