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14 上機嫌な殿下
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「マルセル殿下! お話し合いをしましょう!」
「話し合い? 構いませんが」
その日の夜。
またもや甘い飲み物片手に、俺の部屋を訪れたマルセル。さっそく話し合いのチャンスである。
「あのですね、まず前提として俺は神様ではないのですが」
「えぇ、その点のルールについてはこちらも理解しております」
だから安心しろとでも言いたげに、にこりと微笑むマルセルは、なにもわかっていなかった。ルールってなんだよ。マジで俺の知らん設定を後から勝手に追加しないでください。
神様は自分が神様であることを人間に知られてはいけない。そんな捏造ルールをもとに俺に接するマルセルは、わかってますよ感がすごい。おまえは何ひとつわかってないぞと肩を揺さぶってやりたいくらいである。
だが我慢。
俺が実は単なる人間だとバレたらやばいかも、と雪音ちゃんに言われたばかりである。神様ではないアピールを適度に入れつつ、ガチ訂正はしないこととする。
最近では、マルセルが来ると護衛の騎士さんやイアンは退出してしまう。どうやら俺とマルセルをふたりきりにしても危険はないと判断したらしい。そうですね。なんせこっちは平凡な成人男性なので。剣術で体を鍛えているマルセルに、俺が敵うわけがないよね。
相変わらず我が物顔でベッドに腰掛けるマルセルは、寝巻きを着ていた。どうやら寝る前に顔を出しに来たらしい。そんなに俺を見たいか? もはや珍獣扱いされている気がする。
「まぁいいでしょう。それでですね、前からずっと気になっていたんですが」
「はい。なんでもおっしゃってください」
「なんで俺って監禁されてんですか?」
「別に監禁というわけでは。ミナト様の御身に何かあっては大変ですから」
あくまで俺のためという姿勢を貫くマルセル。その対応は予想済みである。
「心配して頂けるのはありがたいですよ。でも俺は外に出たいし、聖女の話ではそんなに治安が悪いわけでもないそうじゃないですか。そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫です!」
きっぱりと己の意思を伝えたところ、マルセルがぱちぱちと目を瞬く。そうしてふっと柔らかく微笑んだ彼は、「ミナト様はお美しいですね」と何の前触れもなく俺を褒め始める。よせよ。照れるだろ。
なんか気恥ずかしくて頬を掻いていると、マルセルが隣にこいと手招きする。だからそこは俺のベッドだ。
だが遠慮する理由もない。ここは俺の部屋だし。
ぽすんと隣に腰掛ければ、マルセルがくすりと笑う。なんかよくわからんが上機嫌らしい。もしかして酔ってるんか? と疑いたくなるくらいには上機嫌だ。良いことでもあったんかいな。
「ミナト様はお美しい心をお持ちで」
再度、俺を称賛したマルセルは、慈しむように目を細める。
「神様を相手にしてこんなことを言うのは、おかしなことかもしれませんが」
「うん」
俺は神ではないのでお気になさらず。
「ミナト様は気高い心をお持ちですね」
「うん」
よくわからんがまた褒められた。先程から俺のことをベタ褒めである。ちょっと照れる。
どうやらマルセルは、俺の一切折れない頑なさを気高いと表現したらしい。ちょっと良いように解釈しすぎな気もするが、褒められて悪い気はしない。もともと俺は人にチヤホヤされるのが大好きである。そのためにアイドルなんてやっていたくらいだし。
てれてれと頬を掻いていれば、マルセルが突然こちらに向き直った。
ん? と思う間もなく。
伸びてきた手が、俺の頭に乗せられる。そのままわしゃわしゃと髪を乱雑に撫でまわされる。なんこれ。
すんっと真顔になる俺に構わず、マルセルはひとり楽しそうである。いやいや、こっちはちっとも楽しくないんですが?
これはあれだ。ペットだ。ペットの犬のごとく無遠慮に撫でまわされている。
「あ、あの、殿下?」
「マルセル、と。名前で呼んではくれませんか?」
「マルセル」
お断りする理由もないのでお望み通り呼び捨ててやる。ふふっと満足そうに笑ったマルセルは、実に楽しそうであった。
これまでは神様扱いだったのに。なんとなく距離が近付いてペット扱いになっている気がする。
あとはもう寝るだけとはいえ、好き勝手に髪を扱われるのは不愉快である。むすっとしてみれば、マルセルが「あ、失礼しました」と慌てたように手を引いた。
「俺の頭撫でて楽しいか?」
「そうですね、はい。申し訳ない」
マジかよ。一体なにが楽しいというのだ。
申し訳ないと言いつつ、再び手を伸ばしてこようとするマルセルから距離を取る。俺の許可なく俺の頭を撫でるんじゃありません。
「話し合い? 構いませんが」
その日の夜。
またもや甘い飲み物片手に、俺の部屋を訪れたマルセル。さっそく話し合いのチャンスである。
「あのですね、まず前提として俺は神様ではないのですが」
「えぇ、その点のルールについてはこちらも理解しております」
だから安心しろとでも言いたげに、にこりと微笑むマルセルは、なにもわかっていなかった。ルールってなんだよ。マジで俺の知らん設定を後から勝手に追加しないでください。
神様は自分が神様であることを人間に知られてはいけない。そんな捏造ルールをもとに俺に接するマルセルは、わかってますよ感がすごい。おまえは何ひとつわかってないぞと肩を揺さぶってやりたいくらいである。
だが我慢。
俺が実は単なる人間だとバレたらやばいかも、と雪音ちゃんに言われたばかりである。神様ではないアピールを適度に入れつつ、ガチ訂正はしないこととする。
最近では、マルセルが来ると護衛の騎士さんやイアンは退出してしまう。どうやら俺とマルセルをふたりきりにしても危険はないと判断したらしい。そうですね。なんせこっちは平凡な成人男性なので。剣術で体を鍛えているマルセルに、俺が敵うわけがないよね。
相変わらず我が物顔でベッドに腰掛けるマルセルは、寝巻きを着ていた。どうやら寝る前に顔を出しに来たらしい。そんなに俺を見たいか? もはや珍獣扱いされている気がする。
「まぁいいでしょう。それでですね、前からずっと気になっていたんですが」
「はい。なんでもおっしゃってください」
「なんで俺って監禁されてんですか?」
「別に監禁というわけでは。ミナト様の御身に何かあっては大変ですから」
あくまで俺のためという姿勢を貫くマルセル。その対応は予想済みである。
「心配して頂けるのはありがたいですよ。でも俺は外に出たいし、聖女の話ではそんなに治安が悪いわけでもないそうじゃないですか。そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫です!」
きっぱりと己の意思を伝えたところ、マルセルがぱちぱちと目を瞬く。そうしてふっと柔らかく微笑んだ彼は、「ミナト様はお美しいですね」と何の前触れもなく俺を褒め始める。よせよ。照れるだろ。
なんか気恥ずかしくて頬を掻いていると、マルセルが隣にこいと手招きする。だからそこは俺のベッドだ。
だが遠慮する理由もない。ここは俺の部屋だし。
ぽすんと隣に腰掛ければ、マルセルがくすりと笑う。なんかよくわからんが上機嫌らしい。もしかして酔ってるんか? と疑いたくなるくらいには上機嫌だ。良いことでもあったんかいな。
「ミナト様はお美しい心をお持ちで」
再度、俺を称賛したマルセルは、慈しむように目を細める。
「神様を相手にしてこんなことを言うのは、おかしなことかもしれませんが」
「うん」
俺は神ではないのでお気になさらず。
「ミナト様は気高い心をお持ちですね」
「うん」
よくわからんがまた褒められた。先程から俺のことをベタ褒めである。ちょっと照れる。
どうやらマルセルは、俺の一切折れない頑なさを気高いと表現したらしい。ちょっと良いように解釈しすぎな気もするが、褒められて悪い気はしない。もともと俺は人にチヤホヤされるのが大好きである。そのためにアイドルなんてやっていたくらいだし。
てれてれと頬を掻いていれば、マルセルが突然こちらに向き直った。
ん? と思う間もなく。
伸びてきた手が、俺の頭に乗せられる。そのままわしゃわしゃと髪を乱雑に撫でまわされる。なんこれ。
すんっと真顔になる俺に構わず、マルセルはひとり楽しそうである。いやいや、こっちはちっとも楽しくないんですが?
これはあれだ。ペットだ。ペットの犬のごとく無遠慮に撫でまわされている。
「あ、あの、殿下?」
「マルセル、と。名前で呼んではくれませんか?」
「マルセル」
お断りする理由もないのでお望み通り呼び捨ててやる。ふふっと満足そうに笑ったマルセルは、実に楽しそうであった。
これまでは神様扱いだったのに。なんとなく距離が近付いてペット扱いになっている気がする。
あとはもう寝るだけとはいえ、好き勝手に髪を扱われるのは不愉快である。むすっとしてみれば、マルセルが「あ、失礼しました」と慌てたように手を引いた。
「俺の頭撫でて楽しいか?」
「そうですね、はい。申し訳ない」
マジかよ。一体なにが楽しいというのだ。
申し訳ないと言いつつ、再び手を伸ばしてこようとするマルセルから距離を取る。俺の許可なく俺の頭を撫でるんじゃありません。
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