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16 やり返したい
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「イアン」
「なんでしょうか、ミナト様」
「君を親友と見込んでお願いがあるんだけどさ」
「私は一介の使用人です。主人であるミナト様の友など畏れ多い」
「いまそこはどうでもいいから」
言葉尻を捉えて眉を寄せるイアンは、「私でよければ何なりとお申し付けください」と先を促してくる。
ふたりきりの室内にて。
俺はイアンの瞳を見据えた。
「マルセルをぎゃふんと言わせたい」
「……それは、なんといいますか。左様でございますか」
困ったように言い淀んだイアンは、なんとも言えない表情をしていた。だが俺は決心したのだ。あの腹黒王子に一泡吹かせてみせると。
今頃になって気が付いたのだが、俺は先日マルセル相手にクレームを入れた。俺を無断で監禁するとはどういうことかと。なんとなく解決した風に話し合いが終わってしまったが、全く解決していなかった。
思えばあの日、マルセルは声高らかに主張を繰り広げる俺に対して、突然「気高い」だの「美しい」だの言葉を並べ立てて褒めまくった。その時はよせやいと満更でもなかった俺だが、あれってあれだろ。話誤魔化しただけだろ。なんかいい感じの雰囲気になりかけたが、俺は騙されたというわけだ。
あいつに謝罪要求に行ったのに、なんだか誉め殺しされてへへっと笑っているうちにお開きとなってしまった。なんて奴だ。腹黒王子め。
というわけで、今更ながら怒りに震える俺は決意した。マルセルにやり返したいと。
「というわけでイアンにも協力して欲しい」
「ご容赦くださいませ。私が殿下に楯突くなど」
あり得ません、ときっぱり断言するイアンは、話を切り上げようとしてしまう。誰もそこまでしろとは言っていない。ちょっとだけ俺に協力してくれればそれでいい。
「お願い! イアンに迷惑はかけないから」
「しかし」
「ちょっと手伝ってくれるだけでいいから!」
「ですが」
つれないイアンに、俺は最終手段にでる。
「イアン」
神妙な声で名前を呼べば、イアンが僅かに姿勢を正した気がする。
「協力してくれないと、俺はちょっと。なんかこう、不幸な感じになってしまう」
なんて言えばいいのかわからなくて、しどろもどろになる俺。だが効果は抜群だった。
一瞬だけではあるが、目を見開いたイアン。おそらくこの国の将来を危惧したであろう彼は、「わかりました」と小さく頷いた。
「私にできることであれば協力致します」
「ありがとう!」
よかった。この国において、俺は異界の神様扱いされている。しかも俺が幸せに暮らせば、この国も豊かになるというよくわからん設定がある。つまり俺のご機嫌取りは、彼らにとって最重要事項なのだ。マジで理解し難いことだが。
しかし今みたいに、使い方によっては便利だな、神様設定。
ひとり満足していると、イアンが「それで」と控えめに口を開く。
「具体的に、私は何をすればよろしいのでしょうか」
「それはまだ考え中」
「……左様でございますか」
静かに応じたイアンは、それきり口を閉ざしてしまう。言葉には出さないが、「まだ決まってないのかよ」的な空気を感じる。ごめんね、勢いのままに生きているので。具体的な計画はまだなのだ。雪音ちゃんと話し合ってから決めようと思う。
※※※
「というわけで、マルセルをぎゃふんと言わせたい」
「ぎゃふん」
「君が言ってどうするよ」
変な顔をする雪音ちゃんは、再度「ぎゃふん?」と口にする。だから君が言ってどうする。あと別に一語一句違わずに「ぎゃふん」と言わせたいわけではない。単なる例えだ。お願いだからそこに突っかからないで。
「どうすればいいと思う? 雪音ちゃんが考えてくれると助かる」
「丸投げですか」
カミ様の主張はわかりました、と頷く雪音ちゃんは、さながら学校の先生のようだった。
「ですがマルセル殿下に嫌がらせじみたことをしてどうするんですか。カミ様はマルセル殿下に気に入られないといけないんですよ?」
そんな感じで優しく諭してくる。こっちは一応成人男性である。女子高校生に諭されるなんて。
だが俺の言い分もきちんと理解して欲しい。ぬるっと監禁された件については許してやらなくもない。しかし先日、マルセルに直接謝罪を求めたにも関わらず、なんだか流されてしまった。俺のことは適当に褒めておけばいいんだろ的な雑な扱いが気に食わないのだ。
そう伝えたところ、雪音ちゃんは「確かに」と頷いてくれる。
「謝罪がないのはマルセル殿下が悪いですね」
「そうだろう」
「だからといって嫌がらせに走るのはどうかと思います」
「正論言わないで。年下の女の子に言われるとダメージが大きい」
ぐっと大袈裟に胸を押さえてみれば、雪音ちゃんは「推しにダメージを!?」とどうでもいいところで、はしゃいでいる。毎度のことながら雪音ちゃんの興奮ポイントがよくわからない。
「わかりました。では私もお手伝いします。カミ様に任せておくと殿下を背後からぶん殴るみたいなバイオレンスな手段に走りそうなので」
「君は俺のことをなんだと思っているんだ」
いくらなんでもそこまでバイオレンスなことはしないぞ。
「なんでしょうか、ミナト様」
「君を親友と見込んでお願いがあるんだけどさ」
「私は一介の使用人です。主人であるミナト様の友など畏れ多い」
「いまそこはどうでもいいから」
言葉尻を捉えて眉を寄せるイアンは、「私でよければ何なりとお申し付けください」と先を促してくる。
ふたりきりの室内にて。
俺はイアンの瞳を見据えた。
「マルセルをぎゃふんと言わせたい」
「……それは、なんといいますか。左様でございますか」
困ったように言い淀んだイアンは、なんとも言えない表情をしていた。だが俺は決心したのだ。あの腹黒王子に一泡吹かせてみせると。
今頃になって気が付いたのだが、俺は先日マルセル相手にクレームを入れた。俺を無断で監禁するとはどういうことかと。なんとなく解決した風に話し合いが終わってしまったが、全く解決していなかった。
思えばあの日、マルセルは声高らかに主張を繰り広げる俺に対して、突然「気高い」だの「美しい」だの言葉を並べ立てて褒めまくった。その時はよせやいと満更でもなかった俺だが、あれってあれだろ。話誤魔化しただけだろ。なんかいい感じの雰囲気になりかけたが、俺は騙されたというわけだ。
あいつに謝罪要求に行ったのに、なんだか誉め殺しされてへへっと笑っているうちにお開きとなってしまった。なんて奴だ。腹黒王子め。
というわけで、今更ながら怒りに震える俺は決意した。マルセルにやり返したいと。
「というわけでイアンにも協力して欲しい」
「ご容赦くださいませ。私が殿下に楯突くなど」
あり得ません、ときっぱり断言するイアンは、話を切り上げようとしてしまう。誰もそこまでしろとは言っていない。ちょっとだけ俺に協力してくれればそれでいい。
「お願い! イアンに迷惑はかけないから」
「しかし」
「ちょっと手伝ってくれるだけでいいから!」
「ですが」
つれないイアンに、俺は最終手段にでる。
「イアン」
神妙な声で名前を呼べば、イアンが僅かに姿勢を正した気がする。
「協力してくれないと、俺はちょっと。なんかこう、不幸な感じになってしまう」
なんて言えばいいのかわからなくて、しどろもどろになる俺。だが効果は抜群だった。
一瞬だけではあるが、目を見開いたイアン。おそらくこの国の将来を危惧したであろう彼は、「わかりました」と小さく頷いた。
「私にできることであれば協力致します」
「ありがとう!」
よかった。この国において、俺は異界の神様扱いされている。しかも俺が幸せに暮らせば、この国も豊かになるというよくわからん設定がある。つまり俺のご機嫌取りは、彼らにとって最重要事項なのだ。マジで理解し難いことだが。
しかし今みたいに、使い方によっては便利だな、神様設定。
ひとり満足していると、イアンが「それで」と控えめに口を開く。
「具体的に、私は何をすればよろしいのでしょうか」
「それはまだ考え中」
「……左様でございますか」
静かに応じたイアンは、それきり口を閉ざしてしまう。言葉には出さないが、「まだ決まってないのかよ」的な空気を感じる。ごめんね、勢いのままに生きているので。具体的な計画はまだなのだ。雪音ちゃんと話し合ってから決めようと思う。
※※※
「というわけで、マルセルをぎゃふんと言わせたい」
「ぎゃふん」
「君が言ってどうするよ」
変な顔をする雪音ちゃんは、再度「ぎゃふん?」と口にする。だから君が言ってどうする。あと別に一語一句違わずに「ぎゃふん」と言わせたいわけではない。単なる例えだ。お願いだからそこに突っかからないで。
「どうすればいいと思う? 雪音ちゃんが考えてくれると助かる」
「丸投げですか」
カミ様の主張はわかりました、と頷く雪音ちゃんは、さながら学校の先生のようだった。
「ですがマルセル殿下に嫌がらせじみたことをしてどうするんですか。カミ様はマルセル殿下に気に入られないといけないんですよ?」
そんな感じで優しく諭してくる。こっちは一応成人男性である。女子高校生に諭されるなんて。
だが俺の言い分もきちんと理解して欲しい。ぬるっと監禁された件については許してやらなくもない。しかし先日、マルセルに直接謝罪を求めたにも関わらず、なんだか流されてしまった。俺のことは適当に褒めておけばいいんだろ的な雑な扱いが気に食わないのだ。
そう伝えたところ、雪音ちゃんは「確かに」と頷いてくれる。
「謝罪がないのはマルセル殿下が悪いですね」
「そうだろう」
「だからといって嫌がらせに走るのはどうかと思います」
「正論言わないで。年下の女の子に言われるとダメージが大きい」
ぐっと大袈裟に胸を押さえてみれば、雪音ちゃんは「推しにダメージを!?」とどうでもいいところで、はしゃいでいる。毎度のことながら雪音ちゃんの興奮ポイントがよくわからない。
「わかりました。では私もお手伝いします。カミ様に任せておくと殿下を背後からぶん殴るみたいなバイオレンスな手段に走りそうなので」
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