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 綺麗な包みに入ったキャンディーをポケットに入れて、屋敷の中をうろうろする。料理長とは揉めたけど、どうにかキャンディーをいくつか持ち帰ることに成功した。「ぼくが全部食べるんじゃなくて。みんなにあげます」と説明したところ、料理長も納得してくれた。

 ロルフはぼくのことをずっと褒めていた。人のことを考えられるぼくは偉いと言っていた。褒められて嬉しいぼくは、上機嫌に廊下を進む。

 そうしてリオラお兄様の部屋に到着した。とんとんノックをすれば、すぐに扉が開いてジョナスが顔を出した。

「ジョナス!」

 嬉しくって彼に抱きつけば、ジョナスは笑いながら抱っこしてくれた。得意になってロルフを見下ろせば、彼はすごく悔しそうな顔をしていた。ロルフもジョナスに抱っこしてもらいたいらしい。だが残念。ロルフは大人だから。抱っこは無理だと思う。

「ジョナス。キャンディーあげます」

 みんなには内緒ね、と口止めしてポケットからキャンディーを取り出す。ぼくを抱っこしていて手が塞がっているジョナスに代わり、ぼくが彼の胸ポケットにキャンディーを押し込んでおく。

「ありがとうございます」
「いえいえ。たくさん持ってきたから」
「どこから持ってきたんですか?」

 不思議そうに首を傾げるジョナスに「厨房」と教えておく。

「料理長とバトルしました。ぼくの勝ちです。最初は一個だけって言われたけど、がんばってたくさん持ってきたの」
「そうですか。アル様も大変ですね」
「うん。ぼくは毎日大変」

 楽しそうに笑うジョナスは、室内を振り返る。中にいるリオラお兄様と目があった。

「アル。どうしたの?」

 ぼくを抱っこしたままリオラお兄様のところへ歩いて行くジョナス。後ろから慌ててロルフが追いかけてくる。

「リオラお兄様にもキャンディーあげます。ぼくが料理長と戦って勝ち取ったキャンディーです」
「え? なんだって?」

 怪訝な顔をするお兄様は、「料理長とは仲良くしないとダメだよ」と的外れなことを言う。料理長とは仲良しだもん。

 ちょっと喧嘩することはあるけど。でもあれは頑なにぼくのご飯にお野菜入れてくる料理長が悪いと思う。

「はい。どうぞ」
「ありがとう」

 ポケットから取り出した綺麗な包みのキャンディーをあげれば、お兄様はにこにこ笑顔で受け取った。

「食べて。美味しいよ」
「あとで食べるね」
「ダメぇ! 今食べて。キャンディーとけてなくなっちゃうよ」
「とけないよ?」

 苦笑しつつもお兄様はキャンディーを口に放った。

「美味しい?」
「うん。すごく美味しいよ。ありがとう、アル」
「はぁい」

 お兄様がにこにこになると、ぼくも嬉しい。

「ジョナスも食べてね」
「はい」

 柔らかく笑うジョナスにさりげなく抱きついておく。

 だが、ジョナスはぼくをおろそうとしてくる。なぜ。ジタバタ抵抗するが、あっさりと地面に足がついてしまった。ちょっぴり残念。

「リオラお兄様」
「ん? なんだい」

 ジョナスも名残惜しいが、ぼくには大事な仕事がある。呑気にキャンディーをなめているお兄様に近寄って、そのお顔をじっと見上げておく。

「シャルお兄さんが、リオラお兄様のこと好きって言ってました」

 勢いよく咳き込むリオラお兄様は、キャンディー飲み込んじゃったと突然白状した。なんだそれは。飲み込んだからもう一個寄越せと言うつもりか。その手にはのらないもんね。

 まだキャンディーが入っているポケットをぎゅっと押さえておく。

 ゴホゴホ咳き込むお兄様は、大きく息を吸ってなんとか落ち着こうと頑張っている。

「シャルお兄さんっていうのは、ガストン団長のことだよね?」
「違います」

 ぼくの否定の言葉をまるっと無視して、お兄様は「団長が本当にそんなことを言っていたの?」と疑いの目を向けてくる。

「団長じゃなくて。シャルお兄さんがそう言っていました。ね? ロルフ」

 勢いよくロルフを振り返れば、「え」という間の抜けた声が返ってきた。

「そんなこと言ってましたっけ?」

 言ってたよ。なんで覚えていないのか。
 優しいお金持ちが好きだからリオラお兄様のことも好きって話したでしょ。
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