上 下
117 / 126

117 落ち着こう

しおりを挟む
 ぼくの計画では、キャンディーもらったリオラお兄様がシャルお兄さんのことを好きになるって流れだったのに。

 受け取ったキャンディーを怪訝な顔で見つめるリオラお兄様に、「申し訳ありません」とひたすら謝るシャルお兄さん。

 おまけに大笑いするロルフと、控えめではあるがこちらも確実に笑っているジョナス。

 もうなんか色々とダメだった。

「……シャルお兄さん。どんまい」

 とりあえずリオラお兄様に気に入られなかったシャルお兄さんの背中をペシペシ叩いて励ましておく。

「元気出してぇ。シャルお兄さんはいい人だから。ぼくは好きだよ」

 ペシペシ頑張っていると、シャルお兄さんがぼくを見下ろしてきた。

「あの、私が失恋したみたいな言い方はやめてもらえませんか」

 頼み込むような言い方に、ぼくは思わず口元を押さえた。失恋したみたいなというか。失恋したんだよ。

 だってキャンディーあげたこの状況でこの絶望的な空気である。もはやシャルお兄さんに可能性はなかった。残念。

「シャルお兄さん。現実見たほうがいいよ。どんまい」
「いやですから」

 私は別に失恋したわけではと言い訳めいた言葉を並べるシャルお兄さんは、しきりに前髪を触っている。

 失恋の原因。ぼくちょっとわかっちゃった。
 そのモジャモジャ髪の毛が原因だと思う。

 確かめるべく、ぼくはリオラお兄様に向き直った。

「お兄様。お兄様は髪の毛モジャモジャどう思いますか?」
「どうって言われても」

 面食らうお兄様は、ジョナスに助けを求めている。けれどもジョナスはくすくす笑うだけで、お兄様を助けてあげない。気持ちはわかる。こんな状況でどう助けるのが正解なのか、ジョナスにもわからないのだろう。

「ぼくはモジャモジャやめたほうがいいと思います。お顔が見えないので」

 その言葉に、なにやらリオラお兄様がハッとする。気が付いてしまったみたいな表情で、しきりにぼくとシャルお兄さんを見比べては勢いよく立ち上がった。

「もしかして、顔が見えないからガストン団長じゃないって言い張ってるの?」
「? シャルお兄さんはシャルお兄さんでーす」

 ガストン団長じゃありませんと腰に手を当てて主張すれば、リオラお兄様が「ちょっと!」と、シャルお兄さんに詰め寄った。

「顔見せて」
「いやそれは。さすがにリオラ様の頼みといえど」

 大きな手で己の前髪を守るシャルお兄さんは、よくわからないが本気だった。絶対にお顔を見せないと頑張っている。これにロルフが「もう観念したらどうなんですか」と冷ややかな言葉を投げた。

「いいかい、アル。この人はガストン団長だからね。前髪で顔を隠しているだけだから」
「そんなわけないです」

 いくらぼくが五歳でも、そんな雑な変装で誤魔化せるわけないもん。なんだ前髪で顔隠してるだけって。そんなんでぼくが騙されるわけない。

「シャルお兄さんは照れ屋さんなので。お顔見せないだけです」

 照れ屋さんと呟くリオラお兄様は、ちらちらとシャルお兄さんに視線を投げている。それを受けてさっと顔を背けるシャルお兄さんは、やっぱり照れ屋さんである。

「シャルお兄さんをいじめないでくださぁい!」

 いくら邪魔だとはいえ、彼にとっては大事な前髪である。それをぼくらが無理矢理崩すのは違うだろう。

「シャルお兄さん、逃げてくださぁい」

 リオラお兄様の腕を掴んで、お兄さんが逃走する隙を作ってあげる。そうしてぼくがひとりで懸命に戦っているというのに、肝心のシャルお兄さんは「あ、いえ。その」としどろもどろになるだけで動かない。

「アル。一回落ち着こう?」

 お兄様に背中を撫でられて、頬を膨らませる。
 ぼくはずっと落ち着いていますけど?
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...