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「マルセル殿下と喧嘩したんですか?」
「いや、そういうわけでは」
マルセルとの面会拒否から間を置かずに。
どこで聞きつけたのか。早速、俺の部屋に乗り込んできた雪音ちゃんは、仁王立ちで俺を見下ろしてくる。俺はといえば、絶賛ソファーで毛布に包まっているところであった。どういう情報網なのか。耳が早いにも程がある。俺の情報が筒抜けじゃん。
横たわったまま動かない俺を、雪音ちゃんは冷たい目で見下ろしてくる。やめて。今、冷たくされたらうっかり泣いちゃう。
「じゃあなんで追い返すんですか?」
「……なんか、会いたくなかったから」
「会いたくないって」
そこで口を閉ざした雪音ちゃんだが、言いたいことは理解した。子供っぽいって言いたいんだろ。わかってるよ。
ここに俺の味方はいなかった。イアンは、雪音ちゃんの姿が見えるなり静かに退出した。引きとめる気力もなかった。だらりと力なく寝そべる俺に、雪音ちゃんが大袈裟に「呆れた」と吐き捨ててくる。酷い。もっと優しく接して。
「マルセル殿下のなにが嫌なんですか?」
「うーん?」
なんだろうな。なにが嫌なんだろうな。自分でもよくわからん。ただただ会いたくないだけである。
「顔は良いんだよな。イケメンだし」
「私もそう思います」
「あと優しい。よく甘い物持って来てくれる」
「いいじゃないですか」
「それに俺のことすごい褒めてくれる。人にチヤホヤされるのは好き」
「よかったじゃないですか」
律儀に相槌を打ってくれる雪音ちゃんは、「じゃあ、なにか嫌なことでもされたんですか?」とぶっ込んでくる。
嫌なこと、というよりも。頭にこびりついて離れない光景がある。
「……キスされた」
ぼそっと白状すれば、雪音ちゃんが「えぇ!」とテンション高く口元を覆う。そのまま言葉を失った雪音ちゃんであるが、喜んでいることが態度で丸わかりである。なんかこう小さく飛び跳ねてバタバタしている。忙しないな。
「よかったじゃないですか! なんでそれで落ち込むんですか?」
理解し難いといった表情を作った雪音ちゃんに、なんと説明していいものか。
「言葉では、すごく説明が難しい」
力なく主張するも、雪音ちゃんの上昇したテンションは落ちてこない。「やばいやばい」と何度も口にする雪音ちゃんは、側から見てもやばかった。どこから湧いてくるんだよ、その元気。
「晴れて両想いですか!?」
「……多分、違うと思う」
「なぜ!」
だってさ、なんかそんな感じのキスではないよね。親愛とか、友情とか? なんか多分そんな意味合いだったような気がする。
「てか、キスっていっても手の甲だし」
ピクッと反応した雪音ちゃんは、「え、でもキスには変わりないじゃないですか」と言葉を重ねてくる。
「私、手の甲にキスとかされたことないですよ」
「マルセルにも?」
「はい。マルセル殿下にも」
それは、雪音ちゃんが聖女だからでは? そんな軽々しくキスできるような存在ではないのだろう。
はわわ、とひとりではしゃぐ雪音ちゃんであったが、ふと動きを止める。そのまま何やら考え込むように黙り込んだ彼女は、それはもう真剣な目をしていた。
「えっと? キスされたのが嫌だったんですか?」
「嫌というか、なんというか」
うーん。なんだろうな。
「なんかこう、マルセルの顔見ると心がざわつくんだよ」
「ざわっ!?」
大袈裟な反応を返してくれる心優しき雪音ちゃんは、「え?」と目を瞬く。信じられないとでも言いたげに口元を覆った彼女は、「あの、カミ様」と小声で問いかけてくる。
「それって、カミ様もマルセル殿下のことが好きってことなのでは?」
「……それはない」
確かに心がざわざわするのだが、決して好きとかそういう感情ではない。雪音ちゃんは、何でもかんでも恋愛に結び付けるという悪癖がある。気持ちはわからなくもないけどね。そういうお年頃だよね。
だが、今回は違う。
「これは多分、嫉妬だ」
「嫉妬……?」
わからないという顔をした雪音ちゃん。「もしかして嫉妬って言葉知らないのか?」と尋ねれば、「それくらい知っています」と即答された。
俺は今まで、アイドルとしてチヤホヤされてきた。それに概ね満足していた。それが、突然やってきた異世界で出会ったイケメンに、なんかこう心を乱されているのだ。ついついあの金髪と比較しては、どんよりと暗い気分になるのだ。
「雪音ちゃんだって、俺よりマルセルの方がかっこいいって言ったじゃん」
「いやそれは。単に顔だけ見てって話ですよ? 私はカミ様の方が好きですよ」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃありません! 私はマジでカミ様のファンなので!」
必死に言い募る雪音ちゃんは、どうにか俺を励まそうとしていた。その気持ちはありがたい。ありがたいが、それくらいでは立ち直れない。
はぁっと深いため息がこぼれる。
「別にマルセル殿下のこと嫌いになったわけじゃないんですよね?」
「うん」
念押ししてくる雪音ちゃんに、力ない返事をしておく。そうだよ。別にマルセルのことが嫌いなわけではない。ちょっと隣に並ぶと心がざわつくだけなのだ。
「いや、そういうわけでは」
マルセルとの面会拒否から間を置かずに。
どこで聞きつけたのか。早速、俺の部屋に乗り込んできた雪音ちゃんは、仁王立ちで俺を見下ろしてくる。俺はといえば、絶賛ソファーで毛布に包まっているところであった。どういう情報網なのか。耳が早いにも程がある。俺の情報が筒抜けじゃん。
横たわったまま動かない俺を、雪音ちゃんは冷たい目で見下ろしてくる。やめて。今、冷たくされたらうっかり泣いちゃう。
「じゃあなんで追い返すんですか?」
「……なんか、会いたくなかったから」
「会いたくないって」
そこで口を閉ざした雪音ちゃんだが、言いたいことは理解した。子供っぽいって言いたいんだろ。わかってるよ。
ここに俺の味方はいなかった。イアンは、雪音ちゃんの姿が見えるなり静かに退出した。引きとめる気力もなかった。だらりと力なく寝そべる俺に、雪音ちゃんが大袈裟に「呆れた」と吐き捨ててくる。酷い。もっと優しく接して。
「マルセル殿下のなにが嫌なんですか?」
「うーん?」
なんだろうな。なにが嫌なんだろうな。自分でもよくわからん。ただただ会いたくないだけである。
「顔は良いんだよな。イケメンだし」
「私もそう思います」
「あと優しい。よく甘い物持って来てくれる」
「いいじゃないですか」
「それに俺のことすごい褒めてくれる。人にチヤホヤされるのは好き」
「よかったじゃないですか」
律儀に相槌を打ってくれる雪音ちゃんは、「じゃあ、なにか嫌なことでもされたんですか?」とぶっ込んでくる。
嫌なこと、というよりも。頭にこびりついて離れない光景がある。
「……キスされた」
ぼそっと白状すれば、雪音ちゃんが「えぇ!」とテンション高く口元を覆う。そのまま言葉を失った雪音ちゃんであるが、喜んでいることが態度で丸わかりである。なんかこう小さく飛び跳ねてバタバタしている。忙しないな。
「よかったじゃないですか! なんでそれで落ち込むんですか?」
理解し難いといった表情を作った雪音ちゃんに、なんと説明していいものか。
「言葉では、すごく説明が難しい」
力なく主張するも、雪音ちゃんの上昇したテンションは落ちてこない。「やばいやばい」と何度も口にする雪音ちゃんは、側から見てもやばかった。どこから湧いてくるんだよ、その元気。
「晴れて両想いですか!?」
「……多分、違うと思う」
「なぜ!」
だってさ、なんかそんな感じのキスではないよね。親愛とか、友情とか? なんか多分そんな意味合いだったような気がする。
「てか、キスっていっても手の甲だし」
ピクッと反応した雪音ちゃんは、「え、でもキスには変わりないじゃないですか」と言葉を重ねてくる。
「私、手の甲にキスとかされたことないですよ」
「マルセルにも?」
「はい。マルセル殿下にも」
それは、雪音ちゃんが聖女だからでは? そんな軽々しくキスできるような存在ではないのだろう。
はわわ、とひとりではしゃぐ雪音ちゃんであったが、ふと動きを止める。そのまま何やら考え込むように黙り込んだ彼女は、それはもう真剣な目をしていた。
「えっと? キスされたのが嫌だったんですか?」
「嫌というか、なんというか」
うーん。なんだろうな。
「なんかこう、マルセルの顔見ると心がざわつくんだよ」
「ざわっ!?」
大袈裟な反応を返してくれる心優しき雪音ちゃんは、「え?」と目を瞬く。信じられないとでも言いたげに口元を覆った彼女は、「あの、カミ様」と小声で問いかけてくる。
「それって、カミ様もマルセル殿下のことが好きってことなのでは?」
「……それはない」
確かに心がざわざわするのだが、決して好きとかそういう感情ではない。雪音ちゃんは、何でもかんでも恋愛に結び付けるという悪癖がある。気持ちはわからなくもないけどね。そういうお年頃だよね。
だが、今回は違う。
「これは多分、嫉妬だ」
「嫉妬……?」
わからないという顔をした雪音ちゃん。「もしかして嫉妬って言葉知らないのか?」と尋ねれば、「それくらい知っています」と即答された。
俺は今まで、アイドルとしてチヤホヤされてきた。それに概ね満足していた。それが、突然やってきた異世界で出会ったイケメンに、なんかこう心を乱されているのだ。ついついあの金髪と比較しては、どんよりと暗い気分になるのだ。
「雪音ちゃんだって、俺よりマルセルの方がかっこいいって言ったじゃん」
「いやそれは。単に顔だけ見てって話ですよ? 私はカミ様の方が好きですよ」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃありません! 私はマジでカミ様のファンなので!」
必死に言い募る雪音ちゃんは、どうにか俺を励まそうとしていた。その気持ちはありがたい。ありがたいが、それくらいでは立ち直れない。
はぁっと深いため息がこぼれる。
「別にマルセル殿下のこと嫌いになったわけじゃないんですよね?」
「うん」
念押ししてくる雪音ちゃんに、力ない返事をしておく。そうだよ。別にマルセルのことが嫌いなわけではない。ちょっと隣に並ぶと心がざわつくだけなのだ。
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