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117 落ち着こう
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ぼくの計画では、キャンディーもらったリオラお兄様がシャルお兄さんのことを好きになるって流れだったのに。
受け取ったキャンディーを怪訝な顔で見つめるリオラお兄様に、「申し訳ありません」とひたすら謝るシャルお兄さん。
おまけに大笑いするロルフと、控えめではあるがこちらも確実に笑っているジョナス。
もうなんか色々とダメだった。
「……シャルお兄さん。どんまい」
とりあえずリオラお兄様に気に入られなかったシャルお兄さんの背中をペシペシ叩いて励ましておく。
「元気出してぇ。シャルお兄さんはいい人だから。ぼくは好きだよ」
ペシペシ頑張っていると、シャルお兄さんがぼくを見下ろしてきた。
「あの、私が失恋したみたいな言い方はやめてもらえませんか」
頼み込むような言い方に、ぼくは思わず口元を押さえた。失恋したみたいなというか。失恋したんだよ。
だってキャンディーあげたこの状況でこの絶望的な空気である。もはやシャルお兄さんに可能性はなかった。残念。
「シャルお兄さん。現実見たほうがいいよ。どんまい」
「いやですから」
私は別に失恋したわけではと言い訳めいた言葉を並べるシャルお兄さんは、しきりに前髪を触っている。
失恋の原因。ぼくちょっとわかっちゃった。
そのモジャモジャ髪の毛が原因だと思う。
確かめるべく、ぼくはリオラお兄様に向き直った。
「お兄様。お兄様は髪の毛モジャモジャどう思いますか?」
「どうって言われても」
面食らうお兄様は、ジョナスに助けを求めている。けれどもジョナスはくすくす笑うだけで、お兄様を助けてあげない。気持ちはわかる。こんな状況でどう助けるのが正解なのか、ジョナスにもわからないのだろう。
「ぼくはモジャモジャやめたほうがいいと思います。お顔が見えないので」
その言葉に、なにやらリオラお兄様がハッとする。気が付いてしまったみたいな表情で、しきりにぼくとシャルお兄さんを見比べては勢いよく立ち上がった。
「もしかして、顔が見えないからガストン団長じゃないって言い張ってるの?」
「? シャルお兄さんはシャルお兄さんでーす」
ガストン団長じゃありませんと腰に手を当てて主張すれば、リオラお兄様が「ちょっと!」と、シャルお兄さんに詰め寄った。
「顔見せて」
「いやそれは。さすがにリオラ様の頼みといえど」
大きな手で己の前髪を守るシャルお兄さんは、よくわからないが本気だった。絶対にお顔を見せないと頑張っている。これにロルフが「もう観念したらどうなんですか」と冷ややかな言葉を投げた。
「いいかい、アル。この人はガストン団長だからね。前髪で顔を隠しているだけだから」
「そんなわけないです」
いくらぼくが五歳でも、そんな雑な変装で誤魔化せるわけないもん。なんだ前髪で顔隠してるだけって。そんなんでぼくが騙されるわけない。
「シャルお兄さんは照れ屋さんなので。お顔見せないだけです」
照れ屋さんと呟くリオラお兄様は、ちらちらとシャルお兄さんに視線を投げている。それを受けてさっと顔を背けるシャルお兄さんは、やっぱり照れ屋さんである。
「シャルお兄さんをいじめないでくださぁい!」
いくら邪魔だとはいえ、彼にとっては大事な前髪である。それをぼくらが無理矢理崩すのは違うだろう。
「シャルお兄さん、逃げてくださぁい」
リオラお兄様の腕を掴んで、お兄さんが逃走する隙を作ってあげる。そうしてぼくがひとりで懸命に戦っているというのに、肝心のシャルお兄さんは「あ、いえ。その」としどろもどろになるだけで動かない。
「アル。一回落ち着こう?」
お兄様に背中を撫でられて、頬を膨らませる。
ぼくはずっと落ち着いていますけど?
受け取ったキャンディーを怪訝な顔で見つめるリオラお兄様に、「申し訳ありません」とひたすら謝るシャルお兄さん。
おまけに大笑いするロルフと、控えめではあるがこちらも確実に笑っているジョナス。
もうなんか色々とダメだった。
「……シャルお兄さん。どんまい」
とりあえずリオラお兄様に気に入られなかったシャルお兄さんの背中をペシペシ叩いて励ましておく。
「元気出してぇ。シャルお兄さんはいい人だから。ぼくは好きだよ」
ペシペシ頑張っていると、シャルお兄さんがぼくを見下ろしてきた。
「あの、私が失恋したみたいな言い方はやめてもらえませんか」
頼み込むような言い方に、ぼくは思わず口元を押さえた。失恋したみたいなというか。失恋したんだよ。
だってキャンディーあげたこの状況でこの絶望的な空気である。もはやシャルお兄さんに可能性はなかった。残念。
「シャルお兄さん。現実見たほうがいいよ。どんまい」
「いやですから」
私は別に失恋したわけではと言い訳めいた言葉を並べるシャルお兄さんは、しきりに前髪を触っている。
失恋の原因。ぼくちょっとわかっちゃった。
そのモジャモジャ髪の毛が原因だと思う。
確かめるべく、ぼくはリオラお兄様に向き直った。
「お兄様。お兄様は髪の毛モジャモジャどう思いますか?」
「どうって言われても」
面食らうお兄様は、ジョナスに助けを求めている。けれどもジョナスはくすくす笑うだけで、お兄様を助けてあげない。気持ちはわかる。こんな状況でどう助けるのが正解なのか、ジョナスにもわからないのだろう。
「ぼくはモジャモジャやめたほうがいいと思います。お顔が見えないので」
その言葉に、なにやらリオラお兄様がハッとする。気が付いてしまったみたいな表情で、しきりにぼくとシャルお兄さんを見比べては勢いよく立ち上がった。
「もしかして、顔が見えないからガストン団長じゃないって言い張ってるの?」
「? シャルお兄さんはシャルお兄さんでーす」
ガストン団長じゃありませんと腰に手を当てて主張すれば、リオラお兄様が「ちょっと!」と、シャルお兄さんに詰め寄った。
「顔見せて」
「いやそれは。さすがにリオラ様の頼みといえど」
大きな手で己の前髪を守るシャルお兄さんは、よくわからないが本気だった。絶対にお顔を見せないと頑張っている。これにロルフが「もう観念したらどうなんですか」と冷ややかな言葉を投げた。
「いいかい、アル。この人はガストン団長だからね。前髪で顔を隠しているだけだから」
「そんなわけないです」
いくらぼくが五歳でも、そんな雑な変装で誤魔化せるわけないもん。なんだ前髪で顔隠してるだけって。そんなんでぼくが騙されるわけない。
「シャルお兄さんは照れ屋さんなので。お顔見せないだけです」
照れ屋さんと呟くリオラお兄様は、ちらちらとシャルお兄さんに視線を投げている。それを受けてさっと顔を背けるシャルお兄さんは、やっぱり照れ屋さんである。
「シャルお兄さんをいじめないでくださぁい!」
いくら邪魔だとはいえ、彼にとっては大事な前髪である。それをぼくらが無理矢理崩すのは違うだろう。
「シャルお兄さん、逃げてくださぁい」
リオラお兄様の腕を掴んで、お兄さんが逃走する隙を作ってあげる。そうしてぼくがひとりで懸命に戦っているというのに、肝心のシャルお兄さんは「あ、いえ。その」としどろもどろになるだけで動かない。
「アル。一回落ち着こう?」
お兄様に背中を撫でられて、頬を膨らませる。
ぼくはずっと落ち着いていますけど?
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