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9 責任とれ
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「俺の人権はどうした」
「神様だからないことになっているのでは?」
「聖女が酷いことを言うな」
雪音ちゃんの部屋にて。
作戦会議中、雪音ちゃんが容赦ないことを言ってくる。でも確かに。神様枠に入れられている俺に人権なんてないのかもしれない。酷い話だ。
ちなみに雪音ちゃんの護衛さんとイアンは部屋の外で待機している。聞かれたらまずい話もあるからな。
「神様って神社とかで祀られるじゃないですか? そんな感じなのでは?」
「嫌すぎる。監禁するならせめて俺専用の神社つくって」
「神社つくられて嬉しいですか?」
「……嬉しいかもしれない」
「マジですか」
でもここ異世界だし。神社みたいなザ・日本的なものはないだろう。代わりは何だろ。神殿とか?
「でも私、ちょっと思ったんですけど」
「なんだい聖女さん」
「本当は神様じゃないってバレたらやばいのでは?」
「……なんで?」
俺としては、一日でもはやく俺は人間だと認めてもらいたい。
「この世界の人たちって、なんかこうトラブルでカミ様を召喚したわけじゃないですか」
「そうだな」
「召喚の時も物騒な雰囲気でしたし。あのまま殺されていてもおかしくないくらいの勢いでしたよ」
「確かに」
なんか騎士っぽい男に剣を向けられたな。そういえば。
「それが異界の神様だとわかった途端に態度が柔らかくなったわけで。実は神様ではないと判明すれば再び命の危機なのでは?」
「……そ、そうかもしれない」
なんてこった。
特になにも考えずに人間だと訂正しようと思っていたが、雪音ちゃんのいう通りかもしれない。あっぶねぇ。
あわわと慌てふためく俺に、雪音ちゃんが「大丈夫ですよ!」と明るく言い聞かせる。
「今のところカミ様が何やっても、あの人たちカミ様を神であると信じて疑わないですから。多分バレることはないかと」
そうだといいけど。
「じゃあ俺は神のフリした方がいい?」
「それはやめた方が」
「なぜ」
「だってあの人たち神様世界には自分が神だと明かしてはいけない的なルールがあると思っているので」
あぁ。あの謎の捏造ルールね。理解した。つまり俺はこのまま「俺は人間っす! 神様なんかじゃないです!」と言い張っていればいいというわけか。それくらいならお安いご用である。
「せっかく異世界に来たのにつまらないな」
「そうですね。なんかすみません。多分私のせいですよね」
「いやそんなことは」
さすが聖女に選ばれるだけあるな。変な責任感を持っている。だがこれは事故だ。巻き込まれて異世界召喚系の漫画なら何度も読んだ覚えがある。安心してくれ、よくある事故だ。雪音ちゃんのせいではない。
「いえ。絶対に私のせいです」
だが雪音ちゃんは譲らない。頑なすぎて心配になるレベルだ。
「実は私、ここに召喚される時、カミ様に祈りを捧げていたので。多分そのせいです」
「……ん?」
「いや本人に言うのは恥ずかしいんですけど。家にカミ様の祭壇作ってて。毎日祈ってるんです」
「さい、だん?」
なんそれ。え? 祈り捧げてるって言った? 誰に? 俺に?
困惑する俺をよそに雪音ちゃんは「きゃあ! 言っちゃった!」と顔を覆っている。なにやらひとり興奮しているらしい。
「ちょっとですね! 推しの祭壇つくるの流行ってるんですよ!」
「はぁ」
「私もすっかりハマっちゃって!」
「はぁ」
「毎日祈ってます。で、召喚されたその時もまさに祈っていたんです。だからカミ様が巻き込まれてしまったんだと思います」
「ほぉ」
「だから私のせいです。ごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げる雪音ちゃん。
うん、そうか。なるほど。
「雪音ちゃんのせいだね」
「いえ、ですから私のせいで、ん?」
ぱちぱちと目を瞬いた雪音ちゃんは、「え?」と目を見開く。
「今、私のせいって言いました?」
「うん、言った」
断言しよう。雪音ちゃんのせいだと。
本人もそう言っているし間違いない。そもそも俺に祈りを捧げるという行為が意味不明だが、きっとそれが原因だ。なんかこう、不思議な力を持つ聖女が俺への祈りを捧げていたがためになんかうまい具合に俺が巻き込まれたのだろう。
納得する俺とは対照的に、雪音ちゃんは変な顔をする。
「あ、そ。マジすか? 普通は君のせいじゃないよって言いません?」
「君のせいだ」
「さすがカミ様。容赦ないですね」
口を覆った雪音ちゃんは「マジすみませんでした!」と大袈裟に頭を下げてくる。
別に原因がわかれば良いだけで、雪音ちゃんを責めるつもりはない。
「大丈夫。君も被害者であることに変わりはないよ」
「カミ様ぁ!」
にこりと微笑めば、雪音ちゃんが両手を上げて喜んでくれる。ここは異世界召喚の被害者同士、結託せねばならない。仲間割れをしている暇なんてなかった。
「でも雪音ちゃんのせいで俺が巻き込まれたのは事実だから、ちゃんと責任とって。最後まで俺の面倒みろよ」
「ひぇ!? なにそのセリフ! 推しに言われたいセリフ上位にランクインしますよ!?」
なにそのランキング。
実質プロポーズみたいなもんですよね!? と顔を赤くする雪音ちゃんは以前俺に振られたことをすっかりなかったことにしている気がする。
「私! 責任持ってカミ様を幸せにしますから!」
「う、うん」
「ということで! マルセル殿下を全力で落としましょう!」
だから、なぜそうなる。
「神様だからないことになっているのでは?」
「聖女が酷いことを言うな」
雪音ちゃんの部屋にて。
作戦会議中、雪音ちゃんが容赦ないことを言ってくる。でも確かに。神様枠に入れられている俺に人権なんてないのかもしれない。酷い話だ。
ちなみに雪音ちゃんの護衛さんとイアンは部屋の外で待機している。聞かれたらまずい話もあるからな。
「神様って神社とかで祀られるじゃないですか? そんな感じなのでは?」
「嫌すぎる。監禁するならせめて俺専用の神社つくって」
「神社つくられて嬉しいですか?」
「……嬉しいかもしれない」
「マジですか」
でもここ異世界だし。神社みたいなザ・日本的なものはないだろう。代わりは何だろ。神殿とか?
「でも私、ちょっと思ったんですけど」
「なんだい聖女さん」
「本当は神様じゃないってバレたらやばいのでは?」
「……なんで?」
俺としては、一日でもはやく俺は人間だと認めてもらいたい。
「この世界の人たちって、なんかこうトラブルでカミ様を召喚したわけじゃないですか」
「そうだな」
「召喚の時も物騒な雰囲気でしたし。あのまま殺されていてもおかしくないくらいの勢いでしたよ」
「確かに」
なんか騎士っぽい男に剣を向けられたな。そういえば。
「それが異界の神様だとわかった途端に態度が柔らかくなったわけで。実は神様ではないと判明すれば再び命の危機なのでは?」
「……そ、そうかもしれない」
なんてこった。
特になにも考えずに人間だと訂正しようと思っていたが、雪音ちゃんのいう通りかもしれない。あっぶねぇ。
あわわと慌てふためく俺に、雪音ちゃんが「大丈夫ですよ!」と明るく言い聞かせる。
「今のところカミ様が何やっても、あの人たちカミ様を神であると信じて疑わないですから。多分バレることはないかと」
そうだといいけど。
「じゃあ俺は神のフリした方がいい?」
「それはやめた方が」
「なぜ」
「だってあの人たち神様世界には自分が神だと明かしてはいけない的なルールがあると思っているので」
あぁ。あの謎の捏造ルールね。理解した。つまり俺はこのまま「俺は人間っす! 神様なんかじゃないです!」と言い張っていればいいというわけか。それくらいならお安いご用である。
「せっかく異世界に来たのにつまらないな」
「そうですね。なんかすみません。多分私のせいですよね」
「いやそんなことは」
さすが聖女に選ばれるだけあるな。変な責任感を持っている。だがこれは事故だ。巻き込まれて異世界召喚系の漫画なら何度も読んだ覚えがある。安心してくれ、よくある事故だ。雪音ちゃんのせいではない。
「いえ。絶対に私のせいです」
だが雪音ちゃんは譲らない。頑なすぎて心配になるレベルだ。
「実は私、ここに召喚される時、カミ様に祈りを捧げていたので。多分そのせいです」
「……ん?」
「いや本人に言うのは恥ずかしいんですけど。家にカミ様の祭壇作ってて。毎日祈ってるんです」
「さい、だん?」
なんそれ。え? 祈り捧げてるって言った? 誰に? 俺に?
困惑する俺をよそに雪音ちゃんは「きゃあ! 言っちゃった!」と顔を覆っている。なにやらひとり興奮しているらしい。
「ちょっとですね! 推しの祭壇つくるの流行ってるんですよ!」
「はぁ」
「私もすっかりハマっちゃって!」
「はぁ」
「毎日祈ってます。で、召喚されたその時もまさに祈っていたんです。だからカミ様が巻き込まれてしまったんだと思います」
「ほぉ」
「だから私のせいです。ごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げる雪音ちゃん。
うん、そうか。なるほど。
「雪音ちゃんのせいだね」
「いえ、ですから私のせいで、ん?」
ぱちぱちと目を瞬いた雪音ちゃんは、「え?」と目を見開く。
「今、私のせいって言いました?」
「うん、言った」
断言しよう。雪音ちゃんのせいだと。
本人もそう言っているし間違いない。そもそも俺に祈りを捧げるという行為が意味不明だが、きっとそれが原因だ。なんかこう、不思議な力を持つ聖女が俺への祈りを捧げていたがためになんかうまい具合に俺が巻き込まれたのだろう。
納得する俺とは対照的に、雪音ちゃんは変な顔をする。
「あ、そ。マジすか? 普通は君のせいじゃないよって言いません?」
「君のせいだ」
「さすがカミ様。容赦ないですね」
口を覆った雪音ちゃんは「マジすみませんでした!」と大袈裟に頭を下げてくる。
別に原因がわかれば良いだけで、雪音ちゃんを責めるつもりはない。
「大丈夫。君も被害者であることに変わりはないよ」
「カミ様ぁ!」
にこりと微笑めば、雪音ちゃんが両手を上げて喜んでくれる。ここは異世界召喚の被害者同士、結託せねばならない。仲間割れをしている暇なんてなかった。
「でも雪音ちゃんのせいで俺が巻き込まれたのは事実だから、ちゃんと責任とって。最後まで俺の面倒みろよ」
「ひぇ!? なにそのセリフ! 推しに言われたいセリフ上位にランクインしますよ!?」
なにそのランキング。
実質プロポーズみたいなもんですよね!? と顔を赤くする雪音ちゃんは以前俺に振られたことをすっかりなかったことにしている気がする。
「私! 責任持ってカミ様を幸せにしますから!」
「う、うん」
「ということで! マルセル殿下を全力で落としましょう!」
だから、なぜそうなる。
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